平成29年 No.21 週間火山概況 (5月19日~5月25日)
【火山現象に関する警報等の発表状況】
5月26日(期間外)に霧島山(新燃岳)に噴火予報を発表し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。その他の火山については、噴火に関する予報警報事項(警戒が必要な事項)に変更はありません。表1 5月26日(14時)現在の火山現象に関する警報等の発表状況
特別警報・警報・予報 | 噴火警戒レベル及びキーワード | 該当火山 |
火口周辺警報 | レベル3(入山規制) | 桜島、口永良部島 |
入山危険 | 西之島※ | |
レベル2(火口周辺規制) | 草津白根山、浅間山、御嶽山、霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺)、諏訪之瀬島 | |
火口周辺危険 | 硫黄島※ | |
噴火警報(周辺海域) | 周辺海域警戒 | ベヨネース列岩※、福徳岡ノ場※ |
噴火予報 | レベル1(活火山であることに留意) | アトサヌプリ、雌阿寒岳、十勝岳、樽前山、倶多楽、有珠山、北海道駒ヶ岳、恵山、岩木山、秋田焼山、岩手山、秋田駒ヶ岳、蔵王山、吾妻山、安達太良山、磐梯山、那須岳、日光白根山、新潟焼山、焼岳、白山、富士山、箱根山、伊豆東部火山群、伊豆大島、三宅島、鶴見岳・伽藍岳、九重山、阿蘇山、雲仙岳、霧島山(新燃岳)、霧島山(御鉢)、薩摩硫黄島 |
活火山であることに留意 | 上記以外の活火山 |
図1 噴火警報及び火山現象に関する海上警報を発表中の火山(5月26日14時現在)
【警報発表中の火山の活動状況及び警報事項】
草津白根山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
東京工業大学による湯釜湖水の解析では、2014年以降、湯釜の湖水に含まれる高温の火山ガス由来の成分の濃度上昇が続き、火山活動が活発な状態であることを示していましたが、2016年半ばには、濃度の上昇傾向は止まり、2017年に入って、減少傾向がみられ始めています。全磁力観測1)では、2014年5月頃からみられていた湯釜近傍地下の温度上昇を示唆する変化は、2014年7月以降停滞していましたが、2016年夏頃から温度下降を示す変化に転じています。火山性地震は2014年8月以降少ない状態が続き、地殻変動観測でも2016年4月以降、湯釜付近の収縮を示す変化がみられています。
5月15日から18日にかけて実施した現地調査では、昨年9月の調査で温度上昇の確認された湯釜火口壁北側や水釜火口北東側斜面で温度の高い状態が継続していました。また、水釜火口北側斜面でも噴気の勢いが強い状態が継続していました。
草津白根山の火山活動は、静穏化の傾向がみられ始めたものの、引き続き、小噴火が発生する可能性があります。湯釜火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石2)に警戒してください。地元自治体等の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石2)が遠方まで風に流されて降るため注意してください。また、ところどころで火山ガスの噴出がみられ、周辺のくぼ地や谷地形などでは滞留した火山ガスが高濃度になることがありますので、注意してください。
浅間山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
山頂直下のごく浅い所を震源とする火山性地震の活動は、2015年4月頃から高まった状態で経過しています(図2)。山頂の南南西にある塩野山の傾斜計3)では、2016年12月頃から北または北西上がりのわずかな変化が観測されています。国土地理院のGNSS4)連続観測によると、浅間山を南北に挟む基線で2016年秋頃から小さな伸びがみられています。
山頂火口では、2016年12月末頃から高感度の監視カメラで確認できる程度の微弱な火映5)が時々観測されています。
火山活動はやや活発な状態で経過しています。今後も火口周辺に影響を及ぼす小規模な噴火が発生する可能性があるため、山頂火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。登山者等は地元自治体等の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。また風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石が遠方まで風に流されて降るため注意してください。
図2 浅間山 火山性地震の日別回数(2014年1月1日~2017年5月25日) (矢印はごく小規模な噴火を示す)
御嶽山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
山頂火口からの噴煙は白色で、火口縁上概ね300m以下で経過しています。
山頂直下の地震活動は、回数は少ないながらも継続しています。
GNSS連続観測によると、2014年10月以降、山体付近の収縮によると考えられる縮みの傾向がみられています。
2014年10月以降噴火の発生はなく、火山活動は緩やかな低下傾向が続いていますが、山頂火口の噴煙活動や地震活動は続いているため、今後も小規模な噴火が発生する可能性があります。火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。また風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石が遠方まで風に流されて降るため注意してください。
ベヨネース列岩 [噴火警報(周辺海域警戒)及び火山現象に関する海上警報]
海上保安庁、第三管区海上保安本部によるこれまでの観測では、明神礁付近では火山活動によるとみられる変色水や気泡が時々観測されるなど、活動は活発な状態が続いています。今後、小規模な海底噴火が発生する可能性がありますので、明神礁付近及び周辺海域では海底噴火に警戒してください。また、周辺海域では海底噴火による浮遊物(軽石等)に注意してください。
西之島 [火口周辺警報(入山危険)及び火山現象に関する海上警報]
海上保安庁、第三管区海上保安本部、海上自衛隊によるこれまでの観測では、噴火活動の継続が確認されており、火山活動は活発な状態で経過しています。今後も噴火が継続する可能性がありますので、火口から概ね1.5kmの範囲では噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。
硫黄島 [火口周辺警報(火口周辺危険)及び火山現象に関する海上警報]
火山性地震は、やや少ない状態で経過しています。火山性微動は観測されていません。
GNSS連続観測によると、地殻変動は長期的に隆起及び停滞を繰り返しています。最近では、2017年1月頃から隆起速度がやや上がった状態が続いています。
監視カメラでは特段の変化は認められません。
硫黄島の島内は全体に地温が高く、多くの噴気地帯や噴気孔があり、過去には各所で小規模な噴火が発生しています。
火山活動はやや活発な状態で経過しており、火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されますので、以前に小規模な噴火が発生した地点(ミリオンダラーホール(旧噴火口)等)及びその周辺では引き続き噴火に警戒してください。
福徳岡ノ場 [噴火警報(周辺海域警戒)及び火山現象に関する海上警報]
海上保安庁、第三管区海上保安本部、海上自衛隊及び気象庁によるこれまでの観測によると、福徳岡ノ場付近の海面には長期にわたり火山活動によるとみられる変色水等が確認されるなど、活動はやや活発な状態で経過しています。今後も小規模な海底噴火が発生すると予想されますので、周辺海域では海底噴火に警戒してください。また、周辺海域では海底噴火による浮遊物(軽石等)に注意してください。
霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺) [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
えびの高原(硫黄山)周辺では、2015年12月頃から長期的に熱異常域6)の拡大や噴気量の増加が認められています。こうした中で、本年4月25日11時頃から硫黄山南西観測点の傾斜計で、硫黄山付近が隆起する傾斜変動がみられています。
19日及び22日に実施した現地調査では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量7)は両日とも1日あたり10トン未満(前回16日10トン)でした。硫黄山周辺では、明らかに感じる程度の火山ガスの臭気を確認しました。また、硫黄山火口周辺で引き続き噴気活動や大きな噴気音が認められました。赤外熱映像装置による観測では、硫黄山火口周辺で引き続き熱異常域が認められました。硫黄山火口外では噴出物は確認されませんでした。
監視カメラによる観測では、噴気が一時的に稜線上100mまで上がるなど、活発な噴気活動が続いています。
火山性地震は少ない状態で経過しています。火山性微動は観測されていません。
えびの高原の硫黄山から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。風下側では、降灰及び風の影響を受ける小さな噴石(火山れき8))に注意してください。
桜島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]
桜島では、活発な噴火活動が続いています。
昭和火口では、噴火が15回発生し、このうち6回が爆発的噴火でした。弾道を描いて飛散する大きな噴石が最大で5合目(昭和火口より500m~800m)まで達しました。23日21時18分の噴火では、やや多量の噴煙が火口縁上3,300mまで上がりました。同火口では、25日に高感度の監視カメラで確認できる程度の微弱な火映が観測されました。
南岳山頂火口では、19日から20日にかけてごく小規模な噴火が発生しました。
火山性地震は少ない状態で経過しています。噴火に伴う火山性微動が発生しました。
姶良カルデラの地下深部の膨張が継続していることから、今後も噴火活動が継続すると考えられます。
昭和火口及び南岳山頂火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石及び火砕流9)に警戒してください。風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石(火山れき8))が遠方まで風に流されて降るため注意してください。爆発的噴火に伴う大きな空振によって窓ガラスが割れるなどのおそれがあるため注意してください。また、降雨時には土石流に注意してください。
口永良部島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]
口永良部島では、噴火は観測されていません。
新岳火口では、白色の噴煙が最高で火口縁上600mまで上がりました。
火山性地震は、少ない状態で経過しています。火山性微動は観測されていません。
地殻変動観測では、火山活動に伴う特段の変化は認められません。
4月30日から5月20日にかけて東京大学大学院理学系研究科、京都大学防災研究所、屋久島町及び気象庁が実施した観測では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は1日あたり100~500トンでした。
23日から25日にかけて実施した現地調査では、前回(5月10~11日)と比べて噴煙及び熱異常域の状況に変化は認められませんでした。また、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は1日あたり200トンでした。
新岳火口付近のごく浅い地震の増加が時々みられることや、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量が2014年8月の噴火前よりもやや多い状態で経過していることから、2015年5月29日と同程度の噴火が発生する可能性は低くなっているものの、引き続き噴火の可能性があります。
新岳火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石及び火砕流に警戒してください。向江浜地区から新岳の南西にかけての火口から海岸までの範囲では、火砕流に警戒してください。風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石が風に流されて降るおそれがあるため注意してください。降雨時には土石流の可能性があるため注意してください。
諏訪之瀬島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
諏訪之瀬島では、噴火は観測されていません。
御岳(おたけ)火口では、白色の噴煙が最高で火口縁上900mまで上がりました。同火口では、期間を通して夜間に高感度の監視カメラで火映が観測されました。
火山性地震は、少ない状態で経過しています。火山性微動は、17日から20日にかけて概ね連続して発生しました。
諏訪之瀬島では、長期にわたり噴火を繰り返しています。今後も火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されますので、火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。風下側では火山灰だけでなく小さな噴石が遠方まで風に流されて降るおそれがあるため注意してください。
【噴火予報発表中の火山の活動状況及び予報事項】
伊豆大島 [噴火予報(噴火警戒レベル1、活火山であることに留意)]
22日に主に伊豆大島西方沖を震源とする火山性地震が一時的に増加しました。18時42分に発生した地震(マグニチュード2.7)では、伊豆大島町元町で震度2を観測しました。
伊豆大島では、これまでも一時的な地震増加が繰り返し発生しています。伊豆大島の地殻変動観測では以前から周期的な膨張・収縮がみられており、こうした地震活動は膨張の変動に関連して発生していると考えられます。
低周波地震や火山性微動は観測されていません。また、地震増加に伴う噴気や地殻変動の顕著な変化は観測されておらず、噴火の兆候は認められません。
噴火予報(噴火警戒レベル1、活火山であることに留意)の予報事項に変更はありません。
霧島山(新燃岳) [噴火予報(噴火警戒レベル1、活火山であることに留意)]←26日(期間外)に噴火警戒レベル2(火口周辺規制)から引下げ
新燃岳では、2011年1月からの噴火活動が収まり、同年9月7日を最後に噴火は発生していません。火口内に蓄積した溶岩のわずかな膨張が継続してきたことから小規模な噴火の可能性があると判断してきましたが、2016年夏頃から膨張は停滞しています。同年10月以降に火口付近で繰り返し行った現地調査でも火口内及び周辺の噴気や熱異常域の状況に変化はみられませんでした。また火口近傍の傾斜計による地殻変動観測、地震活動等その他の観測データにも特段の活動の高まりを示す変化はみられていません。
これらのことから、新燃岳では火口周辺に影響を及ぼす噴火の兆候は認められなくなったと判断し、26日14時00分(期間外)に噴火予報を発表し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。
活火山であることから、火口内及び西側斜面の割れ目付近では、火山灰や火山ガス等の規模の小さな噴出現象が突発的に発生する可能性がありますので注意してください。
なお、これまでの噴火による火山灰などの堆積等により道路や登山道等が危険な状態となっている可能性があるため、引き続き地元自治体等が行う立入規制等に留意してください。
上記以外の火山では、期間中、火山活動に特段の変化はなく、予報事項に変更はありません。
全国の常時観測火山の観測データは、気象庁ホームページでもご覧になれます。
http://www.data.jma.go.jp/vois/data/tokyo/open-data/data_index.html
1) 火山体の南側で全磁力を観測した場合、全磁力値が減少すると火山体内部で温度上昇が、全磁力値が増加すると火山体内部で温度低下が生じていると推定されます。
2) 噴石は、その大きさによる風の影響の程度の違いによって到達範囲が大きく異なります。本文中「大きな噴石」とは「風の影響を受けず弾道を描いて飛散する大きな噴石」のことであり、「小さな噴石」とはそれより小さく「風に流されて降る小さな噴石」のことです。
3) 傾斜計とは、火山活動による山体の傾きを精密に観測する機器です。火山体直下へのマグマの貫入等により変化が観測されることがあります。1μrad(マイクロラジアン)は1km先が1mm上下するような変化量です。
4) GNSS(Global Navigation Satellite Systems)とは、GPSをはじめとする衛星測位システム全般を示す呼称です。
5) 火映とは、赤熱した溶岩や高温のガス等が、噴煙や雲に映って明るく見える現象です。
6) 赤外熱映像装置による。赤外熱映像装置とは、物体が放射する赤外線を感知して温度分布を測定する測器です。熱源から離れた場所から測定することができる利点がありますが、測定距離や大気等の影響で実際の熱源の温度よりも低く測定される場合があります。
7) 火口から放出される火山ガスには、マグマに溶けていた水蒸気や二酸化硫黄、硫化水素など様々な成分が含まれており、これらのうち、二酸化硫黄はマグマが浅部へ上昇するとその放出量が増加します。気象庁では、二酸化硫黄の放出量を観測し、火山活動の評価に活用しています。
8) 霧島山・桜島では「火山れき」の用語が地元で定着していると考えられることから、付加表現しています。
9) 火砕流とは、火山灰や岩塊、火山ガスや空気が一体となって急速に山体を流下する現象です。火砕流の速度は時速数十kmから時速百km以上、温度は数百℃にも達することがあります。
注)本資料には速報的な内容を含みます。データについては精査により、後日修正することがあります。
詳細については、毎月発表の火山活動解説資料を参照してください。
表2 火山現象に関する警報等の発表履歴 (5月19日~5月25日)
発表日時 | 火山名 | 特別警報・ 警報・予報 |
概要 |
5月19日 00時10分 5月23日 21時32分 5月24日 22時09分 5月25日 16時21分 |
桜島 | 降灰予報(速報) | 噴火発生から1時間以内に予想される降灰量分布や小さな噴石の落下範囲を予想 |
5月19日 00時24分 5月23日 21時45分 5月24日 22時24分 5月25日 16時37分 |
桜島 | 降灰予報(詳細) | 噴火発生から6時間先までに予想される降灰量分布や降灰開始時刻を予想 |
毎日 02時から3時間毎に8回 | 霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺) 桜島 口永良部島 諏訪之瀬島 |
降灰予報(定時) | 噴火した場合に予想される、降灰範囲及び小さな噴石の落下範囲を予想 |
【参考】 火山現象に関する警報等と噴火警戒レベル等の対応表
特別警報・警報・予報 | 噴火警戒レベルとキーワード | 噴火警戒レベルを運用していない火山に対するキーワード |
噴火警報※ | レベル5(避難) | 居住地域厳重警戒 |
レベル4(避難準備) | ||
火口周辺警報 | レベル3(入山規制) | 入山危険 |
レベル2(火口周辺規制) | 火口周辺危険 | |
噴火予報 | レベル1(活火山であることに留意) | 活火山であることに留意 |
海底火山については、噴火警報(周辺海域)(キーワード:周辺海域警戒)と噴火予報(キーワード:活火山であることに留意)で発表します。
※印のついた噴火警報は、特別警報に位置づけられています。