火山ガスについての解説
火山ガスの成分
火山ガスは、地下のマグマに溶けている水素(H)、酸素(O)、塩素(Cl)、硫黄(S)、炭素(C)、窒素(N)などの揮発性成分が圧力低下などによって発泡し、 水蒸気(H2O)、フッ化水素(HF)、塩化水素(HCl)、二酸化硫黄(SO2)、硫化水素(H2S)、二酸化炭素(CO2)、水素(H2)、窒素(N2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)などとなって地表に放出されます。
マグマから分離した火山ガスは、地表に到達するまでの間に地下水との接触、火山ガス成分相互の反応、地下にたまっている硫黄や有機物からのSO2、H2S、CO2、CH4の供給などにより、 個々の火山で、あるいは噴出している場所、温度などによって含まれる成分と濃度が異なります。
一般に、火山ガスの主成分は水蒸気(H2O) で90%以上を占め、H2O以外の化学組成はその温度によって異なります。 温度の高い火山ガスにはHF、HCl、SO2、H2、COなどが多く含まれ、温度の低い火山ガスではH2S、CO2、N2などが主成分となります。
火山ガスによる事故
火山ガスによる死亡事故は、火砕流や泥流と比べれば少ないですが、1900年以降の火山災害で見ると、死亡者の約2.5%にあたる1,900名が火山ガスで亡くなっています。
最も大きな火山ガス事故は、1986年、アフリカのカメルーン国で発生しました。 この事故は火口湖であるニオス湖の湖水に溶けていた火山性のCO2が約1km3突出したことによって発生し、1,734名が死亡し、約7,000頭のウシが死にました。 また、1979年には、インドネシアのディエン高原でも噴火によって放出されたCO2によって142名が死亡しました。
日本では、このように一度に多くの人命が奪われる火山ガス事故は発生していませんが、時々火山ガスによる死亡事故が発生しています。 これまでの多くの火山ガス事故は、火山ガスが噴出している周辺の窪地や谷地形などで発生し、また、風が弱く曇天のときに発生しています。 これは、H2S、SO2、CO2などの成分が空気に比べて1.2~2.2倍重いために低い場所にたまりやすい性質であること、無風、曇天のときには噴出した火山ガスが拡散しにくく、地表近くが高濃度になりやすいことから、事故が起こりやすくなるためです。 この二つの条件が重なるときには、事故の発生確率が高くなるため、より十分な注意が必要になります。
死亡原因 | 死亡者数 |
---|---|
火砕流 岩屑なだれ |
36,800 (48.4%) |
火山泥流 洪水 |
28,400 (37.4%) |
降下火砕物 噴石 |
3,000 (3.9%) |
津波 |
400 (0.5%) |
噴火後の 飢饉・疫病 |
3,200 (4.2%) |
溶岩流 |
100 (0.1%) |
火山ガス 酸性雨 |
1,900 (2.5%) |
その他 原因不明 |
2,200 (2.9%) |
1900~1986年の火山災害による原因別の死亡者数 (宇井(編)(1997))
火山ガスの毒性
火山ガスに含まれる成分のうち、HF、HCl、SO2、H2S、CO2、COが毒性をもっています。
高温の火山ガスに特徴的なHF、HCl、SO2は刺激臭を伴い、許容濃度はそれぞれ3ppm、2ppm、5ppm、アメリカの基準では2ppmで、致死濃度も500~1,000ppmと極めて毒性をもちます。 しかし、これらの火山ガス成分を多く含む火山ガスを放出している火山では、火山活動が活発で火口付近が登山禁止になっていることや近づきにくいこと、 また、これらの火山ガス成分は刺激臭が強いため、その存在が容易に検知されることなどの理由で、これらの火山ガスによる死亡事故は起こりにくいと言えます。
多くの火山ガス災害の原因であるH2Sガスも毒性が強く、許容濃度は10ppmです。400ppmを超えると生命が危険となり、700ppmを超えると即死すると言われています。 H2Sガスは0.06ppm程度でも臭気を感じ、低濃度ではいわゆる卵の腐った臭いがしますが、高濃度になるとむしろ臭気を感じなくなります。
二酸化硫黄の毒性
三宅島では、2000(平成12)年の噴火以降、火山ガスが放出され続け、2011年3月現在も、1日あたり500~1,500トンの二酸化硫黄が放出されています。 二酸化硫黄は、呼吸器を刺激し、せき、気管支喘息、気管支炎などの障害を引き起こします。0.5ppm以上で臭いを感じ、30~40ppm以上で呼吸困難を引き起こし、100ppmの濃度では、30分~1時間が耐えうる限界とされています。さらに、400ppm以上の場合、数分で生命に危険が及びます。二酸化硫黄は、硫黄の特徴的な臭いにより検知することが容易ですが、500ppmを超えると嗅覚が冒され、むしろ臭気を感じなくなります。
二酸化硫黄による健康被害の代表的な例として、日本における第二次世界大戦後の四大公害事件とされ、1961年頃より発生した四日市ぜんそくがあげられます。そのため、環境省により環境基準が定められ、工場などからによる人為的な排出量に規制がかけられました。
火山ガス事故の対策
火山地帯を行動する個人は、
- 火山および火山ガスについての最低限の知識をもつ
- 立て看板に注意し行動する場所の危険性を認識する
- 危険区域に立ち入らない
- 決められたルートからはずれない
など個々に身を守る努力をする必要があります。
三宅島において放出され続けている二酸化硫黄による事故や健康被害を避けるため、三宅村では、火口周辺地域や火山ガスの高濃度地区など島内の一部地域の立入を制限しています。 また、島内14か所で二酸化硫黄の濃度をリアルタイムで監視し、濃度が高まった時には、その濃度や危険性に応じレベル1~4までの火山ガスレベル警報及び注意報を発令し、防災行政無線により全島民に伝達されています。