1.データ活用社会と気象データ

(1)進むデータ活用、広がる気象データの活用

近年、様々なビジネスや経営の改革・改善、現場の効率化などにデータが活用されています。例えばコンビニエンスストアを展開する株式会社ローソンでは、数年前から約100種類のパラメータ(変数データ)を用いて各店舗の販売予測を行っており、欠品率の減少や荒利の増加を実現しています(下図参照)。

図 ローソンにおけるデータ活用事例
出典:2017年3月7日開催 第1回気象ビジネスフォーラム 株式会社ローソンプレゼン資料
https://www.wxbc.jp/wp-content/themes/wxbc/images/20170307_forum/03.pdf
(閲覧日:2023年11月28日)

他にも、農林水産業・製造業・建設業などのさまざまな業種や、電力・交通・医療などの公的分野でも、気象データを含めたデータの活用が進んでいます。人々の生活や行動、産業活動などと気象データは密接な関係があるため、気象データで過去を紐解き、未来を予測することができれば、それをもとに利益を上げたり、コストを削減させたりすることが可能となります(下図参照)。また、それらのことを通じて、人々のQOL(Quality of Life)の向上もはかれます。

図 気象データの活用例

気象データは、工夫次第で様々なシーンで活用できます。過去の気象データで分析を行い、業務予測モデルを運用するデータドリブンなビジネスが多くの業種で展開されています。
また、気象データの活用により将来的なリスク回避を行うことも可能です。世界的に大きな課題となっている気候変動は、事業活動にもさまざまな影響を与えています(下図参照)。気候変動が進行した将来における気温や降水量等の予測データ(気候変動予測データ)を用いることで、将来的なリスクについても見通しが得られ、あらかじめ対策を行うことが可能となります。

図:事業活動等への気候変動の影響
出典:民間企業の気候変動適応ガイド-気候リスクに備え、勝ち残るために-(環境省、令和4年3月改訂版)
https://adaptation-platform.nies.go.jp/private_sector/guide/index.html
(閲覧日:2023年11月28日)

(2)「勘と経験」からデータに基づく経営へ

これまで多くの企業が「勘と経験」の経営から抜け出せずにいました。しかし近年では、データに基づく経営へと移行しつつあります。ただし、データに基づく経営で効果を上げるためには、仮説と検証の繰り返しが必要です。自社が保有する様々なビジネスデータ(例えば過去の販売実績や顧客情報など)と、各種統計や外部環境情報などを駆使して仮説を検証し、経営に活かす必要があります。この外部環境データの中で重要な役割を果たすもののひとつが気象データです。

データを用いて仮説を検証する手順の概略を紹介します。
「需要予測がしたい」「作業管理に用いたい」などの目的を明確にした上で、以下のように進めていきます。

1)仮説の立案
2)データの収集・分析
3)検証の実施
最初の仮説を検証した際に、ビジネスのデータと気象などのデータにあまり良い関係性が見られなかったとしても、繰り返すことでより良い関係性が見えてくることがあるので、仮説と検証を繰り返すことが重要です。

上記の手順をもとにビジネスに関係する指標(売上等)と気象データの関係性がわかれば、気象の予測データを用いることで、自社のビジネスの予測を行うことが可能になります。

図:仮説と検証の繰り返しが重要
出典:岐阜大学 吉野純教授作成の図を元にWXBC及び気象庁が改変

※さまざまなオープンデータの例(2024年1月現在。WXBC主催「テクノロジー研修」資料を参考に作成)
〇 総務省統計局「政府統計の総合窓口(e-Stat)」:https://www.e-stat.go.jp/
〇 内閣府 「地域経済分析システム(RESAS)」:https://resas.go.jp/#/47/47201
〇 デジタル庁 「中央行政のオープンデータポータル」:https://data.e-gov.go.jp/
〇 デジタル庁「e-Govデータポータル」データベースサイト一覧:https://data.e-gov.go.jp/info/databasesite
〇 東京都 「東京都オープンデータカタログサイト」:https://portal.data.metro.tokyo.lg.jp/
〇 気象庁 「過去の気象データ・ダウンロード」:https://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/index.php

気象データを用いて仮説・検証を実施する具体的な手順を確認したい方には、気象庁やWXBCの以下のページが参考になります。

〇気象庁 「気象データ高度利用ポータルサイト」内「気象データの利活用事例」
さまざまな分野における、販売数と気温との関係を分析した結果や、それに基づく予測などの事例を紹介しています。
https://www.data.jma.go.jp/developer/index.html#4

〇WXBC 「学習用教材」
WXBCでこれまで実施した気象データの分析に関する研修の資料等を掲載しているページです(一部資料はWXBC会員限定)。「e-Learning教材(アメダスCSV編)」からのリンクで解説動画をご覧いただけます。「研修教材」には、研修時の資料を掲載しています。
https://www.wxbc.jp/weatherdata/

(3)気象データを活用するために

ビジネスの場において気象データを活用するためには、ビジネスの課題解決力や新規発想力はもとより、気象データの特性に関する理解が必要です。それらに加え、IT活用力やデータ分析力などが必要になります(下図参照)。

図:気象データをビジネスに活用するために必要な3つのスキル
出典:WXBC作成

ここに示す3つのスキルを身につけられる講座として、気象庁が認定する「気象データアナリスト育成講座」があります(本ページ2(2)参照)。

WXBCは、ビジネスへの気象データ活用の視点から、気象データ解説や活用事例紹介を行う「気象データのビジネス活用セミナー」(気象庁との共催)を年に数回開催しています。また、気象データとデータ分析のスキルに焦点を当て、気象データの分析や作図方法などビジネスでの活用スキルを学ぶことのできるテクノロジー研修「気象データ分析チャレンジ!」も年に数回開催しています。

〇WXBC 「イベント一覧」
WXBCが開催したセミナー等の情報が掲載されています。キーワードによる検索も可能です。
https://www.wxbc.jp/mem_events/

〇WXBC 「学習用教材」
WXBCでこれまで実施した気象データの分析に関する研修の資料等を掲載しているページです(一部会員限定)。「e-Learning教材(アメダスCSV編)」からのリンクで解説動画をご覧いただけます。「研修教材」には、研修時の資料を掲載しています。
https://www.wxbc.jp/weatherdata/

2.気象データの活用方法

事業において気象データを活用するには気象学や気象データに関する専門的な知識(※)が必要であり、社外の専門家の協力を得る方法、自社内で専門家を育成する方法、いずれかを選択する必要があります。それぞれの長所・短所は以下の通りです。

※対象とする気象現象の空間スケール(数百メートル~数千キロメートル)や時間スケール(数分~数か月)、気象要素(気温、降水量、風向・風速など)の特徴、分析に使用可能な気象データの特性(空間・時間解像度や精度等)やフォーマット等。

(1)社外の専門家の協力を得る場合

WXBCや気象庁のホームページでは、社外の専門家の協力を得て気象データを活用する場合に参考となる情報を掲載しています。
WXBCのホームページでは、社外の協力を得て気象データを活用した事例や、WXBC法人会員の提供する気象関連サービスを紹介しています。

〇WXBC 「利活用事例(事例集・事例インタビュー)」
さまざまな業種における気象データの利活用事例について検索することが可能です。また、気象データを活用している企業へのインタビュー記事を掲載しています。
https://www.wxbc.jp/exampleandinterview/

〇WXBC 「気象関連サービス紹介」
WXBC法人会員の提供するサービスや、気象データに関するAPIサービスのカタログをご覧いただけます。
https://www.wxbc.jp/memberserviceintroduction/

気象庁ホームページでは、気象業務法に基づき気象庁から予報業務の許可を取得している事業者の一覧をご覧いただけます。気象の予報業務許可事業者においては、気象の専門家である気象予報士が予報を行っています。

〇気象庁 「予報業務許可事業者の一覧」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/jigyosha.html

(2)自社内で専門家を育成する場合

気象予報士や気象データアナリストなどの専門家を、採用や人材育成などにより自社に確保して気象データを活用する方法もあります。
気象予報士は、気象の予報を行う際に、数値予報資料等高度な予測データを適切に利用できる技術者です。気象予報士になるには、気象業務法に基づき気象庁長官の指定を受けた機関(指定試験機関)が実施する気象予報士試験に合格し、気象庁長官の登録を受けることが必要です。

〇気象庁 「気象予報士について」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/jigyosha.html

気象データアナリストとは、企業におけるビジネス創出や課題解決ができるよう、気象データの知識とデータ分析の知識を兼ね備え、気象データとビジネスデータを分析できる人材です。気象庁とWXBCは、気象データの分析のために修得すべき知識・技術(スキルセット)や標準的なカリキュラムを検討し、令和3年2月に「気象データアナリスト育成講座カリキュラムガイドライン」として公表しています。気象庁では、このガイドラインに適合する、民間の教育訓練事業者が実施する講座を「気象データアナリスト育成講座」として認定しています。この認定講座は、気象、データサイエンス、ビジネスについての知識や技能を学べる講座となっており、受講を修了した気象データアナリストは、ビジネスで気象データを活用する際の即戦力として、業務に大きく貢献することが期待されます。

〇気象庁 「「気象データアナリスト育成講座」の認定制度について」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shinsei/wda/index.html

〇気象庁 「「気象データアナリスト育成講座」の認定講座一覧」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shinsei/wda/ichiran.html