平成23年 No.25 週間火山概況 (平成23年6月17日〜 平成23年6月23日)
【火山現象に関する警報及び予報の発表状況】
20日、阿蘇山に噴火予報を発表し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(平常)に引き下げた。その他の火山は、噴火に関する予報警報事項(警戒すべき事柄)に変更はない。
表1 火山現象に関する警報及び予報の発表履歴(6月17日〜6月23日)
発表日時 | 火山名 | 警報・予報 | 概要 |
20日11時00分 | 阿蘇山 | 噴火予報 | 噴火警戒レベル1(平常)へ引下げ |
毎日07時(22日は08時30分)、17時 | 三宅島 | 火山ガス予報 | 島内の火山ガスの分布予想 |
表2 6月23日現在の噴火警報及び噴火予報等の発表状況
警報・予報 | 噴火警戒レベル及びキーワード | 該当火山 |
火口周辺警報 | レベル3(入山規制) | 霧島山(新燃岳)、桜島 |
レベル2(火口周辺規制) | 三宅島、薩摩硫黄島、諏訪之瀬島 | |
火口周辺危険 | 硫黄島 | |
噴火警報及び火山現象に関する海上警報 | 周辺海域警戒 | 福徳岡ノ場 |
噴火予報 | レベル1(平常) | 雌阿寒岳、十勝岳、樽前山、有珠山、北海道駒ケ岳、岩手山、秋田駒ケ岳、吾妻山、安達太良山、磐梯山、那須岳、草津白根山、浅間山、新潟焼山、焼岳、御嶽山、富士山、箱根山、伊豆東部火山群、伊豆大島、九重山、阿蘇山、雲仙岳、霧島山(御鉢)、口永良部島 |
平常 | 上記以外の活火山 |
図1 噴火警報発表中の火山(6月23日現在)
【警報発表中の火山の活動状況及び警報事項】
三宅島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
噴煙は、雲のため観測できなかった。
火山性地震は、少ない状態で経過した。
三宅村によると、山麓では時々高濃度の二酸化硫黄が観測されている。
山頂火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されるので、山頂火口周辺(雄山環状線内側)では噴火に対する警戒が必要である。また、火山ガス予報で火山ガスの濃度が高くなる可能性があると予想される地域では、火山ガスに対する警戒が必要である。
硫黄島 [火口周辺警報(火口周辺危険)]
地震活動は、2011年2月末頃から高い状態が続いている。
国土地理院の観測によると、2006年8月に始まった島全体の隆起を示す地殻変動は、2010年11月中旬頃から12月にかけて一時鈍化したが、2011年1月末頃から隆起速度が増加し、現在も続いている。また、島の南部で大きな南向きの変動がみられる。
火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されるので、これまで小規模な噴火が発生した島東部の海岸付近、島西部(井戸ヶ浜等)及び南東沖(翁浜沖)では噴火に対する警戒が必要である。
福徳岡ノ場 [噴火警報(周辺海域警戒)及び火山現象に関する海上警報]
今期間、海上保安庁海洋情報部、第三管区海上保安本部、海上自衛隊及び気象庁による上空からの観測は行われなかった。これらの機関のこれまでの観測によると 、福徳岡ノ場付近の海面には長期にわたり火山活動によるとみられる変色水等が確認されており、今後も小規模な海底噴火が発生すると予想されるので、周辺海域で は噴火に対する警戒が必要である。
阿蘇山 [噴火予報(噴火警戒レベル1、平常)]←20日に噴火警戒レベル2(火口周辺規制)から引下げ
中岳第一火口では、10日以降、噴火は発生しておらず、湯だまり量は、17日と23日の現地調査では、8割に増加していた。火山性地震及び孤立型微動は少ない状態 で経過している。また、9日(期間外)に実施した現地調査では、中岳第一火口底の最高温度は約160度と前回(5月15日)の約370度に比べて低下していた。
中岳第一火口の火山活動は低下しており、火口周辺に影響を及ぼす噴火の兆候は認められなくなったため、20日11時に噴火予報を発表し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(平常)へ引き下げた。
火口周辺に影響を及ぼす噴火の兆候は認められないが、火口内では土砂や火山灰を噴出する可能性がある。また、火口付近では火山ガスに対する注意が必要である。
霧島山(新燃岳) [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]
新燃岳では23日20時49分にごく小規模な噴火が発生し、灰白色の噴煙が火口縁上200mまで上がり、東に流れた。
23日及び24日に実施した聞き取り調査によると、新燃岳の北東約19kmの宮崎県小林市においてごく少量の降灰が確認された。新燃岳で噴火が発生したのは6月16日以来である。
火山性地震は22日から多い状態となっていたが、噴火の後、減少傾向が見られる。
噴火に伴い、23日20時33分から21時42分まで火山性微動が発生した。
傾斜計1)では、噴火に伴い新燃岳側が沈降する変化が観測された。
国土地理院のGPSによる地殻変動観測では、新燃岳の西側を中心に2月1日以降わずかな伸びの傾向がみられている。
新燃岳火口から概ね3㎞の範囲では、大きな噴石2)に警戒が必要である。風下側では降灰及び遠方でも小さな噴石2)(火山れき3))に注意が必要である。これまでの噴火では、風に流されて直径4cm程度の小さな噴石2) (火山れき3))が新燃岳火口から10kmを超えて降っている。また、爆発的噴火に伴う大きな空振に注意が必要である。降雨時には泥流や土石流に警戒が必要である。
桜島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]
昭和火口では、爆発的噴火が1回発生した。雲のため噴石は不明であった。
南岳山頂火口では、噴火は発生しなかった。
火山性地震は少ない状態で経過し、噴火に伴う火山性微動が時々発生した。
22日に行った現地調査では、二酸化硫黄の平均放出量は一日あたり800トン(前回5月30日、1,100トン)と、やや少ない状態であった。
国土地理院のGPSによる地殻変動観測では、姶良(あいら)カルデラ(鹿児島湾奥部)深部の膨張による長期的な伸びの傾向がみられている。
昭和火口及び南岳山頂火口から概ね2kmの範囲では、大きな噴石2)及び火砕流に警戒が必要である。風下側では降灰及び遠方でも小さな噴石2)(火山れき3))に注意が必要である。降雨時には土石流に注意が必要である。
薩摩硫黄島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
火山性地震は、少ない状態で経過した。硫黄岳山頂火口の噴煙活動は、やや高い状態が続いている。
火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されるので、火口から概ね1km の範囲では噴火に対する警戒が必要である。風下側では降灰及び遠方でも小さな噴石2)に注意が必要である。
諏訪之瀬島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]
御岳(おたけ)火口では、今期間噴火は観測されなかったが、長期にわたり噴火を繰り返している。
火山性地震及び火山性微動はやや多い状態で経過した。
今後も火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されるので、火口から概ね1kmの範囲では大きな噴石2)に警戒が必要である。風下側では降灰及び遠方でも小さな噴石2)に注意が必要である。
【噴火予報発表中の火山の活動状況及び予報事項】
吾妻山 [噴火予報(噴火警戒レベル1、平常)]
18日から19日及び22日から23日にかけて、大穴火口では、夜間に高感度カメラで明るく見える現象を観測した。この現象を観測した前後で火山性地震の増加はなく、 噴煙の状況や空振計及び地殻変動データにも変化は認められない。この現象は硫黄の燃焼による発光と考えられる。大穴火口が明るく見える現象を観測したのは、 6月13日以来である。
噴気活動は、やや高い状態が続いている。火山性地震はやや少ない状態で経過した。
吾妻山では、ただちに火口周辺に影響を及ぼす噴火の兆候はみられないが、火口内では火山ガスの噴出がみられるので警戒が必要である。
富士山 [噴火予報(噴火警戒レベル1、平常)]
3月15日(期間外)の静岡県東部(富士山の南部付近)を震源とする最大震度6強の地震の後、地震活動が活発な状況となっていたが、 その後、地震活動は低下してきている。火山性微動や浅部の低周波地震は観測されなかった。また、その他の観測データで浅部の異常を示すものはなく、 噴火の兆候は認められない。
上記以外の火山では、期間中、火山活動に特段の変化はなく、予報事項に変更はない。
1)火山活動による山体の傾きを精密に観測する機器。火山体直下へのマグマの貫入等により変化が観測されることがある。
2)噴石については、大きさによる風の影響の程度の違いによって飛散範囲が大きく異なる。本文中「大きな噴石」とは、「風の影響を受けず弾道を描いて飛散する大きな噴石」のことであり、「小さな噴石」とは、それより小さく「風に流されて降る小さな噴石」のことである。
3)霧島山・桜島では「火山れき」の用語が地元で定着していると考えられることから、付加表現している。
注)データについては精査により、後日修正することがある。
【参考】 噴火警報及び噴火予報と噴火警戒レベル等の対応表
警報・予報 | 噴火警戒レベルとキーワード | 噴火警戒レベルを導入していない火山に対するキーワード |
噴火警報 | レベル5(避難) | 居住地域厳重警戒または山麓厳重警戒 |
レベル4(避難準備) | ||
火口周辺警報 | レベル3(入山規制) | 入山危険 |
レベル2(火口周辺規制) | 火口周辺危険 | |
噴火予報 | レベル1(平常) | 平常 |
※海底火山については、噴火警報(キーワード:周辺海域警戒)と噴火予報(キーワード:平常)で発表する。