過去の予測データの利用例の紹介

確率予測資料(2週間気温予報1か月予報の基礎資料)のような予測データを利用する場合、予測精度(予報が現実と比べてどの程度誤差があるか)を事前に把握することで、気候リスク管理を一層適切に行うことができます。
本ページでは、過去の予測データを用いた検証の具体例を紹介します。過去の予測データ(確率予測資料)については、以下のリンクから取得可能です。

(注) 本ページで紹介するデータや内容は、2019年9月現在のものです。

データ

その1:個々の事例を検証する

ここでは、東北地方を題材に検証事例を紹介します。過去の予測データは2週間気温予報の再予報データ(現在の技術で再度過去の事例を予測したもの。ハインドキャストともいう。)を使用し、2週間先の気温の予測について検証していきます。

冷夏時の2週目の低温の予測

東北地方の夏は、やませの影響などにより低温となる年に水稲の冷害が発生してきました。ここでは、過去に顕著な冷害となった1993年と2003年の予測データを見ていきます。例年、7月下旬に低温となると冷害となる危険性が大きくなります。現在の技術では、この時期の低温を2週間前から予測できていたでしょうか?再予報データで見ていきましょう。

図1 1993年、2003年の7月10日初期値の2週間先の予測(東北地方、最低気温)
再予報データに基づく。予測はアンサンブル平均値、薄色は予測範囲(80%)。緑枠は予測2週目からの5日間平均に対応する部分。


図1は、最低気温の予測と実況の推移です。実況では、1993年、2003年とも平年差で見て、-3~4℃程度気温が低くなっています。2週間先の予測(緑枠の部分)に着目すると、平年に対する気温の低下をかなり予測できていることが伺えます。それ以降の予測を見ると、実況ほど顕著ではありませんでしたが、平年に対し低温傾向は表現されていることが分かります。

多くの事例で確認する

上の例では1993年、2003年について予測と実況を比較しましたが、他の事例ではどうでしょうか、1981~2016年のデータをまとめて確認していきます。図2は、図1の緑枠に対応する、2週間先の予測と実況を年ごとに並べて表示したものです。


図2 7月10日初期値の2週間先の予測(東北地方、最低気温)
再予報データ(1981~2016年)に基づく。予測はアンサンブル平均値、バーは予測範囲(80%)。


ここでは、実況値が平年値より2℃以上低温となった年に注目します(矢印)。”○”印の年(1986年、1993年、2003年)では、予測が低温を良く表現しています。また、”△”印の年(1988年、2012年)では、アンサンブル平均値からは外れますが、平年より低温になる傾向は予測されています。しかし、”×”印の年(1998年)では、平年より高温傾向の予測となっています。このように、2週間先の予測を利用する際は、予測の持つ誤差(予測範囲)を意識する必要があります。

その2:統計的に検証する

次に、より多くの事例から統計的に精度を確認していきます。ここでは、その1で確認した2週間先の予測について、初期値(予報を行う日ごと)の予測精度を統計的に確認します。 指標は、一般的な指標である二乗平均平方根誤差(RMSE)と相関係数を用い、予測の中心(アンサンブル平均値)と実況値との統計的関係を確認します(図3)。

図3 2週間先の予測(東北地方、最低気温、アンサンブル平均値)のRMSE、相関係数
再予報データ(1981年1月~2017年3月)に基づく。サンプル数は各36または37。


グラフでは、年間を平均的に見て、RMSEは1~1.5℃程度、相関係数は0.5~0.7程度となっています。 点線は平年値を予測値として用いた場合(気候値予報といいます)のRMSEを示しており、青線の予測値のほうがRMSEが小さいことから、統計的に見て気候値予報より有用であるといえます。 また、4~6月初期値の予測は精度が低めとなっており、”この時期の予報はほかの時期と比べ精度に注意しよう”などと事前に把握して計画的に利用できます。

なお、上記では、東北地方の2週間気温予報を題材にしておりますが、検証の方法や考え方は、異なる地域・地点や他の予報(1か月予報など)でも同様に参考としていただけます。

その3:過去の予測データによるシミュレーション

各々の専門分野において、例えば、農作物の生育や病害虫の発生などを気温を用いて予測している場合、気温の平年値を用いた場合と気温予測値(再予報データや過去の予測データ)を用いた場合で過去の事例をシミュレーションすることで、予測の改善度を把握できます。これにより、気候リスク管理に気温予測値を利用するにあたり、より一層具体的に効果を把握できます。参考として以下の表に、過去の気温予測データを用いた実際の調査事例の概要を紹介します。

平年値の代わりに予測値を用いると・・・
調査例の文献 概要 調査対象年 参考
気象確率予測資料を用いた水稲刈取適期の予測
横山克至 2014:東北の農業気象, 58, 1-6.
刈り取り適期(9月中旬頃)に対し、8月20日の時点で、予測誤差は1~2日程度まで小さくできる。(平年値では誤差は6~7日となる年もある) 1985~2012 関連ページ
小麦赤かび病防除と小麦開花期予測
黒瀬 義孝 2016 :気候予測情報を活用した農業技術情報の高度化に関する研究、気象庁と農研機構との共同研究報告書,18-21
開花日3週前の時点(通常4月10日頃)において、改善は13年、改悪は3年、極端な高温の際には数日(最大3日)程度改善。 1991~2010,2013 関連ページ
気象データを活用した山梨県におけるももの生育予測
萩原栄揮 2019:グリーンレポート596. 2-5.
開花日(4月頃)に対し、 3月3週では予測誤差は2日程度まで小さくできる。極端な高温年では、3月1週の時点で3日程度改善。 2001~2018 関連資料
気象予測値を用いた病害虫防除適期予測の精度向上
~カンシャコバネナガカメムシにおける精度検証~
萱場亙起ほか, 2019 : 植物防疫, 73, 106-113.
防除適期(4月下旬頃)に対し、2週間前の時点では予測誤差は2日程度。極端な高温年(例1998年)では1か月前の時点で3日改善。 1981~2017 関連資料

いずれの事例でも、従来の平年値を用いた場合より、気温予測値を用いた場合の有効性が確認されております。このようなシミュレーションでは、事前に個々の事例の改善の頻度や度合いが把握できるため、新たな対策技術の導入の際の検討材料としても有用です。 農作物の生育や病害虫の発生の様な、各分野での予測に気候データを用いている方は、ぜひ実践してみましょう。

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