震度と加速度

 地震動の強さを表す指標の1つに震度があります。 以前は体感で震度観測を行っていましたが、現在は器械を使います。 器機で得られた加速度波形から計測震度を計算することにより震度を求めます。 計測震度の計算には、加速度の大きさの他に、揺れの周期や継続時間も考慮しますので、最大加速度が大きい場所が震度も大きくなるとは限りません。 また、地震動は地震や観測点の地盤や地形などによっても異なります。
 実際の例で見てみましょう。2003年5月26日の宮城県沖の地震では、大船渡市大船渡町(当時の大船渡測候所に所在)の計測震度計で 東西方向に1,105.5galという非常に大きな加速度が記録しました。 加速度に質量をかけると力になりますが、このように大きな加速度でも大船渡市大船渡町ではほとんど被害がありませんでした。 このときの大船渡市大船渡町の震度は6弱でした。
 一方、1995年1月17日の兵庫県南部地震では、神戸中央区中山手(当時の神戸海洋気象台に所在)での最大加速度は818.0gal(南北方向)、 震度は6でしたが、大きな被害が発生しました。 当時の地震計は現在の震度計とは異なりますが、これを今の計測震度を求める方法で計算すると震度6強に相当します。 これは、計測震度の計算には、加速度の大きさの他に、揺れの周期や継続時間も考慮するためです。
 図1は2つの地震波を比べたものですが、 神戸中央区中山手の波形の方が大船渡市大船渡町の波形より地震波の周期が長いことがわかります。 ところで、構造物にはそれぞれ揺れやすい振動の周期を持っています。 この周期をその構造物の固有周期と言います。 構造物は地震波のなかに含まれている固有周期の波と共振し大きく揺れるため、 構造物の被害は、その地震波の中にその構造物の固有周期の波がどれだけ入っているかによります。 一般的に構造物は、短い周期の地震波より長い周期の波で壊れやすいと言われています。 宮城県沖の地震の場合、大きい加速度を記録しましたが、地震波の周期が短かったのが被害の少なかった理由のひとつと言えます。

地震波の比較

図1 2003年5月26日 宮城県沖の地震における大船渡市の加速度波形(上)と
   1995年1月17日 兵庫県南部地震における神戸中央区中山手の加速度波形(下)




 もう一例を見てみましょう。図2は、先ほどの例と同じ、2003年5月26日の宮城県沖の地震の大船渡市の加速度波形で、 図3は2003年9月26日の十勝沖地震における浦河町の加速度波形です。
 宮城県沖の地震で大船渡の震度は6弱(計測震度は5.8)、十勝沖地震で浦河測候所の震度も6弱(計測震度は5.6)でしたが、 最大加速度は大船渡が1,105.5gal、浦河が348.9galでした(図中の赤矢印)。
 この例からも、たとえ最大加速度が大きくても、震度が大きくなるとは限らないことがわかります。

2003年5月26日 宮城県沖の地震(大船渡市)

図2 2003年5月26日 宮城県沖の地震(大船渡市)




2003年9月26日 十勝沖地震(浦河町)

図3 2003年9月26日 十勝沖地震(浦河町)




 図4は均一な揺れが数秒間続くと仮定した時、地震波の周期、加速度と震度との関係を表したものです。 実際の地震波はさまざな周期の波が含まれているので、震度7が加速度で何galに相当すると言えませんが、 仮に周期1秒の波が同じ振幅で数秒間続くとすると、震度7の下限に相当する計測震度6.5以上になるためには、 3成分の合成値で約600gal以上の加速度が必要であることを示しています。 これが周期0.1秒の波になると2,700gal以上になると読み取れます。

周期、加速度と計測震度の関係

図4 周期および加速度と震度(理論値)の関係(均一な周期の振動が数秒間継続した場合)