4.気温
4-1. [観測結果] 平均気温の上昇とともに極端な高温の頻度も増加している
- [世界] IPCC第6次評価報告書(IPCC, 2021)によると、2011〜2020年の世界平均気温は、工業化以前(1850〜1900年平均)よりも 1.09°C(可能性が非常に高い範囲は0.95〜1.20°C)高かった。また、 WMOが2025年1月に公表した報道発表25 https://wmo.int/news/media-centre/wmo-confirms-2024-warmest-year-record-about-155degc-above-pre-industrial-level によると、 2024年の世界平均気温26 地上観測に基づく英国気象局ハドレーセンター、米国海洋大気庁(NOAA)、米国航空宇宙局(NASA)、Berkeley Earth(Rohde and Hausfather, 2020)のデータセットと、欧州中期予報センター(ECMWF)と気象庁の再解析データセットの計6つのデータセットから世界平均気温を算出している。 は、工業化以前の水準として代用している1850年から1900年の平均を 1.55°C(可能性の幅は1.42~1.68°C)上回り5 パリ協定の下での議論の前提となる科学的根拠を提供する「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の評価報告書では、気候変動を、通常は数十年以上の長期間にわたって続く気候状態の変化と定義しており、気候変動は長期的な気温の変化をもって評価するものとされている。WMOのサウロ事務局長も「単年で1.5°Cを超えたからといってパリ協定の長期気温目標を達成できなかったことにはならない」と強調している。 、2015年から2024年までの10年間は過去175年間の記録上で最も暖かい10年間であった。(詳細編第4.1.1項、詳細編図4.1.2(a))
- [世界] 気象庁の世界平均気温偏差27 気象庁の解析では、陸域で観測された気温と海氷のない海域の海面水温の解析値から全球平均値を世界平均気温として算出している。実際に算出している値は、各地点の基準値からの偏差(基準となる状態からのずれ)を平均したものである。地球温暖化や自然変動に伴う大気の流れの変動は大きな広がりを持っていることから、世界の平均気温の実際の値を求めることが困難であっても、各地点の偏差を平均した値を指標として気候変動を監視することができる。 の解析において、同じ工業化以前の水準から比較すると、1961〜1990年の平均値では0.36°Cであった昇温が、1991〜2020年では0.83°Cにまで大きくなっており(直近の10年間では1.17°Cに達する)、近年の気温の上昇量は大きい。(図4-1.1、詳細編第4.1.1項)
- [世界] IPCC第6次評価報告書は、極端な高温( 熱波29 ここでの熱波(Heatwave)とは異常に暑い天候が続く現象のこと。2日間から数か月間続く、相対的な気温の閾値を基準に定義されることが多い(IPCC第6次評価報告書)。日本では、熱波を示す数値上の定義はなされていない。 を含む)が1950年代以降ほとんどの陸域で頻度及び強度が増加している一方で、極端な低温(寒波を含む)の頻度と強度が低下していることはほぼ確実であり、人為起源の気候変動がこれらの変化の主要な駆動要因であることについては確信度が高いと評価している。(詳細編第4.1.1項)
- [日本] 都市化の影響が比較的小さいとみられる 気象庁の15観測地点30 日本の平均気温偏差の算出には、全国の地上気象観測地点の中から、観測データの均質性が長期間確保でき、かつ都市化等による環境の変化が比較的小さい地点を使用している。このような地点から地域的に偏りなく分布するように選出した15地点が、網走、根室、寿都、山形、石巻、伏木、飯田、銚子、境、浜田、彦根、宮崎、多度津、名瀬及び石垣島である。これらの観測地点を平均した日本の年平均気温の長期変化傾向に対しては都市化の影響がほとんどないことが考えられる(図4-1.4参照)。気象庁では、それらの地点ごとに年平均気温の偏差を算出し、15地点分を平均することにより、日本の年平均気温の偏差としている。 で観測された年平均気温は、様々な時間スケールの変動を伴いながらも、長期的に上昇しており、その1898年から2024年までの上昇率は100年当たり1.40°Cの割合である。特に1990年代以降、これまでの記録となるような高温年が頻出している。(図4-1.2、詳細編第4.2.1項)
- [日本] 北半球の中緯度は陸地が多いため、日本の平均気温の上昇率は世界平均よりも高い。(詳細編第4.2.1項)
図4-1.2 日本の年平均気温偏差の経年変化(1898~2024年)
折れ線(黒):各年の平均気温の基準値からの偏差、折れ線(青):偏差の5年移動平均値、直線(赤):長期変化傾向を示す。基準値は1991〜2020年の30年平均値である。
5年移動平均値はその年と前後2年を含めた5年分の平均をとった値である。5年移動平均をとることにより、年ごとの短い周期の変動を取り除き、これらよりもゆっくりした変動を抽出することができる。 - [日本] 日本国内の13観測地点32 気象観測施設は、周辺環境の変化等の事情から、長年の観測の間に、場所を移しているところもある。年平均気温の算出に用いる月平均気温に対してはこうした移転等の影響を考慮した補正方法が確立しているが、真夏日の日数等といった日最高気温、日最低気温に基づく値については、現時点では補正方法が確立していない。このため、前述の日本の平均気温に用いる国内15観測地点のうち、移転等による影響の除去が困難な宮崎と飯田は除外している。 における観測によると、1910年以降(熱帯夜については1929年以降)、日最高気温が30°C以上の日(真夏日)、35°C以上の日(猛暑日)及び日最低気温が25°C以上(熱帯夜)の日数は、いずれも増加している。特に、猛暑日の日数は1990年代半ばを境に大きく増加している。一方、同期間における日最低気温が0°C未満(冬日)の日数は減少している。(図4-1.3、詳細編第4.2.1項)
- [日本] 2018(平成30)年7月の猛暑や2023(令和5)年7月の猛暑などの、近年の猛暑事例のいくつかは、地球温暖化の影響がなければ起こり得なかった事象であったことが
イベント・アトリビューション33
個々の極端な気象現象の発生確率及び強さに対する人為起源の地球温暖化の影響をシミュレーション結果の比較により評価する手法のことである。(詳細編コラム8を参照)
による解析によって示されている。(詳細編コラム8)
- [日本] 都市域では、都市化の影響が比較的小さいとみられる15地点平均と比べ、気温の上昇率が高い。(図4-1.4、詳細編第4.2.1項 (3))
- [日本] 都市化率34 都市化率は、観測地点を中心とした半径7 kmの円内における人工被覆率(平成28年度版国土数値情報土地利用3次メッシュ(国土交通省国土政策局, 2018)における建物用地、道路、鉄道、その他の用地の占める割合)から求めた。 が高いほど気温の上昇率も高い。(詳細編第4.2.1項 (3)、詳細編図4.2.6)
- [日本] 1950年代後半から1970年頃にかけて東京などの大都市と15地点平均の差が急速に広がった。(図4-1.4、詳細編第4.2.1項 (3))
- [日本] 都市化による気温上昇は夏より冬の方が大きい。(詳細編第4.2.1項 (3))
- [日本] 都市化による気温上昇は、日最高気温に比べて日最低気温に現れやすい。(詳細編第4.2.1項 (3)、詳細編図4.2.6)


【参考】日本の気温上昇が世界平均よりも大きいのはなぜか?
地球温暖化に伴う気温の上昇は、海域よりも陸域で大きくなりやすい。 日本は周囲を海に囲まれてはいるが、北半球の中緯度域全体でみれば陸域が多いことから、陸域の高温が大きく影響し、日本の平均気温の上昇率は世界平均よりも高いと考えられる。具体的には、以下のメカニズムが考えられている。
大気中の温室効果ガスが増加することで地球の放射収支が変化し、大気から地表面に向かう下向きの赤外放射が増える結果、これとバランスするために地表面からの熱放出が増加する。この増加分の熱放出は、おもに潜熱放出(水の蒸発による熱の放出)と顕熱放出(昇温による熱の放出)が担うが、陸域では水分の量が限られることから、潜熱放出の増加は海域と比べて小さくなる。より大きな熱放出を顕熱放出で賄う必要があるため、陸面の温度は海域よりも高くなる。これが、地球温暖化に伴う気温の上昇が海域よりも陸域で大きくなりやすいことの主要な要因と考えられてきた(Sutton et al., 2007)。しかし、最近では、二酸化炭素濃度の増加に応じた陸域の雲の減少により、日射が増加する影響がより重要であることが指摘されている(Toda et al., 2021)。
4-2. [将来予測] 平均気温の上昇及び極端な高温の発生頻度・強度の増加が予測される
- [世界] 21世紀末(2081~2100年の平均)における世界の年平均気温は、20世紀末頃(1986~2005年の平均)と比べて、2°C上昇シナリオ(SSP1-2.6)で約1.1°C 、4°C上昇シナリオ(SSP5-8.5)で約3.7°C上昇すると予測される(確信度が高い)。(IPCC第6次評価報告書(IPCC, 2021))
- [日本] 21世紀末(2076~2095年の平均)における日本の年平均気温についても、20世紀末(1980~1999年の平均)と比べて、いずれの温室効果ガスの排出シナリオにおいても、上昇する(本報告書の予測。確信度が高い)。年平均気温の変化の全国平均は、2°C上昇シナリオ(RCP2.6)で約1.4°C上昇、4°C上昇シナリオ(RCP8.5)で約4.5°C上昇と予測され(詳細編第4.2.2項)、日本の気温上昇幅は世界平均よりも大きい(図4-2.1、詳細編第4.1.2項)。
- [世界・日本] 気温上昇の度合いは一様ではなく、緯度が高いほど上昇幅が大きく、また、夏よりも冬の方が大きい。(詳細編第4.1.2項、詳細編第4.2.2項、詳細編図4.1.7、詳細編図4.2.8)
- [世界・日本] こうした地域差や季節差は、これまでに観測された気温の変化にも表れており、これには北半球高緯度に見られる気温上昇の分布など様々な要因が影響していると考えられる。(詳細編第4.3節)
- [日本] 平均気温の上昇に伴い、2°C上昇シナリオ(RCP2.6)と4°C上昇シナリオ(RCP8.5)のいずれの温室効果ガス排出シナリオにおいても、20世紀末と比べ、21世紀末には多くの地域で猛暑日及び熱帯夜の年間日数は増加し、冬日の日数は減少する(確信度が高い)。例えば、猛暑日日数は、2°C上昇シナリオ(RCP2.6)では全国平均で約3日、4°C上昇シナリオ(RCP8.5)では約18日増加すると予測される(表4-2.1)。(詳細編第4.2.2項)
表4-2.1 2°C上昇シナリオ(RCP2.6)及び4°C上昇シナリオ(RCP8.5)において予測される気温の変化
20世紀末の気候と将来気候の差(将来変化量)を、「将来変化量 ± 将来気候における年々変動の幅」で示す。
20世紀末の気候は1980~1999年の、将来気候は2076~2095年の平均である。2°C上昇シナリオ(RCP2.6)における予測 4°C上昇シナリオ(RCP8.5)における予測 年平均気温の変化 1.4 ± 0.4°C上昇 4.5 ± 0.6°C上昇 猛暑日の年間日数の変化 2.9 ± 1.7日増加 17.5 ± 5.0日増加 熱帯夜の年間日数の変化 8.2 ± 3.2日増加 38.0 ± 6.6日増加 冬日の年間日数の変化 16.6 ± 6.5日減少 46.2 ± 6.5日減少
- [日本] 工業化以前の気候では 100年に一回37 「XX年に一回発生」とは発生確率を表現している。つまり、XX年に一回必ず発生するという意味ではなく、XX年に二回以上発生する場合もあれば、全く発生しない場合もあり、発生頻度に周期性があるわけでもない。また、ある年に「XX年に一回」の現象が発生した場合でも、その翌年に当該現象はもう発生しないとは言えず、翌年の発生確率も等しくXX分の1である(詳細編コラム7参照)。 の発生頻度だった極端な高温は、地球温暖化の進行に伴い、20世紀末(1981~2010年)には全国平均で100年で約10回の発生頻度まで増加したと考えられる。地球温暖化が更に進行した場合、世界平均地表気温が工業化以前に比べて1.5°C上昇時には約38回、2°C上昇時には約67回、4°C上昇時には約99回の発生頻度まで増加し(いずれも全国平均)、4°C上昇時にはほぼ毎年発生すると予測される。(図4-2.2、表2.2、詳細編第4.2.2項)
- [日本] 100年に一回の極端な高温時の気温も、工業化以前と比べて、20世紀末には全国平均で約1.1°C上昇したと考えられる。地球温暖化が更に進行した場合、1.5°C上昇時には約2.0°C、2°C上昇時には約2.9°C、 4°C上昇時には約5.9°C上昇すると予測される(いずれも全国平均)。(図4-2.2、表2.2、詳細編第4.2.2項)
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左は2°C上昇シナリオ(RCP2.6)、右は4°C上昇シナリオ(RCP8.5)での予測である。いずれも20世紀末(1980~1999年の平均)との差を示している。 |

【コラム3】さくらの開花とかえでの紅葉・黄葉日の変動
気象庁では、季節の進み具合や気候の違いや変化など、総合的な気象状況の推移を知ることを目的に、植物の開花や紅葉・黄葉などの観測を実施している。
中でも社会の関心の高い現象が、 さくらの開花とかえでの紅葉・黄葉38 さくらの開花は「そめいよしの」、「えぞやまざくら」、「ひかんざくら」を対象に、かえでの紅葉・黄葉は「いろはかえで」、「やまもみじ」、「おおもみじ」(以上紅葉)、「いたやかえで」(黄葉)を対象に、観測を行っている。さくらの開花日とは、標本木(観測する対象の木)で胴咲き(枝ではなく幹や根から咲く)を含まずに5~6輪以上の花が開いた最初の日をいい、かえでの紅葉(黄葉)日とは、標本木全体を眺めたときに、大部分の葉の色が紅色(黄色)に変わり、緑色がほとんど認められなくなった最初の日をいう。 である。全国の観測対象地点(2025年1月1日現在、それぞれ58地点と51地点)の開花日、紅葉・黄葉日の1953年以降の経年変化を示したのが図 コラム3.1である。表 コラム3.1は主な都市のさくらの開花日の1991~2020年の30年平均値と1961~1990年の30年平均値との比較である。
図 コラム3.1によると、さくらの開花日は、10年当たり1.2日程度早くなっている。また、かえでの紅葉・黄葉日は、10年当たり3.1日程度遅くなっている。
さくらの開花日が早まる傾向やかえでの紅葉・黄葉日が遅くなる傾向は、これらの現象が現れる前の平均気温との相関が高く、長期的な気温上昇が影響していると考えられる。
IPCC第6次評価報告書(IPCC, 2021)でも、京都のヤマザクラの満開日が、数百年間の歴史資料と照らし合わせてもここ数十年で早まっていることを例に挙げ、植物の生育期間に関する長期的な変化傾向があることを指摘している(詳細編コラム6)。
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折れ線(黒)は平年差(観測地点で現象を観測した日の平年値(1991~2020年の平均値)からの差を全国平均した値)を、折れ線(青)は平年差の5年移動平均値を、直線(赤)は長期変化傾向をそれぞれ示す。 |
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表 コラム3.1 主な都市におけるさくらの開花日の比較
1961~1990年の平均値と1991~2020年の平均値とを比較し、後者から前者を引いた日数の差を示す。
30年平均値 (1961~1990年) |
30年平均値 (1991~2020年) |
差 | 30年平均値 (1961~1990年) |
30年平均値 (1991~2020年) |
差 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
釧路 | 5月19日 | 5月16日 | 3日早い | 大阪 | 4月1日 | 3月27日 | 5日早い |
札幌 | 5月5日 | 5月1日 | 4日早い | 広島 | 3月31日 | 3月25日 | 6日早い |
青森 | 4月27日 | 4月22日 | 5日早い | 高松 | 3月31日 | 3月27日 | 4日早い |
仙台 | 4月14日 | 4月8日 | 6日早い | 福岡 | 3月28日 | 3月22日 | 6日早い |
新潟 | 4月13日 | 4月8日 | 5日早い | 鹿児島 | 3月27日 | 3月26日 | 1日早い |
東京 | 3月29日 | 3月24日 | 5日早い | 那覇 | 1月16日 | 1月16日 | なし |
名古屋 | 3月30日 | 3月24日 | 6日早い | 石垣島 | 1月15日 | 1月18日 | 3日遅い |