地域防災力を高めるために

定池(さだいけ) 祐季(ゆき)
東北学院大学地域総合学部 准教授

平成30年度から毎年、仙台管区気象台、宮城県、東北地方整備局、東北学院大学の4者共催による「宮城県市町村防災対応ワークショップ」(以下「WS」)にファシリテーターとして携わらせていただいています。WSでは、災害発生前から発生後までの一連の対応を模擬体験できるプログラムが盛り込まれていますが、これは全国でも例を見ないものとして、報道機関にも取り上げていただき、注目度は年々高くなってきています。

図1WSのファシリテーターをされる定池准教授

仙台市青葉区 宮城県庁
令和8年2月17日
職員

WSの中では、一つの事例に対して「クロスロード」という手法で「イエス」か「ノー」を選択するスタイルも採用しています。災害対応の中では、数多くのジレンマ(どの選択肢を選んでも何らかの不利益があり、態度を決めかねる状態)が現れるので、このジレンマや悩みを疑似体験してもらうことも、クロスロードの大きな目的になります。災害対応には「これが正解」と言えるものはなく、WSは決して正答率を競う場ではありません。そのため「イエスとノーが半々になる設問」を作成することを心がけています。イエス、ノーの境界の余白部分を参加者の想像力で補いながら、ざっくばらんな意見交換を行い、自分とは異なる意見や価値観があることに、参加者が気づくことができるような雰囲気作りを、ファシリテーターとして大切にしています。例え異なる意見があったとしても、相手を攻撃することなく尊重し、相互信頼を深めていくことにより、参加者間で「顔の見える関係」を築くことができるのではないかと思います。

図2クロスロードの様子

仙台市青葉区 宮城県庁
令和8年2月17日
職員

図3WSでは積極的な意見交換が行われます

仙台市青葉区 宮城県庁
令和8年2月17日
職員

私は北海道胆振東部地震(平成30年)発生前から、防災アドバイザーとして北海道厚真町を訪問しており、地震発生5年前の平成25年、厚真町において「真冬に震度7の直下型地震発生」を想定した2日間の図上訓練を行いました。実際に大地震が発生したのは真冬ではなく9月でしたが、厚真町の担当者が「あの時の訓練でも混乱して、現場が殺伐としたことを思い出して、腹をくくることができた」と話してくれたのが印象に残っています。災害はいつどこで、どのような規模で発生するはかわかりませんが、今後一切発生しないという選択肢は、残念ながらありません。いざという時に大切になるのは、WSでの経験や、そこで築かれた参加者同士の「顔の見える関係」であり、これらを来るべき災害対応に活かすことができれば、WSの意義がより深まるのではないかと思います。

私は防災教育を専門の一つとしています。WSも防災教育における一種のアプローチと言えますが、全国各地の市町村に赴き実践するアプローチも大切にしています。その際には、それぞれの土地の実情に応じた「きめ細かさ」を心がけています。どの土地においても、命を守ることを目的とした行動変容のために、ある程度の知識の付与や共有は必要ですが、既に災害の被害を受けた「被災地」と、被災経験を持たない人々の住む「未災地」では、アプローチも異なってきます。未災地では「来るべき災害に備えた学習」が、被災地では「心のケアと組み合わせた防災教育」が必要となります。大きな揺れを経験した地域では、余震対策の必要性がある一方で、「地震という言葉を見聞きすることが辛い」という被災者に配慮する必要もあります。心の傷はそう簡単に癒せるものではありません。実際に厚真町では、北海道胆振東部地震前は意識喚起や知識の付与を中心とした、来るべき災害に備える防災教育が展開されましたが、地震発生後は心のケアと防災教育の両輪の取組が展開されています。

「きめ細かさ」は、今後の地域防災力向上の取組においても、鍵になるのではないかと感じています。気象台においては、今年から新しい防災気象情報の運用も始まりましたが、これもその土地の実情に応じた防災対応のきめ細かさを追求する、一つのアプローチだと思います。WSでも新しい防災気象情報を取り入れたプログラムを採用しており、ファシリテーターとして日々新たな発見や気づきを得ています。情報のアップデートが加速化する中、また限られたマンパワーの中では労苦も伴うと思いますが、気象台には今後も引き続き、きめ細かい防災対応を期待します。

災害報道の現場から
~東日本台風~
3.11—その時