平成29年 No.8 週間火山概況 (2月17日~2月23日)
【火山現象に関する警報等の発表状況】
24日(期間外)に薩摩硫黄島の噴火予報を発表し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。その他の火山については、噴火に関する予報警報事項(警戒が必要な事項)に変更はありません。表1 2月23日現在の火山現象に関する警報等の発表状況
特別警報・警報・予報 | 噴火警戒レベル及びキーワード | 該当火山 |
火口周辺警報 | レベル3(入山規制) | 桜島、口永良部島 |
レベル2(火口周辺規制) | 草津白根山、浅間山、御嶽山、霧島山(新燃岳)、諏訪之瀬島 | |
火口周辺危険 | 硫黄島※ | |
噴火警報(周辺海域) | 周辺海域警戒 | 福徳岡ノ場※ |
噴火予報 | レベル1(活火山であることに留意) | アトサヌプリ、雌阿寒岳、十勝岳、樽前山、倶多楽、有珠山、北海道駒ヶ岳、恵山、岩木山、秋田焼山、岩手山、秋田駒ヶ岳、蔵王山、吾妻山、安達太良山、磐梯山、那須岳、日光白根山、新潟焼山、焼岳、白山、富士山、箱根山、伊豆東部火山群、伊豆大島、三宅島、鶴見岳・伽藍岳、九重山、阿蘇山、雲仙岳、霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺)、霧島山(御鉢) 、薩摩硫黄島 |
活火山であることに留意 | 上記以外の活火山 |
図1 噴火警報及び火山現象に関する海上警報を発表中の火山(2月24日14時現在)
【警報発表中の火山の活動状況及び警報事項】
草津白根山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
監視カメラによる観測では、引き続き湯釜北側噴気地帯の噴気孔から噴気が認められており、湯釜火口及び水釜火口周辺の熱活動が高まった状態は継続していると推定されます。全磁力観測1)によると、2014年5月以降の湯釜近傍地下の温度上昇を示唆する変化は、2014年7月に停滞したものの、温度低下を示唆する変化には転じていません。また、東京工業大学によると、2014年以降、湯釜湖水の化学組成は火山活動の活発化を示す状態が確認されています。
東京工業大学の監視カメラ(湯釜火口内)では、火口内に特段の変化は認められません。火山性地震は少なく、地殻変動観測に特段の変化は認められません。
小規模な噴火が発生する可能性があるため、湯釜火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石2)に警戒してください。地元自治体等の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石2)が遠方まで風に流されて降るため注意してください。また、ところどころで火山ガスの噴出がみられ、周辺のくぼ地や谷地形などでは滞留した火山ガスが高濃度になることがありますので、注意してください。
浅間山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
山頂火口からの噴煙は白色で、火口縁上概ね400m以下で経過しています。21日に実施した現地調査では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量3)は1日あたり3,000トン(前回2月13日1,900トン)と多い状態が継続しています。山頂火口では、高感度の監視カメラで確認できる程度の微弱な火映4)が19日に観測されました。
山頂直下のごく浅い所を震源とする火山性地震は、多い状態で経過しています(図2)。火山性微動は観測されていません。
山頂の南南西にある塩野山の傾斜計5)では、2015年6月上旬頃から12月にかけて観測された北または北西上がりのわずかな変化が、2016年12月頃から再び観測されています。国土地理院のGNSS6)連続観測によると、浅間山を南北に挟む基線で2016年秋頃から小さな伸びがみられています。
火山活動はやや活発な状態で経過しています。今後も火口周辺に影響を及ぼす小規模な噴火が発生する可能性があるため、山頂火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。登山者等は地元自治体等の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。また風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石が遠方まで風に流されて降るため注意してください。
図2 図2 浅間山 火山性地震の日別回数(2014年1月1日~2017年2月23日) (矢印はごく小規模な噴火を示す)
御嶽山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
山頂火口からの噴煙は白色で、火口縁上概ね100m以下で経過しています。
火山性地震は、少ない状態で経過しています。
GNSS連続観測によると、2014年10月以降、山体付近の収縮によると考えられる縮みの傾向がみられています。
2014年10月以降噴火の発生はなく、火山活動は緩やかな低下傾向が続いていますが、山頂火口の噴煙活動や地震活動は続いているため、今後も小規模な噴火が発生する可能性があります。火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。また風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石が遠方まで風に流されて降るため注意してください。
硫黄島 [火口周辺警報(火口周辺危険)及び火山現象に関する海上警報]
火山性地震は、やや少ない状態で経過しています。火山性微動は観測されていません。
監視カメラでは特段の変化は認められません。
GNSS連続観測によると、地殻変動は隆起及び停滞を繰り返しています。
硫黄島の島内は全体に地温が高く、多くの噴気地帯や噴気孔があり、過去には各所で小規模な噴火が発生しています。
火山活動はやや活発な状態で経過しており、火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されますので、従来から小規模な噴火が発生した地点(ミリオンダラーホール(旧噴火口)等)及びその周辺では引き続き噴火に警戒してください。
福徳岡ノ場 [噴火警報(周辺海域警戒)及び火山現象に関する海上警報]
これまでの海上保安庁海洋情報部、第三管区海上保安本部、海上自衛隊及び気象庁による観測によると、福徳岡ノ場付近の海面には長期にわたり火山活動によるとみられる変色水等が確認されるなど、やや活発な状態で経過しています。今後も小規模な海底噴火が発生すると予想されますので、周辺海域では噴火に警戒してください。
霧島山(新燃岳) [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
火山性地震は、少ない状態で経過しています。火山性微動は観測されていません。
21日に実施した現地調査では、前回(2月8日)と同様に、火口内で消散する程度の噴煙と西側斜面の割れ目付近で弱い噴気を確認しました。また、赤外熱映像装置7)による観測では、これまでと同様に火口内及び西側斜面の割れ目付近で熱異常域を確認しました。
傾斜計では、火山活動に伴う特段の変化は認められません。
GNSS連続観測によると、新燃岳の北西数kmの地下深くにあると考えられるマグマだまりの膨張を示す地殻変動は、2015年1月頃から停滞しています。また、新燃岳周辺の一部の基線では、2015年5月頃からわずかに伸びの傾向が認められていましたが、その後停滞しています。
新燃岳では、火口内及び西側斜面で弱い噴気や熱異常域が引き続き確認されていることから、今後の火山活動の推移に注意してください。
桜島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]
桜島では、噴火は観測されていません。
南岳山頂火口では、白色の噴煙が最高で火口縁上200mまで上がりました。
火山性地震は、少ない状態で経過しています。火山性微動は観測されていません。
GNSS連続観測によると、姶良カルデラの膨張を示す基線の伸びの傾向は、2016年11月頃から一部の基線で鈍化が認められるものの、継続しています。
桜島の噴火活動は2016年8月以降低下していますが、姶良カルデラへのマグマの供給が継続していることから、火山活動が再び活発化する可能性があります。
昭和火口及び南岳山頂火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石及び火砕流8)に警戒してください。風下側では火山灰だけでなく小さな噴石(火山れき9))が遠方まで風に流されて降るため注意してください。爆発的噴火に伴う大きな空振によって窓ガラスが割れるなどのおそれがあるため注意してください。また、降雨時には土石流に注意してください。
口永良部島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]
火山性地震の回数は概ね多い状態で経過しています。火山性微動は観測されていません。
噴火は観測されておらず、白色の噴煙は最高で火口縁上800mまで上がりました。
18日に東京大学大学院理学系研究科、京都大学防災研究所、屋久島町及び気象庁が実施した観測では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は1日あたり200トンでした。
地殻変動観測では、火山活動に伴う特段の変化は認められません。
新岳火口付近のごく浅い地震の増加が見られていることや、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量が2014年8月の噴火前よりもやや多い状態で経過していることから、2015年5月29日と同程度の噴火が発生する可能性は低くなっているものの、引き続き噴火の可能性があります。
新岳火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石及び火砕流に警戒してください。向江浜地区から新岳の南西にかけての火口から海岸までの範囲では、火砕流に警戒してください。風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石が遠方まで風に流されて降るおそれがあるため注意してください。降雨時には土石流の可能性があるため注意してください。
諏訪之瀬島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
御岳(おたけ)火口では、18日に噴火が発生し、灰色の噴煙が最高で火口縁上1200mまで上がりました。十島村役場諏訪之瀬島出張所によると、火口から南南西4kmの集落で18日と20日に鳴動が確認されましたが、降灰は確認されませんでした。
同火口では、期間を通して夜間に高感度の監視カメラで火映が観測されました。
火山性地震は、少ない状態で経過しています。火山性微動は時々発生しました。
諏訪之瀬島では、活発な噴火活動が続いています。火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。風下側では火山灰だけでなく小さな噴石が遠方まで風に流されて降るおそれがあるため注意してください。
【噴火予報発表中の火山の活動状況及び予報事項】
薩摩硫黄島 [噴火予報(噴火警戒レベル1、活火山であることに留意)]←24日(期間外)に噴火警戒レベル2(火口周辺規制)から引下げ
薩摩硫黄島では、噴火は観測されていません。
白色の噴煙は最高で火口縁上800mまで上がりました。
21日に鹿児島県の協力を得て実施した上空からの観測では、これまでと比較して、噴煙や熱異常域の状況に特段の変化は認められませんでした。
火山性地震の回数は1月1日から増加し、1月7日から9日には日回数が50回以上と多い状態になりました。その後もやや多い状態で経過していましたが、1月下旬以降は徐々に減少し、2月5日以降は日回数が10回未満と少ない状態になっています。火山性微動は観測されていません。
地殻変動観測では、火山活動に伴う特段の変化は認められません。
薩摩硫黄島の火山活動は低下しており、火口周辺に影響を及ぼす噴火の兆候は認められなくなったと判断し、24日11時00分(期間外)に噴火予報を発表し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。
活火山であることから、火口内では火山灰等が噴出する可能性があります。また、火口付近では火山ガスに注意してください。なお、地元自治体等が実施している立入規制等に留意してください。
上記以外の火山では、期間中、火山活動に特段の変化はなく、予報事項に変更はありません。
全国の常時観測火山の観測データは、気象庁ホームページでもご覧になれます。
http://www.data.jma.go.jp/vois/data/tokyo/open-data/data_index.html
1) 火山体の南側で全磁力を観測した場合、全磁力値が減少すると火山体内部で温度上昇が、全磁力値が増加すると火山体内部で温度低下が生じていると推定されます。
2) 噴石は、その大きさによる風の影響の程度の違いによって到達範囲が大きく異なります。本文中「大きな噴石」とは「風の影響を受けず弾道を描いて飛散する大きな噴石」のことであり、「小さな噴石」とはそれより小さく「風に流されて降る小さな噴石」のことです。
3) 火口から放出される火山ガスには、マグマに溶けていた水蒸気や二酸化硫黄、硫化水素など様々な成分が含まれており、これらのうち、二酸化硫黄はマグマが浅部へ上昇するとその放出量が増加します。気象庁では、二酸化硫黄の放出量を観測し、火山活動の評価に活用しています。
4) 火映とは、赤熱した溶岩や高温のガス等が、噴煙や雲に映って明るく見える現象です。
5) 傾斜計とは、火山活動による山体の傾きを精密に観測する機器です。火山体直下へのマグマの貫入等により変化が観測されることがあります。1μrad(マイクロラジアン)は1km先が1mm上下するような変化量です。
6) GNSS(Global Navigation Satellite Systems)とは、GPSをはじめとする衛星測位システム全般を示す呼称です。
7) 赤外熱映像装置とは、物体が放射する赤外線を感知して温度分布を測定する測器です。熱源から離れた場所から測定することができる利点がありますが、測定距離や大気等の影響で実際の熱源の温度よりも低く測定される場合があります。
8) 火砕流とは、火山灰や岩塊、空気や水蒸気が一体となって急速に山体を流下する現象です。火砕流の速度は時速数十kmから時速百km以上、温度は数百℃にも達することがあります。
9) 霧島山・桜島では「火山れき」の用語が地元で定着していると考えられることから、付加表現しています。
注)本資料には速報的な内容を含みます。データについては精査により、後日修正することがあります。
詳細については、毎月発表の火山活動解説資料を参照してください。
表2 火山現象に関する警報等の発表履歴 (2月17日~2月23日)
発表日時 | 火山名 | 特別警報・ 警報・予報 |
概要 |
毎日 02時から3時間毎に8回 | 桜島 薩摩硫黄島 口永良部島 諏訪之瀬島 |
降灰予報(定時) | 噴火した場合に予想される、降灰範囲及び小さな噴石の落下範囲を予想 |
【参考】 火山現象に関する警報等と噴火警戒レベル等の対応表
特別警報・警報・予報 | 噴火警戒レベルとキーワード | 噴火警戒レベルを運用していない火山に対するキーワード |
噴火警報※ | レベル5(避難) | 居住地域厳重警戒 |
レベル4(避難準備) | ||
火口周辺警報 | レベル3(入山規制) | 入山危険 |
レベル2(火口周辺規制) | 火口周辺危険 | |
噴火予報 | レベル1(活火山であることに留意) | 活火山であることに留意 |
海底火山については、噴火警報(周辺海域)(キーワード:周辺海域警戒)と噴火予報(キーワード:活火山であることに留意)で発表します。
※印のついた噴火警報は、特別警報に位置づけられています。