平成28年 No.30 週間火山概況 (7月15日~7月21日)
【火山現象に関する警報等の発表状況】
いずれの火山についても、噴火に関する予報警報事項(警戒が必要な事項)に変更はありません。表1 7月21日現在の火山現象に関する警報等の発表状況
特別警報・警報・予報 | 噴火警戒レベル及びキーワード | 該当火山 |
火口周辺警報 | レベル3(入山規制) | 桜島、口永良部島 |
入山危険 | 西之島※ | |
レベル2(火口周辺規制) | 吾妻山、草津白根山、浅間山、御嶽山、阿蘇山、霧島山(新燃岳)、諏訪之瀬島 | |
火口周辺危険 | 硫黄島※ | |
噴火警報(周辺海域) | 周辺海域警戒 | 福徳岡ノ場※ |
噴火予報 | レベル1(活火山であることに留意) | アトサヌプリ、雌阿寒岳、十勝岳、樽前山、倶多楽、有珠山、北海道駒ヶ岳、恵山、秋田焼山、岩手山、秋田駒ヶ岳、安達太良山、磐梯山、那須岳、新潟焼山、焼岳、白山、富士山、箱根山、伊豆東部火山群、伊豆大島、三宅島、九重山、雲仙岳、霧島山(御鉢)、薩摩硫黄島 |
活火山であることに留意 | 上記以外の活火山 |
図1 噴火警報及び火山現象に関する海上警報を発表中の火山(7月21日現在)
【警報発表中の火山の活動状況及び警報事項】
吾妻山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
火山活動はやや活発な状態で経過しています。
遠望カメラの観測では、大穴火口からの噴気の高さの最高は50mで、やや活発な状態が続いています。
20日に実施した現地調査では、昨年(2015年)10月に新たな噴気が確認された大穴火口北西で、引き続き複数の弱い噴気と地熱域1)がみられました。前回(5月19日)と比べて特段の変化は認められませんでした。大穴火口の噴気及び地熱域には特段の変化はみられませんでした。
火山性地震は少ない状態で経過しています。火山性微動は観測されていません。
浄土平の傾斜計2)では、2014年7月頃から西南西側(火口方向側)上がりの変動で推移した後、2015年7月頃から停滞していましたが、2015年9月頃から西側下がりの傾向となっています。
GNSS3)連続観測では、2014年9月頃から一切経山付近の膨張を示す緩やかな変化がみられていましたが、2015年7月頃から停滞または縮みの傾向となっています。
大穴火口及び周辺の噴気活動はやや活発な状態が続いていることから、大穴火口付近では小規模な噴火が発生する可能性がありますので、大穴火口周辺(火口から概ね500mの範囲)では弾道を描いて飛散する大きな噴石4)に警戒してください。地元自治体等の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。また、大穴火口の風下側では降灰及び風の影響を受ける小さな噴石4)、火山ガスに注意してください。
草津白根山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
火山活動はやや活発な状態で経過しています。
湯釜火口の北から北東内壁及び水釜火口の北から北東側にかけての斜面での熱活動や、北側噴気地帯での活発な噴気活動が継続しています。東京工業大学によると、北側噴気地帯のガス組成と湯釜湖水の化学成分には火山活動の活発化を示す変化が引き続きみられ、湯釜の水温は平年よりも高い状態が続いています。
火山性地震は少ない状態で経過しています。
GNSS3)連続観測によると、2014年4月頃からみられる湯釜を挟む基線のわずかな伸びの変化は、2015年11月頃より停滞しています。東京工業大学によると、湯釜周辺に設置した傾斜計2)では、2014年3月から湯釜付近浅部での膨張を示すと考えられる変動が観測されていましたが、2015年10月頃から収縮を示すと考えられる変動に変化しています。全磁力5)観測によると、2014年5月以降の湯釜近傍地下の温度上昇を示すと考えられる変化は、2014年7月以降停滞しています。
小規模な噴火が発生する可能性があることから、湯釜火口から概ね1㎞の範囲では噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石4)に警戒してください。地元自治体等の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。また、ところどころで火山ガスの噴出が見られ、周辺のくぼ地や谷地形などでは滞留した火山ガスが高濃度になることがありますので、注意してください。
浅間山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
火山活動はやや活発な状態で経過しています。
山頂火口からの噴煙は白色で、火口縁上概ね200m以下で経過しています。火映6)は観測されませんでした。山頂直下のごく浅い所を震源とする体に感じない火山性地震は、やや多い状態で経過しています(図2)。火山性微動は、2016年1月以降やや増加しています。
光波測距観測7)やGNSS3)連続観測では、特段の変化は認められていません。塩野山の傾斜計2)では、2015年6月上旬頃から北ないし北西上がりの緩やかな変化がみられています。
今後も火口周辺に影響を及ぼす小規模な噴火が発生する可能性がありますので、山頂火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石4)に警戒してください。登山者等は地元自治体等の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。風下側では降灰及び風の影響を受ける小さな噴石4)に注意してください。
図2 浅間山 火山性地震の日別回数(2015年4月1日~2016年7月21日)(矢印はごく小規模な噴火を示す)
御嶽山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
2014年10月以降噴火の発生はなく、火山活動は緩やかな低下傾向が続いています。山頂火口からの噴煙は白色で、火口縁上概ね300m以下で経過しています。
火山性地震は、やや少ない状態で経過していますが、2014年8月以前の状態には戻っていません。
GNSS3)連続観測によると、2014年10月以降、山体付近の収縮によると考えられる縮みの傾向がみられています。
山頂火口からの噴煙活動や地震活動は続いており、今後も小規模な噴火が発生する可能性があります。火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石4)に警戒してください。風下側では降灰及び風の影響を受ける小さな噴石4)に注意してください。
西之島 [火口周辺警報(入山危険)及び火山現象に関する海上警報]
海上保安庁の観測によると、6月7日の観測では火口から少量の白色噴気の放出が確認されましたが、7月19日の観測では噴気の放出は確認されませんでした。
これまでの観測によると、2013年11月以降続いていた噴石等を放出する噴火や溶岩の流出は、2015年11月下旬以降はいずれも確認されておらず、島の面積の拡大も停止しているものとみられます。2015年12月以降の地表面温度の低下は継続しています。
西之島では、火山活動に明らかな低下が認められ、噴火の可能性はかなり低くなっているものの、火山ガスや噴気が時々観測されており、小規模な噴火が発生する可能性は否定できません。
火口から概ね1.5kmの範囲では噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石4)に警戒してください。また、火口から半径0.9海里以内の周辺海域では、噴火による影響が及ぶおそれがありますので、噴火に警戒してください。
硫黄島 [火口周辺警報(火口周辺危険)及び火山現象に関する海上警報]
火山性地震はやや少ない状態で経過しています。火山性微動は観測されませんでした。
GNSS3)連続観測によると、地殻変動は隆起及び停滞を繰り返しています。
硫黄島の島内は全体に地温が高く、多くの噴気地帯や噴気孔があり、過去には各所で小規模な噴火が発生しています。このことから火山活動はやや活発な状態で経過しており、火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されますので、従来から小規模な噴火が発生した地点(ミリオンダラーホール(旧噴火口)等)及びその周辺では引き続き噴火に警戒してください。
福徳岡ノ場 [噴火警報(周辺海域警戒)及び火山現象に関する海上警報]
これまでの海上保安庁海洋情報部、第三管区海上保安本部、海上自衛隊及び気象庁による観測によると、福徳岡ノ場付近の海面には長期にわたり火山活動によるとみられる変色水等が確認されるなど、やや活発な状態で経過しています。今後も小規模な海底噴火が発生すると予想されますので、周辺海域では噴火に警戒してください。
阿蘇山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
中岳第一火口では、噴火は観測されていません。
遠望観測では、白色の噴煙が最高で火口縁上700mまで上がりました。
15日に実施した現地調査では、前回(5日)に引き続き、中岳第一火口内に灰色の湯だまり及びごく小規模な土砂噴出を確認しました。
火山性微動の振幅は、やや大きな状態で経過しました(図3)。
地殻変動観測では、火山活動に伴う特段の変化は認められません。
中岳第一火口では、時々小規模な噴火が発生していることから、今後も火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生する可能性があります。
火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石4)及び火砕流8)に警戒してください。風下側では降灰、風の影響を受ける小さな噴石4)及び火山ガスに注意してください。
図3 阿蘇山 古坊中観測点上下成分の1分間平均振幅(2016年1月1日~2016年7月21日)
霧島山(新燃岳) [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
火山性地震は少ない状態で経過しました。火山性微動は観測されていません。
傾斜計2)では、火山活動に伴う特段の変化は認められません。
20日に実施した新湯温泉付近からの赤外熱映像装置1)による観測では、新燃岳西側斜面の割れ目付近で引き続き熱異常域を確認しましたが、前回(5月23日)と比べて特段の変化は認められませんでした。
GNSS3)連続観測によると、新燃岳の北西数kmの地下深くにあると考えられるマグマだまりの膨張を示す地殻変動は、2015年1月頃から停滞しています。一方、新燃岳周辺の一部の基線では、わずかな伸びの傾向が認められていましたが、2015年10月頃から停滞しています。
新燃岳では火口周辺に影響を及ぼす小規模な噴火が発生する可能性があります。新燃岳火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石4)に警戒してください。風下側では火山灰だけでなく小さな噴石4)(火山れき9))が風に流されて降るおそれがあるため注意してください。降雨時には、泥流や土石流に注意してください。
桜島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]
桜島では、噴火は観測されていません。
火山性地震は少ない状態で経過しました。火山性微動は観測されていません。
15日に実施した現地調査では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量10)は、1日あたり30トン(前回5日60トン)と少ない状態でした。
GNSS3)連続観測では、姶良カルデラの膨張が続いていることから、火山活動のさらなる活発化の可能性もあり、注意が必要です。
昭和火口及び南岳山頂火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石4)及び火砕流8)に警戒してください。風下側では火山灰だけでなく小さな噴石4)(火山れき9))が遠方まで風に流されて降るため注意してください。爆発的噴火に伴う大きな空振によって窓ガラスが割れるなどのおそれがあるため注意してください。また、降雨時には土石流に注意してください。
口永良部島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]
口永良部島では、2015年6月19日のごく小規模な噴火後、噴火は観測されていません。
遠望観測では、白色の噴煙が最高で火口縁上400mまで上がりました。
火山性地震は少ない状態で経過し、火山性微動は観測されていません。
地殻変動観測では、新岳火口を挟むGNSS3)の基線長が、2016年1月頃から収縮に転じているとみられます。
火山ガス(二酸化硫黄)の放出量10)は、2014年8月の噴火前よりはやや多い状態です。
これらのことから、2015年5月29日と同程度の噴火の可能性はさらに低くなっていますが、引き続き噴火の可能性があります。
新岳火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石4)及び火砕流8)に警戒してください。向江浜地区から新岳の南西にかけての火口から海岸までの範囲では、火砕流に警戒してください。風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石4)が風に流されて降るおそれがあるため注意してください。降雨時には土石流の可能性があるため注意してください。
諏訪之瀬島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
御岳(おたけ)火口では、17日から19日にかけて噴火が時々発生し、灰白色の噴煙が最高で火口縁上1,900mまで上がりました。
同火口では、18日に夜間に高感度カメラで火映を観測しました。
火山性地震は少ない状態で経過しました。火山性微動は時々発生しました。
今後も火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されます。
御岳火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石4)に警戒してください。風下側では火山灰だけでなく小さな噴石4)が風に流されて降るおそれがあるため注意してください。
上記以外の火山では、期間中、火山活動に特段の変化はなく、予報事項に変更はありません。
1) 赤外熱映像装置による。赤外熱映像装置とは、物体が放射する赤外線を感知して温度分布を測定する測器です。熱源から離れた場所から測定することができる利点がありますが、測定距離や大気等の影響で実際の熱源の温度よりも低く測定される場合があります。
2) 傾斜計とは、火山活動による山体の傾きを精密に観測する機器。火山体直下へのマグマの貫入等により変化が観測されることがあります。1μrad(マイクロラジアン)は1km先が1mm上下するような変化量です。
3) GNSS(Global Navigation Satellite Systems)とは、GPSをはじめとする衛星測位システム全般を示す呼称です。
4) 噴石は、その大きさによる風の影響の程度の違いによって到達範囲が大きく異なります。本文中「大きな噴石」とは「風の影響を受けず弾道を描いて飛散する大きな噴石」のことであり、「小さな噴石」とはそれより小さく「風に流されて降る小さな噴石」のことです。
5) 火山体の南側で全磁力を観測した場合、全磁力値が減少すると火山体内部で温度上昇が、全磁力値が増加すると火山体内部で温度低下が生じていると推定されます。
6) 火映とは、赤熱した溶岩や高温のガス等が、噴煙や雲に映って明るく見える現象です。
7) 光波測距観測とは、レーザなどを用いて山体に設置した反射鏡までの距離を測定する機器を用いて、山体の膨張や収縮による距離の変化を観測します。
8) 火砕流とは、火山灰や岩塊、空気や水蒸気が一体となって急速に山体を流下する現象です。火砕流の速度は時速数十kmから百数km、温度は数百℃にも達することがあります。
9) 霧島山・桜島では「火山れき」の用語が地元で定着していると考えられることから、付加表現しています。
10) 火口から放出される火山ガスには、マグマに溶けていた水蒸気や二酸化硫黄、硫化水素など様々な成分が含まれており、これらのうち、二酸化硫黄はマグマが浅部へ上昇するとその放出量が増加します。気象庁では、二酸化硫黄の放出量を観測し、火山活動の評価に活用しています。
注)本資料には速報的な内容を含みます。データについては精査により、後日修正することがあります。
詳細については、毎月発表の火山活動解説資料を参照してください。
表2 火山現象に関する警報等の発表履歴 (7月15日~7月21日)
発表日時 | 火山名 | 特別警報・ 警報・予報 |
概要 |
7月18日19時05分 | 諏訪之瀬島 | 降灰予報(詳細) | 噴火発生から6時間先までに予想される降灰量分布や降灰開始時刻を予想 |
7月18日21時20分 | |||
毎日 02時から3時間毎に8回 | 阿蘇山 桜島 口永良部島 諏訪之瀬島 |
降灰予報(定時) | 噴火した場合に予想される、降灰範囲及び小さな噴石の落下範囲を予想 |
【参考】 火山現象に関する警報等と噴火警戒レベル等の対応表
特別警報・警報・予報 | 噴火警戒レベルとキーワード | 噴火警戒レベルを運用していない火山に対するキーワード |
噴火警報※ | レベル5(避難) | 居住地域厳重警戒 |
レベル4(避難準備) | ||
火口周辺警報 | レベル3(入山規制) | 入山危険 |
レベル2(火口周辺規制) | 火口周辺危険 | |
噴火予報 | レベル1(活火山であることに留意) | 活火山であることに留意 |
海底火山については、噴火警報(周辺海域)(キーワード:周辺海域警戒)と噴火予報(キーワード:活火山であることに留意)で発表します。
※印のついた噴火警報は、特別警報に位置づけられています。