全天日射量と下向き赤外放射量の経年変化

令和7年3月28日更新(年1回更新)

診断:全天日射量の経年変化

世界的な経年変化

 IPCC(2021)によると、世界における全天日射(直達日射及び散乱日射の和)量は、1950年代から1980年代にかけて広い範囲で減少し、その後多くの観測地点で部分的な増加が見られます。 これらの変化傾向は局所的な現象や測定上の欠陥から生じたものではないと考えられています。 全天日射量の長期変化の主要な原因として、人為起源エーロゾル排出量の数十年規模の変動による影響が考えられています。 雲量の数十年規模の変動の寄与も指摘されていますが、エーロゾルと雲の寄与の程度については議論が続いています。

日本における経年変化

 日本における全天日射量の変化傾向は、世界的な傾向とおおむね整合しており、気象庁の観測地点における変化傾向(国内4地点平均)によると、1970年代後半から1980年代後半にかけて減少し、1990年頃から2000年代初めにかけて増加し、その後は大きな変化は見られません。 Hayasaka(2016)においても、日本国内数十地点のデータを用いた複数のデータセットに基づき、国内の全天日射量に1970年代から1980年代にかけて小さな年々変動が見られた後、1990年頃から増加し始めたことが報告されています。
 日本の全天日射量の1990年頃から2000年代初めにかけての増加の原因について、その3分の2が人為起源エーロゾルの減少によるもので、残りの3分の1が雲量の減少によるものと評価されています(Norris and Wild, 2009)。また、日本における全天日射量の増加には、大気中に含まれる人為起源エーロゾル総量の減少だけでなく、光吸収性の強い黒色炭素等の割合の減少などによる平均的な光学的特性の変化も影響を及ぼしていることが解析により示されています(Kudo et al., 2012)。

全天日射量の経年変化

全天日射量の経年変化

国内4地点(網走、つくば、石垣島及び南鳥島)の全天日射量の年平均値と、4地点で平均した全天日射量の年平均値(黒線)及び5年移動平均値(赤線)。
年平均値は、日合計値の観測日数が20日以上である月の月平均値の平均を示します。2010年3月(網走は2021年2月、つくばは1987年12月)以前は全天日射計による全天日射量を使用し、2010年4月(網走は2021年3月、つくばは1988年1月)以後は直達日射計と散乱日射計から算出した全天日射量を使用しています。


診断:下向き赤外放射量の経年変化

世界的な経年変化

 温室効果ガスの増加に伴う長期的な変化傾向は、地上気温の上昇よりも下向き赤外放射量の増加に明瞭に表れるため、下向き赤外放射量は地球温暖化の検出に有効な観測要素です。 IPCC(2021)とWild(2016)によれば、基準地上放射観測網(BSRN: Baseline Surface Radiation Network)の25観測地点の解析結果に基づく下向き赤外放射量は1990年代初頭から10年当たり2W/m2の割合で増加しており、このことは、気候モデルを用いた数値実験において、温室効果ガスの増加に伴い下向き赤外放射量が同じく1990年代初頭から10年当たり約2W/m2増加するという結果と一致することが示されています。

日本における経年変化

 日本のつくばにおける観測の解析結果によると、1993~2024年において、1年当たり約0.3W/m2の割合で下向き赤外放射量が増加しており(信頼水準99%で統計的に有意)、前述の世界の変化傾向と同じく増加しています。

下向き赤外放射量の経年変化

下向き赤外放射量の経年変化

つくばにおける下向き赤外放射量の年平均値(黒線)及び5年移動平均値(赤線)。


参考文献


関連情報


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