霧の監視

霧の一般的な特徴

気象衛星による観測では、上空から雲域を観測するため、雲底が地面に接している場合(霧)と接していない場合(層雲)の区別はできません。 このため気象衛星画像の雲解析では、通常は両者を一括し霧(あるいは層雲)として扱っています。以下に、その特徴を述べます。

霧は、赤外画像で暗灰色またはさらに暗い色調で表されます。雲頂が低く周囲の地表(海表)面と温度差が小さいため、赤外画像から霧域を特定することは難しいです。 強い接地逆転が起きている時に存在する霧は、雲頂温度が霧の無い周囲の地表面温度より高くなり、赤外画像では地表面より黒く見えることから「黒い霧(Black Fog)」と呼ばれます。

霧は、可視画像で灰~白色の雲域として見られます。霧域の雲頂表面は滑らかで一様です。 雲頂高度はほぼ一定で、内陸に存在する霧域の境界は地形の等高度線に沿った形状を示すことが多いです。厚い上層雲や中層雲に覆われていない限り、 可視画像による霧域の特定は容易です。下が透けて見える薄い上層雲に覆われている場合も霧の識別は概ね可能ですが、粒状の上層雲が覆った時は霧域の表面にその影を落とすため、 ごつごつした対流性の雲と見誤まることがあります。一般に霧の動きは遅く形状の時間変化も緩やかなので、霧の判別には動画による動きや形状の変化を確認することも有効です。

霧の厚さは一般に数百メートル以下なので、霧の厚さより高い山や丘などの障害物に遮られ、障害物の風下側に霧のない切れ間が現れることがあり。 このことから、その場所のおおよその風向を推定することができます。

日中の霧

図1に2016年3月8日00UTCの可視画像(バンド3)に同時刻の地上気象観測データを重ね合わせて示しました。 また、図2には、同時刻のNatural color RGB合成画像を示しています。 これらの画像を見ると関東地方や山梨県、長野県の所々と関東の沿岸から三陸沖にかけてベール状の白い雲域が見られます。 これが衛星画像から見られる霧です。関東地方北部や山梨県、長野県の霧は、夜間の放射冷却により発生する「放射霧」で、関東沿岸から三陸沖にかけての霧は、暖湿流の流入による「移流霧」です。 また、関東南部の霧は、「放射霧」と「移流霧」が混合した霧です。

関東地方北部や山梨県、長野県で発生した「放射霧」は、陸上の夜間における放射冷却による気温の低下で発生します。 このため、谷や盆地などの地形に沿って発生することが多く、また、霧域は時間の経過と共に同じ位置で拡大していきます。朝になって太陽光が当たり始めると、霧域は急速に消散する特徴があります。

一方、関東沿岸から三陸沖にかけての「移流霧」は、朝になって太陽光が当たり始めても急速には消散しません。 時系列の衛星画像から霧域の時間変化を見ると、霧域の濃淡の模様が時間の経過と共に北上していることがわかります。 この事例(2016年3月8日00UTC)では、冷たい海水の上に、南西からの暖かい湿った空気が入り下層大気が飽和・凝結して霧が発生したと考えられます。図3には2016年3月8日00UTCの地上天気図、図4には、数値予報(MSM)の925hPaの高度と風、気温分布を、図5には海面水温の分布を示しています。関東東海上から三陸沖にかけての霧が発生している領域は、南西からの暖湿流の流入域と海面水温の低い領域とが一致しています。

図1 可視画像(B13) 2016年3月8日00UTC
図2 可視画像(B13) 2016年3月8日00UTC
図3 地上天気図(2016年3月8日00UTC)
図4 可視画像(B03)と数値予報(MSM925hPa) (赤色の領域は10℃以上の気温)
図5 可視画像(B03)と海面水温(青色の領域は10度以下の海面水温)

夜間の霧

夜間の霧は、ひまわり6号や7号では、バンド7(3.9μm)画像と赤外(バンド13)画像の差分画像が利用されてきたが、 ひまわり8号や9号ではNight microphysics RGB合成画像が見やすく便利です。

図6には、ひまわり7号まで夜間の霧や下層雲の監視に用いられてきたバンド7(3.9μm)と赤外画像(バンド13)の 差分画像(2016年1月3日21UTC)と同時刻の地上気象観測データを重ねて表示しました。西日本の各地には白く表示された領域があり、 地上気象観測では所々で霧を観測しています。

一方、図7には同時刻のNight microphysics RGB合成画像を示しました。Night microphysics RGB合成画像では、 西日本の各地に広がる霧は青緑色に表示されていてわかり易い。 このRGB合成画像は、ひまわり8号の赤外バンドバンド15(12.4μm)とバンド13(10.4μm)の差分、バンド13(10.4μm)とバンド7(3.9μm)の差分、 バンド13(10.4μm)画像を利用していて、従来利用していた単独の差分画像よりも多くの情報を含んでおり、夜間の霧や下層雲の監視に有効です。

図6 西日本各地に発生した夜間の霧 (2016年1月3日21UTC) バンド7(3.9μm)画像と赤外(バンド13)画像の差分画像
図7 西日本各地に発生した夜間の霧 Night microphysics RGB合成画像 (2016年1月3日21UTC)