気候系監視速報 ~気候系の診断情報~
気象庁では、世界各地で起こった異常気象、それをもたらしたと考えられる大気大循環、海洋の状態等気候系を監視しています。これらの監視結果に基づき、月々の気候系の特徴をとりまとめた「気候系監視速報」を作成しています。 なお、年間の異常気象・天候や気候系の特徴に関する総合的な情報は「気候変動監視レポート」をご覧ください。 ※「気候系監視速報」は、利便性向上のため、2025年5月号(2025年6月発表)より、従来のPDF形式からウェブサイト形式に変更して掲載しています。
気候系の特徴(2025年8月)
- 太平洋熱帯域の海面水温は、中部で負偏差、西部で顕著な正偏差となった。NINO.3海域の基準値との差は-0.3℃だった。インド洋では、熱帯域東部で顕著な正偏差、アラビア海で顕著な負偏差となり、北太平洋中緯度帯は顕著な正偏差だった。
- 平年と比べた対流活動は、熱帯域では、インドネシア周辺とインド洋の南緯10度帯で活発、太平洋の東経150度~西経150度とインド洋の赤道域で不活発となり、亜熱帯域では、アフリカ北東部~インドで活発、北太平洋西部で不活発だった。アジアモンスーン全体の対流活動は平年と比べて、上旬は不活発、中・下旬は活発だった。
- 対流圏下層では、熱帯域において南北半球対でインド洋~ニューギニア付近で顕著な低気圧性循環偏差、太平洋西部で高気圧性循環偏差となった。北太平洋西部の亜熱帯域は顕著な高気圧性循環偏差となり、太平洋高気圧の南西への張り出しが平年と比べて強かった。対流圏上層では、ユーラシア大陸の中緯度帯で帯状に高気圧性循環偏差となり、チベット高気圧の北への張り出しが平年と比べて強かった。
- 500hPa高度では、極渦は東シベリア北の北極海にあり平年と比べて強い一方、カラ海付近では顕著な正偏差となった。ユーラシア大陸では北緯45度から60度帯で負偏差、北緯45度以南で顕著な正偏差となり、亜熱帯ジェット気流はやや北偏し平年より強かった。中緯度の850hPa気温は、ユーラシア大陸の北緯50度帯と北米~大西洋の北緯40度帯を除き、正偏差となった。
- 東アジアの海面気圧はオホーツク海で顕著な負偏差となる一方、日本の南海上は正偏差で、太平洋高気圧は平年より強く日本の南海上へ張り出すとともに、東・西日本を覆った。
- 日本の天候の全国的な傾向は、高温・多照、日本海側多雨、太平洋側少雨となった。日本の月平均気温偏差は+1.84℃で、1898年の統計開始以降、8月として2番目に高い値となり、地域平均では北・東・西日本でかなり高かった。また、東日本日本海側で降水量がかなり多く、沖縄・奄美では、降水量がかなり少なく、日照時間がかなり多かった。
日本の天候(図1、図2、図3、図4、日本の地域平均気候表)
- 平均気温:北・東・西日本でかなり高く、沖縄・奄美では高かった。日本の月平均気温偏差は+1.84℃で、1898年の統計開始以降、8月として2番目に高い値となった。8月の日本の平均気温は、上昇傾向が続いており、長期的な上昇率は約1.33℃/100年である。
- 降水量:東日本日本海側でかなり多く、北・西日本日本海側では多かった。一方、沖縄・奄美ではかなり少なく、東日本太平洋側では少なかった。
- 日照時間:沖縄・奄美でかなり多く、北・東・西日本太平洋側と東・西日本日本海側では多かった。
- 天候経過:日本付近では偏西風が平年より北に偏って流れやすかったため、全国的に暖かい空気に覆われた。また、北・東・西日本では低気圧や前線に向かって暖かい空気が流れ込んだ時期もあった。全国的に太平洋高気圧に覆われて晴れた日が多かったが、北日本日本海側を中心に低気圧や前線の影響を受けやすく、期間の前半は前線が本州付近に停滞し、東・西日本日本海側と九州南部を中心に記録的な大雨となった所もあった。沖縄・奄美では期間を通して太平洋高気圧に覆われ、顕著な少雨・多照となった。
世界の天候
- 世界の月平均気温偏差は+0.43℃(速報値)で、1891年の統計開始以降、8月として3番目に高い値となった。8月の世界の平均気温は、上昇傾向が続いており、長期的な上昇率は約0.76℃/100年(速報値)である(図5)。
- 主な異常天候発生地域は次のとおり(図6)。
- 日本~華中、バレンツ・カラ海周辺、ヨーロッパ西部で異常高温となった。
- アルゼンチン北部、オーストラリア南東部及びその周辺で異常多雨、ヨーロッパ中部~西部で異常少雨となった。
海況
- 太平洋赤道域の海面水温は、中部で負偏差、西部で顕著な正偏差となった(図7)。NINO.3海域の月平均海面水温偏差は-0.2℃、基準値との差は-0.3℃だった(図8)。
- 北太平洋では、熱帯の西部及び中緯度帯で顕著な正偏差となった。
- 南太平洋では、西部から中緯度帯の東部にかけて顕著な正偏差となった。
- インド洋では、東部で顕著な正偏差、北西部で顕著な負偏差となった。
- 北大西洋では、北米の南東、ヨーロッパの西で顕著な正偏差、グリーンランドの南で顕著な負偏差となった。
- 南大西洋の亜熱帯では、西部で顕著な正偏差、東部で負偏差となった。
熱帯の対流活動と循環
- 対流活動は、平年と比べてアフリカ東部~インド、インドネシア周辺で活発、インド洋赤道域、インドシナ半島、北太平洋西部の亜熱帯域、西部太平洋赤道域で不活発だった(図9)。アジアモンスーン全体の対流活動は平年と比べて、上旬は不活発、中・下旬は活発だった。
- 赤道季節内振動に伴う対流活発な位相は、南米~インド洋~太平洋西部を東進した(図10)。
- 対流圏上層では、太平洋西部で南北半球対の低気圧性循環偏差となった。ユーラシア大陸の中緯度帯で帯状に高気圧性循環偏差となり、チベット高気圧の北への張り出しが平年と比べて強かった(図11)。
- 対流圏下層では、インド洋東部で南北半球対の低気圧性循環偏差となった。北太平洋西部の亜熱帯域で高気圧性循環偏差となり、太平洋高気圧の南西への張り出しが平年と比べて強かった(図12)。
- 海面気圧は、太平洋熱帯域で正偏差となった。日本の南で正偏差が明瞭となった。南方振動指数は+0.6だった(図8)。
北半球の循環
- 500hPa高度(図13)より、極渦は東シベリアの北にあり平年と比べて強く、カラ海付近では顕著な正偏差となった。ユーラシア大陸では北緯45~60度帯で負偏差、北緯45度以南で顕著な正偏差となった。
- 200hPa風速(図14)より、ユーラシア大陸上の亜熱帯ジェット気流はやや北偏し平年より強かった。寒帯前線ジェット気流は北極海沿岸を流れ、極東域での南への蛇行は見られなかった。
- 海面気圧(図15)は、シベリア北部と北米北東部では顕著な正偏差、ユーラシア大陸の北緯45~60度帯とオホーツク海付近では負偏差となった。太平洋高気圧は平年より強く日本の南海上へ張り出すとともに、東・西日本を覆った。
- 850hPa気温(図16)は、高緯度では、東シベリアの北~バフィン湾で負偏差、カラ海周辺で正偏差となった。中緯度では、ユーラシア大陸の北緯50度帯と北米~大西洋の北緯40度帯を除き、正偏差となった。
帯状平均場
- 帯状平均した対流圏の東西風より、南北両半球で亜熱帯ジェット気流が北偏していた。
- 帯状平均した対流圏の気温は、概ね高温偏差となり、特に南北両半球の中緯度や南半球の極域で顕著だった。
その他の情報
- 南半球の循環
- 北半球の積雪
- 北極海の海氷(米国雪氷データセンターへのリンク)
![]() 図1 月平均気温、月降水量、月間日照時間の平年差(比)(2025年8月) 平年値は1991〜2020年の平均値。 |
![]() 図2 旬降水量及び旬間日照時間地域平均平年比の時系列(2025年6月〜2025年8月) それぞれの上側が降水量(%)、下側が日照時間(%)。平年値は1991〜2020年の平均値。 |

平年値は1991〜2020年の平均値。

細線(黒):各年の平均気温の基準値からの偏差、太線(青):偏差の5年移動平均値、直線(赤):長期変化傾向。基準値は1991〜2020年の平均値。

細線(黒):各年の平均気温の基準値からの偏差、太線(青):偏差の5年移動平均値、直線(赤):長期変化傾向。基準値は1991〜2020年の平均値。


等値線の間隔は0.5°C毎、灰色陰影は海氷域を表す。平年値は1991〜2020年の平均値。

細線は月平均値、太線は5か月移動平均値を示す(海面水温の基準値はその年の前年までの30年間の各月の平均値、南方振動指数の平年値は1991〜2020年の平均値)。赤色の陰影はエルニーニョ現象の発生期間を、青色の陰影はラニーニャ現象の発生期間を示している。

陰影の間隔は10W/m2毎。平年値は1991〜2020年の平均値。米国海洋大気庁(NOAA)気候予測センター(CPC)より提供されたBlended OLRを用いて作成。


等値線の間隔は、4x106m2/s毎(左)、2m/s毎(右)。平年値は1991〜2020年の平均値。

等値線の間隔は10x106m2/s毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。

等値線の間隔は2.5x106m2/s毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。
![]() 等値線の間隔は60m毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。 |
![]() 等値線の間隔は10m/s毎。平年の20m/s毎の等値線を茶色で表す。平年値は1991〜2020年の平均値。 |
![]() 等値線の間隔は4hPa毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。 |
![]() 等値線の間隔は3°C毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。 |
季節の気候系の特徴(2025年6月〜2025年8月)
- 海面水温は(図S3)、太平洋赤道域は、西部で顕著な正偏差となる一方、東経165度から西経110度にかけては弱い負偏差となり、基準には達しないもののラニーニャ現象時にみられる偏差分布となった。北西太平洋では、熱帯域や日本海を含む中緯度帯は顕著な正偏差となったが、マリアナ諸島北部付近は弱い負偏差となった。インド洋中部から東部にかけては顕著な正偏差となる一方、アラビア海は顕著な負偏差だった。
- 熱帯の対流活動に伴う上層の大規模発散は波数1が卓越して、海洋大陸付近が発散中心となった。特に、インドネシア周辺とフィリピン東の北緯20度帯は対流活動が顕著に活発で、インド北西部でも活発だった(図S4)。アジアモンスーンに伴う対流活動は、7月終わりから8月初めにかけて不活発となった他は活発な状態が持続した。熱帯の循環は、南北両半球対で上層(図S5)(下層(図S6))は太平洋で低気圧(高気圧)性循環偏差となったほかは、高気圧(低気圧)性循環偏差となった。また、北太平洋亜熱帯域は顕著な低気圧性循環偏差が見られ、ミッドパシフィックトラフが平年より深かった。
- 北半球の亜熱帯ジェット気流は、顕著に北偏したうえに顕著に強く(図S8)、気温は中緯度で顕著に高かった(いずれも標準偏差の3倍を超える偏差)。ユーラシア大陸上での上層の循環は中緯度で帯状に顕著な高気圧性循環偏差がみられ、チベット高気圧が全般に強く、日本付近への張り出しも顕著だった(図S5)。亜熱帯ジェット気流に沿った準定常ロスビー波の波束伝播による日本付近の高気圧性循環偏差の強化がたびたび見られた。
- 500hPa高度(図S7)では、極渦はバフィン湾付近で、高緯度はグリーンランド周辺で負偏差、タイミル半島付近が正偏差となった。中緯度では、帯状に顕著な正偏差が広がり、ユーラシア大陸から太平洋西部にかけては、トルコ付近、チベット付近、中国東部から日本の東海上にかけて標準偏差の3倍を超える正偏差となった。海面気圧(図S9)は、太平洋と大西洋は広く正偏差となって亜熱帯高気圧が強かった一方、ユーラシア大陸の北緯40度から60度にかけては負偏差で、オホーツク海は顕著な負偏差となった。
- 東アジアにおいても、亜熱帯ジェット気流は顕著に北偏して強く、北緯30度から50度にかけては高度、気温(図S10)ともに顕著に高かった。日本付近の地上気圧配置は、オホーツク海付近が顕著な負偏差となる一方で北緯40度以南は正偏差となり、太平洋高気圧の日本付近への張り出しが強かった。また、熱帯の季節内変動等に伴うフィリピン付近の対流活動の強まりとともに日本付近の太平洋高気圧が強まる太平洋・日本パターン(PJパターン)がたびたび見られた。
- 日本の天候の全国的な傾向は、高温・多照・少雨となった(図S1)。日本の月平均気温偏差は+2.36℃で、1898年の統計開始以降、2023年および2024年を上回り、夏として最も高い値となった。地域平均では北・東・西日本で、気温がかなり高く、1946年の統計開始以降最も高い記録となったほか、日照時間もかなり多く、東日本では最も多い記録となった。また、北・東日本太平洋側で降水量がかなり少なかった。

図S1 3か月平均気温、3か月降水量、3か月間日照時間の平年差(比)(2025年6月〜2025年8月)
平年値は1991〜2020年の平均値。

図S2 異常天候発生地点分布図(2025年6月~2025年8月)

等値線の間隔は0.5°C毎、灰色陰影は海氷域を表す。平年値は1991〜2020年の平均値。

陰影の間隔は10W/m2毎。平年値は1991〜2020年の平均値。米国海洋大気庁(NOAA)気候予測センター(CPC)より提供されたBlended OLRを用いて作成。

等値線の間隔は10x106m2/s毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。

等値線の間隔は2.5x106m2/s毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。
![]() 等値線の間隔は60m毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。 |
![]() 等値線の間隔は10m/s毎。平年の20m/s毎の等値線を茶色で表す。平年値は1991〜2020年の平均値。 |
![]() 等値線の間隔は4hPa毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。 |
![]() 等値線の間隔は3°C毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。 |
季節の情報
過去の気候系監視速報(2007年3月~2025年7月)
2011年5月号から2021年4月号までは、平年の期間を1981~2010年として記述しています。2011年4月号までは、平年の期間を1979~2004年として記述しています。
2014年1月号まではJRA-25/JCDASによる大気循環場データに基づいて記述しています。
2014年2月号から2023年4月号まではJRA-55による大気循環場データに基づいて記述しています。
2023年5月号からは気象庁第3次長期再解析(JRA-3Q)による大気循環場データに基づいて記述しています。
項目別の詳細情報
大気の循環・雪氷・海況図表類
2024年3月18日 「大気の循環・雪氷・海況図表類」について、気象庁第3次長期再解析(JRA-3Q)を用いた図表を、熱帯低気圧解析の品質が改善されたデータに基づくものに更新しました。外向き長波放射量(OLR)に基づく1991年以降のすべての図を、米国海洋大気庁(NOAA)気候予測センター(CPC)より提供されたBlended OLRを用いたものに更新しました。※外向き長波放射量(OLR)関連の図表や指数の値は、米国海洋大気庁(NOAA)気候予測センター(CPC)によるデータの提供状況によっては、更新が遅れる場合や灰色で塗られた欠損表示となる場合があります。
関連情報
- 気候変動監視レポート 世界及び日本の気候変動を中心に、気候変動に影響を与える温室効果ガス、さらにオゾン層等の状況について、毎年、最新の情報を公表しています。2017年版より、年間の異常気象・天候や気候系(大気、海況、雪氷)の特徴に関する記述を充実させました。
- 気候系監視年報(2011~2016年) 年間の異常気象・天候や気候系(大気、海況、雪氷)の特徴をまとめた総合的な監視・解析情報です。2017年以降については、内容を気候変動監視レポートに統合しましたのでそちらをご覧ください。
- 日本の異常気象 社会的に大きな影響をもたらした日本の異常気象の特徴と要因に関する情報です。
- 世界の異常気象 社会的に大きな影響をもたらした世界の異常気象の特徴と要因に関する情報です。
- 異常気象分析検討会
- 気候系監視関連情報の解説