エーロゾルの光学的厚さ
はじめに
大気中に浮遊する微粒子を総じてエーロゾルと呼びます。大気中のエーロゾルは太陽からの日射を吸収、散乱するため、地表・大気における放射収支量に影響を及ぼします。このため、エーロゾルに関する情報は気候変動予測において重要とされています。また、近年その飛来が注目されている黄砂もエーロゾルの一種です。 気象衛星センターでは、「ひまわり」と「極軌道気象衛星NOAA」の可視センサーのデータから、日本付近の海域における、大気中のエーロゾル総量の指標となるエーロゾルの光学的厚さを算出します。 このデータは、主に黄砂や火山灰、森林火災の煙といったエーロゾル飛来の実況監視に利用されます。
エーロゾルの光学的厚さ
衛星の可視センサーは、地表面や大気中の微小成分からの反射・散乱光を観測します。大気中のエーロゾル量が増加すると、一般に衛星が観測する反射・散乱光も増加します。しかし、この反射・散乱過程は単純ではありません。例えば、大気中のエーロゾルにより散乱された光が、再び地表面で反射されたり、他の大気中の微小成分により散乱されたりします。このため、衛星の可視センサーが観測するデータをシミュレーションするには、複雑な放射伝達計算を行う必要があります。
衛星の可視センサーが観測するデータからエーロゾルの光学的厚さを算出するには、地表面からの反射光とエーロゾル以外の大気中の微小物質(空気分子、水蒸気やオゾンなど)からの散乱光の強さを見積もる必要があります。地表面からの反射光は、地表面ごとの特性により変化しますが、海面の場合良い精度で仮定することが出来ます。また、エーロゾル以外の大気中の微小物質(空気分子、水蒸気やオゾンなど)からの散乱光は、その鉛直分布を仮定すれば放射伝達計算により求めることが可能です。この際、前述の複雑な散乱過程を考慮する必要があります。
気象研究所では、この複雑な放射伝達計算を行い、衛星の可視データからエーロゾルの光学的厚さを算出するアルゴリズムを開発しました。このアルゴリズムを利用し、気象衛星センターではひまわりとNOAAの可視データからエーロゾルの光学的厚さを算出します。
エーロゾルの光学的厚さの算出は、次の条件を満たす南北0.20度、東西0.25度の格子ごとに行われます(ひまわり、NOAA共通)。 処理は、ひまわりについては1日7回(9時?15時の毎正時)、NOAAについては1日1?3回(その日の軌道により異なる)行われます。



プロダクトの仕様
- 算出範囲:北緯17度?北緯52度、東経114度?東経150度(格子中心)
- 海域かつ晴天域(雲域では、雲からの反射・散乱光が卓越するため、エーロゾルの影響を抽出することが出来ない。)
- 太陽光が強く反射する海域(サングリントという)ではない
- 太陽の高度が低くない(太陽高度角20度以上)
参考文献
- 橋本徹, 2006 : エーロゾルの光学的厚さ 気象衛星センター技術報告特別号, 121-124.
- 大河原望, 吉崎徳人, 徳野正己, 2003: エーロゾルプロダクトの開発?GMS/VISSR及びNOAA/AVHRR画像データを利用して?, 気象衛星センター技術報告第42号, 43-52.
- Masuda K., Mano Y., Ishimoto H., Tokuno M., Yoshizaki Y., and Okawara N., 2002 : Assessment of the nonsphericity of mineral dust from geostationary satellite measurements, Remote Sensing of Environment, 82, 238-247.
- Vermote E., Tanre D., Deuze J. L., Herman M., Morcrette J. J., 1997 : Second Simulation of the Satellite Signalin the Solar Spectrum (6S) User Guide Version 2.