日本の海面水位の変動要因(偏西風との関係)

海洋大循環数値モデルの海面水位偏差の領域変化分(世界平均で0)に観測世界平均海面水位偏差(Church and White(2011))を加えた日本沿岸の数値モデル再現値と、観測海面水位偏差との比較を行ったところ、モデル結果は観測に見られる約20年周期の変動や1980年代半ば以降の海面水位の上昇をよく表現しています。
海洋モデル実験や観測データの解析から、日本沿岸海面水位の20年周期の変動は主に北太平洋の冬季偏西風の南北移動や強度変動が原因であることが明らかとなりました(Yasuda and Sakurai(2006), Sasaki et al.(2014))。

海面水位の観測値と再現値

日本沿岸の平均的な海面水位の観測値(赤線)と数値モデルによる再現値(青線)

1960年~2007年の平均を0としています。

下図上段は、観測世界平均海面水位偏差を含まない日本沿岸海面水位変動(モデル:Tsujino et al.(2013))、 中段は偏西風帯の北部で平均した風応力東西成分の時間変動を示します(偏西風の強度変動の影響を取り除くため、 各年の偏西風の最大値を引いてあります)。 両者を比較すると(時間軸が4年ずれていることに注意)、どちらも20年周期の変動が卓越しており、 偏西風帯の北部で偏西風が強い年の約4年後は日本沿岸海面水位が高いことがわかります。一方、20世紀半ば以降偏西風は強くなる傾向にあります。
下段の等値線は海面風応力東西成分の平年値、矢印は海面風応力の平年値を表します。 北太平洋上の冬季偏西風は、北緯37度付近を中心として北緯25度~50度に存在します。 陰影部は、日本沿岸海面水位が高い年から4年さかのぼった年の冬季海面風応力東西成分を示します。 冬季偏西風の南北で正負の値、すなわち、偏西風が北部で強く、南部で弱くなることを意味します。
では、偏西風の変動はどのように日本沿岸海面水位の変動をもたらすのでしょうか。 北半球では、偏西風下の海洋表層で南向きの流れ(エクマン流)が生じます。エクマン流の強さは海上風の強さに比例するため、 偏西風から南北に離れるほどエクマン流は弱くなります。このため、偏西風の南側の海洋表層では海水が収束し、海面を押し上げ、 水温躍層を押し下げています。偏西風の北側では逆に海水が発散し、海面を引き下げ、水温躍層を引き上げます。 もし何らかの理由により北部で偏西風が強化する場合、南側の海面の高い海域が北上することになります。 これによって、北緯30度~45度の広い範囲で海面が上昇します。南部で偏西風が強化する場合は逆に海面が下降します。 このように上昇(下降)した海面水位偏差は、地球自転の影響を受けて西向きに伝播(ロスビー波)し、 4~5年かけて日本沿岸に到達して海面水位を上昇(下降)させます。
次に、偏西風が強くなる場合を考えます。偏西風が南北に位置を変えずに強くなると、偏西風の南側の収束、 北側の発散がそれぞれ強くなります。このため、偏西風の南側では海面が上昇、北側では海面が下降することになります。 このような偏差はロスビー波によって日本沿岸に到達し、日本沿岸海面水位を変動させます。
1980年代半ば以降(1985~2007年)の海面水位上昇は、年あたり約2.8mmです。下図では、 1980年代半ば以降に日本沿岸海面水位が上昇していることがわかります。 したがって、上図にみられた1980年代半ば以降の日本沿岸海面水位上昇の要因の一つとして冬季偏西風の変動が挙げられます。 しかしながら、数値モデルの1980年代以降の冬季偏西風の変化による日本沿岸海面水位上昇率(年あたり1.0mm)は実際(年あたり約2.8mm)よりは小さく、 残りの上昇は地球温暖化に伴う世界平均海面水位上昇が寄与していると考えられます。

偏西風の強風軸が南北に移動した場合の風応力の変化

偏西風の強風軸が南北に移動した場合の風応力の変化

上段:海洋大循環数値モデルで再現された1964~2007年の年平均日本沿岸海面水位変動(5年移動平均:mm)1960-2007年の平均値を0としています。観測世界平均水位変動を除き、5年移動平均しています。

中段:偏西風帯北部(東経160度から西経160度、北緯40度から北緯50度の領域)で平均した1960~2003年の冬季海面風応力東西成分変動(5年移動平均:Nm-2)。ただし、偏西風の強度変動の影響を取り除くため、各年の偏西風の最大値を引いています。1960-2003年の平均値を0としています。

下段:1960~2007年で平均した冬季海面風応力(矢印)とその東西成分(等値線:Nm-2)。海洋大循環モデルで再現された年平均日本沿岸海面水位変動と4年前の冬季海面風応力東西成分変動との回帰係数(カラー)。統計期間は1964~2007年。

参考文献

  • Church, J. A., and N. J. White, 2011: Sea-level rise from the late 19th to the early 21st century. Surveys in Geophysics, 32, 585-602.
  • Yasuda, T. and K. Sakurai, 2006: Interdecadal variability of the sea surface height around Japan, Geophys. Res. Lett., 33, L01605, doi:10.1029/2005GL024920.
  • Sasaki, Y. N., S. Minobe and Y. Miura, 2014: Decadal sea-level variability along the coast of Japan in response to ocean circulation changes, J. Geophys. Res. Oceans, 119, doi:10.1002/2013JC009327.
  • Tsujino, H., S. Nishikawa, K. Sakamoto, N. Usui, H. Nakano, and G.Yamanaka, 2013: Effects of large-scale wind on the Kuroshio path south of Japan in a 60-year historical OGCM simulation. Clim. Dyn., doi:10.1007/s00382-012-1641-4.

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