エーロゾル:大気混濁係数とエーロゾル光学的厚さの経年変化

2025年3月28日更新 

診断

大気混濁係数の経年変化

 エーロゾルには化石燃料の燃焼時に出るすすや、排気ガスが変質してできる硫酸塩や硝酸塩といった人為起源のものと、火山灰や火山ガス(二酸化硫黄)から生成される硫酸塩、砂じん、海塩など自然起源のものがあります。それらのうち、長期的な気候の変化に影響をもたらす成層圏のエーロゾルの変動はほとんどが火山噴火に由来しています。 国内の直達日射量観測により得られる大気混濁係数※のバックグランド値の経年変化を見ると、大規模な火山噴火(アグン、エルチチョン、ピナトゥボ)による成層圏へのエーロゾル供給に伴う大気混濁係数の増加及びその後数年で減少する変化や、近年ではアグン火山噴火前のレベルまで戻っていることが確認できます。 1991年のピナトゥボ火山噴火では、IPCC(2013)によると、約2000万トンの二酸化硫黄(SO2)が成層圏に注入され、世界平均地上気温が最大1年間にわたって約0.5℃低下したとされました。 最近の研究では、この低下の度合いは過大とする議論もあり、Fujiwara et al.(2020)によれば、北緯60度~南緯60度で平均した地上気温の低下は0.10~0.15℃とされています。 また、IPCC(2021)には、約0.2~0.3℃の世界平均地上気温の低下というデータも示されています。

※ 大気混濁係数:太陽からの直達日射が地上に到達するまでに、エーロゾル・水蒸気・オゾンなどを含む地球大気によりどの程度減衰されるかを表す指標であり、それらの物質を含まない仮想的な大気による減衰の何倍であるかを示します。大気混濁係数が大きいほど、大気中の太陽光を吸収・散乱する物質の全量(気柱内に含まれる総量)が多いことになります。

バックグランド大気混濁係数の経年変化

バックグランド大気混濁係数の経年変化(1960~2024年)
大気混濁係数に含まれる水蒸気や黄砂、大気汚染エーロゾル等対流圏の変動による影響を除くため、大気混濁係数の月最小値を用いて国内4地点(網走、つくば、石垣島及び南鳥島、ただし2020年までは網走ではなく札幌の観測値を使用)の平均値を求め、年平均値を算出しています。図中の矢印は大規模な火山噴火が発生した時期を示します。


エーロゾル光学的厚さの経年変化

 綾里・札幌・網走、与那国島・石垣島では、春季にエーロゾル光学的厚さ※が大きくなります。これは、大陸から飛来する黄砂や大気汚染物質などの影響で、エーロゾルが多くなるためと考えられます。
 南鳥島では、ほぼ年間を通して他の観測地点と比較して、エーロゾル光学的厚さが小さな値となります。これは、日本の最東端の北太平洋上に位置しており、エーロゾルの主要な発生源である大陸から遠く、人間活動等の影響が少ないためと考えられます。しかしその中でも、春季にはエーロゾル光学的厚さがやや大きくなる傾向があります。この原因として、大陸から黄砂や大気汚染物質などが長距離輸送されて南鳥島に飛来した可能性が考えられます。

※ エーロゾル光学的厚さ:エーロゾルの吸収・散乱による日射の減衰から算出される大気中のエーロゾルの量を示す指標で、値が大きいほどエーロゾルが多いことを示します。観測には、水蒸気やオゾンなどによって日射が吸収されない波長(500nmなど)の太陽光を用います。

エーロゾル光学的厚さの経年変化

エーロゾル光学的厚さ(500nm)の経年変化
各観測地点の月平均を示しています。
綾里(●印)の観測は、2018年4月に札幌(■印)に移転後、2021年3月に網走(▲印)に移転、
与那国島(●印)の観測は、2016年4月に石垣島(■印)に移転しました。



参考文献


関連情報


このページのトップへ