彦根地方気象台のコラム「さくらの開花予想」

開花日の標本木(2025/04/04)
開花日の標本木(2025/04/04)
満開日の標本木(2025/04/09)
満開日の標本木(2025/04/09)

ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の入場です。昨年の10月に採用され、早くも入庁して半年が経ちました。現在は主に観測・測器の業務を担当しながら、予報業務に関する知識の習得に励んでいます。

さて、今回は4月ということでさくらに関して取り上げます。気象台では、生物季節観測業務としてさくらの観測を行っています。各気象台では標本木という観測の対象となる木を決めており、その標本木で5~6輪の花が開いた状態となった最初の日をさくらの開花日、標本木で約80%以上の蕾が開いた状態となった最初の日をさくらの満開日としています。彦根地方気象台の標本木(そめいよしの)は敷地内にあり、1953年から観測を行っています。今年の彦根地方気象台では、さくら(そめいよしの)の開花を4月4日(平年より3日遅い)、満開を4月9日(平年より1日遅い)に観測し、近畿地方にある気象台の中ではさくら(そめいよしの)の開花・満開が共に最も遅い官署となりました。

さくらは前年の夏ごろに翌春咲く花のもととなる花芽を形成し、休眠状態に入ります。秋から冬にかけて低温にある一定期間さらされると、休眠状態から覚めます。このあとに春先の気温の上昇に合わせて花芽が発育し、開花に至ります。このため、さくらの開花は春先の気温と密接な関係があります。

ところで簡易的なさくらの開花予想の手法として、「600 度の法則」と「400 度の法則」という手法があるのをご存じでしょうか。「600 度の法則」は、2月1日からの日最高気温を足し合わせていって 600 度を越えた日にさくらが開花するというものです。「400 度の法則」は、2月1日からの日平均気温を足し合わせていって 400 度を越えた日にさくらが開花するというものです。

実際に過去3年間の彦根で計算してみました。一昨年は開花日が3月23日で、「600 度の法則」と「400 度の法則」で求まった開花日がそれぞれ3月24日、3月26日でした。昨年は開花日が4月2日で、「600 度の法則」と「400 度の法則」で求まった開花日が共に3月30日でした。そして今年は開花日が4月4日で、「600 度の法則」と「400 度の法則」で求まった開花日がそれぞれ4月2日、4月6日でした。調べた範囲内ではありますが、実際の開花と3日以内の誤差に収まっており、この簡易的な計算がおおよそ合っていることが分かります。誰でも簡単に予想できますので、興味があればぜひやってみて下さい。ただし、これらの法則は開花直前に強い寒気に見舞われる等の影響で大きくずれることがありますので、あくまで一つの目安と思って頂ければと思います。


※なお気象庁は2009年まで開花予想を行っていましたが、現在は行っていません。


令和7年4月

彦根地方気象台

入場


彦根地方気象台のコラム(過去分)

おおむね1年分を掲載予定です。

    • 令和7年3月「扇状地という地形について」
        百瀬川扇状地(地理院地図より作成)
        百瀬川扇状地(地理院地図より作成)
        百瀬川扇状地の範囲(赤枠線)(地図は地理院地図より引用)
        百瀬川扇状地の範囲(赤枠線)(地図は地理院地図より引用)

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の上田です。昨年4月に雄大な琵琶湖を望むこの彦根地方気象台に着任し、早いもので1年間お世話になっています。私の業務は主に観測・測器に関する仕事で、データの品質管理や予報官の補助などを行っています。

        私は、学生の頃に「扇状地」と呼ばれる地形について研究を行っていたことがあります。扇状地は、洪水など土砂災害が何度も繰り返されることで成り立った地形です。学術的には、“山地の集水域から発する河川によってもたらされた礫や砂などの岩屑が山麓部に半円錐形状に堆積することでできた地形”として定義される地形を言い、滋賀県にも大規模なものが10~20個程度存在しています。

        高島市にある百瀬川扇状地を例にしました。社会科で習うような知識がこの図の中にもいくつか含まれており、扇端と呼ばれる扇状地の末端付近には県道335号線が走り、集落が立地しており、大昔は、伏流してきた川の水の湧水地であったことがわかります。国道303号線が通るあたりは扇状地の中央付近ということで、扇央という部分になります。この辺りには地図を見ると果樹園が立地しているのも見て取れ、これは水はけのよい地形であることも表します。最後に川の山地の出口付近を扇頂といいます。そして、百瀬川は中流域まで天井川となっており、扇状地の特徴をよくつかめる良い例だと思います。

        最近では治水技術が大幅に向上し、河川の洪水なども少なくなってきました。それでもなお、想定を超えるような水害が発生しないとは言い切れません。扇状地の大きさは、ひとたび洪水が起これば大きな被害が出るよと自然が示している指標でもあります。普段から水害に対する意識も働かせたいものです。


        令和7年3月

        彦根地方気象台

        上田


    • 令和7年2月「「リスクコミュニケーション」ご存じですか?」
        photo2025_1
        photo202502_2

        彦根地方気象台 リスクコミュニケーション推進官 小野 善史です。

        気象台にリスクコミュニケーションを推進する専門職が令和6年4月から配置されています。

        ところで、「リスクマネージメント」や「リスクコミュニケーション」と呼ばれる取組はご存じでしょうか?今回のコラムでは、これらについて簡単に説明し効果についての意見を述べたいと思います。

        自然災害に対する対応でこれらをあてはめて整理すると、「リスクマネージメント」とは、様々な危機や危険性、脆弱性を事前に洗い出しそれらを適切に管理、把握することです。近年では、気候変動による影響も加わり極端な大雨・大雪・高温などの現象が増加しており、更に、毎年ように日本のどこかで大きな地震による被害なども発生しています。これらのリスクに効果的に対応するためには、「リスクマネージメント」を適切に実施、それらへの対応方法を考慮し対応準備をしておくことが重要となります。

        そのため、「リスクコミュニケーション」とよばれる、社会や身の回りにあるリスクに関する正確な情報を、行政、専門家、企業、住民などで共有、相互に意思疎通を図り、それらに対応するための合意形成を図っておくことが、効果的な災害対策につながります。

        自助・共助・公助に加え社会全体での連携・協同行うことにより、効果的な災害対応となると考えます。そのたには、「リスクマネージメント」と「リスクコミュニケーション」を組み合わせることがとても重要だと考えています。

        このような取組を皆さんと一緒に推進していくのが、気象台のリスクコミュニケーション推進官の重要な役割だと考えています。

        皆さんがお住まいの地域や自宅等での安全安心を得るためには、ある程度のコストや手間、労力が必要となります。それらのひと手間、ふた手間があなたや家族、友人、地域などを守ることに必ず繋がります。まずは、自宅周辺のリスクを把握し、対応準備を始めてみましょう。そして、積極的に地域の自治会や防災減災の活動、災害ボランティアなどを通じて、社会とのリスクコミュニケーションを進めて行きましょう。


        令和7年2月

        彦根地方気象台

        小野


    • 令和7年1月「雪の結晶」
        雪の結晶イメージ
        画像① 「雪の結晶」のイメージ図
        小林ダイアグラム
        画像② 雪結晶の種類と気温,氷飽和を超える水蒸気量との関係(小林ダイヤグラム:Kobayashi, 1961を改変).荒木(2018)「世界でいちばん素敵な雲の教室」より.

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。今年も引き続き「気象台コラム」をよろしくお願いします。彦根地方気象台の白木です。昨年4月に新卒採用され、早くも9か月が経つことに驚きを隠せません。観測データ・観測測器に関する業務などを行い、先輩方にたくさんのことを教えてもらいながら予報・観測技術の習得に励んでいます。

        昨年、一昨年と2年にわたって、1月のコラムでは「湖北の冬の風物詩」として「山本山のおばあちゃん」ことオオワシに関するコラムが掲載されました。今年は、テーマを変えて昨年12月に続き「雪」についてご紹介したいと思います。


        みなさんは、「雪の結晶」といえばどのような形を思い浮かべますか?

        画像①のように複雑に枝分かれした結晶を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。実は、2012年に発表された研究※1によると、雪の結晶は細かく分けると121もの種類に分類できるそうです。同じ雪といえども降る日が違えば、全く違う結晶なんてことがあり得るのです。では、なぜこんなにも違いができるのでしょうか?

        雪の結晶の形を決めるのは、雲の中の温度と水蒸気の量です。温度によって、角板状になるか角柱状になるかが決まり、水蒸気の量で結晶の複雑さが決まります。水蒸気の量が多ければ多いほど、複雑な形になるのです。このことをグラフにすると画像②のようになります。つまり、画像①は雲の中の温度が-10℃~-20℃くらいで水蒸気の量が多い時にできる樹枝状の結晶ということなのです。

        たくさんの種類がある雪の結晶ですが、肉眼で見るには小さすぎます。最近では、100円ショップにもスマートフォン用のマクロレンズが売っているということで、それを用いて観察に挑んでみました。しかし、タイミングや方法を間違えていたようで観察できませんでした。次の機会に再挑戦したいと思います。


        雪が降ると大変なことが多いですが、見方を変えて「雪の結晶」に注目してみると、新たな発見・楽しみがあるかもしれませんよ。観察する際は暖かくして安全には十分にご注意くださいね。私も雪とはあまり馴染みのない地域に住んでいたので、雪国で過ごす初めての冬に不安がいっぱいですが、初めてを楽しみつつ元気に過ごしたいです。


        ※1 菊地勝弘,亀田貴雄,樋口敬二,山下晃,雪結晶の新しい分類表を作る会メンバー(2012年)「中緯度と極域での観測に基づいた新しい雪結晶の分類 -グルーバル分類-」『雪氷』74巻(第3号)、223-241


        令和7年1月

        彦根地方気象台

        白木


    • 令和6年12月「初冠雪について」
        比良山 伊吹山
        比良山(2024年11月19日) 伊吹山(2024年12月1日)

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の西村です。各種注意報・警報等基準の評価や見直しを担当しています。

        12月に入り、気温も下がって冬らしくなってきました。彦根地方気象台では、冬季の季節現象として、「初冠雪」、「初氷」、「初霜」、「初雪」を観測しています。今回はその中から、「初冠雪」についてお話しします。

        冠雪とは、雪やあられなどが山頂付近に積もり、白く見えることをいい、寒候年(前年8月から当年7月まで)に、付近の気象台から初めて冠雪が確認できたときを、その山の初冠雪といいます。彦根地方気象台では、伊吹山と比良山(比良山系)の初冠雪を観測しています。現在、近畿地方で初冠雪を観測している官署は彦根地方気象台のみとなっています。

        初冠雪の観測は、気象台の屋上から職員が目視で行いますが、気象台から伊吹山までは約20km、比良山までは約30kmと距離があるため、山頂付近が雲に隠れて見えないこともよくあります。そういった場合は、繰り返し観測を行い、雲の切れ間から山頂が見えるのを待ちます。昨年に比良山の初冠雪を観測した際は、山頂付近に朝から雲がかかっていたため、お昼頃まで繰り返し観測を行いました。

        初冠雪を観測した場合は、彦根地方気象台ホームページの新着情報季節現象(初冠雪・初霜・初氷・初雪)のページを更新するほか、TVのニュース番組でも取り上げられることがあります。また、今年の3月から始めた彦根地方気象台の「X(旧Twitter)」にも投稿しています。

        今年は11月19日に比良山、12月1日に伊吹山の初冠雪を観測しました。来年は、気象台の観測する季節現象からも、冬の訪れを感じてみてください。


        令和6年12月

        彦根地方気象台

        西村


    • 令和6年11月「注意報や警報の基準値について」

        ホームページをご覧のみなさま。彦根地方気象台の黒田です。今年4月にこちらに着任しました。私は主に、大雨(浸水害)と洪水の注意報・警報の基準値の見直し作業を担当しています。市町ごとの注意報・警報の基準値は気象庁ホームページにも掲載されています(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kijun/shiga.html)。ちょっと見つけづらいかもしれませんが、気象庁ホームページの検索窓で「市町名 警報基準」などと入力すると、見つけられると思います。

        気象庁HPヘッダ

        この注意報・警報の基準値は常に見直されています。大雨(浸水害)と洪水については、ほぼ毎年見直しを行っています。基準値は過去に発生した浸水などの被害をもとに設定します。ただ、堤防の整備や排水設備の拡充によって、以前と同じような雨の降り方でも被害が発生しなくなっている場所もあります。そのため、基準値の見直しが必要になるわけです。

        基準値といえば、河川に量水標という水位を測る物差しのようなものがあります。この量水標をよく見ると、避難判断水位や氾濫危険水位といった言葉が書かれていたり、赤や黄で色分けされていたりするものがあります。これらは警戒レベルを表していて、河川や観測所によって基準値が異なります。河川の中には数時間先までの水位を予測している「洪水予報指定河川」というものがあります。気象台では、洪水予報指定河川で、水位が基準値を超えるか、超えると予想される場合に指定河川洪水予報という情報を、都道府県や国土交通省と共同で発表しています。指定河川洪水予報には水位に応じて、氾濫注意情報や氾濫危険情報などといった種類があります。滋賀県では姉川、高時川、日野川、杣川、野洲川、瀬田川、琵琶湖が洪水予報指定河川となっています。このうち、姉川、高時川、日野川、杣川、野洲川上流、琵琶湖は滋賀県が、野洲川下流と瀬田川は国土交通省が管理しています。

        防災気象情報ハンドブック抜粋

        世の中には、気象庁以外が発表している「〇〇警報」や「〇〇注意報」があります。これからの季節はインフルエンザの流行レベルをニュースなどで見かけることが多くなるでしょう。これらの警報や注意報についてもどんな基準で発表されているか、調べてみると面白いかもしれません。


        令和6年11月

        彦根地方気象台

        黒田


    • 令和6年10月「大気光象」
        ハロ 薄明光線
        ハロ(気象庁提供) 薄明光線

        ホームページをご覧のみなさん、こんにちは。彦根地方気象台の中西といいます。今年の4月に新卒で採用され、観測・測器に関する業務や現業作業の補助などをしながら、予報や観測技術の習得に取り組んでいます。

        採用されて以来、その一つとして行っているのが屋上での雲の観測で、ときには大気光象に出会うこともあります。大気光象とは、太陽や月の光が、大気中の水滴や氷晶などに当たって、反射したり曲げられたりすることで見られる現象のことをいいます。虹もその一つで、他には彩雲、ハロ(暈ともいいます)、幻日、グリーンフラッシュなどがあります。現象が生じる原理が分かると、その現象に出会いやすくなります。みなさんにも、空を見ることを楽しんでもらいたいと思い、そのいくつかをご紹介させていただきます。今回取り上げるのは、特に私自身出会うことが増えたハロと、個人的に好きな現象である薄明光線です。

        ハロは、太陽を中心としてできる虹色の光の輪のことをいい、太陽の光が氷晶に当たって屈折されることで生じます。光が屈折されて出てくる角度は約22度となる場合が多く、よく太陽から約22度離れたところに光の輪が見られます。また、虹色に見えるのは、太陽の光が当たるのが球形の水滴ではなく、プリズムの役目を果たす平たい六角柱の形をした氷晶であるためです。そのため、氷晶を含んだ薄い雲である巻層雲が広がっているときはハロに出会いやすく、ハロが出ているかどうかは、中層に広がる高層雲かそれよりも高いところにできる巻層雲かを見分ける判断要素の一つとして用いられます。

        薄明光線は、太陽が雲に隠れているとき、その光が雲の隙間や端から漏れて放射状に広がって見える現象です。太陽の光の帯が地上まで延びているように見えることから、旧約聖書にある話に由来して「天使の梯子」、「ヤコブの梯子」という名称でも知られています。この現象は、太陽の光が大気中に浮遊している微粒子によってミー散乱※1されることで生じます。とくに層積雲や高積雲が広がっており、雲に切れ目があるときは出会いやすいタイミングです。

        この他にも、身の回りで生じる大気光象がたくさんありますので、ぜひ探してみてください。

        ※1 電磁波の波長と粒子の大きさが同程度のときに生じる散乱。雲が白く見えるのは、この散乱のため。


        令和6年10月

        彦根地方気象台

        中西


    • 令和6年9月「台風」
        台風月別経路 2018年台風第12号経路
        台風の月別の主な経路

        (実線は主な経路、破線はそれに準ずる経路)

        2018年 台風第12号経路図

        ホームページをご覧のみなさん、こんにちは。彦根地方気象台の地域防災官です。

        今回は「台風」についてのお話です。

        気象庁では、北西太平洋または南シナ海の赤道より北で東経100~180度の領域に存在する「熱帯低気圧」のうち、最大風速がおよそ17m/s以上のものを「台風」と呼び、諸元(位置、最大風速、中心気圧、暴風域半径、強風域半径等)の決定や予報を行っています。

        気候変動が進行し、気温の上昇や大雨の頻度が増加するなどの変化傾向はみられますが、台風に関しては、発生数・日本への接近数・上陸数や強度について長期的な変化傾向は見られません(日本の気候変動2020)。しかし、ここ10年間(2014~2023年)の台風をみてみると、初めての現象があったり、いくつかの記録が更新されたりしています。

        台風のシーズンと言えば、日本の場合は7月~10月のイメージがあり、発生数の平年値をみると8月が一番多く、次いで9月に多く発生しています。しかし、台風は年間を通じて発生する可能性があり、2019年第1号は1月1日15時に発生しており、1951年(昭和26年)の統計開始以降最も早く、初めて元日に発生した台風でした。ちなみに、最も遅く発生したのは2000年第23号の12月30日09時です。

        台風の上陸数をみると、2016年は6個で2004年の10個に次いで2番目に多く、この年の8月は4個上陸しており、ひと月の上陸数としては最多タイの記録でした。一方で、2020年の上陸数は0個で、これは統計開始以降わずか5回の記録です。

        台風の強さでみると、2018年は一番上の階級にあたる「猛烈な」台風(最大風速54m/s以上)まで発達したものが7個あり、台風の最大風速のデータがある1977年以降最多を記録しました。

        台風の大きさでみると、2017年第21号は一番上の階級にあたる「超大型」(風速15 m/s以上の半径800km以上)で日本に初めて上陸した台風でした。

        統計開始以降、台風の上陸が最も多い県は鹿児島県で、次いで高知県、和歌山県と西日本太平洋側が多いですが、2016年第10号は岩手県に上陸し、東北地方太平洋側に初めて上陸した台風でした。その後の2021年第8号は初めて宮城県に上陸した台風となりました。また、九州なので少し意外な感じもしますが、2021年第14号は初めて福岡県に上陸した台風でした。

        台風の月別の主な経路は、図に示したように南シナ海へ向かうか、放物線を描くように日本付近を通るのが一般的ですが、2018年第12号は三重県に上陸した後、西日本を東から西に横断した初めての台風でした。ちなみにこの台風は、九州の南海上で一旦熱帯低気圧に変わり、その12時間後には再び台風にまで発達しており、復活した台風は初めに付けた台風番号を使用します。

        このように、日本への接近数・上陸数や強度などの長期的な変化傾向はみられないものの、近年は意外な経路や、記録が更新されたりしています。

        9月以降、これからの季節、台風は南海上から放物線を描くように日本付近を通るようになります。気象庁ホームページに「日本に大きな被害を与えた台風」(昭和に死者・行方不明者数が1,000人を超えたものと、平成になってから死者・行方不明者数が40人を超えたもの:14例)を掲載していますが、その全てが9月~10月の台風です。この頃は、台風が離れていても日本列島付近にある秋雨前線の活動を活発にして大雨を降らせることもあります。気象台から発信する情報をご活用いただき、防災対応の準備を早めに始め、自身の生命や財産を守る行動をお願いいたします。


        令和6年9月

        彦根地方気象台

        地域防災官


    • 令和6年8月「気象庁マスコットキャラクターはれるん」
        20周年はれるん はれるん

        ホームページをご覧のみなさん、こんにちは。彦根地方気象台の片岡彩です。

        みなさんは気象庁のマスコットキャラクター「はれるん」をご存じでしょうか?「太陽」、「雲」、「雨」をモチーフとして、「地球」をイメージすることのできるキャラクターです。気象庁のホームページやイベントなどに登場するはれるん。誕生して今年で20周年です。私自身、はれるんのことは可愛いと思っているのですが、もう20周年なのに知名度は低い印象なので、少し宣伝させてもらおうと取り上げました。ちなみに彦根市の人気キャラクター、ひこにゃんは誕生から18年なので、はれるんの方が年上ですね。

        さて、はれるん20周年を記念して気象庁ホームページ内には、はれるんの特設ページを設けたり、はれるんが期間限定でインスタグラムを開設して全国色々な場所で撮影した写真を投稿しています。よかったら覗いてみてくださいね。

        今年のはれるん20周年に加えて来年は、気象庁の前身である東京気象台が観測業務を開始して150周年になります。これを記念して「みんなに見せて伝える!防災展示アイデアコンクール」が現在開催中です。これは小・中学生を対象に「自然災害の仕組みや命を守る方法」、「気象庁が行っている観測・予報の仕組み」を他の人に伝えるための展示や工作物のアイデアを募集しているものです。私自身、夏休みの自由研究や工作物は大の苦手だったので、このコンクールは難易度が高い印象ですが、気象庁の業務や防災などについて知ってもらうきっかけになれば嬉しいですし、どんなアイデアが集まるのか楽しみにしています。

        はれるんの話に戻りますが、はれるんは普段緑のタクトを持っています。この緑のタクトで災害の無い地球をつくるため毎日願いをかけています。はれるんが誕生した20年前には新潟県中越地震が発生しています。また、先日8月8日に発生した日向灘を震源とする地震に伴って、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表されました。このような機会に備えなどを改めて確認したいものです。


        令和6年8月

        彦根地方気象台

        片岡 彩


    • 令和6年7月「アメダスの設置環境」
        アメダス柳ヶ瀬 アメダス南小松
        アメダス柳ケ瀬(左:かさ上げした雨量計 右:積雪計) アメダス南小松(通常より高くした測風塔と風向風速計)

        ホームページをご覧のみなさま、こんにちは。彦根地方気象台の西田重晴です。今年4月に着任して早4月が経ちました。私は主にアメダスのデータ品質管理や保守点検を担当しています。アメダスは全国に約1300ヶ所(約17km間隔)設置されており、天気予報の基礎となる、雨量や気温、風などを観測しています。滋賀県には12ヶ所あります。本日のコラムはこのアメダスの設置場所に関するお話をしたいと思います。

        アメダスは観測地点周辺の地域を代表する場所に設置されています。例えば長浜市余呉町にあるアメダス柳ケ瀬は近畿地方で唯一の特別豪雪地帯に指定されている地域に設置しています。湖西にあるアメダス南小松は北小松から和邇(わに)川にかけての比良山系で発生する局地風(比良おろし)の地域に設置しています。気象観測をより良いものにするためには、精度の高い測器を導入するだけではなく、適切な観測環境に設置することも大切となってきます。周囲の地形、建物、樹木等の影響をできるだけ避けるようにし、風通しや日当たりが良く、観測測器の周りは芝生で覆います(天然芝の代わりに人工芝や防草シートを使っている観測点もあります)。さらに雨量計は浸水しそうな場所や道路脇などの水しぶきがかかるような場所を避けること、寒冷地では積雪によって雪で埋もれないように雨量計全体をかさ上げしています。温度計はビニールハウスや温室等の人工的な熱源から影響を受けないように十分離れていることが必要です。また、外部からの立ち入りによる不慮の事故や測器の障害を防ぐため、自然の風を妨げないことを考慮した柵を設置しています。

        上記の最も適した場所に設置しますが、長期期間観測をしていると観測に適さなくなる場所もでてきます。その場合は観測所の移設を行うことになりますが、観測値を気候調査等で用いるため、気候的に統計を接続できるかどうか判断することが必要となります。以下の条件に当てはまると統計が切断されます。

        ① 観測場所が水平距離で概ね5km以上、または海面上の高さで概ね50m以上変わった場合

        ② 観測場所の変更により、周辺の観測環境が著しく変化し、統計値の均質性に影響があると判断された場合

        移設先は防災上必要な観測値を得ることを優先して選定しますが、できる限り統計値も継続できる場所を探します。

        アメダスは野外の風雨や日射にさらされるという厳しい環境の下で、長期間にわたって連続的に観測データを収集しています。日々得られる観測データから測器に異常がないか日頃から確認しているほかに、年1回の定期保守点検により観測データの品質維持に努めています。


        令和6年7月

        彦根地方気象台

        西田 重晴


    • 令和6年6月「土砂災害について」
        景色
        伊吹山山頂より3合目を望む景色

        ホームページをご覧のみなさん。こんにちは。彦根地方気象台の内藤健治といいます。私は主に土砂災害に係る業務を担当しています。昨年1月には山本山のオオワシについて話をしましたが、今回は土砂災害についてお話ししたいと思います。

        土砂災害は、建物に壊滅的な被害をもたらし一瞬のうちに尊い人命を奪ってしまう恐ろしい災害です。気象庁では大雨による土砂災害が発生するおそれがあると予想したときに注意報を、重大な土砂災害が発生するおそれがあると予想したときに警報を、さらに警報の発表後、命に危険を及ぼす土砂災害がいつ発生してもおかしくない状況となったときに、土砂災害警戒情報を発表しています。

        注意報の発表基準は、崖崩れ、山崩れ、路肩の崩壊などすべての土砂災害を捕捉するように設定しています。昨年、滋賀県内で発生した土砂災害のほとんどは、注意報の基準(土壌雨量指数※)以上で発生していましたが、基準未満で発生した土砂災害が1例だけありました。

        その1例は、昨年7月12日に伊吹山で発生した土石流です。土石流が発生した時、周辺の雨量は1時間で25ミリ前後と一時的に強い雨となりましたが、土壌雨量指数は注意報基準の半分にも達していませんでした。この土石流は短時間に降った強い雨が直接の要因と考えられますが、それだけではなく、鹿による植生の衰退や裸地化が地盤を崩れやすくさせているという話があります。

        私は1980年代から90年代の前半にかけて伊吹山測候所で勤務していたことがあり、ドライブウェイが閉鎖している11月から4月は測候所まで歩いて登っていました。当時5合目から上では登山道の両脇に自分よりも背の高い植物が生い茂っており、その間をすり抜けて登る感じでしたが、現在は山肌があらわになっています。また当時は登山道や山頂付近で鹿を見たことはありませんでしたが、現在は9合目の駐車場付近でも見かけることがあり、山頂には鹿の糞がいたるところに散在するなど、すっかり様変わりしてしまいました。

        話が少し脱線しましたが、先に述べたように土砂災害のほとんどは、注意報基準以上で発生しています。このことから注意報が発表されたときには、「注意報だからまだ大丈夫」とは思わないで、周囲の状況や雨の降り方に留意し、避難行動の確認などをしていただきたいと思います。そして土砂災害警戒情報が発表された場合には、土砂災害に脆弱な場所にお住まいの方は、自治体からの避難指示の発令に留意していただくとともに、危険を感じたら躊躇することなく自主避難を検討していただきたいと思います。全国的に見ると土砂災害における人的被害の約6割が死者や行方不明者となっています。洪水害の危険度の高まりは、河川が増水する状況は水位により確認できますが、土砂災害の危険度の高まりは目に見えず、いつ、どこで発生するかわかりません。このため、気象庁では土砂災害の危険度の高まりを確認できる「土砂キキクル」をHPに掲載しています。大雨の際には「土砂キキクル」を有効に活用し、災害に備えていただければと思います。

        ※土壌雨量指数 降った雨が土壌にどれだけ貯まっているかを雨量データから、「タンクモデル」という手法を用いて指数化したもの


        令和6年6月

        彦根地方気象台

        内藤 健治



    • 令和6年5月「天気図の歴史と気象通報(ラジオ天気図)」
        ラジオ天気図
        私が高校生の時に描いたラジオ天気図(昭和59年12月2日18時)

        ホームページをご覧の皆さま、こんにちは。彦根地方気象台長の野村武司です。

        4月に着任後、滋賀県内の全市町の首長さまとの懇談や各種減災に関する協議会等への出席などであっという間に時間が過ぎています。

        さて、今回は地上天気図(以下、天気図)についてのお話です。

        皆さまは、天気予報をテレビやインターネット、ラジオで視聴されると思いますが、その際に気象予報士やアナウンサーの方が天気図に描かれた高気圧や低気圧などを指しながら「今日は高気圧に広く覆われて全般に晴れるでしょう」、「明日は低気圧が近づくため次第に雨となるでしょう」といった具合で解説されています。

        天気図は、現在の天気状況を把握することのほかに、高気圧や低気圧などの動きから今後の天気の推移、等圧線から風の流れ、前線から天気の急変を把握することができるため、広く利用されており、天気予報の解説には欠かせないものとなっていることから、とても身近に感じる方が多いのではないでしょうか。

        天気図の歴史は古く 1820 年、ドイツのブランデスがヨーロッパ各地の観測データを収集して天気図を作成し、悪天は移動する低気圧と密接に関係することを示しました。諸説はあるものの、これが天気図の始まりといわれています。

        日本では、1883年(明治16年)3月1日に業務として最初の天気図が作られましたが、遡ること同年2月16日午前6時の観測値に基づき、ドイツ人のクニッピング(エルヴィン・クニッピング)が日本で初めて天気図を作成していることから、2月16日を「天気図記念日」とされています。

        1884年(明治17年)6月1日から1日3回(午前6時、午後2時、午後9時)の天気図作成とそれに基づく天気予報の発表が開始されました。1924年(大正13年)8月21日には、國民新聞が日本新聞史上初めて天気図を掲載し、翌年3月22日からはNHKラジオで天気予報の放送が開始されました。


        1927年(昭和2年)4月には、漁業気象のラジオ放送が開始され、翌年11月5日から気象番組の「気象通報」が始まりました。

        「石垣島では、北北東の風 風力3 曇り 気圧1020ミリバール(ヘクトパスカル) 気温20度、那覇では、・・・」のくだりで始まり、観測地点のみ書かれた白紙の天気図に観測値を記入(プロット)し、同時に放送される高気圧や低気圧の位置、代表する等圧線(地上気圧の等値線)が通る位置をプロットし、滑らかに等圧線を引いて天気図を完成させます。このラジオの気象通報により作成する天気図を通称「ラジオ天気図」といい、船舶、山岳関係者をはじめ気象愛好者の方々が、毎日聴取して天気図を描画していました。私も気象愛好者の一人で、中・高校生の時に毎日欠かさず天気図を描いていました。この時はまさか自分が気象庁で天気図を描き、同時にラジオ天気図の原稿を作成するなど夢にも思っていませんでした。図は私が高校生の時に描いた天気図ですが、今も等圧線の描き方(画風)はこの頃と変わっていないような気がします。

        現在もNHKラジオ第2で「気象通報」が放送されていますが、平成26年3月31日からは、それまで1日3回(9時、16時、22時)の放送が16時(12時の観測値を使った気象通報)の1回となっています。インターネットの普及もあり、天気図の入手が容易になったことでリスナーの減少が主な原因とされています。

        これからは大雨の季節となります。天気図に描かれている低気圧や前線、台風の動きと共に気象台が発表する警報、注意報、気象情報に留意いただき、危険と判断された場合は、お住いの地域の自治体の指示に従って、早め早めの避難を心掛けていただくようお願いします。


        令和6年 5月

        彦根地方気象台

        野村 武司



    • 令和6年4月「山の天気とゴールデンウィーク」

        彦根地方気象台ホームページをご覧のみなさん、こんにちは、彦根地方気象台の鳩岡正喜といいます。私は地域防災に係る業務を担当しています。昨年4月から初めて彦根で勤務し、早いもので1年が経ってしまいました。

        私は若いころ、登山(といってもクライミングや競技登山ではなく、ただの山歩きで、後の温泉とビールを楽しむ程度ですが・・・)が趣味で、一時は地元の山岳会で活動すると同時に、深田久弥の「日本百名山」の登頂を目指しましたが、時間、資金、体力、経験等々の関係で、結局登頂できたのは30数個と半分にも満たない数しかできませんでした。自分でも天気図が読めて、山小屋等で登山客に「天気」の解説ができるようになりたいと考えたことが、気象庁での勤務を志望した理由の一つでもあります。

        登山を楽しむ者にとっては、「山の天気」は、とても気になる要素だと思われます。

        そこで山の天気の特徴を簡単にお話したいと思います。

        一般的に平地と比べて

        〇「山の天気は変わりやすい」 ⇒ 一日の中でも刻々と変わりやすい。雨になることが多い山では、上昇気流(悪天の原因)と下降気流(好天の原因)が発生しやすく、風向きによって天気は大きく変化しやすい。

        〇「気温が低い」 ⇒ 標高が100m上がるたびに、温度は約0.6℃ずつ低くなる。

        伊吹山は標高が1377mであり、麓と頂上の標高差をおおよそ1200mとすると、1200m×(0.6℃÷100m)=7.2℃となり、気温は麓と比べて7℃位下がります。加えて風の影響があり、風速が1m増すごとに1℃ずつ体感温度が下がります。

        以上の事は、登山をする者にとっては誰でも実感することだと思います。

        間もなく待ちに待ったゴールデンウィークがやってきます。長期の休みを利用して登山を楽しまれる方も多いと思います。ゴールデンウィークは毎年決まった時期にやってきますが、この期間の天気は毎年同じというわけにはいきません。年によっては、好天に恵まれることもあれば、雨や嵐になり、折角の長期休暇が台無しになるという事も珍しくはありません。 また、4月後半から5月にかけては、年によっては、温帯低気圧の急速な発達により、台風並みの暴風が吹き荒れることがある「メイストーム(May storm)」別名(春の嵐)とよばれる現象が発生し、山や海が大荒れになったり、局地的に非常に激しい雨が降ったりし、落雷や降雹が起きることもあります。

        天気図

        右図に、「メイストーム」と「台風」の天気図を示します。メイストームと台風の違いですが、台風の場合は、中心が近づくと急激に風が強まりますが、メイストームの場合は低気圧の中心から離れたところでも強風となることです。

        山で怖いのは、ケガや低体温症等の体調の乱れ、気象的要因(強(暴)風、大雨、雷、濃霧、降雪・積雪(なだれ))によって事故につながり、命を失いかねない事態となるおそれがあります。

        これらを防ぐのは、体調管理や登山技術を磨くことは勿論ですが、地元気象台が発表する天気予報(週間天気予報も含む)や各種警報・注意報などの防災気象情報の最新版をラジオやインターネット等により頻繁に入手・チェックすることです。無理のない計画を立て、安全第一で登山に行くようお願いします。

        出典:台風並みの暴風となる「春の嵐」「メイストーム」 気象情報や警報・注意報に注意して安全対策を(政府広報オンライン)


        令和6年 4月

        彦根地方気象台

        鳩岡 正喜