世界の海面水温

海面水温の平均分布

 海面水温とは、大気と海洋の境界(海面)の水温のことである。現実には海面そのものの温度を測定することは不可能であり、手法によって観測する深さが異なるが、通常深さ10m程度までの水温観測値を海面水温としている。

 地球が球形であるために、海洋が太陽から受け取る熱量(日射量)は緯度によって異なる。図1(a)に年平均海面水温の平年値(1991~2020年の30年平均値)の分布を示す。全体としては、低緯度で高く、高緯度で低いという水温分布になっている。また、地球の自転軸が公転面に対して傾いているため、海面が受ける日射量は季節によって異なり、海面水温の分布は季節変化する。図1(b)、(c)に1月、7月の海面水温の分布を示す。中高緯度においては、年平均と比較して、1月の水温は北半球側で低く、南半球側で高い。一方、7月の水温は北半球側で高く、南半球側で低くなっている。

 また、海面水温は、大気の運動の影響も受けている。例えば、太平洋赤道域の海面付近では、貿易風と呼ばれる東風が吹いている。この東風によって海面付近の暖かい水が太平洋の西部に吹き寄せられ、それを補償するように東部の南米沖では、深いところから冷たい水が海面近くに湧き上っている。図1(a)をみると、太平洋赤道域の海面水温は西部で高く、東部で低くなっていることがわかる。また、北半球(南半球)の大陸の西岸付近では、岸に沿って南向き(北向き)の風が吹くと、海面付近の暖かい海水は風の方向に力を受けるとともに、地球自転によるみかけの力であるコリオリ力を受け、沖側へ流される。それを補償するように、深いところから冷たい水が海面近くに湧き上ってくることがある。例えば、7月の北米西岸付近の海面水温が周囲より低い原因の一つもこの湧き上がりだと考えられる。(図1(c))

 このように、海面水温は、日射、大気の運動、海水の運動、地形といった様々な要因によって、複雑な分布をしている。

(a)年平均(b)1月(c)7月
図1a 海面水温の平年値の分布(単位:℃) 図1b 海面水温の平年値の分布(単位:℃) 図1c 海面水温の平年値の分布(単位:℃)

図1 海面水温の平年値の分布(単位:℃)

(a)年平均、(b)1月、(c)7月、平年値は1991~2020年の30年平均値。

気候と海面水温の変動

 気温や降水量などの平均状態とその変動に直接影響を及ぼすのは大気であるが、大気や水の循環の変動には海洋・陸面・雪氷の変動が深くかかわっている。そこで、大気・海洋・陸面・雪氷を相互に関連する一つのシステムとして捉えて「気候システム」と呼ぶ。気候システムを十分長い時間平均した平均的な状態を気候状態と呼ぶ。

 海面水温の分布は、気候状態の決定に重要な役割を果たしている。海面水温が与えられると、熱帯では積乱雲の分布(大気を駆動する熱源の分布)が大体決まり、中緯度では低気圧の急速な発達などに影響を与えることになる。

 しかしながら、「海面水温の平均分布」で述べたように、海面水温は日射や大気の運動などの影響を受けるので、気候状態は、実際には、大気と海洋の相互作用の結果として決まる。大気-海洋相互作用は気候状態を形成するのみならず、気候の変動性(気候状態からのずれで、時間スケールの長いもの)も引き起こしている。

 大気-海洋相互作用によって引き起こされると考えられる気候の変動性には、数年規模で変動するエルニーニョ/ラニーニャ現象、十年から数十年規模で変動する太平洋十年規模振動などがある。これらは海面水温の変動を伴い、大気と海洋が連動した自然変動である。図2-1図2-2にそれぞれの現象時の典型的な海面水温の変動パターンを示す。エルニーニョ/ラニーニャ現象、太平洋十年規模振動の詳細は「エルニーニョ/ラニーニャ現象に関する知識」、「太平洋の海面水温に見られる十年〜数十年規模の変動」をそれぞれ参照されたい。

図2-1 エルニーニョ現象時の典型的な海面水温偏差の空間分布(単位:℃)

図2-1 エルニーニョ現象時の典型的な海面水温偏差の空間分布(単位:℃)

冬(12〜2月)の期間での合成図。等値線は偏差、色は偏差が統計的に有意な領域を示す。



図2-2 太平洋十年規模振動の指数が正のときの典型的な海面水温平年差の空間分布(単位:℃)

図2-2 太平洋十年規模振動の指数が正のときの典型的な海面水温平年差の空間分布(単位:℃)

太平洋十年規模振動の指数に回帰した海面水温の分布。

地球温暖化と海面水温の変化

 世界各地の陸上の観測所で観測された地上気温から求めた世界の平均気温には、年々から数十年規模の自然変動と、期間全体を通した上昇の傾向が現れている(「世界の年平均気温(陸上のみ)」参照)。過去約50年間に地球温暖化によって気候システムに貯えられた熱量の大部分は海洋の貯熱量の増加となっていると見積もられており、その約3分の2が海面から深さ700mまでに蓄えられているとされている。地球の表面の7割を占め、大気のおよそ1000倍もの熱容量をもつ海洋は、大気の温暖化に大きな影響を及ぼしていると考えられる。この上昇傾向は地球温暖化の現れであり、IPCCは第6次評価報告書で、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がないと論じている(IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約 暫定訳(文部科学省及び気象庁)より)。

 気候モデルと呼ばれる数値モデルで地球温暖化について計算した予測結果では、海上の気温より陸上の気温の上昇が大きくなっている。この理由には、①陸面は海面より蒸発による冷却効果が小さいこと、②大陸は海洋より熱容量が小さいこと、が指摘されている(真鍋,2001)。また、南半球より北半球の気温の上昇が大きくなっている。これは、北半球のほうが大陸の占める割合が大きいからである。

 気候モデルの予測結果は、大気の温暖化に海洋の存在が影響を及ぼすこととともに、地球温暖化によって海面水温に現れる変化※1が陸上気温のそれとは異なることを示している。

※1 海面水温の長期変動が船舶などで観測された海上の気温の長期変動と同様な振る舞いをすることが示されている(浅井,1988など)。

海面水温の監視

100年以上の期間にわたる海面水温の客観解析

 気候の長期変動や地球温暖化の監視のためには、長期にわたる観測データが不可欠である。また、観測のない領域の値を適切に推定するには、時間的・空間的に不規則に分布する観測データを合理的に内挿する必要がある。

 船舶が観測・通報する海面水温をはじめとする海洋気象データが、長年にわたって蓄積されてきたが、近年、それらが電子媒体化され、容易に多量のデータを扱えるようになってきた。こうしたデータとして、米国海洋大気庁(NOAA)作成のICOADS(International Comprehensive Ocean-Atmosphere Data Set)や、神戸コレクション(神戸海洋気象台(現 神戸地方気象台)が収集した過去の海洋気象データ)を気象庁と日本気象協会がデジタル化したものがある。

 気象庁では、この二つのデータや現業的に収集している近年のデータなどを合わせた100年以上にわたる歴史的な観測データを用いて、客観解析(観測データから規則的に配列された格子点上の値を合理的に推定する作業)を行い、1891年から現在までの100年以上にわたる1度格子の海面水温と海上気象要素の格子点データを整備した(COBE :Centennial in-situ Observation-Based Estimates of the variability of sea surface temperatures and marine meteorological variables)。このうち、海面水温のデータセットをCOBE-SST(Sea Surface Temperature)と呼ぶ。COBE-SSTは、19世紀末から現在までの世界全体を対象にした客観解析値で、空間の分解能は、経度、緯度とも1度となっている。2023年2月以降は、客観解析の改良版であるCOBE-SST2(Hirahara et al. 2014)を用いて、「海面水温の長期変化傾向(全球平均)」を診断している。

 客観解析の前に観測データには品質管理が施されるが、その際、1950年以前のデータには観測方法の違いによる観測誤差が比較的大きいため、それらを補正している。また、客観解析には、最適内挿法と呼ばれる方法を用いている。詳しくは、Ishii et al.(2005)、石井ほか(2003)、Hirahara et al.(2014)を参照されたい。

参考文献

  • 浅井冨雄,1988:気候変動-異常気象・長期変動の謎を探る-.東京堂出版,202pp.
  • Hirahara, S., M. Ishii, and Y. Fukuda, 2014: Centennial-scale sea surface temperature analysis and its uncertainty. J. Climate, 27, 57-75.
  • Ishii, M., A. Shouji, S. Sugimoto and T. Matsumoto, 2005 : Objective analyses of sea-surface temperature and marine meteorological variables for the 20th Century using ICOADS and the Kobe Collection. Int. J. Climatol., 25, 865-879.
  • 石井正好・小司晶子・杉本悟史・松本隆則,2003:海面水温ならびに海上気象要素の客観解析データベース:COBE.月刊海洋,35(11),793-797.
  • 真鍋淑郎,2001:大気・海洋・陸面結合モデルによる温暖化予測.月刊海洋号外,No.24,186-193.

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