津波データに関する利用の手引き 記載するイベントは、津波警報・注意報を発表した、若干の海面変動の情報を発表 した、または津波を観測したものとする。1つのイベントは、以下のレコードによって 構成される。なお、レコードの内容が無い場合は省略される。 ・レコードの説明 (1)津波情報レコード    このレコードには、津波の発生要因や、予報の概要、観測の概要、その他本イ   ベントに関する各種パラメータを記載する。なお、1999年3月31日以前において、 予想される津波高さは発表していないため、空欄とする。また、津波マグニチュ ードについては、論文等に公表された値がない場合は空欄とする。その他の項目 についても、値が不明な場合は空欄とする。予報区内で最も早く津波が到達した   観測点コードおよび時刻の項目について、全観測点のうち時刻が分値まで確定 できた観測点から決定している。 (2)震源レコード  このレコードには、イベントを発生させた地震の震源要素を記載する。値が不   明な場合は空欄とする。なお、各項目についての詳細は、「地震・火山月報(カ   タログ編)」を参考とすること。また、本レコード中の津波規模は、津波情報レ   コードに記載される津波規模階級(今村、飯田)と記載方法が違うものの、分類   の仕方は共通しており、内容的には変わらない。 (3)津波予報レコード このレコードには、それぞれの津波予報区に対して発表した予報内容を記載す   る。値が不明な場合は空欄とする。なお、1999年3月31日以前において、予報区   に対する第一波の到達予想時間及び予想される津波高さは発表していないため、   空欄とする。また、1999年4月1日以降において、第一波到達予想時刻が、「津波   到達と確認」や「既に津波到達と推測」となる場合は、空欄とする。予報更新回   数は、予報発表から予報解除に至るまでの間に発表した一連の津波予報のうち、   最初に発表したものを除く回数とする。例えば、最初に津波予報を発表して、次   に予想される津波の高さが最初の予報に比べて低く切り替わって、最後に解除さ   れたとする。この場合、予報更新回数は1回となる。 (4)津波観測レコード (A)器械観測レコード 潮位観測点における津波の観測値を記載する。観測値は、特にコメントがある   もの以外については気象庁で読みとった値である。(ただし、他機関所管の観測   点については、参考値である)なお、値が不明な場合は空欄とする。巨大津波観   測計およびGPS波浪計の観測単位は10cmである。    また、予報に関する項目は、一連の津波予報を通じて発表した内容のうち最も   大きな値を採用する。なお、南鳥島およびGPS波浪計、海底津波計に関しては、   到達予想時刻を空欄としている。    また、検潮所によっては、観測特性のため、急激な海面の変動を捉えていない   場合がある。 (B)現地調査レコード 現地調査による津波の観測値を記載する。なお、値が不明な場合は空欄とする   。また、予報に関する項目は、一連の津波予報を通じて発表した内容のうち、最   も大きな値を採用する。 (5)コメントレコード 地震の名称や参考文献等のコメントを記載する。 (6)終了レコード 1つのイベントのデータの終了を示す。 ・用語の説明 緊急震源: 地震発生時に速報的に発表された震源のこと。 最大の高さ: 平常潮位から山までの高さのうち、最大のものを示す。 最大波高: 谷から山までの高さのうち、最大のものを示す。 震源要素: 日本周辺で発生した地震の震源要素は気象庁で決定した値を記載す る。国外で発生した地震の震源要素については、USGS等が決定した値を記載     する。緯度、経度に関しては北緯及び東経を正とし、南緯及び西経を負とす     る。 信頼度: 津波痕跡の信頼度については、首藤・卯花(1984),土木学会(2002     )による定義を基本とする。 時刻: 日本中央標準時(JST)を採用する。 (JST)=協定世界時(UTC)+9時間 震央地域番号・震央地名番号: 震央地域番号及び震央地名番号は、「地震・火     山月報(カタログ編)」の表”Geographical region name”に示す震央地域     番号及び震央地名番号を用いて表す。区域の境界は、図”Geographical     Region (1)〜(4)”による。なお、遠地地震の震央地域番号は9、震央地名番 号は空白とする。 走時: 地震発生から津波の第一波が到達するまでの経過時間を示す。 潮位観測点コード: 潮位観測点のコードは、表”潮位観測点リスト”に示す地     点番号を用いて表す。 津波規模階級: 津波規模階級は、今村・飯田(Iida 1958)、または羽鳥 (1986)による。 津波被害フラグ:津波による被害の程度を示すフラグ。階級は宇津の被害等級を     参考にした。詳細は石垣(2002)を参照のこと。 津波マグニチュード: 津波マグニチュードは、阿部(1988)、または渡辺 (1998)による。 最も高い津波の高さ:津波の観測値のうち、波高のみデータとして残っている     場合、津波情報レコードについては、波高を1/2した値を用い、津波の高さ     のデータがある場合は津波の高さの値を用いる。 予報区コード: 予報区コードは、期間によって以下のように示される。     1952年4月20日〜1956年12月31日  図”Tsunami forecast region map and codes (1952.4.20)”に示す区域 番号を用いて表す。予報区名称は、予報区コードから60を差し引いた数に 「区」を付ける。例えば、予報区コード061であれば「1区」となる。なお、 この間、奄美諸島が日本に復帰(1953.12.25)している。ただし、鹿児島 県の島嶼部は予報区なしとする。(予報区コードは000とする。)   1957年1月1日〜1958年3月31日  図”Tsunami forecast region map and codes (1957.1.1)”に示す区域番 号を用いて表す。予報区名称は、予報区コードから40を差し引いた数に 「区」を付ける。例えば、予報区コード041であれば「1区」となる。なお、 鹿児島県の島嶼部は予報区なしとする。(予報区コードは000とする。)   1958年4月1日〜1968年3月31日  図”Tsunami forecast region map and codes (1958.4.1)”に示す区域番 号を用いて表す。予報区名称は、予報区コードから20を差し引いた数に 「区」を付ける。例えば、予報区コード021であれば「1区」となる。なお、 吐喝喇列島及び奄美諸島に関しては、該当する予報区はない。(予報区コ ードは000とする。)   1968年4月1日〜1999年3月31日  図”Tsunami forecast region map and codes (1968.4.1)”に示す区域番 号を用いて表す。予報区名称は、予報区コードに「区」を付ける。例えば 予報区コード001であれば「1区」となる。なお、この間、小笠原諸島及び 沖縄が日本に復帰している。小笠原諸島(1968.6.26復帰)は、復帰後も 該当する津波予報区なし(予報区コードは000とする。)のままであった。 沖縄(1972.5.15復帰)は、復帰に伴い新たに津波予報区(18区)が新設 された。   1999年4月1日〜  図”Tsunami forecast region map and codes (1999.4.1) (1)〜(5)”、 (4)については2005年1月1日から”Tsunami forecast region map and codes (2005.1.1) (4)”に示す区域番号を用いて表す。予報区名称は、表 ”Tsunami forecast region names (1999.4.1)”に示す。 予報グレード: 予報グレードの定義は、期間によって以下のように示される。      なお、「津波の高さ」の定義は、1967年8月1日より、最大波高から最大の      高さに変更されている。また、グレードの順序は1977年1月までは大津波、      弱い津波、津波おそれ、津波なしの順とし、1977年2月からは、大津波、      津波、津波注意、津波なしの順とした。 1952年4月20日〜1956年12月31日 予報グレード 解説 津波なし 津波はない 弱い津波 津波は予想されるが大きいものではない。被害はない見込み ですが一応用心して下さい。予想される津波の高さは高いと ころで2〜3メートル程度、多くのところで1メートル程度 あるいはそれ以下と思ってよいでしょう。 大津波 津波による被害が予想されるから厳重な警戒をして下さい。 予想される津波の高さは高いところで5〜6メートルに達す る見込みですから、特別に津波の大きくなりやすいところ、 今までに津波の被害をうけたようなところでは充分注意する よう、その他のところでも2〜3メートル位に達すると思わ れます。 1957年1月1日〜1967年7月31日 予報グレード 解説 津波なし 津波の襲来するおそれはありません。 津波おそれ 津波が予想されますが、現在の資料では、津波の高さが予想 できません。 弱い津波 小津波が予想されます。予想される津波の高さは、高いとこ ろで3〜4メートルに達する見込みですから、とくに津波が 大きくなりやすいところでは警戒を要します。その他の多く のところでは1メートル程度の見込みです。 大津波 大津波が襲来し、大きな災害を引きおこすおそれがあります 。予想される津波の高さは、高いところで5〜6メートル以 上に達する見込みですから、今までに津波の被害を受けたよ うなところや、特に津波が大きくなりやすいところでは厳重 な警戒を要します。その他のところでも2〜3メートル位に 達する見込みですから警戒が必要です。    1967年8月1日〜1977年1月31日 予報グレード 解説     津波なし   津波の来襲するおそれはありません。     津波おそれ  津波が予想されますが、現在までの資料では、津波の高さが            予想できません。     弱い津波   小津波が予想されます。予想される津波の高さは、高いとこ            ろで約2メートルに達する見込みですから、とくに津波が大            きくなりやすいところでは警戒を要します。その他の多くの            ところでは数十センチメートル程度の見込みです。     大津波    大津波が襲来し、大きな災害を引きおこすおそれがあります 。予想される津波の高さは、高いところで約3メートル以上 に達する見込みですから、今までに津波の被害を受けたよう なところや、特に津波が大きくなりやすいところでは厳重な 警戒を要します。その他のところでも1メートル位に達する 見込みですから警戒が必要です。 1977年2月1日〜1999年3月31日 予報グレード 解説 津波なし 津波が来襲するおそれはありません。 津波注意 津波があるかもしれません。津波の高さは高いところでも数 十センチメートル程度の見込みです。 津波 津波が予想されます。予想される津波の高さは、高いところ で約2メートルに達する見込みですから、特に津波が大きく なりやすいところでは警戒を要します。その他の所では、数 十センチメートル程度の見込みです。 大津波 大津波が来襲します。予想される津波の高さは、高いところ では約3メートル以上に達する見込みですから、今までに被 害を受けたようなところや、特に津波が大きくなりやすいと ころでは、厳重な警戒を要します。その他のところも1メー トルくらいに達する見込みですから警戒が必要です。 1999年4月1日〜2013年3月6日 予報グレード 解説 津波の高さ 津波注意 高いところで0.5m程度の津波が予想され 「0.5m」 ますので、注意してください。 津波 高いところで2m程度の津波が予想され 「1m」「2m」 ますので、注意してください。 大津波 高いところで3m程度以上の津波が予想 「3m」「4m」 されますので、厳重に警戒してください。「6m」「8m」 「10m以上」     *若干の海面変動情報       高さ20cm未満の津波が予測された場合には、地震情報(1999年4月1日以降)       ・津波予報(若干の海面変動)(2007年12月1日以降)において、若干の海面       変動に関する情報を発表する。 2013年3月7日〜 予報グレード 解説 津波の高さ 津波注意 高いところで1mの津波が予想されます 「1m」 ので、注意してください。 津波 高いところで3mの津波が予想されます 「3m」 ますので、警戒してください。 大津波 3mを超える津波が予想されますので、 「5m」「10m」 厳重に警戒してください。 「10m超」     *若干の海面変動情報       高さ20cm未満の津波が予測された場合には、地震情報(1999年4月1日以降)       ・津波予報(若干の海面変動)(2007年12月1日以降)において、若干の海面       変動に関する情報を発表する。   量的津波予報: 津波予報は、1999年4月1日の量的津波予報の導入によって、大     きく改善された。1952年4月20日に開始された従来の津波予報は、震源要素     から経験的に押し寄せる津波の規模を2もしくは3段階で推定して発表して     いた。また、津波予報を発表する範囲の単位である津波予報区は全国18区し     かなく、数県にまたがっていたため、その津波の影響範囲に対して予報区が     広すぎる場合があった。量的津波予報が従来と異なるのは、経験的に行って     いた震源要素から津波の規模を推定する部分に数値シミュレーションを導入     して、具体的な数値として津波の高さを予測できるようになったことである     。震源要素が分かってから数値計算を行うのは時間がかかるため、あらかじ     め震源要素を与えて津波の発生・伝播をシミュレーションした結果をデータ     ベース化しておく。実際に地震が発生したときには、データベースの震源要     素に最も近いものを検索し、その検索結果をもとに津波の高さ、到達時刻を     予測するというものである。これにより、概ね府県を単位とする全国66の予     報区に対して、「0.5m」から「10m以上」までの8段階にわたる津波の高     さの発表ができるようになった。また、従来までは数cm程度の津波であって     も津波注意の発表をしていたが、20cm未満の弱い津波が予想される場合には     、災害発生のおそれがないことから津波注意の発表を行わないようになった     。      また、発表する内容も変更された。従来の津波予報は、津波予報区に対す     る予報グレード及び、潮位観測点に対する到達予想時刻を発表していた。量     的津波予報では、これらの他に、津波予報区に対して予想される津波の高さ     及び到達予想時刻を発表するようになった。 ・参考文献 (1) 阿部勝征(1988):津波マグニチュードによる日本付近の地震津波の定 量化、地震研究所彙報、63、289-303 (2) 土木学会原子力土木委員会津波評価部会(2002):原子力発電所の津 波評価技術、平成14年2月. (3) 羽鳥徳太郎(1986):津波の規模階級の区分、地震研究所彙報、61、 503-515 (4) Iida, K. (1958): Magnitude and energy of earthquakes accompanied by tsunami, and tsunami energy, J. Earth. Sci., Nagoya Univ.6 (5) 石垣裕三(2002):津波観測値及び津波予報データベースの作成につい て、験震時報、65、145-151 (6) 首藤伸夫・卯花政孝(1984):1983年日本海中部地震津波の痕跡高、東 北大学工学部津波防災実験所研究報告,1 (7) 渡辺偉夫(1998):日本被害津波総覧〔第2版〕、東京大学出版会