海洋酸性化の将来予測(日本近海)

令和8年3月5日 気象庁発表

日本近海の広い海域で表面海水中における海洋酸性化の進行が予測されており、日本近海の海域平均でのpH及びΩAは、21世紀末までに2°C上昇シナリオではpHが0.07、ΩAが0.28、4°C上昇シナリオではpHが0.32、ΩAが1.19低下すると予測されています。
    *炭酸カルシウム飽和度(ΩA):サンゴ等の石灰化生物に対する海洋酸性化の影響評価の指標。詳細については解説を参照。
表面海水中のpHの長期変化 表面海水中のOmegaAの長期変化

21世紀末までに予測される日本近海のpH(左)及びΩA(右)の低下

pHは現場水温における値を用いています。
時系列図の青系及び赤系の線は、それぞれ2°C上昇シナリオ及び4°C上昇シナリオにおける4モデルで平均した年平均値(青及び赤)、年最大値及び年最小値(水色及び橙)を示しています。また、各線に描かれている陰影は4モデルの最大最小の範囲を表しています。
地図中の数字は、20世紀末(1986-2005年平均)と21世紀末(2081-2100年平均)のpH及びΩAの差(上段:2°C上昇シナリオ、下段:4°C上昇シナリオそれぞれにおける4モデルの平均)を示しています。
ΩAの時系列中の黒破線はΩA=3及びΩA=1の値を表しています。
なお、掲載しているデータは、解析に使用しているデータの更新及びそれに伴う再計算のため、過去に遡って修正されます。

解説

日本近海の表面海水において海洋酸性化の進行が予測されています。21世紀末(2081-2100年平均)における日本近海の海域平均のpH及び炭酸カルシウム飽和度(ΩA)は、20世紀末(1986-2005年平均)と比べて、パリ協定の2°C目標が達成された場合(2°C上昇シナリオ)ではpHが0.07(0.07〜0.08)、ΩAが0.28(0.22〜0.33)低下し、追加的な温室効果ガス削減対策がほとんど取られなかった場合(4°C上昇シナリオ)ではpHが0.32(0.31〜0.33)、ΩAが1.19(1.12〜1.29)低下すると予測されています(表1;括弧内の数字は4モデルの最大・最小の範囲を示します)。また、世界平均の表面海水のpHは、2°C上昇シナリオでは0.065程度低下し、 4°C上昇シナリオでは0.31程度低下すると推定されており(IPCC, 2021)、日本近海におけるpH低下の将来予測が世界平均と同程度であることがわかります。

pH及びΩAの低下傾向は、4°C上昇シナリオでは21世紀を通じて続くのに対し、2°C上昇シナリオでは次第に低下傾向が小さくなり、2060年頃までには低下傾向が止まる予測となっています。

4°C上昇シナリオによるΩAの将来予測では、九州・沖縄周辺や日本南方では、サンゴの生育域の目安とされるΩA=3を2020年代後半から2030年代には季節的に、2060年代には年間を通じて下回ると予測されています。また、日本海や北海道周辺・日本東方海域では、炭酸カルシウムが溶解する目安であるΩA=1を21世紀末には季節的に下回ると予測されています(表2)。

pHの低下傾向と海洋酸性化

海水のpHが長期間にわたって低下する現象を「海洋酸性化」といい、主に人間活動により大気中に放出された二酸化炭素を海洋が吸収することで起きています。海水は弱アルカリ性で、そのpHはおよそ8を示しますが、吸収された二酸化炭素は炭酸として作用するため、海水のpHは少しずつ低下しています(表面海水中のpHの長期変化傾向(日本近海))。将来にわたって大気中の二酸化炭素濃度が増加し続けることで、海洋がさらに多くの二酸化炭素を吸収して海水がより酸性側に近づくことが懸念されています。また、海洋酸性化の進行により、海洋の二酸化炭素を吸収する能力の低下や、海洋生態系への負の影響を通じた海洋の社会・経済的価値の低下(IPCC, 2021; 2022)が指摘されています。

Ωの低下傾向と海洋生態系への影響

海洋酸性化でpHが低下することによって、海水の炭酸カルシウムの飽和度(Ω)も低下します。サンゴや貝類など様々な海洋生物が炭酸カルシウムの骨格や殻を作りますが、海洋酸性化の進行で海水のΩが低下することによって、それらの骨格や殻を作りにくくなるなど、海洋の生態系に大きな影響を与えることが懸念されています。また、炭酸カルシウムには、アラゴナイト(アラレ石)やカルサイト(方解石)といった結晶形があり、同じ炭酸カルシウムでもアラゴナイトの方がpHの低下によって溶解しやすいといった化学的性質を持ちます。そのため、海洋酸性化の指標としてアラゴナイトの Ω(ΩA)が多く用いられます。

Ω=1のときは炭酸カルシウムが飽和状態であることを示し、1を下回ると炭酸カルシウムは未飽和状態となり溶解します。Ωが1以上であってもΩが低下すると炭酸カルシウムを形成する生物の成長速度が低下すると言われています。現在、サンゴの生息海域はΩAが3以上の海域とほぼ一致します(Kleypas et al., 1999)。そのため、本解析ではΩA=3をサンゴの成長に影響が出始める閾値として用いています。

計算に使用しているデータセットやシナリオについて

海洋酸性化の将来予測は、日本の気候変動2025でも用いられた日本域海洋予測データに基づいています。このデータセットは気象研究所で開発された海洋モデルにより作成されたもので、モデル計算に必要となる大気からの境界条件には4つのモデルを用い、それぞれ予測計算をしています。また、ここで使用している2°C上昇シナリオ及び4°C上昇シナリオは、IPCC第5次評価報告書で用いられたRCP2.6シナリオ及びRCP8.5シナリオをそれぞれ表しています。詳細は、日本の気候変動2025の「付録A.2.2 海洋モデルによる予測」をご覧ください。

参考文献

  • 文部科学省及び気象庁 (2025), 日本の気候変動 2025—大気と陸·海洋に関する観測·予測評価報告書—(詳細編), 389pp.
  • IPCC (2021), Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change[Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S.L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M.I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J.B.R. Matthews, T.K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu, and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, 2391 pp., https://doi.org/10.1017/9781009157896.
  • IPCC (2022), Climate Change 2022: Impacts, Adaptation, and Vulnerability. Contribution of Working Group II to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [H.-O. Pörtner, D.C. Roberts, M. Tignor, E.S. Poloczanska, K. Mintenbeck, A. Alegría, M. Craig, S. Langsdorf, S. Löschke, V. Möller, A. Okem, B. Rama (eds.)]. Cambridge University Press. Cambridge University Press, Cambridge, UK and New York, NY, USA, 3056 pp., https://doi.org/10.1017/9781009325844.
  • Kleypas, J.A., J.W. McManus and L.A.B. Meñez, 1999: Environmental limits to coral reef development: Where do we draw the line? American Zoologist, 39(1), 146 – 159, https://doi.org/10.1093/icb/39.1.146.

表1  21世紀末までに予測される各海域のpH・ΩAの低下幅

pH / ΩA シナリオ名 日本近海平均 日本南方 関東沖 北海道周辺
・日本東方
日本海 九州・沖縄
pH 2℃上昇シナリオ 0.07
(0.07〜0.08)
0.07
(0.07〜0.07)
0.07
(0.07〜0.07)
0.08
(0.07〜0.09)
0.09
(0.08〜0.09)
0.07
(0.06〜0.07)
4℃上昇シナリオ 0.32
(0.31〜0.33)
0.31
(0.30〜0.31)
0.31
(0.30〜0.31)
0.33
(0.30〜0.35)
0.35
(0.33〜0.36)
0.30
(0.29〜0.30)
ΩA 2℃上昇シナリオ 0.28
(0.22〜0.33)
0.29
(0.24〜0.33)
0.29
(0.23〜0.35)
0.25
(0.17〜0.35)
0.29
(0.21〜0.32)
0.27
(0.23〜0.32)
4℃上昇シナリオ 1.19
(1.12〜1.29)
1.33
(1.27〜1.40)
1.27
(1.21〜1.35)
0.93
(0.80〜1.09)
1.07
(0.99〜1.19)
1.26
(1.20〜1.35)

上段の数字は20世紀末(1986-2005年平均)を基準とした21世紀末(2081-2100年平均)のpH・ΩAの低下幅の4モデル平均、下段の数字は4モデルの最大・最小を表しています


表2  4℃上昇シナリオの予測において、各海域で一定のΩAを下回る年

海域 季節的に初めて
ΩA<3となる年
年間を通じて
ΩA<3となる年
日本南方 2035
(2033〜2037)
2063
(2058〜2066)
九州・沖縄 2027
(2024〜2030)
2065
(2062〜2071)
海域 季節的に初めて
ΩA<1となる年
日本海 2095
(2090〜2100以降)
北海道周辺
・日本東方
2076
(2066〜2096)

数字の上段は4モデルの平均、下段は4モデルの最大・最小の年を表しています


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