副振動(あびき)
副振動とは、日々くり返す満潮・干潮の潮位変化を主振動としてそれ以外の潮位の振動に対して名づけられたものであり、海峡や湾などで観測される、周期数分から数10分程度の海面の昇降現象をいいます。
主な発生原因は、低気圧等の気象じょう乱に起因する海洋のじょう乱などが長波となって沿岸域に伝わり、湾内等に入ることにより引き起こされます。
振動の周期が湾等の固有周期に近いものであれば、共鳴を起こして潮位の変化が著しく大きくなる場合があり、過去には係留していた船舶の流失や低地での浸水被害が発生しています。
九州西岸では特に大きな副振動が発生しやすく、「あびき」とも呼ばれています。

気象庁長崎検潮所(長崎市松ヶ枝町)で観測された過去最大の副振動の例を示します。
この副振動は1979年(昭和54年)3月31日に発生し、最大全振幅は278cm、周期は約35分でした。
この副振動は1979年(昭和54年)3月31日に発生し、最大全振幅は278cm、周期は約35分でした。

1988年(昭和63年)3月16日の副振動で、海水が浦上川を遡っている様子
副振動の発生月

特に3月は飛び抜けて多く、全体の約50%を占めています。
副振動発生時の天気概況

「副振動(100cm以上)」が発生した時の天気概況は、九州の南海上を低気圧が通過した場合が最も多く、次に九州の南海上に前線が停滞していた場合となっています。
副振動の発生原因
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副振動は東シナ海大陸棚上で発生した気象じょう乱による気圧の急変が原因とされています。
これによって発生した海洋長波が海底地形などの影響を受けて増幅していきます。
湾内に入った海洋長波は共鳴現象などの影響を受けてさらに増幅し、湾奥では数メートルの上下振動になることがあります。
Hibiya and Kajiura (1982) による数値シミュレーションから、1979年(昭和54年)3月31日に発生した過去最大の副振動は、東シナ海をほぼ東向きに約110km/hで進行した振幅約3hPaの気圧波によっておこされたことがわかっています。
Hibiya and Kajiura (1982) による数値シミュレーションから、1979年(昭和54年)3月31日に発生した過去最大の副振動は、東シナ海をほぼ東向きに約110km/hで進行した振幅約3hPaの気圧波によっておこされたことがわかっています。
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[約3倍の増幅] |
[約5倍の増幅] |
[約3倍の増幅] |
2004年3月1日の例
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2004年2月29日~3月1日の長崎、種子島、枕崎、油津の各検潮所における副振動の時系列を示します。横軸は時間で30分間隔です。また、縦軸は東京湾平均海面(TP)上の潮位で、5cm間隔です。
各地とも最大全振幅は3月1日午前1時前後に発生しています。最大全振幅及び周期は次のとおりです。
各地とも最大全振幅は3月1日午前1時前後に発生しています。最大全振幅及び周期は次のとおりです。
長 崎: | 137cm、 | 35分 | |
種子島: | 100cm、 | 12分 | |
枕 崎: | 160cm、 | 20分 | |
油 津: | 100cm、 | 22分 |
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2004年2月29日から3月1日にかけては九州付近にあった停滞前線が次第に南下し、大陸から高気圧が張り出してくる気圧配置でした。

関連情報
参考文献
寺田一彦,安井善一,石黒鎮雄(1953) | 長崎港の副振動について.長崎海洋気象台報告, 4, 1-73. | ||
赤松英雄(1978) | 長崎港のあびき.長崎海洋気象台100年のあゆみ, 154-162. | ||
赤松英雄(1982) | 長崎港のセイシュ(あびき). | ||
気象研究所研究報告, 33, 95-115. | |||
西部海難防止協会(1982) | 津波(長崎港アビキ)対策委員会報告書, 77-78. | ||
HIBIYA, T. and K. KAJIURA (1982) | Origin of the Abiki Phenomenon (a kind of Seiche) in Nagasaki Bay. | ||
J. Oceanogr. Soc. Japan, 38, 172-182. | |||
小長俊二,半沢洋一,富山吉祐, 高浜 聡(1990) |
長崎港の"あびき"について.海と空, 65, 203-222. | ||
志賀 達,市川真人,楠元健一, 鈴木博樹 (2007) |
九州から薩南諸島で発生する潮位の副振動の統計的調査. 気象庁測候時報第74巻特別号 |
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福岡管区気象台,長崎海洋気象台(2007) | 異常気象レポート九州・山口県版2006, 46-49. | ||
(このページは2007年頃までの情報をもとに取りまとめたものです) |