気候系監視速報 ~気候系の診断情報~
気象庁では、世界各地で起こった異常気象、それをもたらしたと考えられる大気大循環、海洋の状態等気候系を監視しています。これらの監視結果に基づき、月々の気候系の特徴をとりまとめた「気候系監視速報」を作成しています。 なお、年間の異常気象・天候や気候系の特徴に関する総合的な情報は「気候変動監視レポート」をご覧ください。 ※「気候系監視速報」は、利便性向上のため、2025年5月号(2025年6月発表)より、従来のPDF形式からウェブサイト形式に変更して掲載しています。
気候系の特徴(2025年10月)
- 海面水温は、太平洋熱帯域では、西部で顕著な正偏差、中部~東部は赤道域を中心に負偏差で、ラニーニャ現象時に特徴的な偏差分布が明瞭となり、NINO.3海域の基準値との差は-0.5℃だった。インド洋では、東部で顕著な正偏差、西部で顕著な負偏差となり、負のインド洋ダイポールモード現象が発生した。北西太平洋の亜熱帯~中緯度は広範囲で正偏差となり、東シナ海や西日本周辺は標準偏差の3倍を超えた。
- 熱帯の対流活動は、インド洋東部~海洋大陸で顕著に活発で、カリブ海周辺でも局所的に活発だった一方、太平洋中部~南米~大西洋~アフリカでは不活発だった。赤道季節内振動は、中旬にインド洋で振幅が大きくなり、下旬にかけて海洋大陸に東進した。
- 熱帯域の対流圏の循環は、上層では、太平洋西部付近を除いた広範囲で南北両半球対の高気圧性循環偏差となり、特にインド洋西部は顕著な高気圧性循環偏差となった。下層では、インド洋で南北両半球対の顕著な低気圧性循環偏差となり、西風偏差が卓越した一方、太平洋西部~中部は南北両半球対の顕著な高気圧性循環偏差となり、東風偏差が卓越した。海面気圧は、インド洋で負偏差、太平洋で正偏差となり、南方振動指数は+1.2だった。
- 北半球の亜熱帯ジェット気流は、東アジアで北偏して平年と比べて強い一方、大西洋では南偏し平年と比べて弱かった。帯状平均した寒帯前線ジェット気流は、70°N付近で平年より強かった。
- 500hPa高度では、極渦は東シベリア東部に位置し、カムチャツカ半島付近は顕著な負偏差となった一方、カナダ北東部とリッジが卓越した中央シベリアは顕著な正偏差となった。中緯度は、一部で負偏差となった他は概ね正偏差で、東アジア南部では広い範囲で顕著な正偏差となった。
- 海面気圧は、西シベリア~北日本にかけて顕著な正偏差となり、10月としてはシベリア高気圧が記録的に発達した。これに伴い、850hPa気温は、モンゴル~カムチャツカ半島付近で広く負偏差となり、オホーツク海付近は顕著な負偏差となった。
- 日本の天候は、気温は、西日本と沖縄・奄美でかなり高く、沖縄・奄美では1946年の統計開始以降10月として最も高い記録となった。日本の月平均気温偏差は+1.35℃で、1898年の統計開始以降、10月として2番目に高い値だった。降水量は、東日本日本海側と沖縄・奄美で多かった。日照時間は、東日本太平洋側でかなり少なく、沖縄・奄美でかなり多かった。
日本の天候(図1、図2、図3、図4、日本の地域平均気候表)
- 平均気温:西日本と沖縄・奄美でかなり高かった。日本の月平均気温偏差は+1.35℃で、1898年の統計開始以降、10月として2番目に高い値となった。10月の日本の平均気温は、上昇傾向が続いており、長期的な上昇率は約1.53℃/100年である。
- 降水量:東日本日本海側と沖縄・奄美で多かった。
- 日照時間:東日本太平洋側でかなり少なく、沖縄・奄美でかなり多かった。
- 天候経過:華北から日本海付近にかけて偏西風が平年より北に偏って流れやすかったため、西日本と沖縄・奄美は暖かい空気に覆われ、月平均気温がかなり高かった。沖縄・奄美では平年差が+2.3℃となり、1946年の統計開始以降、10月として1位の高温となった。北・東・西日本では、中・下旬に低気圧や停滞前線の影響を受けやすかったため、月間日照時間は東日本太平洋側ではかなり少なく、北・東・西日本日本海側と北日本太平洋側では少なかった。また、月降水量は東日本日本海側で多かった。沖縄・奄美では、上・中旬に高気圧に覆われて晴れの日が多かったため、月間日照時間がかなり多かった。また、下旬を中心に熱帯低気圧、湿った空気や停滞前線の影響を受け、月降水量は多かった。
世界の天候
- 世界の月平均気温偏差は+0.40℃(速報値)で、1891年の統計開始以降、10月として3番目に高い値となった。10月の世界の平均気温は、上昇傾向が続いており、長期的な上昇率は約0.73℃/100年(速報値)である(図5)。
- 主な異常天候発生地域は次のとおり(図6)。
- 西日本~華南~フィリピン、東南アジア中部、カナダ東部、オーストラリア北東部及びその周辺で異常高温、モンゴル~カザフスタン東部で異常低温となった。
- 対馬~華北、インド西部及びその周辺、ヨーロッパ南東部及びその周辺、ドイツ北部及びその周辺で異常多雨、東シベリア、地中海西部周辺で異常少雨となった。
海況
- 太平洋赤道域の海面水温は、中部から東部にかけて負偏差、西部で顕著な正偏差となった(図7)。NINO.3海域の月平均海面水温偏差及び基準値との差はともに-0.5℃だった(図8)。
- 北太平洋では、熱帯の西部及び中緯度帯の広い範囲で顕著な正偏差となった一方、オホーツク海北部及び中部、日本の南東、メキシコの南西は顕著な負偏差となった。
- 南太平洋では、西部と中緯度帯の東部で顕著な正偏差となった。
- インド洋では、熱帯の南東部で顕著な正偏差、熱帯の西部で顕著な負偏差となった。
- 北大西洋では、熱帯の西部及び中緯度帯の東部で顕著な正偏差となった。
- 南大西洋では、中緯度帯で顕著な正偏差、亜熱帯の西部で顕著な負偏差となった。
熱帯の対流活動と循環
- 対流活動は、波数1が卓越した上層の大規模発散域となったインド洋東部~海洋大陸では10~20Sと10~20Nで対流活動が顕著に活発で、カリブ海周辺でも局所的に活発だった(図9)。赤道季節内振動は、中旬にインド洋で振幅が大きくなり、下旬にかけて海洋大陸に東進した(図10)。
- 対流圏上層では、海洋大陸東部~太平洋中部で南北両半球対の低気圧性循環偏差となった他は、広く南北両半球対の高気圧性循環偏差となり、特にインド洋西部は顕著な高気圧性循環偏差となった(図11)。
- 対流圏下層では、インド洋で南北両半球対の顕著な低気圧性循環偏差となり、西風偏差が卓越した。海洋大陸も北半球側で低気圧性循環偏差が顕著だった。一方、太平洋西部~中部は南北両半球対の顕著な高気圧性循環偏差となり、東風偏差が卓越した(図12)。
- 海面気圧は、インド洋で負偏差、太平洋で正偏差となり、南方振動指数は+1.2だった(図8)。
北半球の循環
- 500hPa高度(図13)より、極渦は東シベリア東部にあって、カムチャツカ半島付近は顕著な負偏差となった。一方、カナダ北東部とリッジが卓越した中央シベリアは顕著な正偏差となった。中緯度は、大西洋西部と東欧、モンゴルで負偏差となった他は概ね正偏差で、東アジア南部では広い範囲で顕著な正偏差となった。
- 200hPa風速(図14)より、亜熱帯ジェット気流は東半球側で北偏し平年と比べて強く、特に東アジアで明瞭だった一方、西半球側では南偏し平年と比べて弱かった。
- 海面気圧(図15)は、西シベリア~北日本にかけて顕著な正偏差となり、中央シベリア~中国東北区では記録的(年々変動の標準偏差の3倍以上)となった。ベーリング海~ノルウェー海にかけては負偏差となり、カナダ北部では顕著となった。
- 850hPa気温(図16)は、北極海とカナダ東部で顕著な正偏差、モンゴル~カムチャツカ半島付近で広く負偏差となり、中央シベリアとオホーツク海付近は顕著となった。
帯状平均場
- 帯状平均した対流圏の東西風より、両半球ともにジェット気流はほぼ平年の位置で強かった。北半球の寒帯前線ジェット気流は北緯70度付近で強かった。
- 帯状平均した対流圏の気温は、両半球緯度50度付近を除いて広い範囲で高温偏差となった。北半球の成層圏の気温は、北緯70度以北を除いて低温偏差となった。
その他の情報
- 南半球の循環
- 北半球の積雪
- 北極海の海氷(米国雪氷データセンターへのリンク)
![]() 図1 月平均気温、月降水量、月間日照時間の平年差(比)(2025年10月) 平年値は1991〜2020年の平均値。 |
![]() 図2 旬降水量及び旬間日照時間地域平均平年比の時系列(2025年8月〜2025年10月) それぞれの上側が降水量(%)、下側が日照時間(%)。平年値は1991〜2020年の平均値。 |

平年値は1991〜2020年の平均値。

細線(黒):各年の平均気温の基準値からの偏差、太線(青):偏差の5年移動平均値、直線(赤):長期変化傾向。基準値は1991〜2020年の平均値。

細線(黒):各年の平均気温の基準値からの偏差、太線(青):偏差の5年移動平均値、直線(赤):長期変化傾向。基準値は1991〜2020年の平均値。


等値線の間隔は0.5°C毎、灰色陰影は海氷域を表す。平年値は1991〜2020年の平均値。

細線は月平均値、太線は5か月移動平均値を示す(海面水温の基準値はその年の前年までの30年間の各月の平均値、南方振動指数の平年値は1991〜2020年の平均値)。赤色の陰影はエルニーニョ現象の発生期間を、青色の陰影はラニーニャ現象の発生期間を示している。

陰影の間隔は10W/m2毎。平年値は1991〜2020年の平均値。米国海洋大気庁(NOAA)気候予測センター(CPC)より提供されたBlended OLRを用いて作成。
等値線の間隔は、4x106m2/s毎(左)、2m/s毎(右)。平年値は1991〜2020年の平均値。

等値線の間隔は10x106m2/s毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。

等値線の間隔は2.5x106m2/s毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。
![]() 等値線の間隔は60m毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。 |
![]() 等値線の間隔は10m/s毎。平年の20m/s毎の等値線を茶色で表す。平年値は1991〜2020年の平均値。 |
![]() 等値線の間隔は4hPa毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。 |
![]() 等値線の間隔は4°C毎。陰影は平年差。平年値は1991〜2020年の平均値。 |
過去の気候系監視速報(2007年3月~2025年9月)
2011年5月号から2021年4月号までは、平年の期間を1981~2010年として記述しています。2011年4月号までは、平年の期間を1979~2004年として記述しています。
2014年1月号まではJRA-25/JCDASによる大気循環場データに基づいて記述しています。
2014年2月号から2023年4月号まではJRA-55による大気循環場データに基づいて記述しています。
2023年5月号からは気象庁第3次長期再解析(JRA-3Q)による大気循環場データに基づいて記述しています。
項目別の詳細情報
大気の循環・雪氷・海況図表類
2024年3月18日 「大気の循環・雪氷・海況図表類」について、気象庁第3次長期再解析(JRA-3Q)を用いた図表を、熱帯低気圧解析の品質が改善されたデータに基づくものに更新しました。外向き長波放射量(OLR)に基づく1991年以降のすべての図を、米国海洋大気庁(NOAA)気候予測センター(CPC)より提供されたBlended OLRを用いたものに更新しました。※外向き長波放射量(OLR)関連の図表や指数の値は、米国海洋大気庁(NOAA)気候予測センター(CPC)によるデータの提供状況によっては、更新が遅れる場合や灰色で塗られた欠損表示となる場合があります。
関連情報
- 気候変動監視レポート 世界及び日本の気候変動を中心に、気候変動に影響を与える温室効果ガス、さらにオゾン層等の状況について、毎年、最新の情報を公表しています。2017年版より、年間の異常気象・天候や気候系(大気、海況、雪氷)の特徴に関する記述を充実させました。
- 気候系監視年報(2011~2016年) 年間の異常気象・天候や気候系(大気、海況、雪氷)の特徴をまとめた総合的な監視・解析情報です。2017年以降については、内容を気候変動監視レポートに統合しましたのでそちらをご覧ください。
- 日本の異常気象 社会的に大きな影響をもたらした日本の異常気象の特徴と要因に関する情報です。
- 世界の異常気象 社会的に大きな影響をもたらした世界の異常気象の特徴と要因に関する情報です。
- 異常気象分析検討会
- 気候系監視関連情報の解説






