平成29年 No.44 週間火山概況 (10月27日~11月2日)
【火山現象に関する警報等の発表状況】
31日に霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺)に噴火予報を発表し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。また、31日に霧島山(新燃岳)の火口周辺警報を切替え、警戒が必要な範囲をこれまでの3kmから2kmに縮小しました(噴火警戒レベル3(入山規制)は継続)。その他の火山については、噴火に関する予報警報事項(警戒が必要な事項)に変更はありません。表1 11月2日現在の火山現象に関する警報等の発表状況
特別警報・警報・予報 | 噴火警戒レベル及びキーワード | 該当火山 |
火口周辺警報 | レベル3(入山規制) | 霧島山(新燃岳)、桜島、口永良部島 |
入山危険 | 西之島※ | |
レベル2(火口周辺規制) | 浅間山、諏訪之瀬島 | |
火口周辺危険 | 硫黄島※ | |
噴火警報(周辺海域) | 周辺海域警戒 | ベヨネース列岩※、福徳岡ノ場※ |
噴火予報 | レベル1(活火山であることに留意) | アトサヌプリ、雌阿寒岳、十勝岳、樽前山、倶多楽、有珠山、北海道駒ヶ岳、恵山、岩木山、秋田焼山、岩手山、秋田駒ヶ岳、蔵王山、吾妻山、安達太良山、磐梯山、那須岳、日光白根山、草津白根山、新潟焼山、焼岳、御嶽山、白山、富士山、箱根山、伊豆東部火山群、伊豆大島、三宅島、鶴見岳・伽藍岳、九重山、阿蘇山、雲仙岳、霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺)、霧島山(御鉢)、薩摩硫黄島 |
活火山であることに留意 | 上記以外の活火山* |
*2017年6月20日に活火山として選定された男体山については、準備が整い次第噴火予報(活火山であることに留意)を発表する予定です。
図1 噴火警報及び火山現象に関する海上警報を発表中の火山(11月2日現在)
【警報発表中の火山の活動状況及び警報事項】
浅間山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
山頂火口からの噴煙は白色で、火口縁上概ね200m以下で推移しています。また山頂火口では、高感度の監視カメラで確認できる程度の微弱な火映1)が観測されました。10月31日に実施した現地調査では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量2)は1日あたり600トン(前回10月18日、500トン)とやや多い状態でした。
山頂付近直下の火山性地震は、やや少ない状態で経過しました(図2)。火山性微動は観測されませんでした。
山頂の南南西にある塩野山の傾斜計3)では、西または北西上がりのわずかな変化が続いています。
火山活動はやや活発な状態で経過しています。今後も火口周辺に影響を及ぼす小規模な噴火が発生する可能性があるため、山頂火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石4)に警戒してください。登山者等は地元自治体等の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。また風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石4)が遠方まで風に流されて降るため注意してください。
図2 浅間山 火山性地震の日別回数(2014年1月1日~2017年11月2日)
ベヨネース列岩 [噴火警報(周辺海域警戒)及び火山現象に関する海上警報]
海上保安庁、第三管区海上保安本部によるこれまでの観測で、明神礁付近では火山活動によるとみられる変色水や気泡が時々観測されるなど、活動は活発な状態が続いています。今後、小規模な海底噴火が発生する可能性がありますので、明神礁付近及び周辺海域では海底噴火に警戒してください。また、周辺海域では海底噴火による浮遊物(軽石等)に注意してください。
西之島 [火口周辺警報(入山危険)及び火山現象に関する海上警報]
海上保安庁、第三管区海上保安本部、海上自衛隊及び気象庁によるこれまでの観測では、8月11日以降火口からの火山灰や噴石の噴出は認められず、8月24日には溶岩流の海への流入も止まっていたとみられます。しかし、約1年半の休止期間の後、4月に噴火した経緯を踏まえると、今後も噴火が再開する可能性が考えられますので、火口から概ね1.5kmの範囲では噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。
硫黄島 [火口周辺警報(火口周辺危険)及び火山現象に関する海上警報]
阿蘇台陥没孔からの噴気は白色で、火口縁上概ね100m以下で経過しました。
火山性地震は、やや少ない状態で経過しました。火山性微動は観測されませんでした。
GNSS5)連続観測によると、島の隆起が継続しています。
硫黄島の島内は全体に地温が高く、多くの噴気地帯や噴気孔があり、過去には各所で小規模な噴火が発生しています。
火山活動はやや活発な状態で経過しており、火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されますので、以前に小規模な噴火が発生した地点(ミリオンダラーホール(旧噴火口)等)及びその周辺では引き続き噴火に警戒してください。
福徳岡ノ場 [噴火警報(周辺海域警戒)及び火山現象に関する海上警報]
海上保安庁、第三管区海上保安本部、海上自衛隊及び気象庁によるこれまでの観測によると、福徳岡ノ場付近の海面には長期にわたり火山活動によるとみられる変色水等が確認されるなど、活動はやや活発な状態で経過しています。今後も小規模な海底噴火が発生すると予想されますので、周辺海域では海底噴火に警戒してください。また、周辺海域では海底噴火による浮遊物(軽石等)に注意してください。
霧島山(新燃岳) [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]←10月31日に火口周辺警報を切替え(噴火警戒レベル3(入山規制)継続、警戒範囲を3kmから2kmに縮小)
新燃岳では、10月17日00時30分頃を最後に噴火は発生していません。監視カメラによる観測では、噴煙が最高で火口縁上500mまで上がりました。
火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は10月15日に1日あたり11,000トンと急増しましたが、23日以降は200トン以下に減少し、30日は200トン、31日は100トンと少ない状態でした。
火山性地震は10月19日以降少ない状態で経過しましたが、時々低周波地震が発生しています。火山性微動は22日以降観測されていません。
傾斜計では、10月16日以降、新燃岳の明瞭な山体膨張を示す変化は認められません。
10月27日から31日にかけて新湯温泉付近から実施した現地調査では、新燃岳西側斜面の割れ目付近及び割れ目下方の噴気の状態や熱異常域の分布に、特段の変化は認められませんでした。
また、えびの岳付近(新燃岳の北西6km付近)では、火山性地震は10月26日から11月2日まで観測されませんでした。
これらのことから、10月31日14時00分に火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)を切替え、警戒が必要な範囲を火口から概ね3km から概ね2km に縮小しました。
GNSS連続観測では、7月頃から10月頃まで霧島山を挟む基線で伸びの傾向がみられました。このことから、霧島山の深い場所でマグマが蓄積されていると考えられますので、火山活動に注意が必要です。
弾道を描いて飛散する大きな噴石が火口から概ね2kmまで、火砕流6)が概ね1kmまで達する可能性があります。そのため、火口から概ね2kmの範囲では警戒してください。風下側では火山灰だけでなく小さな噴石(火山れき7))が遠方まで風に流されて降るおそれがあるため注意してください。また、爆発的噴火に伴う大きな空振による窓ガラスの破損や降雨時の土石流にも注意してください。地元自治体等が発表する火山ガスの情報にも留意してください。
桜島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]
桜島では、噴火活動が続いています。
南岳山頂火口では、10月31日12時21分に噴火が発生し、噴煙が火口縁上1,000mまで上がりました。南岳山頂火口での噴火は5月17日以来です。この他、ごく小規模な噴火が断続的に発生しました。爆発的噴火は発生しませんでした。
昭和火口では、噴火は観測されていません。
10月27日及び30日に実施した現地調査では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は1日あたり800~1,400トン(前回10月23日、1,000トン)とやや多い状態でした。
火山性地震及び火山性微動は、少ない状態で経過しています。
姶良カルデラ(鹿児島湾奥部)の地下深部へのマグマ供給が継続しており、今後も噴火活動が継続する可能性があります。昭和火口及び南岳山頂火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石及び火砕流に警戒してください。風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石(火山れき7))が遠方まで風に流されて降るため注意してください。爆発的噴火に伴う大きな空振によって窓ガラスが割れるなどのおそれがあるため注意してください。また、降雨時には土石流に注意してください。
口永良部島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]
口永良部島では、火山性地震は概ねやや多い状態で経過しています。火山性微動は観測されていません。
新岳火口では、白色の噴煙が火口縁上300mまで上がりました。
GNSS連続観測では、火口を挟む基線で収縮が続いています。
2015年5月29日と同程度の噴火が発生する可能性は低いものの、噴煙量や火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は、2014年8月の噴火前よりもやや多い状態で経過していることから、引き続き噴火が発生する可能性があります。
新岳火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石及び火砕流に警戒してください。向江浜地区から新岳の南西にかけての火口から海岸までの範囲では、火砕流に警戒してください。風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石が遠方まで風に流されて降るおそれがあるため注意してください。
諏訪之瀬島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]
諏訪之瀬島では、活発な噴火活動が続いています。
御岳(おたけ)火口では、噴火が10回発生し、そのうち爆発的噴火が5回でした。10月31日18時27分及び11月1日20時00分の爆発的噴火では、高感度の監視カメラで、火口周辺に飛散する大きな噴石が確認されました。十島村役場諏訪之瀬島出張所によると、10月31日15時28分の噴火では、噴煙が火口縁上1,500mまで上がり、火口から南南西4kmの集落で空振と鳴動が確認されました。また、夜間に高感度の監視カメラで火映を10月27日及び11月1日に観測しました。
火山性地震は少ない状態で経過しています。火山性微動は10月31日及び11月1日に発生しました。
諏訪之瀬島では、長期にわたり噴火を繰り返しています。火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。風下側では火山灰だけでなく小さな噴石が遠方まで風に流されて降るおそれがあるため注意してください。
【噴火予報発表中の火山の活動状況及び予報事項】
霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺) [噴火予報(噴火警戒レベル1、活火山であることに留意)]←10月31日に噴火警戒レベル2(火口周辺規制)から引下げ
えびの高原(硫黄山)周辺では、9月5日に硫黄山付近を震源とする振幅の大きな火山性地震が発生し、一時的に地震が増加しましたが、その後は少ない状態で経過しています。火山性微動は観測されていません。9月5日の火山性地震の増加に伴い、硫黄山周辺の傾斜計で一時的に傾斜変動を観測しましたが、その後は停滞しています。噴気は、9月8日に稜線上300m以上に上がりましたが、9月中旬以降は、稜線上概ね100m以下で経過しています。10月26日に実施した現地調査では、硫黄山の火口内及び周辺の熱異常域に縮小が認められました。火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は、10月25日の観測では検出限界未満でした。
これらのことから、地下深部からの高温の火山ガスや熱水等の供給は低下したと考えられるため、えびの高原の硫黄山から概ね1kmの範囲に大きな噴石が飛散する噴火の可能性は低くなったと判断し、10月31日14時00分に噴火予報を発表し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。
一方、硫黄山火口内にみられる活発な噴気域及び熱異常域では、高温の土砂や噴気、熱水等の規模の小さな噴出現象が発生し、その周辺の概ね100mの範囲に飛散する可能性があります。また、GNSS連続観測では、7月頃から10月頃まで霧島山を挟む基線で伸びの傾向がみられました。このことから、霧島山の深い場所でマグマが蓄積されていると考えられますので、火山活動に注意が必要です。
硫黄山火口内の活発な噴気域及び熱異常域とその周辺の概ね100mの範囲では、噴気孔からの高温の土砂や噴気、熱水等の規模の小さな噴出現象に十分注意してください。また、火山ガスにも注意が必要です。地元自治体等が行う立ち入り規制に従うとともに、火口周辺や噴気孔の近くには留まらないでください。
活火山であることから、最新の火山情報の確認に努めてください。
上記以外の火山では、期間中、火山活動に特段の変化はなく、予報事項に変更はありません。
全国の常時観測火山の観測データは、気象庁ホームページでもご覧になれます。
http://www.data.jma.go.jp/vois/data/tokyo/open-data/data_index.html
1) 火映とは、赤熱した溶岩や高温のガス等が、噴煙や雲に映って明るく見える現象です。
2) 火口から放出される火山ガスには、マグマに溶けていた水蒸気や二酸化硫黄、硫化水素など様々な成分が含まれており、これらのうち、二酸化硫黄はマグマが浅部へ上昇するとその放出量が増加します。気象庁では、二酸化硫黄の放出量を観測し、火山活動の評価に活用しています。
3) 傾斜計とは、火山活動による山体の傾きを精密に観測する機器です。火山体直下へのマグマの貫入等により変化が観測されることがあります。1μrad(マイクロラジアン)は1km先が1mm上下するような変化量です。
4) 噴石は、その大きさによる風の影響の程度の違いによって到達範囲が大きく異なります。本文中「大きな噴石」とは「風の影響を受けず弾道を描いて飛散する大きな噴石」のことであり、「小さな噴石」とはそれより小さく「風に流されて降る小さな噴石」のことです。
5) GNSS(Global Navigation Satellite Systems)とは、GPSをはじめとする衛星測位システム全般を示す呼称です。
6) 火砕流とは、火山灰や岩塊、火山ガスや空気が一体となって急速に山体を流下する現象です。火砕流の速度は時速数十kmから時速百km以上、温度は数百℃にも達することがあります。
7) 霧島山・桜島では「火山れき」の用語が地元で定着していると考えられることから、付加表現しています。
注)本資料には速報的な内容を含みます。データについては精査により、後日修正することがあります。
詳細については、毎月発表の火山活動解説資料を参照してください。
表2 火山現象に関する警報等の発表履歴 (10月27日~11月2日)
発表日時 | 火山名 | 特別警報・ 警報・予報 |
概要 |
10月31日 14時00分 | 霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺) | 噴火予報 | 噴火警戒レベル1(活火山であることに留意)に引下げ |
10月31日 14時00分 | 霧島山 (新燃岳) |
火口周辺警報 | 火口周辺警報切替え (噴火警戒レベル3(入山規制)継続) |
毎日 02時から3時間毎に8回 | 霧島山(新燃岳) 桜島 口永良部島 諏訪之瀬島 |
降灰予報(定時) | 噴火した場合に予想される、降灰範囲及び小さな噴石の落下範囲を予想 |
10月31日11時まで、毎日 02時から3時間毎に8回 | 霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺) | 降灰予報(定時) | 噴火した場合に予想される、降灰範囲及び小さな噴石の落下範囲を予想 |
【参考】 火山現象に関する警報等と噴火警戒レベル等の対応表
特別警報・警報・予報 | 噴火警戒レベルとキーワード | 噴火警戒レベルを運用していない火山に対するキーワード |
噴火警報※ | レベル5(避難) | 居住地域厳重警戒 |
レベル4(避難準備) | ||
火口周辺警報 | レベル3(入山規制) | 入山危険 |
レベル2(火口周辺規制) | 火口周辺危険 | |
噴火予報 | レベル1(活火山であることに留意) | 活火山であることに留意 |
海底火山については、噴火警報(周辺海域)(キーワード:周辺海域警戒)と噴火予報(キーワード:活火山であることに留意)で発表します。
※印のついた噴火警報は、特別警報に位置づけられています。