11.高潮・高波

11-1. [観測結果] 日本の高潮の発生頻度に変化傾向は確認できない

  • 日本の高潮の発生頻度は、年によって変動が見られるが、長期変化傾向は確認できない
  • 高波の波高は、世界の広い海域で高まる傾向が見られる。
    1.  高潮と高波の災害リスク
      • [世界・日本] 台風や発達した低気圧の接近時には、沿岸部で顕著な高潮が発生することがある。海面が堤防の高さを越えると、陸地に海水が流入する。海水の流入時に流木等が流れてくることもある。従来に比べて人的被害は顕著に少なくなっているが、沿岸には多くの大都市や人口密集地帯が存在しており、経済的被害額は大きくなる傾向がある。(詳細編第11.1節)
      • [世界・日本] 沿岸部では、高潮だけでなく高波の被害も発生する。高波による海難事故、交通の遮断、沿岸の建築物の破壊などの被害が発生している。(詳細編第11.3節)
      • [世界・日本] 地球温暖化による長期的な平均海面水位の上昇(第9章参照)で、高潮と高波による沿岸部の浸水リスクはより高まる。(詳細編第11.1節、詳細編第11.3節)

       日本の高潮の発生数や大きさに長期変化傾向は確認できない
      • [日本] 高潮の発生数や大きさには年ごとの変動が大きいものの、1950年から現在までの期間において長期変化傾向は確認できない(図11-1.1)。高潮の発生頻度や規模は、台風の上陸数や強度、上陸地点等で大きく変化するほか、港湾構造物による地形変化等の要因でも変化するため、気候変動に伴う高潮の変化傾向を評価するのは難しい。(詳細編第11.2.1項)
      • [日本] これまで国内では台風による高潮が顕著であったが、2012年4月の秋田県沿岸部、2014年の北海道根室港周辺の高潮等、発達した低気圧による高潮災害も発生している。(詳細編第11.2.1項)
      • 国内における高潮の最大値を図で掲載 国内における高潮の発生数を図で掲載
        図11-1.1 国内における高潮の最大値と発生数
        左:1960年代以前から観測している気象庁の検潮所50地点で各年に観測された高潮(潮位偏差)の最大値(1m以上)を示す。右:気象庁の検潮所50地点において顕著な高潮(ここでは、毎正時の潮位偏差が1 m以上である事象を「顕著な高潮」として扱っている)を観測した回数を示す。
      • [日本] 日本において高潮は、主に台風に伴い発生する。台風は日本付近では北向きに移動する傾向があるために、台風へ吹き込む風と周囲の風が同じ方向に吹く南風が強くなりやすいことから、主に南側に向いた湾で高潮が多く発生する。(詳細編第11.6節)

       世界では高波の波高に上昇傾向が見られる
      • [世界] 複数の衛星観測データを統合した解析から、全球の広い範囲で高波の波高に上昇傾向が見られ、1985年から2018年の期間では、南大洋で1年当たり1 cm、北大西洋では1年当たり0.8 cmの上昇傾向がある(確信度が高い)。(詳細編第11.3.1項)

       日本沿岸では高波の波高が上昇する傾向が見られる
      • [日本] 日本沿岸でも高波の波高に上昇傾向が見られる。(詳細編第11.4.1項)
      • [日本] 日本周辺の高波の波高に上昇傾向が報告されているものの、地球温暖化によるものか自然変動に由来するものかについて見解の一致は得られていない。(詳細編第11.4.1項)

        極端海面水位及び全海面水位71 本報告書では、IPCC第6次評価報告書(IPCC, 2021)におけるExtreme Sea Level (ESL)を極端海面水位、Total Water Level (TWL)を全海面水位と翻訳している。詳しい定義は詳細編第11.5節を参照。
      • [世界・日本] 地球温暖化で議論される海面水位は、年単位といった長期的な平均海面水位である(第9章参照)。極端海面水位は長期的な平均海面水位に短期的な潮位変化(満潮と高潮)を加えたもの、全海面水位は極端海面水位に波浪による遡上・打ち上げ高を加えたものである。(詳細編第11.5節)
      • [世界・日本] 沿岸域では、地球温暖化による平均海面水位上昇、高潮及び強雨による河川水流入の組み合わせにより、氾濫の可能性が高くなる(確信度が高い)(IPCC第6次評価報告書(IPCC, 2021))。このため、沿岸域における適応計画を策定するためには、将来気候における極端海面水位と全海面水位を評価することが重要である。(詳細編第11.5節)
      • [世界・日本] ある地点の地盤高が下がると、相対的にその地点の海面水位が上昇し、浸水の被害を受けやすくなる。日本は、世界的に見て地盤上下変動が大きいため、地盤高の長期変化を加えた相対的な海面水位上昇量の評価が重要である。(詳細編第11.5節)

    11-2. [将来予測] 高潮のリスクは増大すると予測される

  • 複数の将来予測の結果、多くのケースで将来強い台風が増加するため、東京湾、大阪湾、伊勢湾では最大潮位偏差が増大すると予測される(確信度は中程度)。
  • 大阪湾では、小規模な高潮の発生頻度は減少するものの、よりまれで大規模な高潮の発生頻度は増加すると予測される(確信度は低い)。
  • 日本沿岸では平均波高は低くなると予測される(確信度は中程度)。
  • 台風による極端な波高は多くの海域で高くなるが(確信度は低い)、台風経路予測の不確実性及び自然変動の大きさから予測が難しい。
    1.  熱帯低気圧の将来変化が、高潮の将来変化を引き起こす
      • [世界・日本] 熱帯低気圧の強度と頻度の将来変化が、地域の高潮の将来変化を引き起こす(確信度は低い)(IPCC第6次評価報告書(IPCC, 2021))。熱帯低気圧に起因する高潮は、経路の将来変化の影響も受けるため地域ごとに影響が異なることが指摘されているが、今のところ統一的・系統的な全球の予測結果はない。(詳細編第11.1.2項)

       日本の三大湾(東京湾、大阪湾、伊勢湾)の高潮は、大きくなると予測される
      • [日本] 将来の気候条件における三大湾の高潮による最大潮位偏差は、平均的に0.5~1.5m上昇すると見込まれる(図11-2.1)(確信度は中程度)。(詳細編第11.2.2項)
      • [日本] 大阪湾では、台風の将来変化に応じて、小規模な高潮の発生頻度は減少するものの、低頻度かつ大規模な高潮の発生頻度は増加することが予測される。(詳細編第11.2.2項、詳細編図11.2.3)
      • [日本] 三大湾では、地球温暖化により高潮に特に大きな変化が予測され、大阪湾では、2020年から2050年までに 可能最大高潮72 地球温暖化時に予測される最強クラスの台風による高潮のことである。 は約0.5 m増加すると予測される(確信度が中程度)。(詳細編第11.2.2項)
      • [日本] 地球温暖化に伴う大規模な高潮の将来変化について、東京湾より西の太平洋側のいくつかの地点では大きな変化があるものの、茨城県より北の太平洋側と日本海側では今のところ顕著な増加傾向は確認できない。(詳細編第11.2.2項、詳細編図11.2.4)
      • 既往文献に基づく三大湾の最大潮位偏差の平均値(記号)と分散(バー)を図で掲載
        図11-2.1 既往文献に基づく三大湾の最大潮位偏差の平均値(記号)と分散(バー)
        青線:現在気候、赤線:将来気候、○平均的予測、△上位予測、▽下位予測、数字は論文数を示す。(森ほか, 2020 を基に 2022 年までの論文を取り入れて改変。)

       世界の海岸線の約52%で、地球温暖化に伴い、平均的な波浪特性に変化が起こると予測される
      • [世界] 4°C上昇シナリオ(RCP8.5)において、世界の海岸線の約52%で平均的な波浪特性(波高、周期、波向き)に5~10%程度の変化が起こると予測される(確信度が中程度)。(詳細編第11.3.2項)
      • [北西太平洋] 北西太平洋では、台風の通過数の減少により、 年最大の有義波高73 ある地点で連続する波を一つずつ観測したとき、波高の高い方から順に全体の3分の1の個数の波を選び、これらの波高を平均したもの。人が目で見た波の高さのイメージに近い。 が顕著に低くなる一方、 低頻度の極端波高74 ある地点で数年~数十年に1回といった、台風や非常に発達した低気圧により引き起こされる極端に高い波の高さのこと。海岸構造物の設計に用いられ、防災上非常に重要である。 は高くなると予測される(確信度が低い)。(詳細編第11.3.2項、詳細編図11.3.2)

       日本沿岸では、平均波高は減少するものの極端な高波の波高は多くの海域で高くなると予測される
      • [日本] 21世紀末において、 南北方向の気圧勾配及び風速の減少75 南北方向の気圧勾配及び風速が減少する理由については、詳細編第11.4.2項を参照のこと。 に伴い波高が平均10%程度減少すると予測される。しかし、過去の観測からは波高減少が報告されていないため、確信度は中程度である。(詳細編第11.4.2項)
      • [日本] 日本周辺の高波の将来変化は、台風強度・頻度・経路変化に複合的に依存する。低頻度の極端波高に関しては、21世紀末に多くの海域で高くなるが、台風の経路変化の影響を受けて場所により± 30%程度の変化がある(確信度は低い)(図11-2.2)。(詳細編第11.4.2項)

      • 台風による極端波高(10年確率値)の将来変化の図で掲載
        図11-2.2 台風による極端波高(10年確率値)の将来変化
        21世紀末と20世紀末の差(%)として表している。
        (Shimura et al. (2015) より図の一部を転載 ©American Meteorological Society. Used with permission)

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