平成20年 No.47 週間火山概況 (平成20年11月14日 〜 平成20年11月20日)

【火山現象に関する予報及び警報の状況】

 17 日、雌阿寒岳に火口周辺警報(火口周辺危険)を発表し、噴火予報(平常)から引き上げた。
 その他の火山は、噴火に関する予報警報事項に変更はない。

表1 火山現象に関する予報及び警報の発表履歴(11月14日〜11月20日)

発表日時 火山名 警報・予報 概要
17日14時30分 雌阿寒岳 火口周辺警報 「平常」から「火口周辺危険」に引上げ
毎日07時、17時 三宅島 火山ガス予報 島内の火山ガスの分布状況

表2 11月20日現在の噴火警報及び噴火予報等の発表状況

警報・予報 噴火警戒レベルとキーワード* 当該火山
火口周辺警報 レベル3(入山規制) 口永良部島
レベル2(火口周辺規制) 浅間山、三宅島、桜島、薩摩硫黄島、諏訪之瀬島
火口周辺危険 雌阿寒岳、硫黄島
噴火警報及び火山現象に関する海上警報 周辺海域警戒 福徳岡ノ場
噴火予報 レベル1(平常) 樽前山、有珠山、北海道駒ケ岳、岩手山、吾妻山、草津白根山、御嶽山、富士山、伊豆大島、九重山、阿蘇山、雲仙岳、霧島山(新燃岳)、霧島山(御鉢)
平常 上記以外の活火山

噴火警戒レベルは、その活用が地域防災計画等で予め定められており、レベル毎の防災対応をキーワードで示している。噴火警戒レベルを導入していない火山については、警戒事項をキーワードで示している。


図1  噴火警報発表中の火山

図1 噴火警報発表中の火山(11月20日現在)





【警報発表中の火山の活動状況及び警報事項】


雌阿寒岳 [火口周辺警報(火口周辺危険)] ←17日に噴火予報(平常)から引上げ

 雌阿寒岳では、17日10時05分頃から振幅の小さな火山性微動が発生するなど火山活動が高まっていると考えられたことから、火口周辺警報(火口周辺危険)を発表した。なお、16日にも継続時間のやや長い火山性微動が観測されている。
 ポンマチネシリ火口からの噴煙や同火口周辺の状況は、16日の火山性微動発生以降、18日昼頃までは雲等のため不明であったが、その後の上徹別(かみてしべつ)(ポンマチネシリ火口の南南東約16km)の遠望カメラによる観測や、18日14〜15時頃に北海道及び陸上自衛隊第5旅団の協力により実施した上空からの観測により、ポンマチネシリ96-1火口から100m以内で大きな噴石1)を、同火口から300〜400mの範囲の南東側斜面で火山灰を確認した。火山灰は18日朝までに降った新雪の上で見つかったことから、同日午前中にごく小さな噴火が発生したとみられる。
 なお、19日に北海道開発局の協力で実施した上空からの観測では、雪面に新たな火山灰が堆積した跡は認められなかった(図2)。
 18日以降、ポンマチネシリ火口からの噴煙の高さは火口縁上100〜300mで、やや多い状態が続いている。
 17日以降断続的に観測されていた火山性微動は、19日16時26分以降観測されていない。期間中、火山性地震は少ない状態で推移した。
 GPSによる地殻変動観測では、16日の微動が発生した頃にポンマチネシリ火口付近の観測点で、同火口浅部の局所的な膨張を示すと考えられるわずかな変動が観測されたが、その後は特段の変化はみられていない。
 雌阿寒岳では今後もごく小さな噴火が発生する可能性があり、ポンマチネシリ火口から500m程度の範囲では大きな噴石1)に警戒が必要である。また、風下側では降灰及び小さな噴石1)に注意が必要である。


図2 雌阿寒岳 東側上空から撮影したポンマチネシリ火口周辺の状況
   左:11月18日(北海道の協力) 右:11月19日(北海道開発局の協力)
   赤楕円内に見える火山灰は、11月18日午前中に発生したとみられるごく小さな噴火によるもの。
   11月19日の観測では新たな火山灰は確認できなかった。

1)噴石については、大きさによる風の影響の程度の違いによって飛散範囲が大きく異なる。本文中「大きな噴石」とは、「弾道を描いて飛散する大きな噴石」のことであり、「小さな噴石」とは、それより小さく「風の影響を受ける小さな噴石」のことである。

浅間山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]

 山頂火口の噴煙量はやや多い状態が続き、噴煙高度は火口縁上概ね200mで推移した。また、夜間には時々、高感度カメラ2)により微弱な火映が観測されている。
 火山性地震及び火山性微動はやや多い状態が続いている。
 14日及び20日に行った現地調査では、二酸化硫黄放出量は一日あたり1,700〜4,800トン(前回11月5日、2,100〜3,400トン)と多い状態が続いている。
 GPSによる地殻変動観測では、7月初め頃から深部へのマグマ貫入を示すわずかな伸びの傾向がみられている。
 17日に陸上自衛隊の協力により行った上空からの観測では、噴煙が充満していたため火口底の詳しい様子はほとんど視認できなかった。火口底内は中央部が引き続き高温であり、前回(11月11日)と比べて、特段の変化は認められなかった。
 浅間山では、依然として火山活動が高まった状態が続いており、山頂火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されるので、山頂火口から概ね2kmの範囲では大きな噴石1)に警戒が必要である。風下側では、降灰及び小さな噴石1)にも注意が必要である。また、火山ガス放出量の多い状態が続いているので、風下側にあたる登山道等では火山ガスにも注意が必要である。


図3 浅間山 火山性地震の日別回数(2008年7月1日〜2008年11月20日)

2)長野県建設部佐久建設事務所の黒斑山設置カメラ、国土交通省利根川水系砂防事務所の山麓設置カメラによる。

三宅島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]

 噴煙高度は火口縁上200〜300mで推移した。火山性地震はやや多い状態が続いている。
 20日に行った現地調査では、二酸化硫黄放出量は一日あたり1,600〜2,200トン(前回11月6日、1,800〜2,600トン)と依然として多量の火山ガス放出が続いている。
 三宅島では、山頂火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されるので、山頂火口周辺(雄山環状線内側)では噴火に対する警戒が必要である。また、火山ガス予報で予想される地域では火山ガスに対する警戒が必要である。降雨時には泥流にも注意が必要である。


硫黄島 [火口周辺警報(火口周辺危険)]

 独立行政法人防災科学技術研究所及び国土地理院の観測によると、地震活動は落ち着いた状態で経過しているが、2006年8月以降みられている島全体の隆起を示す地殻変動が継続している。
 硫黄島では、火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されるので、従来から小規模な噴火が発生した領域では噴火に対する警戒が必要である。


福徳岡ノ場 [噴火警報(周辺海域警戒)及び火山現象に関する海上警報]

今期間、観測は行われなかった。なお、これまでの海上保安庁海洋情報部、第三管区海上保安本部及び海上自衛隊による上空からの観測で、福徳岡ノ場付近の海面には長期にわたり火山活動によるとみられる変色水等が確認されている。
福徳岡ノ場では引き続き小規模な海底噴火が発生すると予想されるので、周辺海域では噴火に対する警戒が必要である。


桜島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]

 今期間、噴火は発生しなかった。昭和火口では夜間には時々、高感度カメラ3)により微弱な火映が観測された。火山性地震及び火山性微動は少ない状態が続いている。桜島直下にマグマが新たに移動したことを示す地殻変動は観測されていない。14日に行った現地調査では、二酸化硫黄の放出量は一日あたり700〜1,000トンで、前回(9月19日、500〜1,300トン)と比べてやや少ない状態であった。
 国土地理院のGPS観測によると、姶良(あいら)カルデラ(鹿児島湾奥部)の地下深部へのマグマ注入によると考えられる長期的な膨張が続いている。
 桜島では、引き続き南岳山頂火口及び昭和火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されるので、火口から概ね1kmの範囲では大きな噴石1)に警戒が必要である。また、風下側では降灰及び小さな噴石1)(火山れき4))にも注意が必要である。降雨時には泥流や土石流に注意が必要である。

3)九州地方整備局大隅河川国道事務所の黒神河原上流設置カメラ等による。
4)桜島では「火山れき」の用語が地元で定着していると考えられることから、付加表現している。

薩摩硫黄島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]

 硫黄岳山頂火口の噴煙活動はやや活発な状態が続いており、噴煙高度は火口縁上30〜200mで推移した。火山性地震はやや多い状態が続いている。
 薩摩硫黄島では、硫黄岳火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されるので、火口から概ね1kmの範囲では噴火に対する警戒が必要である。


口永良部島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]

 火山性地震は時々発生したが、火山性微動は少ない状態が続いている。島内に設置した遠望カメラでは、噴気が時々観測され、高さは火口縁上30m〜200mで推移した。
 9月以降、GPSによる地殻変動観測で新岳火口浅部の膨張を示す変化が続いている。
 口永良部島では、依然として火山活動は高まった状態が続いており、火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生する可能性があるため、火口から概ね2kmの範囲では大きな噴石1)に警戒が必要である。また、風下側では降灰及び小さな噴石1)にも注意が必要である。


諏訪之瀬島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]

 御岳(おたけ)火口では小規模な噴火が時々発生した。これらの噴火に伴う噴煙の高さは火口縁上600〜1,600mであった。十島村役場諏訪之瀬島出張所によると、14日と20日に集落(御岳の南南西約4km)で少量の降灰が確認された。火山性地震及び火山性微動は消長を繰り返しながらやや多い状態が続いている。諏訪之瀬島では、御岳火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されるので、火口から概ね1kmの範囲では大きな噴石1)に警戒が必要である。



【噴火予報発表中の火山の活動状況及び予報事項】


吾妻山 [噴火予報(噴火警戒レベル1、平常)]

 11日に、吾妻山(一切経山)の噴気に関する通報があり、気象庁機動調査班が現地観測を行ったところ、大穴火口の噴気が増加し、火口縁上概ね300mの高さまで上昇しているのを確認した。その後、噴気は概ね300mの高さで推移しており、特段の変化は認められない。
 火山性地震は少ない状態で経過しており、火山性微動も観測されていない。
 また、山麓のGPSによる地殻変動観測では変化はみられない。
 吾妻山では引き続き火口周辺に影響を及ぼす噴火の兆候はみられず、噴火予報(平常)が継続している。火口内では噴気、火山ガスの噴出等がみられるため、火口内では警戒が必要である。


 上記以外の火山では、期間中、火山活動に特段の変化はなく、予報事項に変更はない。





【参考】 噴火警報及び噴火予報と噴火警戒レベル等の対応表

警報・予報 噴火警戒レベルとキーワード 噴火警戒レベルを導入していない火山に対するキーワード
噴火警報 レベル5(避難) 居住地域厳重警戒または山麓厳重警戒
レベル4(避難準備)
火口周辺警報 レベル3(入山規制) 入山危険
レベル2(火口周辺規制) 火口周辺危険
噴火予報 レベル1(平常) 平常

※海底火山については、噴火警報(キーワード:周辺海域警戒)と噴火予報(キーワード:平常)で発表する。


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