北太平洋亜熱帯循環域の二酸化炭素蓄積量

北太平洋亜熱帯循環域の二酸化炭素蓄積量

大気と海洋が接している海面では、大気と海洋の間で二酸化炭素の交換が行われており、海洋全体としては大気から二酸化炭素を吸収しています。海洋中に吸収された二酸化炭素は、海洋の循環や生物活動などにより海洋内部に蓄積されていきます。1990年代以降、北太平洋亜熱帯循環域の海面からポテンシャル密度27.5σθ(深さ約1200~1400m)の間に蓄積した二酸化炭素蓄積量の総量は1.47±0.34億トン炭素/年でした。("±"以降の数値は95%信頼区間を示しています。)

二酸化炭素蓄積量の分布をみると、亜熱帯循環域の北部で1年あたりの蓄積量が大きくなっています。この海域は北太平洋亜熱帯モード水(以下「亜熱帯モード水」)の形成域にあたります。亜熱帯モード水は、大気から大量の二酸化炭素を取り込んだ表面海水が冬季の海面冷却により海洋内部に沈み込むことで形成されるため、その輸送過程は海洋内部への二酸化炭素蓄積の主要な要因と考えられています(Sabine et al., 2004)。亜熱帯循環域北部では、この亜熱帯モード水や深さ300~800m付近にみられる北太平洋中層水と呼ばれる水塊が分布しているため、より深くまで二酸化炭素が蓄積しており、1年あたりの二酸化炭素蓄積量が大きくなっていると考えられます。

これまで、1990年代と2000年代に世界的に行われた高精度・高密度観測の結果から、二酸化炭素蓄積量が見積もられています(Sabine et al., 2008、Khatiwala et al., 2013、Kouketsu et al., 2013)。これらの報告では、東経137度や東経165度周辺の海域での二酸化炭素蓄積量は1年あたり約3~10トン炭素/km2/年で、長期時系列データから見積もった二酸化炭素蓄積量は、これまでの報告とおおむね一致しています。また、東経137度や東経165度の北西太平洋亜熱帯域は、北太平洋でも特に二酸化炭素の蓄積速度が早い海域であることも報告されています(Khatiwala et al., 2013、Kouketsu et al., 2013)。Kouketsu et al.(2013)は、太平洋における二酸化炭素蓄積量を8.4±0.5億トン炭素/年と報告しています。北太平洋亜熱帯循環域では、太平洋全体の二酸化炭素蓄積量のおおよそ20%を蓄積しています。今解析で定義した亜熱帯循環域の面積は太平洋のおおよそ11%に相当し、面積比としては約2倍の二酸化炭素を蓄積していると考えられます。

北太平洋亜熱帯循環域の二酸化炭素蓄積量

北太平洋亜熱帯循環域における1度×1度での1年あたりの二酸化炭素蓄積量の分布

北太平洋亜熱帯循環域における1度×1度での海面からポテンシャル密度27.5σθ(深さ約1200~1400m)までの1年あたりの二酸化炭素蓄積量の分布。
単位は、二酸化炭素蓄積量を炭素の重さに換算した値、「億トン炭素」であらわしています。
図中の黒太線は、海面高度から定義した北太平洋亜熱帯循環の範囲を示しています。

使用データ

北太平洋亜熱帯循環域の二酸化炭素蓄積量の見積もりに使用したデータを示します。

データ項目

観測船による観測データ:全炭酸・水温・塩分・ポテンシャル密度・溶存酸素

気象庁海洋データ同化システム(MOVE/MRI.COM-G)による再解析値:海面高度・ポテンシャル密度・深さ

観測定線または定点・範囲・観測期間

北太平洋亜熱帯循環域の二酸化炭素蓄積量の見積もりに使用した観測定線または定点・範囲・観測期間は表のとおりです。

【表】使用データの観測定線または定点・範囲・観測期間
観測定線または定点 範囲 観測期間
東経137度 北緯7度30分~北緯32度30分 1994年7月~2014年8月
東経165度 北緯7度30分~北緯37度30分 1992年8月~2014年8月
ハワイ沖 北緯22度45分・西経158度 1988年12月~2014年12月

東経165度線については、データの時間密度を高めるため、他機関によって実施された観測データも使用しています。ハワイ沖のデータは、ハワイ大学が実施している海洋観測データを使用しました。データはCCHDO(http://cchdo.ucsd.edu)、JODC(http://www.jodc.go.jp)とハワイ大学のホームページ(http://hahana.soest.hawaii.edu/hot/hot_jgofs.html)から取得しています。

見積もり方法

気象庁では、「海洋中の二酸化炭素蓄積量」で解説されている手法により、全炭酸濃度・溶存酸素・塩分の観測結果から、同じポテンシャル密度の面(等密度面)における海水中の物質の濃度や生物活動による影響を取り除いた全炭酸濃度の時間変化量を計算し、東経137度と東経165度における二酸化炭素蓄積量を解析しています。同手法をハワイ沖の長期時系列観測点にも適用し、北太平洋亜熱帯循環域内の時系列観測点11点での二酸化炭素蓄積量を計算しました(解析に使用した観測点)。これらの二酸化炭素蓄積量の計算結果と、気象庁海洋データ同化システム(MOVE/MRI.COM-G; Usui et al., 2006)のポテンシャル密度・深さから、北太平洋亜熱帯循環域における二酸化炭素蓄積量の分布を推定し、北太平洋亜熱帯循環域での二酸化炭素蓄積量の総量を見積もりました。

北太平洋亜熱帯循環域の範囲は、MOVE/MRI.COM-Gの海面高度の2001年から2010年の平均分布から定義しました(平均海面高度の分布)。

二酸化炭素蓄積量は、ポテンシャル密度0.1σθ毎に蓄積量を計算し、海面からポテンシャル密度27.5σθ(深さ約1200m~1400m)まで積分することで求めています。

観測点と平均海面高度

解析に使用した観測点の位置と2001年から2010年の平均海面高度分布

図中の□は解析に使用した観測点を示し、黄太線は東経137度と東経165度の観測定線を示しています。カラーは2001年から2010年の平均海面高度分布を示します。黒太線は本解析で定義した北太平洋亜熱帯循環の範囲を示しています。

参考文献

  • Khatiwala, S., T. Tanhua, S. Mikaloff Fletcher, M. Gerber, S. C. Doney, H. D. Graven, N. Gruber, G. A. McKinley, A. Murata, A. F. Ríos, C. L. Sabine, and J. L. Sarmiento, 2013: Global ocean storage of anthropogenic carbon. Biogeosciences, 10, doi:10.5194/bgd-9-8931-2012.
  • Kouketsu, S., A. Murata and T. Doi, 2013: Decadal changes in dissolved inorganic carbon in the Pacific Ocean. Global Biogeochem, Cycles, 27, doi:10.1029/2012GB00413.
  • Sabine, C. L., R. A. Feely, N. Gruber, R. M. Key, K. Lee, J. L. Bullister, R. Wanninkhof, C. S. Wong, D. W. R. Wallance, B. Tilbrook, F. J. Millero, T.-H. Peng, A. Kozyr, T. Ono, and A. F. Rios, 2004: The oceanic sink of anthropogenic CO2, Science, 305, 367-371, doi:10.1126/science.1097403.
  • Sabine, C. L., R. A. Feely, F. J. Millero, A. G. Dickson, C. Langdon, S. Mecking, and D. Greeley, 2008: Decadal changes in Pacific Carbon. J. Geophys. Res., 113, C07021, doi:10.1029/2007JC004577.
  • Usui, N., S. Ishizaki, Y. Fujii, H. Tsujino, T. Yasuda, and M. Kamachi (2006), Meteorological Research Institute multivariate ocean variational estimation (MOVE) system: Some early results, Advances in Space Research, 37, 806-822.

このページのトップへ