地形性巻雲

山脈の風下側に発生する停滞性の上層雲を「地形性巻雲」と呼ぶ。地形性巻雲は赤外画像では白く表示され、風上側の雲縁が山脈と平行な直線状となり、 風下側に長く伸びる。風上の縁はほとんど移動せず同じ場所に留まるので、動画で見ると地形性巻雲は容易に識別できる。 発生する条件は、山頂付近から対流圏上部までほぼ安定成層を成し、風向がほぼ一定であることが挙げられる(小花、1981)。 こうした条件では、山脈により励起された波動が上層まで伝わり、上層が湿っていれば波動による上昇流域で地形性巻雲が発生する。 波動は総観場が変わらなければ定在波として維持されるため、停滞性の上層雲が観測されると考えられる。

図1は、ひまわり8号のB13(赤外)画像である。奥羽山脈東の風下に発生した地形性巻雲を示した(矢印)。 また図2には、同時刻のB03(可視)画像を示した。可視画像では、矢印で示した雲の下が透けて見えることから、この雲は上層に発生する巻雲であることがわかる。

図3には、当日00UTCの仙台付近の数値予報格子点値(GSM)のエマグラムを示した。これを見ると、約250~300hPa付近の高度が湿っており、上層雲の発生を示している。 また、風向の鉛直分布では、対流圏上部では強い西風が上下そろって吹いており、安定成層が形成されていることもわる。 なお、この地形性巻雲は、図4で示すようにDayconvectivestormRGB画像では強い上昇気流を伴った活発な積乱雲域と同じ色調となるため注意が必要である。 地形性巻雲は、山岳越えの強い風の吹く安定成層中に発生するため、巻雲を構成する氷晶の粒径は小さく、強い上昇気流を伴った活発な積乱雲域の雲頂にある氷晶と同程度の大きさとなるためである。

図1 赤外画像(B13)2016年10月7日00UTC 図1 赤外画像(B13)2016年10月7日00UTC
図2 可視画像(B03)2016年10月7日00UTC 図2 可視画像(B03)2016年10月7日00UTC
図3 エマグラム 2016年10月7日00UTC 図3 エマグラム 2016年10月7日00UTC
図4 Day convective storm RGB画像 2016年10月7日00UTC 図4 Day convective storm RGB画像
2016年10月7日00UTC