平成28年 No.28 週間火山概況 (7月1日~7月7日)
【火山現象に関する警報等の発表状況】
いずれの火山についても、噴火に関する予報警報事項(警戒が必要な事項)に変更はありません。表1 7月7日現在の火山現象に関する警報等の発表状況
特別警報・警報・予報 | 噴火警戒レベル及びキーワード | 該当火山 |
火口周辺警報 | レベル3(入山規制) | 桜島、口永良部島 |
入山危険 | 西之島※ | |
レベル2(火口周辺規制) | 吾妻山、草津白根山、浅間山、御嶽山、阿蘇山、霧島山(新燃岳)、諏訪之瀬島 | |
火口周辺危険 | 硫黄島※ | |
噴火警報(周辺海域) | 周辺海域警戒 | 福徳岡ノ場※ |
噴火予報 | レベル1(活火山であることに留意) | アトサヌプリ、雌阿寒岳、十勝岳、樽前山、倶多楽、有珠山、北海道駒ヶ岳、恵山、秋田焼山、岩手山、秋田駒ヶ岳、安達太良山、磐梯山、那須岳、新潟焼山、焼岳、白山、富士山、箱根山、伊豆東部火山群、伊豆大島、三宅島、九重山、雲仙岳、霧島山(御鉢)、薩摩硫黄島 |
活火山であることに留意 | 上記以外の活火山 |
図1 噴火警報及び火山現象に関する海上警報を発表中の火山(7月7日現在)
【警報発表中の火山の活動状況及び警報事項】
吾妻山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
火山活動はやや活発な状態で経過しています。
遠望カメラの観測では、大穴火口からの噴気の高さの最高は50mで、やや活発な状態が続いています。
火山性地震及び火山性微動は観測されていません。
浄土平の傾斜計1)では、2014年7月頃から西南西側(火口方向側)上がりの変動で推移した後、2015年7月頃から停滞していましたが、2015年9月頃から西側下がりの傾向となっています。
GNSS2)連続観測では、2014年9月頃から一切経山付近の膨張を示す緩やかな変化がみられていましたが、2015年7月頃から停滞または縮みの傾向となっています。
大穴火口及び周辺の噴気活動はやや活発な状態が続いていることから、大穴火口付近では小規模な噴火が発生する可能性がありますので、大穴火口周辺(火口から概ね500mの範囲)では弾道を描いて飛散する大きな噴石3)に警戒してください。地元自治体等の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。また、大穴火口の風下側では降灰及び風の影響を受ける小さな噴石3)、火山ガスに注意してください。
草津白根山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
火山活動はやや活発な状態で経過しています。
湯釜火口の北から北東内壁及び水釜火口の北から北東側にかけての斜面での熱活動や、北側噴気地帯での活発な噴気活動が継続しています。東京工業大学によると、北側噴気地帯のガス組成と湯釜湖水の化学成分には火山活動の活発化を示す変化が引き続きみられ、湯釜の水温は平年よりも高い状態が続いています。
火山性地震は少ない状態で経過しています。
GNSS2)連続観測によると、2014年4月頃からみられる湯釜を挟む基線のわずかな伸びの変化は、2015年11月頃より停滞しています。2016年5月中旬に山頂付近で実施したGNSS繰り返し観測では、湯釜近傍で収縮傾向がみられました。また、湯釜周辺に東京工業大学が設置した傾斜計1)によると、2014年3月から観測されている湯釜付近浅部での膨張を示す変動は、2015年11月頃から停滞傾向が認められています。全磁力4)観測によると、2014年5月以降の湯釜近傍地下の温度上昇を示すと考えられる変化は、2014年7月以降停滞しています。
小規模な噴火が発生する可能性があることから、湯釜火口から概ね1㎞の範囲では噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石3)に警戒してください。地元自治体等の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。また、ところどころで火山ガスの噴出が見られ、周辺のくぼ地や谷地形などでは滞留した火山ガスが高濃度になることがありますので、注意してください。
浅間山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
火山活動はやや活発な状態で経過しています。
山頂火口からの噴煙は白色で、火口縁上概ね400m以下で経過しています。6日に実施した現地調査では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量5)は1日あたり300トンと前回(6月24日700トン)より減少し、やや少ない状態でした。また、火口において火映6)は観測されませんでした。
山頂直下のごく浅い所を震源とする体に感じない火山性地震は、引き続きやや多い状態で経過しています(図2)。火山性微動は、2016年1月以降やや増加しています。
光波測距観測7)やGNSS2)連続観測では、特段の変化は認められていません。塩野山の傾斜計1)では、2015年6月上旬頃から北西上がりの緩やかな変化が12月頃にかけてみられました。その後はわずかな北上がりの変化がみられています。
今後も火口周辺に影響を及ぼす小規模な噴火が発生する可能性がありますので、山頂火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石3)に警戒してください。登山者等は地元自治体等の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。風下側では降灰及び風の影響を受ける小さな噴石3)に注意してください。
図2 浅間山 火山性地震の日別回数(2015年4月1日~2016年7月7日)(矢印はごく小規模な噴火を示す)
御嶽山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
2014年10月以降噴火の発生はなく、火山活動は緩やかな低下傾向が続いています。山頂火口からの噴煙は白色で、火口縁上概ね300m以下で経過しています。
火山性地震は、少ない状態で経過していますが、2014年8月以前の状態には戻っていません。
GNSS2)連続観測によると、2014年10月以降、山体付近の収縮によると考えられる縮みの傾向がみられています。
火口列からの噴煙活動や地震活動は続いており、今後も小規模な噴火が発生する可能性があります。火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石3)に警戒してください。風下側では降灰及び風の影響を受ける小さな噴石3)に注意してください。
西之島 [火口周辺警報(入山危険)及び火山現象に関する海上警報]
これまでの観測によると、2013年11月以降続いていた噴石等を放出する噴火や溶岩の流出は、2015年11月下旬以降はいずれも確認されておらず、島の面積の拡大も停止しているものとみられます。2015年12月以降の地表面温度の低下は継続しています。
西之島では、火山活動に明らかな低下が認められ、噴火の可能性はかなり低くなっているものの、火山ガスや噴気が時々観測されており、小規模な噴火が発生する可能性は否定できません。
火口から概ね1.5kmの範囲では噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石3)に警戒してください。また、火口から半径0.9海里以内の周辺海域では、噴火による影響が及ぶおそれがありますので、噴火に警戒してください。
硫黄島 [火口周辺警報(火口周辺危険)及び火山現象に関する海上警報]
火山性地震は少ない状態で経過しています。火山性微動は4回(前期間5回)観測しました。
GNSS2)連続観測によると、地殻変動は隆起及び停滞を繰り返しています。2014年以降は、島の北部ほど隆起が大きい状態が継続しています。
硫黄島の島内は全体に地温が高く、多くの噴気地帯や噴気孔があり、過去には各所で小規模な噴火が発生しています。このことから火山活動はやや活発な状態で経過しており、火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されますので、従来から小規模な噴火が発生した地点(ミリオンダラーホール(旧噴火口)等)及びその周辺では引き続き噴火に警戒してください。
福徳岡ノ場 [噴火警報(周辺海域警戒)及び火山現象に関する海上警報]
これまでの海上保安庁海洋情報部、第三管区海上保安本部、海上自衛隊及び気象庁による観測によると、福徳岡ノ場付近の海面には長期にわたり火山活動によるとみられる変色水等が確認されるなど、やや活発な状態で経過しています。今後も小規模な海底噴火が発生すると予想されますので、周辺海域では噴火に警戒してください。
阿蘇山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
中岳第一火口では、噴火は観測されていません。
遠望観測では、噴煙が最高で火口縁上700mまで上がりました。
4日と5日に実施した現地調査では、前回(6月10日)に引き続き、中岳第一火口内に灰白色の湯だまりを確認し、前回と比べ湯だまり量はやや増加しました。また、ごく小規模な土砂噴出を確認しました。
5日に実施した現地調査では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量5)は1日あたり1,200トン(前回6月15日1,900トン)と多い状態でした。
火山性微動の振幅は、小さな状態で経過しました(図3)。孤立型微動は多く、火山性地震は少ない状態でした。なお、火山性微動の振幅については、精査の結果、6月24日14時から7月3日07時30分頃までやや大きな状態(図3中の連続微動)であったと判断しています。
地殻変動観測では、火山活動に伴う特段の変化は認められません。
4月14日以降、「平成28年(2016年)熊本地震」による活発な地震活動が続いていますが、阿蘇山の火山活動には、この地震活動に伴う特段の変化はみられません。
中岳第一火口では、時々小規模な噴火が発生していることから、今後も火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生する可能性があります。
火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石3)及び火砕流8)に警戒してください。風下側では降灰、風の影響を受ける小さな噴石3)及び火山ガスに注意してください。
図3 阿蘇山 古坊中観測点上下成分の1分間平均振幅(2016年1月1日~2016年7月7日)
霧島山(新燃岳) [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
火山性地震は少ない状態で経過しました。火山性微動は観測されていません。
傾斜計1)では、火山活動に伴う特段の変化は認められません。
GNSS2)連続観測によると、新燃岳の北西数kmの地下深くにあると考えられるマグマだまりの膨張を示す地殻変動は、2015年1月頃から停滞しています。一方、新燃岳周辺の一部の基線では、わずかな伸びの傾向が認められていましたが、2015年10月頃から停滞しています。
新燃岳では火口周辺に影響を及ぼす小規模な噴火が発生する可能性がありますので、新燃岳火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石3)に警戒してください。風下側では火山灰だけでなく小さな噴石3)(火山れき9))が風に流されて降るおそれがあるため注意してください。降雨時には、泥流や土石流に注意してください。
桜島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]
昭和火口では、2日04時13分に爆発的噴火が発生しました。この噴火では噴煙が火口縁上1,200mを越え、弾道を描いて飛散する大きな噴石は5合目(昭和火口より500から800m)まで達しました。南岳山頂火口では、噴火は観測されませんでした。
火山性地震及び火山性微動は少ない状態で経過しました。
5日に実施した現地調査では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量5)は、1日あたり60トン(前回5月17日300トン)と少ない状態でした。
地殻変動観測では、姶良カルデラの膨張が続いていることから、火山活動のさらなる活発化の可能性もあり、火山活動の推移に注意が必要です。
昭和火口及び南岳山頂火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石3)及び火砕流8)に警戒してください。風下側では火山灰だけでなく小さな噴石3)(火山れき9))が遠方まで風に流されて降るため注意してください。爆発的噴火に伴う大きな空振によって窓ガラスが割れるなどのおそれがあるため注意してください。また、降雨時には土石流に注意してください。
口永良部島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]
口永良部島では、2015 年6月19日のごく小規模な噴火後、噴火は観測されていません。
遠望観測では、白色の噴煙が最高で火口縁上200mまで上がりました。
火山性地震は少ない状態で経過し、火山性微動は観測されていません。
GNSS2)連続観測では、新岳火口を挟むGNSS2)の基線長が、2016年1月頃から収縮に転じているとみられます。
火山ガス(二酸化硫黄)の放出量5)は、2014年8月の噴火前よりはやや多い状態です。
これらのことから、2015年5月29日と同程度の噴火の可能性はさらに低くなっていますが、引き続き噴火の可能性があります。
新岳火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石3)及び火砕流8)に警戒してください。向江浜地区から新岳の南西にかけての火口から海岸までの範囲では、火砕流に警戒してください。風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石3)が風に流されて降るおそれがあるため注意してください。降雨時には土石流の可能性があるため注意してください。
諏訪之瀬島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
御岳(おたけ)火口では、噴火は観測されていません。
同火口では、夜間に高感度カメラで火映6)を時々観測しました。
火山性地震は少ない状態で経過しました。火山性微動は観測されていません。
諏訪之瀬島では、長期にわたり噴火を繰り返しています。今後も火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されますので、火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石3)に警戒してください。風下側では火山灰だけでなく小さな噴石3)が風に流されて降るおそれがあるため注意してください。
【噴火予報発表中の火山の活動状況及び予報事項】
新潟焼山 [噴火予報(噴火警戒レベル1、活火山であることに留意)]
2015年夏頃から山頂部東側斜面の噴煙がやや高く上がる傾向が認められ、12月下旬からは噴煙量も多くなっています。GNSS2)の観測では、2016年1月頃から新潟焼山を南北に挟む基線で伸びがみられています。
5月1日に振幅の小さな火山性地震が増加した後、火山性地震は次第に減少していますが、2015年以降の地震回数は、2014年以前と比べてやや多い状態が続いています(図4)。
今後も、想定火口内(山頂から半径1km以内)に影響を及ぼすような噴火が発生するおそれがあるため、火山活動の推移に注意してください。
想定火口内は、平成28年3月2日から、地元自治体等により立入規制が実施されています。登山者等は地元自治体等の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。
図4 新潟焼山 火山性地震の日別回数(2014年1月1日~2016年7月7日)
上記以外の火山では、期間中、火山活動に特段の変化はなく、予報事項に変更はありません。
1) 傾斜計とは、火山活動による山体の傾きを精密に観測する機器。火山体直下へのマグマの貫入等により変化が観測されることがあります。1μrad(マイクロラジアン)は1km先が1mm上下するような変化量です。
2) GNSS(Global Navigation Satellite Systems)とは、GPSをはじめとする衛星測位システム全般を示す呼称です。
3) 噴石は、その大きさによる風の影響の程度の違いによって到達範囲が大きく異なります。本文中「大きな噴石」とは「風の影響を受けず弾道を描いて飛散する大きな噴石」のことであり、「小さな噴石」とはそれより小さく「風に流されて降る小さな噴石」のことです。
4) 火山体の南側で全磁力を観測した場合、全磁力値が減少すると火山体内部で温度上昇が、全磁力値が増加すると火山体内部で温度低下が生じていると推定されます。
5) 火口から放出される火山ガスには、マグマに溶けていた水蒸気や二酸化硫黄、硫化水素など様々な成分が含まれており、これらのうち、二酸化硫黄はマグマが浅部へ上昇するとその放出量が増加します。気象庁では、二酸化硫黄の放出量を観測し、火山活動の評価に活用しています。
6) 火映とは、赤熱した溶岩や高温のガス等が、噴煙や雲に映って明るく見える現象です。
7) 光波測距観測とは、レーザなどを用いて山体に設置した反射鏡までの距離を測定する機器を用いて、山体の膨張や収縮による距離の変化を観測します。
8) 火砕流とは、火山灰や岩塊、空気や水蒸気が一体となって急速に山体を流下する現象です。火砕流の速度は時速数十kmから百数km、温度は数百℃にも達することがあります。
9) 霧島山・桜島では「火山れき」の用語が地元で定着していると考えられることから、付加表現しています。
10) 高周波地震は、P波、S波が明瞭な地震波の周期が短い地震で、主に岩盤の破壊により発生します。低周波地震はP波、S波が不明瞭な地震波の周期の長い地震で、火口周辺の比較的浅い場所で発生するものは、火山ガスや熱水等の流体の移動、マグマの発泡などにより発生すると考えられています。
注)本資料には速報的な内容を含みます。データについては精査により、後日修正することがあります。
詳細については、毎月発表の火山活動解説資料を参照してください。
表2 火山現象に関する警報等の発表履歴 (7月1日~7月7日)
発表日時 | 火山名 | 特別警報・ 警報・予報 |
概要 |
毎日 02時から3時間毎に8回 | 阿蘇山 桜島 口永良部島 諏訪之瀬島 |
降灰予報(定時) | 噴火した場合に予想される、降灰範囲及び小さな噴石の落下範囲を予想 |
【参考】 火山現象に関する警報等と噴火警戒レベル等の対応表
特別警報・警報・予報 | 噴火警戒レベルとキーワード | 噴火警戒レベルを運用していない火山に対するキーワード |
噴火警報※ | レベル5(避難) | 居住地域厳重警戒 |
レベル4(避難準備) | ||
火口周辺警報 | レベル3(入山規制) | 入山危険 |
レベル2(火口周辺規制) | 火口周辺危険 | |
噴火予報 | レベル1(活火山であることに留意) | 活火山であることに留意 |
海底火山については、噴火警報(周辺海域)(キーワード:周辺海域警戒)と噴火予報(キーワード:活火山であることに留意)で発表します。
※印のついた噴火警報は、特別警報に位置づけられています。