平成21年 No.16 週間火山概況 (平成21年4月10日 〜 平成21年4月16日)
【火山現象に関する予報及び警報の状況】
草津白根山では山頂から概ね500mの範囲で、ごく小規模な火山灰等の噴出に警戒が必要なことから、10日に噴火予報を切り替えた(噴火警戒レベル1(平常)継続)。同日、雌阿寒岳に噴火予報を発表して噴火警報を解除し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(平常)に引き下げた。
その他の火山は、噴火に関する予報警報事項に変更はない。
表1 火山現象に関する予報及び警報の発表履歴(4月10日〜4月16日)
発表日時 | 火山名 | 警報・予報 | 概要 |
4月10日10時00分 | 雌阿寒岳 | 噴火予報 | 噴火警戒レベルを1(平常)に引下げ |
4月10日14時00分 | 草津白根山 | 噴火予報 | 噴火予報の切替え(噴火警戒レベル1(平常)継続) |
毎日07時、17時 | 三宅島 | 火山ガス予報 | 島内の火山ガスの分布状況 |
表2 4月16日現在の噴火警報及び噴火予報等の発表状況
警報・予報 | 噴火警戒レベルとキーワード | 当該火山 |
火口周辺警報 | レベル3(入山規制) | 桜島 |
レベル2(火口周辺規制) | 浅間山、三宅島、薩摩硫黄島、口永良部島、諏訪之瀬島 | |
火口周辺危険 | 硫黄島 | |
噴火警報及び火山現象に関する海上警報 | 周辺海域警戒 | 福徳岡ノ場 |
噴火予報 | レベル1(平常) | 雌阿寒岳、十勝岳、樽前山、有珠山、北海道駒ケ岳、岩手山、吾妻山、安達太良山、磐梯山、那須岳、草津白根山、御嶽山、富士山、箱根山、伊豆大島、九重山、阿蘇山、雲仙岳、霧島山(新燃岳)、霧島山(御鉢) |
平常 | 上記以外の活火山 |
図1 噴火警報発表中の火山(4月16日現在)
【警報発表中の火山の活動状況及び警報事項】
雌阿寒岳 [火口周辺警報(噴火警戒レベル1、平常)]←10日に噴火警戒レベル2(火口周辺規制)から引下げ
火山性地震は少ない状態で推移し、火山性微動は観測されていない。また、ポンマチネシリ火口からの噴煙は火口縁上概ね100m以下で特段大きな変化もなく推移し、雌阿寒岳の火山活動は概ね落ち着いた状態となっている。
雌阿寒岳では、火口周辺に影響を及ぼす噴火の兆候は認められなくなったため、10日に噴火予報(平常)を発表して噴火警報を解除し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(平常)に引き下げた。
なお、火口内では引き続き噴気活動が続いており、火口内に影響する程度の噴出現象は突発的に発生する可能性があるので、火口内や近傍では火山ガスや火山灰噴出に対する警戒が必要である。
浅間山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
14日7時32分頃、山頂火口でごく小規模な噴火が発生した。噴煙高度は火口縁上400mまで上がり、北東に流れた。北東側の山麓では、降灰は観測されなかった。噴火の発生は、3月15日のごく小規模な噴火以来である。
山頂火口からの噴煙量はやや多い状態が続き、噴煙は火口縁上200〜400mで推移した。今期間、火映は観測されていないが、依然として熱活動の高まった状態が続いていると推定される。
火山性地震及び火山性微動はやや多い状態が続いている。
13日に行った現地調査では、二酸化硫黄放出量は一日あたり1,000〜2,100トン(前回4月8日、800〜2,900トン)と多い状態が続いている。
また、光波測距観測1)では、昨年8月頃からみられていた山頂部のごく浅いところの膨張によるものと推定される縮みの変化がやや鈍化している。
GPSによる地殻変動観測では、2008年7月初め頃から深部へのマグマ貫入を示すわずかな伸びの傾向がみられている。
浅間山では、今後も山頂火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されるので、山頂火口から概ね2kmの範囲では大きな噴石2)に警戒が必要である。また、風下側では、降灰及び風の影響を受ける小さな噴石2)に注意が必要である。なお、火山ガス放出量の多い状態が続いているので、風下側にあたる登山道等では火山ガスにも注意が必要である。
1)レーザなどを用いて山体に設置した反射鏡までの距離を測定する機器。山体の膨張や収縮による距離の変化を観測している。
2)噴石については、大きさによる風の影響の程度の違いによって飛散範囲が大きく異なる。本文中「大きな噴石」とは、「弾道を描いて飛散する大きな噴石」のことであり、「小さな噴石」とは、それより小さく「風の影響を受ける小さな噴石」のことである。
図2 浅間山 火山性地震の日別回数(2008年4月1日〜2009年4月16日)
三宅島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
噴煙高度は火口縁上200〜300mで推移した。
火山性地震はやや多い状態が続いている。
13日に行った現地調査では、二酸化硫黄放出量は一日あたり800〜1,500トン(前回4月7日、2,100〜3,200トン)と依然として多い状態が続いている。
三宅島では、今後も山頂火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されるので、山頂火口周辺(雄山環状線内側)では噴火に対する警戒が必要である。また、火山ガス予報で予想される地域では火山ガスに対する警戒が必要である。降雨時には土石流にも注意が必要である。
硫黄島 [火口周辺警報(火口周辺危険)]
独立行政法人防災科学技術研究所の観測によると、地震活動は落ち着いた状態で経過しているが、国土地理院の観測によると、2006年8月以降みられている島全体の隆起を示す地殻変動は継続している。
硫黄島では、火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されるので、これまで小規模な噴火が発生した領域では噴火に対する警戒が必要である。
福徳岡ノ場 [噴火警報(周辺海域警戒)及び火山現象に関する海上警報]
今期間、観測は行われなかった。なお、これまでの海上保安庁海洋情報部、第三管区海上保安本部及び海上自衛隊による上空からの観測で、福徳岡ノ場付近の海面には長期にわたり火山活動によるとみられる変色水等が確認されている。
福徳岡ノ場では引き続き小規模な海底噴火が発生すると予想されるので、周辺海域では噴火に対する警戒が必要である。
桜島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]
昭和火口では、10日に2回噴火が発生した。噴煙高度の最大は火口縁上1,700mであった。
南岳山頂火口では、噴火は発生しなかった。
火山性地震及び火山性微動は少ない状態で経過した。
有村観測坑道(九州地方整備局大隅河川国道事務所)の伸縮計では、山体の膨張を示すわずかな変化が続いている。
国土地理院のGPS観測によると、姶良(あいら)カルデラ(鹿児島湾奥部)の地下深部へのマグマ注入によると考えられる長期的な膨張が続いているが、桜島直下にマグマが新たに移動したことを示す地殻変動は観測されていない。
桜島では、昭和火口及び南岳山頂火口から2kmを超えた居住地域近くまでの範囲では、噴火に伴う大きな噴石2)及び火砕流に警戒が必要である。風下側では降灰及び小さな噴石2)(火山れき3))に注意が必要である。降雨時には土石流に注意が必要である。
3)桜島では「火山れき」の用語が地元で定着していると考えられることから、付加表現している。
薩摩硫黄島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
硫黄岳山頂火口の噴煙活動はやや活発な状態が続いており、噴煙高度は火口縁上100〜700mで推移した。火山性地震はやや多い状態が続いている。
薩摩硫黄島では、硫黄岳火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されるので、火口から概ね1kmの範囲では噴火に対する警戒が必要である。
口永良部島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
島内に設置した遠望カメラにより、白色噴煙が時々観測され、噴煙高度は火口縁上20〜200mで推移した。
火山性地震はやや増加し、継続時間の短い火山性微動も時々発生したが、振幅はいずれも小さなものであった。
GPSによる地殻変動観測では、2008年9月以降続いていた新岳火口浅部のわずかな膨張を示す変化が2009年2月以降鈍化している。
口永良部島では、火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生する可能性があるため、火口から概ね1kmの範囲では大きな噴石2)に警戒が必要である。また、風下側では降灰及び小さな噴石2)にも注意が必要である。
諏訪之瀬島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
御岳(おたけ)火口では、爆発的噴火が2回発生した。十島村役場諏訪之瀬島出張所によると、御岳では火山灰を含む噴煙が断続的に上がり、15日夕方には火口縁上1,000mまで上がった。
火山性地震及び火山性微動は消長を繰り返しながらやや多い状態が続いている。
諏訪之瀬島では、今後も御岳火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されるので、火口から概ね1kmの範囲では大きな噴石2)に警戒が必要である。
【噴火予報発表中の火山の活動状況及び予報事項】
草津白根山 [噴火予報(噴火警戒レベル1、平常)]←10日に噴火予報の切替え(噴火警戒レベル1(平常)継続)
草津白根山では、2008年7月から湯釜火口内の北壁に局所的な高温部分が確認され、水釜火口の北から北東側にあたる斜面で新たな噴気が確認されている。火山性地震や地殻変動には特段の変化はないが、熱活動は2006年の平常な状態に比べて、高まった状態が続いている。今後、これらの活動がさらに高まった場合には、山頂火口から概ね500mの範囲に影響を及ぼすごく小規模な火山灰等の噴出の可能性があるため、10日に噴火予報を切り替えた(噴火警戒レベル1(平常)継続)。
草津白根山では、山頂火口からごく小規模な火山灰等の噴出の可能性があるので、山頂火口から概ね500mの範囲では警戒が必要である。また、ところどころで火山ガスの噴出が見られ、周辺の窪地や谷地形などでは高濃度の火山ガスが滞留することがあるので、注意が必要である。
【参考】 噴火警報及び噴火予報と噴火警戒レベル等の対応表
警報・予報 | 噴火警戒レベルとキーワード | 噴火警戒レベルを導入していない火山に対するキーワード |
噴火警報 | レベル5(避難) | 居住地域厳重警戒または山麓厳重警戒 |
レベル4(避難準備) | ||
火口周辺警報 | レベル3(入山規制) | 入山危険 |
レベル2(火口周辺規制) | 火口周辺危険 | |
噴火予報 | レベル1(平常) | 平常 |
※海底火山については、噴火警報(キーワード:周辺海域警戒)と噴火予報(キーワード:平常)で発表する。