平成28年 No.46 週間火山概況 (11月4日~11月10日)

【火山現象に関する警報等の発表状況】

いずれの火山についても、噴火に関する予報警報事項(警戒が必要な事項)に変更はありません。

表1 11月10日現在の火山現象に関する警報等の発表状況

特別警報・警報・予報 噴火警戒レベル及びキーワード 該当火山
火口周辺警報 レベル3(入山規制) 阿蘇山、桜島、口永良部島
レベル2(火口周辺規制) 草津白根山、浅間山、御嶽山、霧島山(新燃岳)、諏訪之瀬島
火口周辺危険 西之島、硫黄島※
噴火警報(周辺海域) 周辺海域警戒 福徳岡ノ場※
噴火予報 レベル1(活火山であることに留意) アトサヌプリ、雌阿寒岳、十勝岳、樽前山、倶多楽、有珠山、北海道駒ヶ岳、恵山、岩木山、秋田焼山、岩手山、秋田駒ヶ岳、蔵王山、吾妻山、安達太良山、磐梯山、那須岳、新潟焼山、焼岳、白山、富士山、箱根山、伊豆東部火山群、伊豆大島、三宅島、鶴見岳・伽藍岳、九重山、雲仙岳、霧島山(御鉢)、薩摩硫黄島
活火山であることに留意 上記以外の活火山
※印のついた火山は火山現象に関する海上警報も発表中。

図1 噴火警報発表中の火山

図1 噴火警報及び火山現象に関する海上警報を発表中の火山(11月10日現在)




【警報発表中の火山の活動状況及び警報事項】


草津白根山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]

 奥山田及び逢ノ峰の遠望カメラによる観測では、引き続き湯釜北側噴気地帯の噴気孔から噴気が認められました。湯釜からの噴気は認められません。東京工業大学のカメラ(湯釜火口内)では、火口内に特段の変化は認められません。
 火山性地震は少ない状態で経過しています。火山性微動は観測されていません。
 GNSS1)連続観測では、2014年4月頃からみられる湯釜を挟む基線のわずかな伸びの変化は、2015年11月頃から停滞しています。東京工業大学の傾斜計2)によると、2014年3月頃からみられる湯釜付近浅部での膨張と考えられる変動は、2015年10月頃から停滞または収縮と考えられるものに変化しています。
 全磁力観測3)によると、2014年5月以降の湯釜近傍地下の温度上昇を示唆する変化は、2014年7月以降停滞しています。
 2014年3月以降に火山活動の活発化を示す変化が観測され、その後地震観測、地殻変動観測及び全磁力観測で活動低下の可能性を示す変化が認められているものの、東京工業大学によると火山ガス成分や湯釜湖水の化学組成は活発化を示す状態が継続し、湯釜の水温は平年よりも高い状態が続いています。小規模な噴火が発生する可能性があるため、湯釜火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石4)に警戒してください。地元自治体等の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石4)が遠方まで風に流されて降るため注意してください。また、ところどころで火山ガスの噴出がみられ、周辺のくぼ地や谷地形などでは滞留した火山ガスが高濃度になることがありますので、注意してください。


浅間山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]

 山頂火口からの噴煙は白色で、火口縁上概ね100m以下で経過しています。4日に実施した現地調査では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量5)は1日あたり100トン(前回10月21日100トン)とやや少ない状態でした。山頂直下のごく浅い所を震源とする火山性地震は、やや少ない状態で経過しています(図2)。火山性微動は引き続きやや多い状態で経過していますが、特段の変化はみられていません。
 光波測距観測6)やGNSS連続観測では、特段の変化は認められていません。塩野山の傾斜計では、2015年6月上旬頃から北または北西上がりの緩やかな変化がみられています。
 山頂火口直下のごく浅い所を震源とする体に感じない火山性地震は概ねやや多い状態が続いており、火山活動はやや活発な状態で経過しています。今後も火口周辺に影響を及ぼす小規模な噴火が発生する可能性があるため、山頂火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。登山者等は地元自治体等の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。また風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石が遠方まで風に流されて降るため注意してください。
 浅間山 火山性地震の日別回数(2014年1月1日~2016年11月10日)
(矢印はごく小規模な噴火を示す)  

図2 浅間山 火山性地震の日別回数(2014年1月1日~2016年11月10日) (矢印はごく小規模な噴火を示す)


御嶽山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]

 山頂火口からの噴煙は白色で、火口縁上概ね300m以下で経過しています。
 火山性地震は、少ない状態で経過しています。
 GNSS連続観測によると、2014年10月以降、山体付近の収縮によると考えられる縮みの傾向がみられています。
 2014年10月以降噴火の発生はなく、火山活動は緩やかな低下傾向が続いていますが、山頂火口の噴煙活動や地震活動は続いているため、今後も小規模な噴火が発生する可能性があります。火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。また風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石が遠方まで風に流されて降るため注意してください。


西之島 [火口周辺警報(火口周辺危険)]

 これまでの海上保安庁や気象庁などの観測によると、2013年11月以降続いていた噴石等を放出する噴火や溶岩の流出は、2015年11月下旬以降はいずれも確認されていません。
 火口付近には高温領域が引き続き確認されており、火道域に海水が浸入した際には小規模な噴火が発生する可能性があるため、火口から概ね500mの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。また、これまでの噴火で流れ出た溶岩は、内部が高温になっていると考えられるほか、海岸部では崩れやすくなっていますので、火口から概ね500mを超える範囲でも注意が必要です。


硫黄島 [火口周辺警報(火口周辺危険)及び火山現象に関する海上警報]

 火山性地震は3日から4日にかけて多い状態となりました。火山性微動は観測されていません。遠望カメラでも特段の変化は認められません。
 GNSS連続観測によると、3日から島の南部を膨張源とするとみられる地殻変動が観測されましたが、6日以降、変動量は小さくなっています。
 硫黄島の島内は全体に地温が高く、多くの噴気地帯や噴気孔があり、過去には各所で小規模な噴火が発生しています。
 火山活動はやや活発な状態で経過しており、火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されますので、従来から小規模な噴火が発生した地点(ミリオンダラーホール(旧噴火口)等)及びその周辺では引き続き噴火に警戒してください。


福徳岡ノ場 [噴火警報(周辺海域警戒)及び火山現象に関する海上警報]

 これまでの海上保安庁海洋情報部、第三管区海上保安本部、海上自衛隊及び気象庁による観測によると、福徳岡ノ場付近の海面には長期にわたり火山活動によるとみられる変色水等が確認されるなど、やや活発な状態で経過しています。今後も小規模な海底噴火が発生すると予想されますので、周辺海域では噴火に警戒してください。


阿蘇山 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]

 中岳第一火口では、噴火は観測されていません。
 9日に実施した現地調査では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は1日あたり2,500トン(前回1日2,600トン)と引き続き多い状態でした。
 火山性微動の振幅は、小さな状態で経過しています(図3)。孤立型微動7)は少なく、火山性地震はやや多い状態で経過しています。
 遠望観測では、白色の噴煙が最高で火口縁上600mまで上がりました。
 傾斜計では、火山活動に伴う特段の変化は認められません。
 GNSS連続観測では、山体の膨張の可能性が考えられるわずかな伸びの傾向が、2016年7月頃から認められています。
 阿蘇山の火山活動は引き続き活発な状態となっており、今後も爆発的噴火8)が発生する可能性があります。
 中岳第一火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石及び火砕流9)に警戒してください。風下側では火山灰だけでなく、風の影響を受ける小さな噴石が遠方まで風に流されて降るため注意してください。また、火山ガスに注意してください。
 阿蘇山 古坊中観測点上下成分の1分間平均振幅(2016年1月1日~2016年11月10日)  

図3 阿蘇山 古坊中観測点上下成分の1分間平均振幅(2016年1月1日~2016年11月10日)


霧島山(新燃岳) [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]

 火山性地震及び火山性微動は観測されていません。
 傾斜計では、火山活動に伴う特段の変化は認められません。
 2日から4日にかけて実施した現地調査では、前回(10月18日)と同様に、火口内で消散する程度の噴煙と西側斜面の割れ目付近で弱い噴気を確認しました。また、赤外熱映像装置による観測では、火口内に蓄積された溶岩、火口壁及び西側斜面の割れ目付近で熱異常域10)を確認しました。
 GNSS連続観測によると、新燃岳の北西数kmの地下深くにあると考えられるマグマだまりの膨張を示す地殻変動は、2015年1月頃から停滞しています。また、新燃岳周辺の一部の基線では、わずかな伸びの傾向が認められていましたが、2015年10月頃から停滞しています。
 新燃岳ではこれまでにも火山性地震が時々発生しており、火口内及び西側斜面では弱い噴気や熱異常域が確認されていることから、今後の火山活動の推移に注意してください。
 新燃岳では火口周辺に影響を及ぼす小規模な噴火が発生する可能性がありますので、新燃岳火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。風下側では火山灰だけでなく小さな噴石(火山れき11))が風に流されて降るおそれがあるため注意してください。


桜島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]

 桜島では、噴火は観測されていません。
 火山性地震は少ない状態で経過しています。火山性微動は観測されていません。
 桜島の噴火活動は2016年8月以降低下していますが、GNSS連続観測では、姶良カルデラの地下のマグマだまりの膨張が続いていることから、火山活動が再び活発化する可能性があります。2015年1月頃から地殻変動の膨張速度がやや増大しており、引き続き火山活動の推移に注意が必要です。
 昭和火口及び南岳山頂火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石及び火砕流に警戒してください。風下側では火山灰だけでなく小さな噴石(火山れき11))が遠方まで風に流されて降るため注意してください。爆発的噴火に伴う大きな空振によって窓ガラスが割れるなどのおそれがあるため注意してください。また、降雨時には土石流に注意してください。


口永良部島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)]

 口永良部島では、噴火は観測されていません。
 10月20日から11月6日にかけて東京大学大学院理学系研究科、京都大学防災研究所、屋久島町及び気象庁が実施した観測では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は1日あたり50~500トンでした。
 5日に実施した現地調査では、前回(10月19日)と比較して噴煙及び熱異常域の状況に変化は見られませんでした。
 火山性地震はやや多い状態で経過しています。火山性微動は観測されていません。
 遠望観測では、白色の噴煙が最高で火口縁上600mまで上がりました。
 2015年5月29日と同程度の噴火が発生する可能性は低くなっていますが、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は、2014年8月の噴火前よりもやや多い状態で経過していることから、引き続き噴火の可能性があります。
 新岳火口から概ね2kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石及び火砕流に警戒してください。向江浜地区から新岳の南西にかけての火口から海岸までの範囲では、火砕流に警戒してください。風下側では、火山灰だけでなく小さな噴石が風に流されて降るおそれがあるため注意してください。降雨時には土石流の可能性があるため注意してください。


諏訪之瀬島 [火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)]

 御岳(おたけ)火口では、噴火活動が活発になっています。10日には爆発的噴火が発生しました。噴煙の状況は雲のため確認できませんでした。十島村役場諏訪之瀬島出張所によると、5日と6日に火口から南南西4kmの集落で降灰が確認されました。
 火山性地震は少ない状態で経過しています。火山性微動は時々発生しました。
 同火口では、期間を通して夜間に高感度カメラで火映12)を観測しました。
 今後も火口周辺に影響を及ぼす程度の噴火が発生すると予想されますので、火口から概ね1kmの範囲では、噴火に伴う弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒してください。風下側では火山灰だけでなく小さな噴石が風に流されて降るおそれがあるため注意してください。



【噴火予報発表中の火山の活動状況及び予報事項】

倶多楽 [噴火予報(噴火警戒レベル1、活火山であることに留意)]

 5日23時20分過ぎから、大正地獄からの熱湯噴出によると考えられる震動波形を観測し、遠望カメラでも大正地獄から平常時より多い噴気を観測しました。
 6日及び7日に実施した現地調査では、大正地獄から泥を含んだ熱湯が断続的に噴出しており、一時的に高さが最大6~7mまで上がっているのを確認しました。また、大正地獄周辺約30mの範囲には、熱湯噴出に伴い飛散したと考えられる泥の痕跡を確認しました。
 その後も、震動波形や噴気の状況から、大正地獄では小規模な熱湯噴出が断続的に発生していると考えられます。
 大正地獄では、今回と同様の熱湯噴出は過去にも度々みられており、最近では2007年から2011年にかけて間欠的に発生しました。これらの熱湯噴出は局所的なものであり、火山活動の活発化に直接つながるものではないと考えられます。
 なお、大正地獄付近の散策路は、2016年11月6日から、地元自治体により通行規制が実施されています。観光客等は地元自治体の指示に従って危険な地域には立ち入らないでください。



上記以外の火山では、期間中、火山活動に特段の変化はなく、予報事項に変更はありません。

1) GNSS(Global Navigation Satellite Systems)とは、GPSをはじめとする衛星測位システム全般を示す呼称です。
2) 傾斜計とは、火山活動による山体の傾きを精密に観測する機器。火山体直下へのマグマの貫入等により変化が観測されることがあります。1μrad(マイクロラジアン)は1km先が1mm上下するような変化量です。
3) 火山体の南側で全磁力を観測した場合、全磁力値が減少すると火山体内部で温度上昇が、全磁力値が増加すると火山体内部で温度低下が生じていると推定されます。
4) 噴石は、その大きさによる風の影響の程度の違いによって到達範囲が大きく異なります。本文中「大きな噴石」とは「風の影響を受けず弾道を描いて飛散する大きな噴石」のことであり、「小さな噴石」とはそれより小さく「風に流されて降る小さな噴石」のことです。
5) 火口から放出される火山ガスには、マグマに溶けていた水蒸気や二酸化硫黄、硫化水素など様々な成分が含まれており、これらのうち、二酸化硫黄はマグマが浅部へ上昇するとその放出量が増加します。気象庁では、二酸化硫黄の放出量を観測し、火山活動の評価に活用しています。
6) 光波測距観測とは、レーザなどを用いて山体に設置した反射鏡までの距離を測定する機器を用いて、山体の膨張や収縮による距離の変化を観測します。
7) 阿蘇山特有の微動で、火口直下のごく浅い場所で発生しており、周期0.5~1.0 秒、継続時間10 秒程度で、中岳西山腹観測点の南北動の振幅が5μm/s 以上のものを孤立型微動としています。
8) 阿蘇山では、火道内の爆発による地震を伴い、火口周辺の観測点で一定基準以上の空気の振動を観測した
場合に爆発的噴火としています。
9) 火砕流とは、火山灰や岩塊、空気や水蒸気が一体となって急速に山体を流下する現象です。火砕流の速度は時速数十kmから時速百km以上、温度は数百℃にも達することがあります。
10) 赤外熱映像装置による。赤外熱映像装置とは、物体が放射する赤外線を感知して温度分布を測定する測器です。熱源から離れた場所から測定することができる利点がありますが、測定距離や大気等の影響で実際の熱源の温度よりも低く測定される場合があります。
11) 霧島山・桜島では「火山れき」の用語が地元で定着していると考えられることから、付加表現しています。
12) 火映とは、赤熱した溶岩や高温のガス等が、噴煙や雲に映って明るく見える現象です。

注)本資料には速報的な内容を含みます。データについては精査により、後日修正することがあります。
  詳細については、毎月発表の火山活動解説資料を参照してください。

表2 火山現象に関する警報等の発表履歴 (11月4日~11月10日)

発表日時 火山名 特別警報・
警報・予報
概要
毎日 02時から3時間毎に8回 阿蘇山
桜島
口永良部島
諏訪之瀬島
降灰予報(定時) 噴火した場合に予想される、降灰範囲及び小さな噴石の落下範囲を予想

【参考】 火山現象に関する警報等と噴火警戒レベル等の対応表

特別警報・警報・予報 噴火警戒レベルとキーワード 噴火警戒レベルを運用していない火山に対するキーワード
噴火警報※ レベル5(避難) 居住地域厳重警戒
レベル4(避難準備)
火口周辺警報 レベル3(入山規制) 入山危険
レベル2(火口周辺規制) 火口周辺危険
噴火予報 レベル1(活火山であることに留意) 活火山であることに留意

海底火山については、噴火警報(周辺海域)(キーワード:周辺海域警戒)と噴火予報(キーワード:活火山であることに留意)で発表します。
※印のついた噴火警報は、特別警報に位置づけられています。



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