気象庁(JMA)
メタン標準ガス較正装置及び標準ガス

メタン標準ガス較正装置

メタン標準ガス較正装置は、検出器に水素炎イオン化検出器(FID)を使用した島津製作所製造の型式GC-14BPFのガスクロマトグラフ(GC)方式に基づいています(図 1)。 装置はPCにより完全制御され、 測定結果の出力は別のPCで処理・保存されます。 ガス試料と標準ガスは10mLの計量管に導入されてから、毎分50mLの流量で超高純度N2 (>99.9999%)キャリアガスと共にメインカラムに注入されます。 メインカラムは分子ふるい5A(60-80メッシュ)を詰め込んだ内径3mm、長さ4mのステンレス製の管です。 計量管やカラムを含む装置の主部品は70℃のオーブン温度に保たれています。 装置の配管図を図2に示します。

Methane Calibration System
図1. メタン標準ガス較正装置

Schematic diagram of the methane calibration system
図2. メタン標準ガス較正装置の配管図

一次標準ガス

気象庁は、大陽日酸JFPにより容量48リットルアルミ合金製ボンベに充填されたメタン一次標準ガスを保有しています。 これらの標準ガスは、米国海洋大気庁地球システム調査研究所(NOAA/ESRL)において維持されているWMO標準である X2004A スケールで較正されています [Dlugokencky et al., 2005]。 これらの一次標準ガスのメタン濃度を表1に示します。

表 1. 気象庁が保有する一次標準ガス
 
ボンベ番号 較正年 CH4 濃度 (ppb)備考
CQB11442 2006 1621.52 使用終了
CQB11443 2006 1749.31 使用終了
CQB11444 2006 1866.70 使用終了
CQB11446 2006 1982.06 使用終了
CQB11447 2006 2107.93 使用終了
CQB18737 2011 1611.38 使用終了
CQB18738 2011 1760.21 使用終了
CQB18739 2011 1897.75 使用終了
CQB18740 2011 2030.01 使用終了
CQB18741 2011 2164.63 使用終了
CQD00066 2017 1599.66
CQD00070 2017 1769.65
CQD00067 2017 1918.04
CQD00069 2017 2066.36
CQD00068 2017 2213.23
CQD00922 2023 1595.72
CQD00923 2023 1801.97
CQD00924 2023 1999.53
CQD00925 2023 2199.66
CQD00926 2023 2397.92

一次標準ガスのドリフトや長期間安定性を確認するため2つのターゲットガスを保有しており、およそ1年に2回、較正装置を使って濃度が決定されます。 図 3 に上記の測定結果を示します。


図 3. ターゲットガス(CPB00786とCPB00787)の測定濃度

相互較正

他の機関との長期間安定性とトレーサビリティーを確保するために標準ガスは、つくば市(日本)の気象研究所(MRI)で独自に維持しているガスと定期的に比較しています[Matsueda, 1993]。 気象庁と気象研究所スケールの相互較正の結果は図4に集約されています。


図4. 気象庁と気象研究所スケールの相互較正の結果

較正方法

一次標準ガスとは別に5本のボンベセットが二次標準ガスとして用意されており、 これらは6ヶ月毎に一次標準ガスによる較正を行うとともに、標準ガスの較正用として使用されます。 また、指標ガス (機器チェック用ガス)は装置の通常動作における出力点検用として使用されます。 代表的なガスクロマトグラムを図5に示します。図で示されるように、すべての濃度計算はピーク高よりむしろピーク面積に基づいています。 較正前に、機器チェック用ガスを6回測定した標準偏差と濃度との比が0.07未満になるまで安定させます。 それから、被較正ガスを二次標準ガスと交互に10回導入します。 被較正ガスの濃度は、被較正ガスのすぐ前とすぐ後に導入した一連の二次標準ガスに対して決定した2次方程式を用いて計算されます。 10サイクルの濃度に対する標準偏差の比が閾値を超えた場合、すべての結果が不合格となり、最初から再び測定を行います。 測定誤差は較正装置の仕様に基づいて 1ppb と見積もっています。


図 5. メタン較正装置の代表的なガスクロマトグラム
参考文献
Dlugokencky, E. J., R. C. Myers, P. M. Lang, K. A. Masarie, A. M. Crotwell, K. W. Thoning, B. D. Hall, J. W. Elkins, and L. P. Steele (2005), Conversion of NOAA atmospheric dry air CH4 mole fractions to a gravimetrically prepared standard scale, J. Geophys. Res., 110, D18306, doi:10.1029/2005JD006035.
Matsueda, H., Intercalibration experiment of methane standard gas scale between NOAA/CMDL and MRI/GRL, Papers in Meteorological and Geophysics, Vol. 44, No. 2, 45-56, 1993.