神奈川県の気象特性

 神奈川県の気象について、四季ごとの特徴と、その季節に現れる現象等を解説します。

春(3~5月)

春の天気図

日本周辺域の天気図(2018年4月11日9時)

 3月はまだ寒気が入りやすく、一時的に冬型の気圧配置に戻り寒い日もありますが、大陸の高気圧の勢力は次第に衰え、本州の南岸を通る低気圧のために春の雪をもたらすこともあります。

 4月に入ると、移動性高気圧に覆われて日中の気温は上昇し、穏やかな日が多くなります。しかし、低気圧が発達して日本海を通過するときには、南西の強風が吹き荒れ、時には台風並の風速を記録することもあります。

 5月は移動性高気圧におおわれ、上旬のよく晴れた夜には山沿いの地方では晩霜の被害もありますが、その後は初夏らしい日が出現します。また、月末には早くも梅雨のはしりが現れ、天気のぐずつく日もあります。

コラム : 霜

 大気中の水蒸気が、冷却され相対湿度が100%となる霜点(0℃以上の場合は露点)温度以下になると、地面や地物の表面に昇華してできる氷の結晶を霜と呼びます。 春季に発生する(遅)霜はときに農作物に大被害を与えることがあります。

夏(6~8月)

夏の天気図

日本周辺域の天気図(2019年8月1日9時)

 梅雨が明けると、太平洋高気圧が日本を広く覆い、南西の風が卓越し連日晴天が続き、1年のうちで最も安定した期間となります。しかし、山沿いの地方では熱雷が発生します。

 雷雲は主として県の北西部から南東に移動しますが、ときには相模湾から北上して北東に進むこともあります。

 盛夏の頃、太平洋高気圧の勢力が強いうちは、南海上の台風も進路を西にとって、神奈川県への影響は少ないですが、夏の終わり頃には相模湾一帯に土用波の影響が現れるようになります。

コラム : 梅雨

 過ごしやすい初夏が過ぎると、6月の上旬頃から7月の中旬頃までの約40日間にかけて、日本の南岸沿いに前線が停滞し、曇りや雨のぐずついた天気の日が続く梅雨の期間となります。

 南の太平洋高気圧からの暖かい南西の風と、北のオホーツク海高気圧から冷たい北東の風が、日本付近でぶつかり合うのが梅雨前線です。この前線の北側では梅雨空になり、前線の近くでは雨が降りやすくなります。

 梅雨前線は本州付近に停滞したり、南北へ移動を繰り返したりしますが、この前線上を低気圧が東進する時、前線活動は活発化しやすく悪天候となり、時には集中豪雨が発生することもあります。

梅雨の天気図

日本周辺域の天気図(2020年7月6日9時)

秋(9~11月)

秋の天気図

日本周辺域の天気図(2019年10月11日9時)

 初めは残暑も残りますが、太平洋高気圧は盛衰を繰返しながら後退します。これととともにその周辺を回り込むように、台風が日本へ接近するようになります。

 上陸したり接近する台風は8月下旬から10月上旬にかけて多く、過去に顕著な風水害を起こした台風もこの頃のものです。

 特に台風の中心が本県の西側を通る場合は、豪雨による河川の氾濫や低い土地の浸水、崖崩れなどの他に海岸地方では高潮を伴うので厳重な警戒が必要です。

 晩秋ともなると朝夕の冷え込みが強くなり、県内で初霜、初氷が観測されるようになります。山間部で初霜は10月の中頃、結氷は11月の上旬に現れます。

コラム : 台風と温帯低気圧

 台風は高温多湿な空気が赤道収束域で上昇気流となって擬結を起こし、この時放出される熱エネルギーによって発生・発達します。 これに対して、温帯低気圧は、南北間の温度差によって発生する不安定波動によって発達し、そして維持されます。 したがって、台風と温帯低気圧は成因が全く異なり、当然温帯低気圧には前線が存在します。

 台風が北上するとき、冷たい空気が流れ込むと前線を持つようになり、台風本来の性格をなくして温帯低気圧に変わることがあります。

冬(12~2月)

冬の天気図

日本周辺域の天気図(2018年1月10日9時)

 シベリア大陸では高気圧が発達して、日本付近は西高東低の気圧配置となり、大陸から冷たい北西の季節風が吹きだします。 県内では、北ないし北西の季節風が卓越し、連日乾燥した晴天がつづき、特に東部沿岸地方では風が強くなります。

 気温は沿岸地方から内陸に向かって低くなり、西部山間部では0℃前後となって冷え込みます。

 雪は山間部で月に4~5回、内陸沿岸地方で月に1~2回観測されます。また、この季節は極端に雨量が少なく空気が乾燥しており、これに加えて季節風が吹き続くという、大火になり易い悪条件を備えています。

コラム1 : 気圧

 気圧とは、地球を取り巻く大気(空気)の鉛直方向の単位面積当りの総重量をいいます。平地においては1平方センチメートル当り約1kg程度です。1気圧は水銀柱で76センチメートルの高さに相当し、これを圧力の単位で表すと1013.25hPa(ヘクトパスカル)となります。 したがって、高度が上昇すれば気圧は減少し、地上付近では100m(メートル)上昇する毎におよそ10hPa減少します。 ちなみに、高度1000mではおよそ900hPa、3000mではおよそ700hPaですが、厳密には気温と湿度によって変化します。

 この原理を応用した測器が航空機などに登載されている気圧高度です。

 横浜で観測された最低(海面)気圧は、1917(大正6)年10月1日の953.8hPaです。 これは沼津付近に上陸して神奈川県北西部を通過した台風によるものですが、以下にその様子を示す当時の記録(気象要覧)を掲載します。

「コノ颱風ハ其勢力甚ダ大ナルモノニシテ近畿ヨリ北海道方面ニ亘リテ劇甚ナル災害ヲ醸シ殊二関東方面ニテハ近年稀ナル高潮ノタメニ潮水ノ侵入ヲ見タリ。
 死傷者三千、全壊半壊及流失家屋六萬ヲ算シ、鉄道線路橋梁等ハ破壊セラレ船舶ノ流失・沈没ハ千ヲ數へ其被害枚擧ニ暇アラズ。實ニ悲惨ノ光景ヲ呈セリ」


コラム2 : 放射冷却

 全ての物体は熱を放出しています。 地表面や大気中に含まれる水蒸気や二酸化炭素などが熱を放出(赤外放射)し、地表面とそれに接する気層が冷える現象が放射冷却です。

 冬季のよく晴れ上がった風の弱い日は、これによって地面付近ほど気温が低い状態である「接地逆転層」が生成されやすくなります。 真冬の夜間、特に関東平野の内陸部では、この接地逆転層がよく発達します。

 事実、筑波学園都市における月平均気温(1月)は、地上から数百メートルまでの間、高度とともに上昇しています。 記録的な最低気温はこのような気象状態のときに観測されることが多いです。

 横浜における最低気温の極値は1927(昭和2)年1月24日に観測された-8.2℃ですが、この時の天候も快晴で風は静穏状態でした。

 当時の記録によれば、
「19日頃ヨリ月末ニ亘リテハ、裏日本一帯殆ド連日降雪シ、23、24日ノ交ニハ北陸、信越方面ニ著シキ吹雪アリ、関山付近積雪丈余ニ及ビ、北陸線ノ大雪崩ハ列車ヲ埋メ、鉄道被筈頗ル多シ」 (気象要覧)
とあります。 大寒波襲来中の出来事でした。

横浜における年統計値の経年変化

 横浜における年統計値(年平均気温・年降水量・真夏日の日数・熱帯夜の日数・桜の開花日・雷の日数・冬日の日数・雪の日数)の経年変化をグラフで示しています。

年平均気温の経年変化

年平均気温の経年変化

年降水量の経年変化

年降水量の経年変化

真夏日の日数の経年変化

真夏日の日数の経年変化

熱帯夜の日数の経年変化

熱帯夜の日数の経年変化

さくらの開花日の経年変化

さくらの開花日の経年変化

雷の日数の経年変化

雷の日数の経年変化

冬日の日数の経年変化

冬日の日数の経年変化

雪の日数の経年変化

雪の日数の経年変化