9.海面水位

9-1. [観測結果] 日本沿岸の平均海面水位は、1980年代以降上昇傾向が現れている

  • 世界平均海面水位の上昇は、1960年代後半以降加速しており、2006年から2018年の期間では、1年当たり3.7 mm上昇している(確信度は高い)。
  • 日本沿岸の平均海面水位は、1980 年代以降は上昇傾向が現れている。また、1906年からの全期間を通して10年から20年周期の変動(十年規模の変動)が見られる。地盤上下変動を補正したデータでは、平均海面水位が2004年から2024年の間に1年当たり3.4 mm上昇している
    1.  世界平均海面水位は過去約110年間で約0.2 m上昇している
      • [世界] IPCC第6次評価報告書(IPCC, 2021)によると、1901年から2018年の期間に世界平均海面水位は 0.20m上昇した60 90%の信頼区間は、0.15~0.25 mである。 。その上昇率は、1971年から2018年の期間では1年当たり2.3 mm、2006年から2018年の期間では加速して 1年当たり3.7 mmとなった61 90%の信頼区間は、1971~2018年の期間で1.6~3.1 mm、2006~2018年の期間で3.2~4.2 mmである。 確信度は高い)。(詳細編第9.1.1項)
      • [世界] 世界平均海面水位は、20世紀に、過去3000年間のどの100年間よりも急速に上昇した(確信度が高い)。(詳細編第9.1.1項)
      • [世界] 世界平均海面水位の上昇の原因は、地球温暖化に伴う海水の熱膨張と陸氷(氷河と氷床)が融解して海洋に流れ込んだことによる海水の増加が大部分を占める(確信度が高い)。(詳細編第9.1.1項、第9.3節、詳細編図9.3.1)

       日本沿岸の平均海面水位は、1980年代以降上昇傾向が現れている
      • [日本] 日本沿岸の平均海面水位(1906~2024年)は、1950年頃から1980年頃の海面水位低下、後述する十年規模の長周期変動や地盤変動等の影響の可能性のため、世界平均海面水位のような単調な上昇傾向は確認できないものの、1980年代以降は地球温暖化の影響で上昇傾向が現れている。(図9-1.1、詳細編第9.2.1項)
      • [日本] 日本沿岸の地盤上下変動が少なく、長期間にわたる潮位データがある地点(4地点又は16地点、詳細編図9.2.1)から算出した日本沿岸の平均海面水位の上昇率は、2006年から2018年の期間で 1年当たり2.9 mmであった62 90%の信頼区間は、0.8~5.0 mmである。 。(図9-1.1、詳細編第9.2.1項)
      • [日本] 気象庁では、2004年以降、国土地理院と連携して日本沿岸の13地点の検潮所にGPS観測装置を設置し、その観測データを活用して、地盤上下変動の影響を除外した海面水位変動を精密に評価している。この13地点を単純平均した海面水位の上昇率は、2004年から2024年の期間では、地盤変動補正前で1年当たり4.4 mm、地盤変動補正後で 1年当たり3.4 mmであった63 90%の信頼区間は、地盤変動補正前で3.3~5.6 mm、地盤変動補正後で2.6~4.2 mmである。 。2006年から2018年の期間では、地盤変動補正後で 1年当たり3.4 mmであった64 90%の信頼区間は、1.1~5.6 mmである。 (図9-1.2、詳細編図9.2.3、詳細編表9.2.2)。図9-1.2は、図9-1.1と比較して、2004年以降しかデータが無いものの、実際の海面水位変動量に近い数値である。(詳細編第9.2.1項)

       日本沿岸の平均海面水位は、地球温暖化に伴う変化とは別の、十年規模の長周期変動がある
      • [日本] 日本沿岸の平均海面水位には、人間活動ではなく、自然変動によると考えられる十年規模変動が見られる。図9-1.1で1930年頃、1950年頃、1970年頃に海面水位が高くなっている現象が十年規模変動である。1980年代後半以降は、十年規模変動より地球温暖化による海面水位上昇の方が顕著になっている。(詳細編第9.3節)

      • 全国4地点又は16地点の日本沿岸の海面水位の推移の図で掲載しています

        図9-1.1 全国4地点又は16地点の日本沿岸の海面水位の推移(1906~2024年)
        〇(青実線)は日本沿岸4地点の平均水位(その5年移動平均値)、△(赤実線)はその4地点を含む総計16地点の平均水位(その5年移動平均値)を示す(いずれも縦軸の目盛は図の左側)。比較として、世界平均水位を緑線で示す(縦軸の目盛は図の右側)。いずれも、1991~2020年の平均値との差(平年差)。青破線は4地点平均の平年差の5年移動平均値を後半の期間について示したものである。日本沿岸の観測地点については、詳細編図9.2.1を参照のこと。世界平均水位のデータは豪州連邦科学産業研究機構(CSIRO)気候科学センターの世界平均解析値である。
        全国13地点で平均した日本沿岸の年平均海面水位の変動の図で掲載しています
        図9-1.2 全国13地点で平均した日本沿岸の年平均海面水位の変動(2004~2024年)
        地盤変動補正前(破線)と地盤変動補正後(実線)の海面水位について2004年の値からの差を示している。

    9-2. [将来予測] 日本沿岸の平均海面水位は上昇すると予測される

  • 日本沿岸の平均海面水位は21世紀中に上昇し続けると予測される(確信度が高い)。
  • 21世紀末には、2°C上昇シナリオ(SSP1-2.6)の下では0.40 m、4°C上昇シナリオ(SSP5-8.5)の下では0.68 m上昇すると予測される。
    1.  世界平均海面水位が21世紀中に上昇し続けることはほぼ確実である
      • [世界] IPCC第6次評価報告書(IPCC, 2021)によると、1995年から2014年の平均値を基準として、2100年までに 2°C上昇シナリオ(SSP1-2.6)では0.44 m、4°C上昇シナリオ(SSP5-8.5)では0.77 m上昇すると見積もられている65 可能性の幅(17~83%)は、2°C上昇シナリオ(SSP1-2.6)で0.33~0.62 m、4°C上昇シナリオ(SSP5-8.5)で0.63~1.01 mである。 確信度は中程度)。2050年頃までは各シナリオ間の差は小さいが、21世紀後半ではその差は加速度的に上昇する(図9-2.1)。(詳細編第9.1.2項)
      • [世界] 南極及びグリーンランド氷床の大規模な崩壊等、不確定な要素が多い現象が発生した場合は、4°C上昇シナリオ(SSP5-8.5)において2100年に2 mに、2150年には5 mに近づくような海面水位上昇の可能性を排除できない(図9-2.1)。(詳細編第9.1.2項)

      • 異なる気温上昇シナリオの下での世界平均海面水位予測の図で掲載しています
        図9-2.1 異なる気温上昇シナリオの下での世界平均海面水位予測
        黒線は過去の世界平均海面水位を示す。グラフ内のSSP1-2.6の線(濃い青)は2°C上昇シナリオの世界平均海面水位の予測、SSP5-8.5の線(茶色)は4°C上昇シナリオの世界平均海面水位の予測を示す。破線及び点線は、不確定な要素が多い現象を含む場合の4°C上昇シナリオにおける世界平均海面水位の83パーセンタイルと95パーセンタイルを示す。(IPCC第6次評価報告書より、Figure 9.27を和訳・転載。)

       日本周辺の平均海面水位は、21世紀中に上昇すると予測される
      • [日本] 日本沿岸の平均海面水位の上昇幅には顕著な海域差は見られず、20世紀末(1986~2005年の平均)を基準とすると、近未来(2031~2050年の平均)には、 2°C上昇シナリオ(SSP1-2.6)では0.17 m、4°C上昇シナリオ(SSP5-8.5)では0.19 m上昇すると予測される66 可能性の幅(17~83%)は、2°C上昇シナリオ(SSP1-2.6)で0.14~0.21 m、4°C上昇シナリオ(SSP5-8.5)で0.16~0.24 mである。 。また、21世紀末(2081~2100年の平均)には、 2°C上昇シナリオ(SSP1-2.6)では0.40 m、4°C上昇シナリオ(SSP5-8.5)では0.68 m上昇すると予測される67 可能性の幅(17~83%)は、2°C上昇シナリオ(SSP1-2.6)で0.30~0.55 m、4°C上昇シナリオ(SSP5-8.5)で0.56~0.88 mである。 (詳細編図9.2.6)(確信度が高い)。(詳細編第9.2.2項、詳細編表9.2.3)
      • [日本] 日本の沖合の平均海面水位は、海域別に見ると、黒潮を含む亜熱帯循環域では海面水位上昇が大きいが、日本海では少し小さく、亜寒帯域とオホーツク海では更に小さい。4°C上昇シナリオ(RCP8.5)では、21世紀末に、日本南方の太平洋では上昇量が0.8 m以上であるのに対し、オホーツク海では0.6 mの上昇に留まる。(図9-2.2、詳細編第9.2.2項)
      • [日本] 日本南方及び南東方の沖合で海面水位上昇幅の変動が大きい理由は、黒潮流路変動の影響を受けるためである(黒潮はその流路の南北で1 mにも及ぶ水位差がある)。もともと自然変動の大きな領域であり、モデルの不確定な要素も多いことから、確信度は低い。(詳細編第9.2.2項)

      • 21世紀末における日本近海の海面水位(年平均)の20世紀末からの上昇幅の図を掲載しています

        図9-2.2 21世紀末における日本近海の海面水位(年平均)の20世紀末からの上昇幅(m)
        左図は2°C上昇シナリオ(RCP2.6)、右図は4°C上昇シナリオ(RCP8.5)による予測を示す。等値線はそれぞれの将来気候における海面水位分布を示す。
        将来予測の海面水位の算出方法は、日本域海洋予測データの力学的海面高度(全球平均で0 m)に、陸氷の融解や海水の熱膨張等の影響(各シナリオでの全球平均海面水位上昇量)を加えて、その海域の海面水位としている。


       海面水位上昇により浸水災害リスクが増加すると予測される
      • [世界・日本] 長期的な平均海面水位の上昇は、高潮や高波による影響を底上げすることにつながるため、浸水災害リスクを増加させると予測される(第11章参照)。(詳細編第9.2.2項)

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