東日本大震災
※本記事では、年表記のない「○月○日」は「平成23年(2011年)」○月○日を指します。
1 概要
平成23年3月11日14時46分、三陸沖を震源とするマグニチュード(Mw)9.0の地震が発生し、宮城県栗原市で震度7、宮城県、福島県、茨城県、栃木県の4県37市町村で震度6強を観測したほか、北海道から九州地方にかけての広い範囲で震度6弱~1を観測しました。この地震により、東北地方から関東地方にかけての太平洋沿岸を巨大な津波が襲い、未曾有の被害が発生しました。津波観測施設では、福島県相馬で9.3m以上※1、宮城県石巻市鮎川で8.6m以上※1など、東日本の太平洋沿岸を中心に非常に高い津波を観測したほか、北海道から鹿児島県にかけての太平洋沿岸や小笠原諸島で1m以上の津波を観測しました。また遡上高※2では、大船渡市綾里湾で40.1mが記録されました。(東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループホームページ、平成24年1月14日時点)
気象庁は、国内観測史上最大規模の地震であったこの地震を「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」(以下「東北地方太平洋沖地震」)と命名し、また4月1日、この地震による災害について「東日本大震災」と呼ぶことが閣議決定されました。
気象庁は、東北地方太平洋沖地震に対し、地震波を最初に検知してから8.6秒後に「宮城県、岩手県、福島県、秋田県及び山形県で強い揺れが予想される」旨の緊急地震速報(警報)を発表し、地震発生から3分後の14時49分に岩手県、宮城県、福島県の沿岸に津波警報(大津波)を、北海道から九州にかけての太平洋沿岸と小笠原諸島に津波警報(津波)、津波注意報を発表しました。その後、津波警報・津波注意報の範囲を拡大する続報を順次発表し、3月12日03時20分には全ての予報区に対して津波警報、津波注意報を発表しました。3月13日17時58分に津波注意報を全て解除するまで、津波観測に関する情報などを適宜発表しました。また、東北地方太平洋沖地震とその後の地震について、地震活動の状況や津波の状況などを説明する報道発表を行ったほか、3月13日からは地震活動の状況や見通しについての報道発表も行いました。
動画1仙台航空測候所(仙台空港)に到達した津波
図3停電した仙台市内と火災
2 仙台管区気象台と東日本大震災
(1) 観測システムの被災状況及び復旧対応等
ア 地上気象観測網(アメダス)
(1) 被災状況
東北地方の太平洋沿岸部において電力・通信回線が途絶え、多数のアメダス観測所でデータが得られない状態となりました。釜石地域気象観測所(岩手県釜石市港町)及び雄勝地域雨量観測所(宮城県石巻市雄勝町)では、津波により観測施設が損壊しました。
図4津波により損壊した釜石地域気象観測所
図5津波により損壊した雄勝地域気象観測所
(2) 復旧
電力や通信回線の復旧に伴い、地震発生から3日後には約8割の観測所が復旧しましたが、津波により観測施設そのものが被災した観測所や、電力や通信回線の復旧が当面見込めない観測所については、可搬型の観測機器を設置したほか、携帯電話サービスや衛星通信サービスを代わりの通信回線として活用することで観測を再開しました。
(3) 臨時のアメダス観測所の設置
地震により土砂災害や浸水の危険性が高まった地域の災害を防止し、復旧・復興活動の支援や住民へのきめ細かい気象情報の提供を行うため、臨時のアメダス観測所を設置して被災地の気象観測体制を強化しました。
図7臨時で設置した女川地域気象観測所
(4) 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ(現:NTTドコモ)の観測データの活用
津波により観測施設が損壊し、通信や電力が寸断されたため、全ての観測点をすぐには復旧できない状況でした。そのため気象庁は、気象業務法(昭和27年6月2日 法律第165号)に基づき届出された気象観測施設(検定済み)により、広域的な観測網を有しており、リアルタイムでのデータ収集を行っているNTTドコモに対し、気象業務法第6条第4項の規定による自社気象観測網のデータの報告を求めました。このデータは、3月23日(発災12日後)から10月4日までの約半年間、気象庁の観測施設が復旧し、前述の臨時の観測地点設置が完了するまで、気象庁ホームページにて公表するとともに、防災気象情報の発表に活用しました。
イ 地震・津波観測網
(1) 地震・震度観測施設の被災状況及び復旧対応
a 被災状況
一部の震度計が水没や液状化により使用できなくなりました。また、長時間の停電が発生し、観測機器の停止や通信回線(地上回線)の機能停止により、3月12日には東北地方において地震計19か所、震度計48か所の地震観測・震度観測データが取得できない状態となりました。
図8被災した南三陸町志津川の計測震度計の処理部
①被災した南三陸町防災対策庁舎と計測震度計の処理部(黄色円内)
②津波による土砂が入り込んだ計測震度計の処理部内部
津波の来襲後に所在不明となりましたが、現地調査を行った際にがれきの中から発見し、持ち帰って観測データを復旧することができました。
b 復旧
電力や通信回線の復旧に伴い、地震発生から1週間後には約8割の観測点の観測データが取得できるようになりました。
再度の広域的な停電に備えて、地震観測点が停電後24時間は稼働できるように応急措置を施すとともに、使用できなくなった気象庁の震度観測点には臨時の震度計を設置しました。また、地方公共団体設置の震度計で障害となった地点のうち、市町村に1地点しかない地点については、地震情報でそれらの市町村の震度が発表されなくなるため、恒久的な観測点が復旧するまでの間、気象庁が当該市町村に臨時の震度観測点を設置し、震度観測を実施しました。
(2) 潮位・津波観測施設
a 被災状況
仙台管内太平洋沿岸の潮位・津波観測施設は、津波により施設が流失したり損傷を受けたりしたほか、通信回線が不通となったことで、多くの施設の観測データが伝送できない状態となり、津波の監視が困難となりました。
b 復旧
発災直後から、被災施設の状況確認と津波監視の継続・復旧に努めました。青森県の八戸港の海面の状態を監視するためカメラを設置するとともに、第二管区海上保安本部の巡視船に海面の状況に変化があれば知らせていただく対応をとりました。停電でバッテリー稼働となった小名浜検潮所(福島県)では、2日おきに職員が現地に赴いてバッテリーを交換し、観測を継続させました。
被災施設のうち、被害が比較的小さかった大船渡検潮所(岩手県)と国土交通省東北地方整備局所属の仙台新港検潮所(宮城県)では、3月下旬に観測を再開しました。大きな被害を受けたその他の観測点でも、臨時の機器を設置して観測を再開しました。
また、被災した観測点から津波の観測データを回収し、津波の高さを推定して公表しました。
(2) 防災気象情報の提供
ア 地震発生直後の防災気象情報の提供状況
仙台管区気象台では、東北地方太平洋沖地震の発生が平日日中であり多くの職員が出勤していたこと、地震発生2年前に竣工した免震構造により庁舎設備に大きな損傷がなかったことから、地震発生直後も防災気象情報の作成が続けられました。
発表した防災気象情報を行政機関や報道機関などに伝達する際、インフラ障害などによって多くの伝達先に通常時と同じ方法で伝えることができなくなりました。そのため、FAXや手渡しなどの代替手段での対応に追われました。
動画2地震により揺れる仙台第3合同庁舎
図11仙台第3合同庁舎の免震装置の「けがき盤」に残る、
東北地方太平洋沖地震の揺れによる傷
イ 被災者、復旧・復興作業者の活動を支援するための防災気象情報の提供
(1) 大雨警報基準等の暫定的な運用
大きな揺れを観測した地域では、通常時よりも土砂災害が起こりやすくなります。また、堤防や排水施設が地震や津波で損壊した地域では、通常時よりも浸水害や洪水害が起こりやすくなります。このような状況を考慮し、大雨警報・注意報、洪水警報・注意報、洪水予報や土砂災害警戒情報の基準を通常時より引き下げて運用しました。
また、岩手県・宮城県・福島県では大きな地盤沈下が発生し、大潮の時期には海岸近くの低地が浸水・冠水する可能性があったため、高潮注意報や潮位情報によって注意を呼び掛けました。その後、被害状況が明らかになるとともに海岸施設の応急復旧工事が進められてきたため、高潮警報・注意報の基準を通常よりも引き下げて運用しました。
(2) ポータルサイトの開設
仙台管区気象台や管内の地方気象台では、関係機関の救助・捜索等災害応急活動や復旧活動などを支援するために、被災地周辺の気象に対するコメントや気象予想などを内容とした「災害時気象支援資料」を、1日1~3回作成し、関係機関へ提供するとともに、管区・各地方気象台ホームページに掲載しました。
また、4月27日から津波や河川の復旧工事をしている市町村ごとに、天気の解説、時系列の予報、週間天気予報、分布予報、潮位の予想などを掲載した「復旧担当者・被災者向け気象支援資料」の提供を始めました。
その他、仙台管区気象台では、ヘリなどの基地空港支援のため宮城県災害対策本部へ、霞目飛行場(仙台市)、山形空港、花巻空港、福島空港の予想資料、東北地方の風向風速予想資料を提供しました。
(3) コミュニティFM等による防災情報の提供
東日本大震災では、津波により沿岸部の市町村が壊滅的な被害を受け、防災行政無線設備や携帯電話の中継基地局が被災したため、沿岸部で捜索活動や復旧・復興事業に従事する人々への防災気象情報の伝達が困難になりました。
このことから、仙台管区気象台は、東北地方32局の臨時災害放送局及びコミュニティFM局に協力を得て、防災気象情報を放送していただきました。
(4) 携帯メールによる防災気象情報の提供
被災地では、地盤沈下や防災施設の破損などにより、通常よりも災害が発生しやすい状況となったことから、復旧・復興作業が行われる現場では、防災に関する気象情報について随時に確認する必要性が大きくなりました。このような状況から、屋外で復旧・復興作業に従事される方々の安全性を高めるため、気象庁ホームページ上の携帯電話向けコンテンツを充実させました。
復旧・復興の担当者に対し、最新の警報・注意報や気象情報について携帯電話へメールを配信するとともに、県内の気象状況が変化したり気象の見通しが変わったりした場合などに、その状況をきめ細かくプッシュ型で提供する取り組みを始めました。
(5) 「東日本大震災復旧・復興対応気象支援班」による防災気象情報の提供
5月9日に「東日本大震災復旧・復興対応気象支援班」を仙台管区気象台に設置し、復旧・復興活動等を行う機関などに対し、気象情報による支援を的確に行うための体制を整備しました。この支援班には全国から職員が派遣されました。
気象支援班では、まず関係機関への聞き取りによりニーズを把握し、その結果をもとにニーズにマッチした情報を提供しました。
図13東日本大震災復旧・復興対応気象支援班
(3) 部外機関との連携及び対応
ア 各県の災害対策本部への対応
仙台管区気象台では、宮城県災害対策本部に職員を派遣し、地震情報の関係機関への伝達、地震解説資料の作成・発表、災害時気象支援資料の提供などを行いました。
また、ヘリなどの基地空港支援のため、宮城県災害対策本部へ、霞目飛行場、山形空港、花巻空港、福島空港の予想資料や東北地方の風向風速予想資料を提供しました。
図14宮城県災害対策本部会議で説明をする仙台管区気象台職員
イ 緊急災害現地対策本部等及び復興庁への対応
(1) 緊急災害現地対策本部・政府現地連絡対策室
政府は3月11日、内閣府副大臣を団長とする政府調査団を宮城県に派遣し、その後、政府は3月11日の閣議決定に基づき、3月12日6時に緊急災害現地対策本部(本部長:内閣府副大臣)を宮城県庁に設置しました。また 3月12日には、内閣府副大臣を団長とする調査団を岩手県に、財務省大臣政務官を団長とする調査団を福島県に派遣し、その後、政府現地連絡対策室を岩手県庁及び福島県庁に設置しました。
当初は気象庁本庁がそれぞれに職員を派遣しましたが、その後、仙台管区気象台及び福島地方気象台からそれぞれ緊急災害現地対策本部及び福島県の政府現地連絡対策室に職員を派遣し、地震活動の状況及び気象の予想の解説や関係機関との情報交換を行いました。
(2) 東日本大震災復興対策本部・復興庁
6月24日に東日本大震災復興基本法が施行され、東日本大震災復興対策本部(本部長:内閣総理大臣)及び岩手、宮城、福島現地対策本部が設置されました。気象庁は、宮城、岩手、福島各現地対策本部員に仙台管区気象台長、事務局員に仙台管区気象台技術部長(現在の気象防災部長)、盛岡及び福島地方気象台次長を登録し、平成24年2月10日に復興庁宮城復興局が発足するまで対応を行いました。復興庁が発足してからは、宮城復興局に危機管理調整官を、岩手及び福島復興局には盛岡及び福島地方気象台防災業務課長(現在の防災管理官)をそれぞれ併任し対応しました。
(4) 空港官署の対応
ア 仙台航空測候所(現在の仙台航空気象観測所)の被災
仙台空港は津波により甚大な被害を受け、仙台航空測候所で予報や観測をすることができなくなりました。庁舎1階が水没して発動発電機が冠水したため電気が使えなくなり、屋外の観測機器は風向風速計感部以外全て津波で水没しました。
羽田空港(東京国際空港)にある東京航空地方気象台では特別の体制を敷き、仙台航空測候所で行っていた予報業務を代行するとともに、気象庁本庁では、捜索救難や復旧の拠点となった空港に対して気象の情報を提供しました。また、新千歳航空測候所では、大館能代空港の監査と通報の業務を代行しました。
このように、仙台航空測候所の業務を他官署で分担することで、捜索救難や復旧活動を行う空港利用者に対して、情報提供を確実に実施しました。
図15仙台空港に到達した津波
図16津波翌朝の仙台空港
イ 仙台航空測候所の復旧
津波で観測機器が水没したため、3月17日に仙台航空測候所が入居する庁舎の屋上に観測機器を仮設置し、緊急輸送機の運航に向けた気象観測データの提供を再開しました。その後も被災した機器の復旧作業を進め、4月20日には観測業務・予報業務とも通常通り行えるまでに復旧しました。この間、4月13日には民間機の運航が一部で再開しました。
図17仙台航空測候所庁舎屋上に臨時で設置した気象観測機器
ウ 空港出張所における対応
高速道路や新幹線が不通となったため、捜索救難や物資輸送のための代替輸送拠点として、山形、福島、花巻の各空港では3月12日から順次 24時間の運用が開始されました。このため、各空港にある出張所(現在は航空気象観測所)でも、仙台航空測候所職員による応援を受けて、航空気象業務の実施時間を24時間に延長して観測・通報体制を強化し、救難機などに対し気象情報の提供・解説等を実施して運航の支援を行いました。
各空港の運用時間は、陸上交通網の復旧に伴って徐々に短縮され、4月中旬には通常の運用体制に戻りました。これに合わせて各空港出張所では、発災前の通常の体制に移行しました。
図18山形空港に駐機する救援機
(5) 福島県原子力災害への対応
政府が福島県に設置した原子力災害現地対策本部へ、3月22日から福島地方気象台、仙台管区気象台、他管区・沖縄気象台が交代で職員を派遣し、気象情報の提供や警戒区域への一時立入り時における気象解説などの支援を行いました。
3 東日本大震災を踏まえた業務の変化
東日本大震災では、地震・津波に関する観測や情報発表に関して、多くの課題が明らかになりました。気象庁では、それらの課題の解決、改善に向けた取り組みを進めてきました。この章では、東日本大震災以降に、気象庁が行った地震・津波分野における取り組みについて紹介します。
(1) 津波警報・情報の改善
東日本大震災では、津波の予測と情報の伝え方が課題となりました。
前者について、津波の予測には地震の規模(マグニチュード)の情報が使われます。一般的に大きな地震になればなるほど、地震を起こす断層がずれ終わるまで時間がかかります。マグニチュード8を超えるような巨大地震の場合は、津波警報等の第1報を発表する地震発生後3分の段階では、まだ正確な規模は求められずに、マグニチュードを小さく見積もってしまいます。加えて、東日本大震災の際は、地震の規模を精査するために利用される広帯域地震計が強い揺れにより振り切れてしまったため、その後のマグニチュードの精査ができず、津波警報等の切替えに時間を要してしまったことが挙げられます。
また後者は、マグニチュードが過小に評価された中で発表した津波警報等の「予想される津波の高さ3m」という表現や、観測結果である「第1波0.2m」などの情報が避難の遅れにつながった、との指摘が挙げられます。
これらの課題を踏まえて、気象庁では強く長い周期の揺れでも振り切れない「広帯域強震計」を全国80地点に整備しました。これにより、巨大地震の場合にも、地震発生後15分程度で、より正確なマグニチュードを算出することができるようになりました。また、伝え方の改善として、平成25年3月7日より巨大地震に対する津波警報等の運用を以下のとおり見直しました。
ア 巨大地震による津波の規模の過小評価の防止
マグニチュード8を超えるような巨大地震の場合は、発生直後に地震の規模を精度よく把握できない一方、津波警報等を直ちに発表する必要があります。そのため、巨大な地震の可能性を迅速に評価する手法を用意し、即時に決定した地震の規模が過小であると判定した場合には、その海域で発生しうる最大級の津波を想定して、大津波警報や津波警報を発表することとしました。
イ 「巨大」という言葉を使った大津波警報で、非常事態であることを伝達
巨大地震の可能性があると判定した場合は、第1報の津波警報等では、予想される津波の高さを、「巨大」、「高い」という言葉で発表して非常事態であることを伝えることとしました。
ウ 予想する津波の高さの階級の見直し
精度よくマグニチュードが求まった場合、予想される津波の高さを数値に切り替えます。より防災行動をとりやすくするため、以前は8段階で発表していた予想される津波の最大波の高さについて、想定される被害ととるべき行動を整理し、1m、3m、5m、10m、10m超の5段階で発表することとしました。
エ 高い津波が来る前は、津波の高さを「観測中」と発表
大津波警報や津波警報が発表されている時には、観測された津波の高さを見て、これが最大の高さだと誤解しないように、一定の数値を下回る高さの場合には、津波の高さを数値で表さずに、「観測中」と発表することとしました。
オ 沖合で観測された津波の情報をいち早く伝達
沖合の津波観測データを監視し、沿岸の観測よりも早く、沖合における観測値と沿岸での推定値を発表するとともに、予想より高い津波が推定されるときには、直ちに津波警報等を切替えることとしました。また、津波の実況を更に早い段階で把握するため、宮城県沖と岩手県沖の沖合に3基の海底津波計(ブイ式)を設置しました。海底津波計(ブイ式)の観測情報は、平成24年12月25日から平成28年8月31日まで津波情報に活用しました。平成28年7月28日以降は、国立研究開発法人防災科学技術研究所が日本海溝海底地震津波観測網(S-net)として設置した海底津波計の観測データを津波情報に活用しています。(令和8年10月1日現在は150地点を活用)
(2) 緊急地震速報の改善
東日本大震災では、緊急地震速報は地震発生直後に直ちに発表されましたが、マグニチュードを小さく見積もり、実際より小さな震度を予想しました。その後、停電や通信障害による観測データの途絶により、緊急地震速報の未発表が生じ、精度も低下しました。さらに本震後、各地で地震活動が活発になり、様々な地域で地震が同時発生しましたが、このような場合に緊急地震速報を適切な内容で発表できませんでした。
以上の課題を踏まえ、気象庁では、緊急地震速報の技術的な改善に取り組みました。
ア IPF法、PLUM法の導入
同時に複数発生する地震についても精度良く震源を推定することができるIPF法の導入(平成28年12月14日)や、巨大地震の際にも精度良く震度予想ができるPLUM法(周辺の揺れの観測値から震度を予想する手法)の導入(平成30年3月22日)を実施しました。
イ 電源・通信の強化と観測データの充実
気象庁では、東日本大震災直後から震度計、地震計の電源・通信機能強化に着手し、停電時でも72時間の観測が維持できるようバッテリーを強化するとともに、通信障害が生じた際に衛星回線を活用するよう通信機能の強化を実施しました。また、太平洋沿岸を中心に地震観測点を50点増設(平成27年3月活用開始)したほか、他機関の観測点の活用も進め、国立研究開発法人防災科学技術研究所が運用しているS-net、DONETや基盤強震観測網(KiK-net)のデータも活用するなど、緊急地震速報に活用する観測データの充実を図っています。このうち、S-netとDONETの観測データの活用は、海域で発生した地震に対する緊急地震速報の迅速化に寄与するものであり、日本海溝付近で発生する地震については最大で30秒程度、紀伊半島沖から室戸岬沖で発生する地震については最大10秒程度緊急地震速報を早く発表できるようになりました。
図20S-net観測データ活用による緊急地震速報の迅速化の効果
図中の値は、その時点で地震が発生した場合に、S-net(▼)のデータを活用すると緊急地震速報(警報)の発表がどの程度早まるかを計算した理論上の最大値(秒)を示します。
(3) 気象観測施設等の強化
より災害に強い観測網を構築するため、離島の江ノ島地域気象観測所(当時)と飛島地域気象観測所において広域停電に備えた非常電源の強化を実施しました。また、大雨や竜巻等突風の発生の監視・予測に非常に有効なドップラーレーダーを被災地に近い秋田に、また地盤の緩んだ被災地への防災情報提供能力の再構築のため局地的な豪雨・豪雪の監視・予測体制を強化するウィンドプロファイラを仙台及び若松に整備し、平成24年3月1日から運用を開始しました。
さらには、潮位・津波観測施設は今回の震災による観測・監視の中断を教訓とし、長期停電に対応する非常用電源の長時間化、伝送回線障害に対応する衛星回線を用いたバックアップ回線、観測装置を収納しているケース自体の強化など、施設の機能強化を含めた観測体制の強化を、また火山観測施設についても衛星回線や非常用電源によるバックアップ機能の強化を行いました。
図21秋田地方気象台へのドップラーレーダー(新レドーム)設置工事
図22仙台管区気象台に設置したウィンドプロファイラ
(4) その後の地震津波業務の変化
そのほかにも東北地方太平洋沖地震以降、気象庁の地震津波業務は、長周期地震動階級の導入(平成25年)と緊急地震速報での活用(令和5年)、津波フラッグの導入(令和2年)、北海道・三陸沖後発地震注意情報の運用開始(令和4年)など、様々な変化を経てきました。これらについては気象百五十年史(令和7年気象庁発行)に詳しい解説がありますので、ご覧ください。
4 コラム
5 参考文献
-
観測データ
気象庁,平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震. -
痕跡調査結果
東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ,東北地方太平洋沖地震津波情報. -
気象庁技術報告
気象庁,平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震調査報告,気象庁技術報告,2012,第133号第Ⅰ編. -
測候時報
支援情報検討プロジェクトチーム,東日本大震災復旧・復興対応気象支援班が行った支援情報の提供について~支援情報検討プロジェクトチーム検討報告~,測候時報,2014,第81巻. -
東北地方太平洋沖地震の震度分布
震度データベース検索 -
東日本大震災から10年~地震・津波分野における気象庁の取組~
気象庁,気象業務はいま2021,2021,トピックスⅣ‐1.