溶存酸素量

 溶存酸素量(以後、酸素量)とは、海水中に溶け込んでいる酸素の量を言います。一般的に酸素量は海面付近で最も多くなります(図1、2)。大気と海面との間で酸素の交換が行われ、その海水に溶けることができる上限の量(溶解度)付近まで酸素が溶けるためです。海水に溶けることができる酸素の量は海水温によってほぼ決まります。気体は、水温が低いほど水に溶けやすくなる性質を持っているため、海面付近の海水の酸素量は、海水温が低い高緯度で多く、海水温が高い低緯度では少なくなります。

 海水中の酸素量は、生物活動の影響を受けて変化します。酸素は植物プランクトンや海藻などの光合成によって生成される一方、バクテリア等の活動によって有機物が分解される際に消費されます。光が届かない深さになると、有機物の分解のみが行われるため、酸素量は海面から深さとともに少なくなっていきます。

 さらに、ある深さより深くになると、酸素量は深さと共に徐々に多くなっていきます。これは、南極周辺や大西洋高緯度域で沈み込んだ酸素を比較的多く含む海水が太平洋の深層に流れ込んでくるためです(図2右図の矢印:詳細は太平洋における深層循環を参照)。このため、太平洋では、水深数百メートルから千メートル付近に酸素量が少ない酸素極小層が広がっています(図2)。

 海中の酸素量が生物活動に影響が生じる量(ここでは70µmol/kgと定義)を下回るような酸素極小層は、世界の海に広く分布しており(図2、3)、東部太平洋やアラビア海などでは酸素量が5µmol/kgを下回る海域もあります。日本の近くの北太平洋の西部でも、酸素量が70µmol/kgを下回る酸素極小層は広く分布しています(図4)。

 海水中の酸素量は、長期的に減少していることが報告されています(IPCC、2019)。貧酸素化と呼ばれるこの現象は、地球温暖化が原因であると考えられており、生態系への影響が懸念されています。

溶存酸素の鉛直分布

図1 溶存酸素量の鉛直分布図

各地点における溶存酸素量の観測データの例。単位µmol/kgは、海水1kg中に含まれる酸素の物質量をµmol (マイクロモル)で表したもの。


溶存酸素の全球分布

図2 溶存酸素量の全球分布 (単位:µmol/kg)

左図は、上から0m, 300m, 2000m, 4000m深の溶存酸素量の水平分布。右図は、西経160度における溶存酸素量の鉛直断面図(南緯90度から北緯60度まで)。左右図中の点線は、色毎に同じ位置を示す。World Ocean Atlas 2013 (Garcia et al., 2013) のデータを元に作成。


酸素極小層の極小値
酸素極小層の層厚

図3 海洋における酸素極小層の分布。酸素極小層の(上)極小値(単位:µmol/kg)および(下)層厚(単位:m)

World Ocean Atlas 2013 (Garcia et al., 2013) のデータを元に作成。ここでは酸素極小層を70µmol/kg以下と定義した。赤および青線は、図4に示す東経137度および165度線の位置を示す。


2010年夏季における東経137度線の溶存酸素量の観測結果 2011年夏季における東経165度線の溶存酸素量の観測結果

図4 (左)東経137度線および(右)東経165度線の溶存酸素量の断面図 (単位:µmol/kg)

気象庁の海洋気象観測船による東経137度線および東経165度線は、それぞれ2010年夏季および2011年夏季の観測データをもとに作成。赤線は70µmol/kg以下の範囲を示す。

参考文献

  • Garcia, H. E., R. A. Locarnini, T. P. Boyer, J. I. Antonov, O.K. Baranova, M.M. Zweng, J.R. Reagan, D.R. Johnson, 2014. World Ocean Atlas 2013, Volume 3: Dissolved Oxygen, Apparent Oxygen Utilization, and Oxygen Saturation. S. Levitus, Ed., A. Mishonov Technical Ed.; NOAA Atlas NESDIS 75, 27 pp.
  • IPCC (2019), IPCC Special Report on the Ocean and Cryosphere in a Changing Climate, [Pörtner, H.-O., D.C. Roberts, V. Masson-Delmotte, P. Zhai, M. Tignor, E. Poloczanska, K. Mintenbeck, A. Alegría, M. Nicolai, A. Okem, J. Petzold, B. Rama and N.M. Weyer (eds.)]. In press.

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