震源過程解析のページの見方
震源過程解析とは
地震は断層面が破壊する現象です。その破壊の伝播は不規則かつ不均一です。
破壊伝播方向と観測点の相対的な位置関係により、同じ地震でも観測点毎に波形が異なります。
その性質を用いて、いろいろな方向の観測点にある地震波形から、破壊伝播の様子(震源過程)を解析します。
破壊伝播の模式図
気象庁では、原則として、海外で発生したモーメントマグニチュード(Mw、CMT解析による)7.0以上の地震、
国内で発生したMw6.5以上の地震、被害を伴うなどの顕著な地震について、遠地実体波、または、近地強震波形を用いた震源過程解析を行います。
震源過程解析結果の各図の見方
すべり量分布図
すべり量分布図は、断層破壊による断層面上でのすべり量とすべり方向を表示した図です。
解析では、発震機構解や余震分布などに基づいて設定した
断層面をいくつかの小断層に分割し、各小断層でのモーメント解放量とすべりの方向を求めます。
各小断層のモーメント解放量(M0)は、M0=μDS(μ:剛性率、D:小断層面上のすべり量、S:小断層の面積)と表されます。
小断層の面積(S)は既知なので、剛性率(μ、例えば地殻内の標準値は30GPa)を与えれば、各小断層のすべり量(D)が得られます。
この各小断層でのすべり量とすべり方向をすべり量分布図に表示しています。
断層面上でのすべり量分布図の例
縦軸に断層面の傾斜方向(左のスケール)と深さ(右のスケール)、横軸に断層面の走向方向(AからBの方向)を表示しています。
赤色に近づくほど、すべり量が大きいことを示します。星印は初期破壊開始点を示します。
矢印は下盤側に対する上盤側の動きを表し、矢印の根元が設定した小断層の中心位置です。
矢印の向きは、逆断層では上向き、正断層では下向き、横ずれ断層では横向きになります。
この例では各小断層の面積を100km2 (10km×10km)に設定しています。
※遠地実体波解析では震央距離30~100度と遠い観測点の地震波を用いるので、近地強震波形解析よりもすべり量分布の空間分解能が劣ります。
このため、遠地実体波解析のすべり量分布図では、大きなすべり量の広がり具合に着目して頂くよう、
すべり量の凡例は具体的な値ではなく「大きい」、「小さい」と表示しています。
地図(水平面)上に投影したすべり量分布図の例
星印は初期破壊開始点、青い×印は設定した小断層の中心位置を示します。
震源時間関数
震源時間関数は、断層面でのモーメント解放量の時間変化を表したものです。
震源時間関数から、地震が発生してからどのぐらいの時間で大きな破壊が起きたのか、
また、破壊がどのくらいの時間継続したのかが分かります。
震源時間関数の例
縦軸に断層面でのモーメント解放速度、横軸に破壊開始からの経過時間を表示しています。
この図の青色の部分の面積は、右肩に示した断層面全体のモーメント解放量(M0)を表しています。
この例では主な破壊が1回あり、主な破壊の継続時間が約10秒であったことが分かります。
波形比較図
波形比較図(遠地実体波)の例
地震記録の成分は、主にUD(上下動成分)を用いますが、SH(水平動成分)も用いる場合があります。
波形比較図は、通常、方位角順に表示します。
波形比較図(近地強震波形)の例
地震記録の成分は、3成分(上下動、南北動、東西動)を用います。
波形比較図は、通常、震源からの距離順に表示します。
震源過程解析に使用するプログラムとデータ
震源過程解析に使用するプログラムとデータは以下のとおりです。
遠地実体波解析 | 近地強震波形解析 | ||
---|---|---|---|
解析手法 | M. Kikuchi and H. Kanamori によるプログラム(東京大学地震研究所) |
|
|
データ※1 | 種類と 機関 |
米国大学間地震学研究連合(IRIS)のデータ管理センター(DMC)が収集する広帯域地震波形 |
|
距離 | 震央距離約3,500-11,000km(30°-100°)※2 |
震源域から最大約200㎞以内 | |
データ 数 |
概ね20-50観測点の上下動波形(一部水平動波形も使用) | 最大約20観測点の3成分波形(上下動、南北動、東西動) |
※1 データについては解析毎に適切に取得、処理しているため、上記内容は目安です。
※2 震源から近すぎると理論的に扱いづらくなる波が混在し、逆に遠すぎると液体である外核を通ってくるため、直達波が到達しません。
そのため、評価しやすい距離(通常は震央距離30°から100°)のデータのみを解析に使用しています。
震源過程解析結果の利用の留意点
- 遠地実体波解析では、震源過程の全体像の情報が含まれている震央距離が遠い観測点の地震波を用います。そのため、地震波形は比較的単純であり、震源時間関数の形を直感的に把握するのに適しています。近地強震波形解析よりもすべり量分布の分解能が劣ります。
- 近地強震波形解析では、詳細な震源過程の情報が含まれている震央距離が近い観測点の地震波を用います。そのため、すべり量分布の分解能が優れています。地下構造の影響を受けやすいため、仮定した地下構造によっては結果の精度が低いことがあります。
- 解析に用いる地震波の振幅が、直前に発生した大きい地震の地震波の振幅よりも小さい場合や、使用する観測点のノイズレベルよりも小さい場合は、解析出来ないことがあります。沖合や島しょ部の地震の場合は、強震波形データを充分に入手できないため、近地強震波形解析が出来ないことがあります。
参考文献
- 武尾実 (1985): 非弾性効果を考慮した震源近傍での地震波合成, 気象研究所研究報告, 36, 245-257.
- Fukahata, Y., Y. Yagi, and M. Matsu’ura (2003): Waveform inversion for seismic source processes using ABIC with two sorts of prior constraints: comparison between proper and improper formulations, Geophys. Res. Lett., 30 (6), 1305, doi:10.1029/2002GL016293.
- Ide, S., M. Takeo and Y. Yoshida (1996): Source process of the 1995 Kobe earthquake: Determination of spatio-temporal slip distribution by Bayesian modeling, Bull. Seismol. Soc. Am., 86, 547-566.
- Kikuchi, M. and H. Kanamori (1991): Inversion of complex body waves - III, Bull. Seism. Soc. Am., 81, 2335-2350.
- Lawson, C. L. and R. J. Hanson (1974): Solving Least Square Problems., Prentice Hall, Inc., New Jersey, 340pp.
- Nakayama, W. and M. Takeo (1997): Slip history of the 1994 Sanriku-haruka-oki, Japan, earthquake deduced from strong-motion data, Bull. Seismol. Soc. Am., 87, 918-931.