浅間山の観測の歴史
浅間山における火山観測の歴史は古く、平成23年(2011年)8月に火山観測所が開設されてから100年の節目を迎えました。また令和6年(2024年)には活動火山対策特別措置法の一部が改正され、国民の間に広く活動火山対策についての関心と理解を深めるため、この火山観測所が設置された日が「火山防災の日」に定められました。
浅間山の火山観測業務は、明治44年(1911年)8月26日、浅間山の西南西山腹(通称、湯の平)に我が国最初の火山観測所として長野県予算で建設され、当時の文部省震災予防調査会と長野県立長野測候所(現在の長野地方気象台)の協力により連続観測が開始されました。
当時の浅間山の火山活動は、明治42年(1909年)から顕著な噴火が相次いで発生するようになっており、浅間山麓の住民は天明のような災害の再来を恐れ、浅間山の活動に対する関心が高まっていました。このため長野県では、大山綱昌知事が震災予防調査会に対して浅間山の調査を依頼し、さらに震災予防調査会と長野測候所が協力して、我が国最初の火山観測所を浅間山に設立することになったのです。
この観測所の建設を強く働きかけ設立に深く関わったのは、震災予防調査会幹事で東京帝国大学教授でもあった大森房吉博士と、長野測候所長西澤順作測候技師の両氏でした。明治から大正期における浅間山の火山観測は、この二人の指導によって精力的に実施され、火山の観測と調査を任務とする我が国最初の火山観測所の設立運営として結実しました。なお、この火山観測所は、大森幹事のライバルであった今村明恒博士により「浅間火山観測所」と命名されています。
写真:浅間火山観測所(湯の平) 人物左:大森・人物右:西澤(1913年6月30日撮影)
この火山観測所は、地震や噴火の観測を行う場所には適していましたが、標高約2000mの湯の平高原にあったため、冬の寒さが厳しく、冬期間の観測は大変困難でした。また、噴火時には噴石の落下範囲内となり、観測所の周辺には噴石が度々落下し、一時は観測所を閉鎖し待避したこともあり、必ずしも安全とは言えませんでした。
このため、冬期も連続した観測が可能で、天明の噴火程度の大規模な噴火でも安全に観測が行うことができる新たな火山観測所として、大正12年(1923年)7月に浅間山の南山麓の追分(旧軽井沢測候所の位置)に「浅間火山追分観測所」が建設されました。これにより一年を通した浅間山の常時観測体制が整えられたのです。しかし、火山観測所はその後、大森房吉の急死や震災予防調査会が廃止されたことから、長野県及び長野測候所で運営されることとなり、大正15年(1926年)には「長野測候所追分支所」として再発足しました。さらに気象官署の中央気象台(現、気象庁)への移管や、長倉(中軽井沢)に航空気象観測を主目的に設けられた中央気象台軽井沢観測所との統合等を経て、「軽井沢測候所」へと生まれ変わったのです。平成20年(2008年)4月より、軽井沢測候所における火山業務を地元自治体と連携して行うことを目的として、軽井沢消防署内に「浅間山火山防災連絡事務所」が設置され、平成21年(2009年)10月に軽井沢測候所は無人化されました。
写真:浅間火山追分観測所(長野測候所追分支所)(1926年2月18日撮影)
写真:中央気象台軽井沢観測所(1939年2月撮影)
写真:軽井沢測候所(2007年5月21日撮影)
浅間山の火山観測は、このように明治、大正、昭和、平成、令和に至る100年以上の長きにわたり、関係者の不断の努力により、気象庁における火山観測業務として受け継がれ、貴重な観測データを得ることができました。この間、大森房吉、西澤順作、梶間百樹、水上武、関谷溥、下鶴大輔、荒牧重雄の各氏をはじめとした大学、気象庁の研究者、技術者によって、火山学や火山噴火予知の発展に大きく貢献すると共に、地域住民や登山者の安全確保に役立てられました。特に、昭和33年(1958年)や昭和48年(1973年)等の噴火に際しては、気象庁と大学との緊密な協力に基づく情報の提供により、事前に地元市町村による火口への登山規制や、臨時火山情報の発表などがスムーズに行われました。
写真:大森房吉(1868-1923)
写真:西澤順作(1864-1928)
現在の浅間山の火山活動の監視や火山情報の発表は、気象庁本庁の火山監視・警報センターにて24時間体制で行われています。
浅間山火山防災連絡事務所では、浅間山周辺の住民や登山者の安全のため、火山防災知識の普及・防災活動支援など、地元自治体、大学、関係機関と連携を密にした様々な取り組みを進めています。
※ 令和6年(2024年)5月21日に、浅間火山観測所(湯の平)跡が 長野県小諸市の指定文化財 に指定されました。
関連資料
- 浅間山火山観測100年
浅間山の火山監視・防災業務の履歴を1枚にまとめています。
関連リンク
- 軽井沢町立図書館デジタルアーカイブ
浅間山や軽井沢町に関係する写真、各種資料、書籍、映像等が閲覧できます。