1. 季節ごとの天候の変化(平年の様子)
  2. 平年と大きく違う天候の例

平年と大きく違う天候の例---北陸地方---(解説)

2011年6月下旬から7月中旬にかけての長期間の高温

※ 本コラム内で使用している平年偏差の算出に使用している平年値は、すべて1981~2010年を元に算出した平年値を使用しております。

2011年の夏の平均気温は全国的に高く、各地域でかなり高い時期がありました。 6月中旬は沖縄・奄美、6月下旬は東・西日本、7月上・中旬は北・東日本で気温が平年を大幅に上回り、 6月下旬、7月中旬、8月中旬を中心に多くの地点で猛暑日となりました。 北陸地方でも6月下旬から7月中旬にかけて3旬連続で、気温の階級が「かなり高く」なりました。

この高温の期間、「熱中症」に社会的な注目が集まりました。 2011年を中心に挟む5年間の、全国における熱中症による救急搬送人員を夏季の月別に見ます (下表の救急搬送人員は、消防庁資料より引用)。
気温と熱中症傷病者搬送人員は相関し、気温(平均気温及び日最高気温平均)が上昇すると搬送人員も増加する傾向にある、 とされています。 6月の搬送者人員に注目すると、統計開始が2010年のためデータの蓄積はまだ十分ではありませんが、 下表の中では、2011年が群を抜いて多くなっています。2011年の夏の、気温が早めに高くなったことの影響が、 この6月の搬送者数にうかがえます。

熱中症による救急搬送人員と月別平均気温平年偏差
全国における熱中症による救急搬送人員(夏季月別)

2011年夏の長期間の高温には、下の①のような出現傾向がみられましたが、 この高温の背景には②のように太平洋高気圧の日本付近への張り出し状況が関係しており、
さらにその背景には③のような熱帯の対流活動の変化による偏西風の位置の変化がありました。 ①~③について、以下に詳しく見ていきます。

長期高温をもたらす流れ

①高温の実況

高温の実況

②太平洋高気圧の張り出しの状況

太平洋高気圧は、6月下旬は東・西日本方面に、7月中旬は北・東日本方面に平年に比べ強く張り出しました (最下段の図の赤いハッチの位置に注目ください)。なお、7月上旬は、太平洋高気圧が南東海上に一時的に後退しましたが、 この高気圧の縁を回って暖かい南西風が吹き込んで、北・東日本では「かなり高い」気温となりました。

太平洋高気圧の張り出しの状況

③偏西風の流れや熱帯の対流活動の動向

日本付近での西風成分の経過
日本付近(経度120~140°Eの平均)での西風成分の経過

太平洋高気圧の動向は、上空の偏西風の流れ(亜熱帯ジェット気流)と関連があり、 その気流の動向は、熱帯の対流活動の影響を受けます。

太平洋高気圧の北縁は、亜熱帯ジェット気流の位置に概ね該当します。左図に、200hPa(上空約12,000m)の、 日本付近(経度120~140°Eの平均)での西風成分の経過(5月1日~8月31日)を見ます。

上段は、2011年の実況、中段は平年の経過、下段は2011年の平年偏差です。 亜熱帯ジェット気流は、平年の上記期間(中段) 、弱まりながら北上する傾向にあります。 2011年の平年偏差(下段)を見ると、6月下旬から7月中旬にかけて、高緯度側に平年に比べ強い箇所が、 そのすぐ低緯度側に弱い箇所があって、偏差のペアが見られます(赤と青の破線で囲んだ箇所)。 これは亜熱帯ジェット気流が平年に比べ高緯度側を流れたことを意味しており、 この時期、太平洋高気圧が北よりに強く張り出したことに対応します。2011年の経過(上段)で、 この偏りが始まった時期(6月下旬ごろ)に注目すると、 西風成分の強い部分がジャンプするように高緯度側に移動していました(黄色の破線で囲んだ箇所)。

亜熱帯ジェット気流の動向は、熱帯の対流活動にも影響されます。 対流活動の強弱は、衛星観測で得られた「外向き長波放射量(OLR)」で把握でき、 OLR の値が小さいほど、対流活動が活発であることを示します。 右図に、 OLRの平年偏差の経過を見ます。 2011年は、6月の後半と7月の前半に対流活動が顕著に活発な時期があり(赤の破線で囲った時期)、 亜熱帯ジェット気流を高緯度側に偏らせることに寄与したと見られています。

OLRの平年偏差の経過
OLRの平年偏差の経過
かなりの高温となる時の大気の流れの模式図
かなりの高温となる時の大気の流れの模式図
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