平成23年 No.20 週間火山概況 (平成23年5月13日〜 平成23年5月19日)

【火山現象に関する警報及び予報の発表状況】

16日、阿蘇山に火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを1(平常)から2(火口周辺規制)に引き上げた。
その他の火山は、噴火に関する予報警報事項(警戒すべき事柄)に変更はない。

表1 火山現象に関する警報及び予報の発表履歴(5月13日〜5月19日)

発表日時 火山名 警報・予報 概要
16日11時00分 阿蘇山 火口周辺警報 噴火警戒レベル2(火口周辺規制)へ引上げ
毎日07時、17時 三宅島 火山ガス予報 島内の火山ガスの分布予想

表2 5月19日現在の噴火警報及び噴火予報等の発表状況

警報・予報 噴火警戒レベル及びキーワード 該当火山
火口周辺警報 レベル3(入山規制) 霧島山(新燃岳)、桜島
レベル2(火口周辺規制) 三宅島、阿蘇山、薩摩硫黄島、諏訪之瀬島
火口周辺危険 硫黄島
噴火警報及び火山現象に関する海上警報 周辺海域警戒 福徳岡ノ場
噴火予報 レベル1(平常) 雌阿寒岳、十勝岳、樽前山、有珠山、北海道駒ケ岳、岩手山、秋田駒ケ岳、吾妻山、安達太良山、磐梯山、那須岳、草津白根山、浅間山、新潟焼山、焼岳、御嶽山、富士山、箱根山、伊豆東部火山群、伊豆大島、九重山、雲仙岳、霧島山(御鉢)、口永良部島
平常 上記以外の活火山

図1  噴火警報発表中の火山

図1 噴火警報発表中の火山(5月19日現在)





【警報発表中の火山の活動状況及び警報事項】



三宅島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]

 噴煙高度は火口縁上100〜200mで経過した。
 火山性地震は、やや少ない状態で経過した。
 13日に行った現地調査では、二酸化硫黄の平均放出量は一日あたり600トン(前回4月5日、700トン)と、やや多い状態であった。
 三宅村によると、山麓では時々高濃度の二酸化硫黄が観測されている。
 山頂火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されるので、山頂火口周辺(雄山環状線内側)では噴火に対する警戒が必要である。また、火山ガス予報で火山ガスの濃度が高くなる可能性があると予想される地域では、火山ガスに対する警戒が必要である。


硫黄島 [火口周辺警報(火口周辺危険)]

 地震活動は、2011年2月末頃から高い状態が続いている。
 国土地理院の観測によると、2006年8月に始まった島全体の隆起を示す地殻変動は、2010年11月中旬頃から12月にかけて一時鈍化したが、2011年1月末頃から隆起速度が増加している。また、島の南部で大きな南向きの変動がみられる。
 火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されるので、これまで小規模な噴火が発生した島東部の海岸付近、島西部(井戸ヶ浜等)及び南東沖(翁浜沖)では噴火に対する警戒が必要である。


福徳岡ノ場 [噴火警報(周辺海域警戒)及び火山現象に関する海上警報]

 今期間、海上保安庁海洋情報部、第三管区海上保安本部、海上自衛隊及び気象庁による上空からの観測は行われなかった。これらの機関のこれまでの観測によると、福徳岡ノ場付近の海面には長期にわたり火山活動によるとみられる変色水等が確認されており、 今後も小規模な海底噴火が発生すると予想されるので、周辺海域では噴火に対する警戒が必要である。


阿蘇山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]←16日に噴火警戒レベル1(平常)から引上げ

 中岳第一火口では、15日にごく小規模な噴火が発生し、火口の北東約2kmの仙酔峡でごく少量の降灰を確認した。また、同日行った現地調査では、火口底の温度が約370℃と高温であることが確認された。中岳第一火口で噴火が発生したのは、2009年2月4日以来である。
 また、16日10時00分頃には、ごく小規模な噴火が発生し、灰白色の噴煙が火口縁上500mまで上がった。このことから、中岳第一火口の火山活動は高まっており、中岳第一火口から概ね1kmの範囲に大きな噴石を飛散させる噴火が発生する可能性があると判断し、同日11時00分に火口周辺警報を発表し、 噴火警戒レベルを1(平常)から2(火口周辺規制)に引き上げた。同日午前に実施した現地調査では、中岳第一火口底中央部からの灰白色の噴煙の噴出や、火口縁でのごく少量の降灰を確認した。この噴火は19日現在も継続している。
 なお、13日12時頃から阿蘇火山博物館の火口カメラで、火口内にとどまる程度のごく少量の火山灰の噴出が時々観測されていた。同日以降の現地観測では、火口底の温度上昇傾向が認められている。また、14日以降は、阿蘇火山博物館の火口カメラで中岳第一火口底の中央部の噴気孔の一部において、 ごく弱い火炎現象1)が夜間に時々観測されている。
 4月20日及び5月9日(期間外)に実施した現地調査では、二酸化硫黄の平均放出量は一日あたり4月20日が1,000トン、5月9日が600トンと、2011年1月から3月の観測(一日あたり200〜500トン)と比べてわずかに増加している。
 火山性地震は少ない状態で経過し、火山性微動は発生していない。
 国土地理院のGPSによる地殻変動観測では、16日以降継続している噴火に伴う変化はみられない。
 中岳第1火口から概ね1㎞の範囲では、大きな噴石2)に警戒が必要である。風下側では降灰及び遠方でも小さな噴石2)に注意が必要である。降雨時には土石流に注意が必要である。



 図2 5月16日10時00分頃に発生した中岳第一火口のごく小規模な噴火の状況
(左)灰白色の噴煙が火口縁上500mまで上がった。(火口から西約3㎞に設置している草千里遠望カメラによる)
(右)火口縁からの現地調査(10時00分頃)。火口底中央部から灰白色の噴煙が上がっていた。

霧島山(新燃岳) [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]

 新燃岳では、4月19日以降噴火の発生はない。
 13日と17日に陸上自衛隊西部方面ヘリコプター隊第1飛行隊の協力を得て行った上空からの調査では、火口内に蓄積された溶岩に大きな変化はなかった。白色 噴煙は、13日は主に溶岩縁辺の東〜南東側から火口縁上50m程度、17日は主に火口縁辺の南東側から火口縁上100m程度上がっていた。
 火山性地震は、増減を繰り返しながらやや多い状態で経過した。また、火山性微動が時々発生した。
 13日に実施した現地調査では二酸化硫黄の平均放出量は1日あたり200トン(前回4月21日、100トン)と少ない状態であった。
 傾斜計3)では、火山活動に伴う大きな変化はなかった。
 国土地理院のGPSによる地殻変動観測では、新燃岳の西側を中心に2月1日以降わずかな伸びの傾向がみられている。
 新燃岳火口から概ね3㎞の範囲では、大きな噴石2)と火砕流に警戒が必要である。風下側では降灰及び遠方でも小さな噴石2)(火山れき4))に注意が必要である。これまでの噴火では、風に流されて直径4cm程度の小さな噴石2) (火山れき4))が新燃岳火口から10kmを超えて降っている。また、爆発的噴火に伴う大きな空振に注意が必要である。降雨時には泥流や土石流に警戒が必要である。


桜島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]

 昭和火口では、爆発的噴火が36回発生し、大きな噴石2)が4合目(昭和火口より800〜1,300m)まで達した。同火口では夜間に高感度カメラ5) で確認できる程度の微弱な火映を時々観測した。
 南岳山頂火口では、噴火は発生しなかった。
 火山性地震は少ない状態で経過し、火山性微動は増減を繰り返しながらやや多い状態で経過した。
 国土地理院のGPSによる地殻変動観測では、姶良(あいら)カルデラ(鹿児島湾奥部)深部の膨張による長期的な伸びの傾向がみられている。
 昭和火口及び南岳山頂火口から概ね2kmの範囲では、大きな噴石2)及び火砕流に警戒が必要である。風下側では降灰及び遠方でも小さな噴石2)(火山れき4))に注意が必要である。降雨時には土石流に注意が必要である。


薩摩硫黄島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]

 火山性地震は、少ない状態で経過した。硫黄岳山頂火口の噴煙活動は、やや高い状態が続いている。
 火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されるので、火口から概ね1km の範囲では噴火に対する警戒が必要である。風下側では降灰及び遠方でも小さな噴石2)に注意が必要である。


諏訪之瀬島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]

 御岳(おたけ)火口では、今期間噴火は観測されなかったが、長期にわたり噴火を繰り返している。
 火山性地震は少ない状態で経過した。
 今後も火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されるので、火口から概ね1kmの範囲では大きな噴石2)に警戒が必要である。風下側では降灰及び遠方でも小さな噴石2)に注意が必要である。



【噴火予報発表中の火山の活動状況及び予報事項】


吾妻山 [噴火予報(噴火警戒レベル1、平常)]

 5月18日夜、大穴火口では、夜間に高感度カメラで明るく見える現象が確認された。この現象が確認された前後で火山性地震の増加はなく、噴煙の状況や空振計および地殻変動データにも変化は認められない。この現象は硫黄の燃焼に よる発光と考えられる。大穴火口が明るく見える現象が確認されたのは、2011年5月12日以来である。
 噴気活動は、やや高い状態が続いている。地震回数は、やや多い状況となっている。
 吾妻山では、ただちに火口周辺に影響を及ぼす噴火の兆候はみられないが、火口内では火山ガスの噴出がみられるので警戒が必要である。


焼岳 [噴火予報(噴火警戒レベル1、平常)]

 焼岳の北西部から北部にかけての地震活動は、低下しながら継続しているが、前期間より地震の発生数は減少した。火山性微動や低周波地震は発生していない。また、噴気の異常も確認されておらず、 火口周辺に影響を及ぼす噴火の兆候は認められない。


富士山 [噴火予報(噴火警戒レベル1、平常)]

 3月15日(期間外)の静岡県東部(富士山の南部付近)を震源とする最大震度6強の地震の後、余震活動は低下しながら継続している。火山性微動や低周波地震は発生していない。また、その他の観測データで浅部の異常を示すものはなく、噴火の兆候は認められない。


 上記以外の火山では、期間中、火山活動に特段の変化はなく、予報事項に変更はない。



1)熱せられた噴出物が炎のように見える現象である。
2)噴石については、大きさによる風の影響の程度の違いによって飛散範囲が大きく異なる。本文中「大きな噴石」とは、「風の影響を受けず弾道を描いて飛散する大きな噴石」のことであり、「小さな噴石」とは、それより小さく「風に流されて降る小さな噴石」のことである。
3)火山活動による山体の傾きを精密に観測する機器。火山体直下へのマグマの貫入等により変化が観測されることがある。
4)霧島山・桜島では「火山れき」の用語が地元で定着していると考えられることから、付加表現している。
5)九州地方整備局大隅河川国道事務所が黒神河原上流に設置したカメラ等による。



注)データについては精査により、後日修正することがある。






【参考】 噴火警報及び噴火予報と噴火警戒レベル等の対応表

警報・予報 噴火警戒レベルとキーワード 噴火警戒レベルを導入していない火山に対するキーワード
噴火警報 レベル5(避難) 居住地域厳重警戒または山麓厳重警戒
レベル4(避難準備)
火口周辺警報 レベル3(入山規制) 入山危険
レベル2(火口周辺規制) 火口周辺危険
噴火予報 レベル1(平常) 平常

※海底火山については、噴火警報(キーワード:周辺海域警戒)と噴火予報(キーワード:平常)で発表する。


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