海洋汚染を防止するための取り組み

海洋汚染の現状について

海洋は、海流などの物理的過程とプランクトンによる物質の生成、分解などの生物地球化学的過程により、様々な物質を循環させています。この循環のなかで植物プランクトンによって合成される有機物は、海洋に生息する多様な生命を支えるエネルギー源となっています。海洋が汚染されることは、単に海岸や海水が汚れるだけの問題ではありません。それが海洋の生態系、ひいては物質循環にまで影響を及ぼす重大な問題なのです。

海洋は、負荷された汚染物質を拡散・沈降させ、生物化学的なプロセスで分解する浄化作用を備えています。しかし、人間の社会経済活動が拡大するにつれて排出される汚染物質は増加の一途をたどってきました。内海・内湾などのいわゆる閉鎖海域では、浄化作用のレベルを超えた生活排水の流入によって富栄養化が進行し、しばしば赤潮・青潮が発生して養殖魚の大量死滅などの被害をもたらしています。また、タンカーの事故等に伴う原油の流出が、海岸付近の生態系に大打撃を与えた事例も少なくありません。人為的に排出された有害化学物質のなかには、海洋生物の体内に取り込まれて濃縮され、生殖機能の障害や奇形個体を発生させるなど、生態系を破壊するものさえあります。

特に、多くのプラスチック類は化学的に安定であり、時間とともに風化されて細かく砕けるものの、海洋の浄化作用では分解できません。プラスチック類が一旦海洋に排出されると、回収されない限り沿岸域や外洋域の環境中に残ることになります。釣り糸が体に絡まった海鳥、ポリ袋を誤食したウミガメなど、海洋生物に対する深刻な被害が数多く報告されています。また、プラスチック類の小片に海水中の有害物質が吸着して濃縮され、海水とともに輸送されることで汚染が拡大するメカニズムも明らかにされつつあります。

海洋汚染を防止するための国際的な取り組みについて

今日の海洋汚染はすべて人間活動が原因といっても過言ではなく、汚染物質の大半は陸上起源で沿岸域から外洋域へと流出し、海流や風に乗って世界中に拡散します。また、海洋において排出・投棄・放棄されたものが汚染の原因物質となる事例も少なくありません。したがって、海洋汚染の問題は一国のみの努力で解決できるものではなく、国際的な取り決めに基づく対策が不可欠です。

1970年代前半には「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(ロンドンダンピング条約:1972年採択)」「船舶による汚染の防止のための国際条約(マルポール73/78条約:1973年採択)」が採択されています。また、大規模なタンカー事故による油汚染を契機とした議論から「1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約(OPRC条約)」が採択されるに至りました。さらに、1994年に発効した「国連海洋法条約」では、条約の締結国に海洋環境保全の努力が義務づけられています。

これらの国際条約の実効性を高めるため、国連環境計画(UNEP)は閉鎖性の高い国際海域について環境保全のための協力を呼びかけました。この取り組みが1974年に始まった「地域海計画(Regional Seas Programme)」で、これまでに地中海、広域カリブ海、紅海・アデン湾、南アジア海などで採択されてきました。日本海や黄海を中心とした北西太平洋海域については、1994年4月、日本、韓国、中国、ロシアにより「北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)」が採択され、各国は海洋環境保全に対する様々なプロジェクトを実施し、活動を推進することとされています。

海洋汚染に関する国内の法律等について

「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(ロンドンダンピング条約:1972年採択)」をはじめとする国際的な取り決めに関する議論を背景として、我が国では「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法:1971年施行)」および「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(海洋汚染防止法:1971年施行)」に基づく措置がとられてきました。

「廃棄物処理法」はそれまでの「清掃法」(1954年制定)を全面的に改めたもので、廃棄物の排出抑制と適正な処理、生活環境の清潔保持によって、生活環境の保全と公衆衛生の向上を図ることが目的とされています。また、「海洋汚染防止法」は海洋汚染等及び海上災害を防止し、海洋環境の保全等並びに人の生命及び身体並びに財産の保護に資することが目的とされており、その条文(第四十六条)により、「海上保安庁長官及び気象庁長官は、水路業務又は気象業務による成果及び資料を海洋の汚染の防止及び海洋環境の保全並びに海上災害の防止のために活用するとともに、これらの業務に関連する海洋の汚染の防止及び海洋環境の保全並びに海上災害の防止のための科学的調査を実施するものとする」ことが定められています。

気象庁の「海洋バックグランド汚染観測」について

気象庁は1972年、「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(海洋汚染防止法;1971年施行)」に基づいて、海洋汚染の防止および海洋環境の保全に資するために、日本近海および北西太平洋の海洋バックグランド汚染観測を開始しました。

観測項目は、海面の浮遊汚染物質(プラスチック類)および油塊の目視観測、浮遊タールボールの採集です。

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