7.熱帯低気圧(台風など)

7-1. [観測結果] 猛烈な台風が増加しているとの研究結果もあるが、十分に評価できていない

  • 1980年代半ば以降、 猛烈な台風53 熱帯低気圧のうち、北西太平洋又は南シナ海に存在し、低気圧域内の最大風速(10 分間の平均風速)がおよそ 17m/s 以上のものを「台風」と呼ぶ。IPCC第6次評価報告書においては、「北西太平洋では、1980年代半ば以降、強度が強い熱帯低気圧の発生数が増加している(確信度が中程度)。」と評価しているが、本報告書では、北西太平洋又は南シナ海に存在する熱帯低気圧については、より日本に馴染みの深い「台風」という表現で記載する場合がある。ただし、この評価における熱帯低気圧は、表7-1.1 のカテゴリー4~5の熱帯低気圧(おおむね「猛烈な台風」(10分間の平均風速54 m/s以上)に相当)を対象としていることに注意が必要である。 の発生数は増加している(確信度が中程度)。しかし、その発生数の増加については十分な評価はできていない。
  • 台風の発生数、日本への接近数に長期的な変化傾向は確認できない
  • 日本付近の台風は、強度が最大となる緯度が北に移動している。
    1.  IPCC第6次評価報告書では、1980年代半ば以降、 猛烈な台風53 熱帯低気圧のうち、北西太平洋又は南シナ海に存在し、低気圧域内の最大風速(10 分間の平均風速)がおよそ 17m/s 以上のものを「台風」と呼ぶ。IPCC第6次評価報告書においては、「北西太平洋では、1980年代半ば以降、強度が強い熱帯低気圧の発生数が増加している(確信度が中程度)。」と評価しているが、本報告書では、北西太平洋又は南シナ海に存在する熱帯低気圧については、より日本に馴染みの深い「台風」という表現で記載する場合がある。ただし、この評価における熱帯低気圧は、表7-1.1 のカテゴリー4~5の熱帯低気圧(おおむね「猛烈な台風」(10分間の平均風速54 m/s以上)に相当)を対象としていることに注意が必要である。 の発生数が増加している(確信度は中程度)と評価している。しかし、「確信度は中程度」とされているように、その傾向はまだ十分には評価できていない。
      • [北西太平洋] 北西太平洋では、1980年代半ば以降、カテゴリー4~5の熱帯低気圧(おおむね「猛烈な台風」に相当する。 詳しくは【参考】を参照54 【参考】におけるカテゴリー1から5の分類は気象庁では採用していない。 )の発生数が増加していると評価されている(確信度が中程度)(IPCC第6次評価報告書(IPCC, 2021))。(詳細編第7.2.1項)
      • [世界] 熱帯低気圧は、世界全体でみても、気温などの気象要素と比べてデータ数が少なく、年々変動が大きいため、その変化傾向は捉えるのが難しい。北西太平洋における熱帯低気圧となると、更にデータ数が少なく、その発生数に関する変化は、着目する熱帯低気圧の強度、期間、解析手法の違い、元となるデータセットの違いによって異なる評価結果となる場合があり、議論の余地がある。引き続き、より長期かつ質の高い観測データに基づく研究成果の更なる蓄積を待つ必要がある。(詳細編第7.2.1項)

       1951年以降、台風の発生数、日本への接近数に長期的な変化傾向は確認できない
      • [日本] 気象庁が解析した1951年以降の台風の発生数、日本への接近数には変化傾向は確認できない。(図7-1.1、詳細編第7.2.1項)
      • [日本] ただし、最近40年(1980年~2019年)で見ると、日本の太平洋側に接近する台風の数についての研究においては、期間の後半20年の東京への接近数が前半20年の約1.5倍になっている。(詳細編第7.2.1項、詳細編図7.2.2)

       日本付近の台風は、強度が最大となる緯度が北に移動している
      • [北西太平洋] 北西太平洋の熱帯低気圧はその強度が最大になる位置について、緯度がより北へ移動している可能性が非常に高い(IPCC第6次評価報告書)。(詳細編第7.2.1項、詳細編図7.2.3)
      • 台風の発生数・接近数・上陸数の経年変化の図を掲載しています
        図7-1.1 台風の発生数・接近数・上陸数の経年変化(1951~2024年)
        細実線で結ばれた点は各年の数、太実線は5年移動平均、破線は平年値(1991~2020年の平均値)を示す。

    【参考】熱帯低気圧の強さを表す階級

     熱帯低気圧は風速によって分類される。世界で用いられているシンプソン・スケールでは、1分間の平均最大風速により、熱帯低気圧をカテゴリー1から5に分類している(最も強いカテゴリーが5)。一方、気象庁では10分間平均風速を指標として台風の階級を定義している。両者を比較したものが表7-1.1である。

    表7-1.1 熱帯低気圧のカテゴリー及び台風の階級の対応関係
    熱帯低気圧のカテゴリー及び台風の階級の対応の表を図で掲載しています
    ※1 米国海洋大気庁国立ハリケーンセンターホームページを基に作成した。ノットを単位とした指標を基に、ノットに0.514を乗じて”m/s”の単位へ換算している。(https://www.nhc.noaa.gov/aboutsshws.php
    ※2 シンプソン・スケールにおける10分間平均風速は、1分間平均風速に係数0.88を乗じて換算している。
    ※3 本報告書での「熱帯低気圧」は、熱帯又は亜熱帯地方に発生する低気圧の総称(強度の弱いものから台風のように強いものまで含む)を指しているが、この表における「熱帯低気圧」は台風又はカテゴリー1の強度に満たない強さのものを指している。

    7-2. [将来予測] 日本付近の台風は強まると予測される

  • 世界全体では、個々の熱帯低気圧に伴う降水と、強い強度の熱帯低気圧の割合は増加すると予測される(確信度は高い)。
  • 日本付近の台風強度は強まり、台風に伴う降水量も増加すると予測される(確信度は中程度)。
    1.  世界全体では、個々の熱帯低気圧に伴う降水と、強い強度の熱帯低気圧の割合は増加すると予測される
      • [世界] 地球温暖化に伴い、熱帯低気圧に伴う降水量は増加し、強い強度の熱帯低気圧の割合は増加する(確信度は高い)(IPCC第6次評価報告書(IPCC, 2021))。(詳細編第7.1.2項、詳細編図7.1.1)
      • [世界] 熱帯低気圧の全体数としては、減少するか変わらないと予測される(確信度は中程度)。(詳細編第7.1.2項、詳細編図7.1.1)

       日本付近でも台風強度が強まるとともに、台風に伴う降水も増加すると予測される
      • [日本] 台風の将来変化を予測した研究では、地球温暖化に伴い、日本付近では台風強度が強まる結果となったものが多い(確信度は中程度)。これは、地球温暖化に伴う水蒸気量の増加や海水温の上昇が影響するためと考えられる。(詳細編第7.2.2項)
      • [日本] 個々の台風に伴う降水についても、将来増加すると予測される(確信度は中程度)。世界平均地表気温が工業化以前に比べて4°C上昇した気候下での予測では、台風に伴う日本の陸上における降水量が増加することが示されている(図7-2.1)。また、令和元年東日本台風を地球温暖化が進行した状況下で再現した研究も複数行われており、いずれにおいても台風に伴う降水量の増加が示されている。なお、台風に伴う発達した積乱雲の下では、落雷、ひょう及び竜巻などの激しい気象現象もしばしば発生する。それら激しい現象の個々に関する将来変化を評価することは困難であるが、一般論として、台風の強度が増加すれば、それら激しい現象が発生するリスクも増加する可能性はあると考えられるため、防災上の観点からは、大雨のみならず留意が必要である。(詳細編第7.2.2項)

      • 台風による日本の陸上での降水量変化の図を掲載しています
        図7-2.1 台風による日本の陸上での降水量変化
        黒線は20世紀後半(過去)、茶線は世界平均地表気温が4°C上昇した状態での実験結果を示す。実線は5 kmメッシュ、破線は20 kmメッシュのモデルによる。同じ線種(同じメッシュ)の線が右に移動すると、地球温暖化により降水量が増加することを意味する。縦軸は何年に一回の事象かを示し、例えば5kmメッシュモデル(実線)では、10年に1回の 台風による最大24時間降水量55 台風の中心から半径500km以内の日本の陸上の格子点における最大の24時間最大降水量のことを指す。 は、20世紀後半は約800mmであるが、4°C上昇時には約1000mmに増加する。メッシュ(解像度)により降水量に違いがあるのは、メッシュが細かくなることで、より細かいスケールでの大雨もシミュレーションできるようになる効果に基づくものであり、気象・気候モデルで一般的にみられる特性である。(気象庁気象研究所,気象業務支援センター,海洋研究開発機構,京都大学,北海道大学,寒地土木研究所,2023)

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