表面海水中の二酸化炭素分圧の推定値および長期変化傾向の見積もり方法

表面海水中の二酸化炭素分圧の見積もり方法

表面海水中の二酸化炭素分圧は、水温や塩分の変化、下層の海水との混合、生物活動などの影響を受けるため時空間的に大きく変動し、そのすべての変動を観測結果だけで把握することは困難です。そのため、Ishii et al.(2011)の手法に基づき、これまで蓄積された気象庁の海洋観測データを用いて、次の手順で東経137度および東経165度における月ごとの二酸化炭素分圧の推定値と長期変化傾向を求めました。なお、この手法では、海洋の二酸化炭素の観測項目として広く測定されている全炭酸濃度、全アルカリ度、pH、二酸化炭素分圧のうち2つの要素の値が分かれば、化学平衡の関係からそのほかの要素の値が計算で求めることができることを利用しています(二酸化炭素分圧と二酸化炭素濃度の関係については海洋の二酸化炭素の観測項目と方法を参照)。

1. 表面海水中の二酸化炭素分圧の推定値と長期変化傾向の見積もり

以下の手順で東経137度および東経165度それぞれの緯度1度ごと、月ごとの表面海水中の二酸化炭素分圧の推定値と、その長期変化傾向を求めます。

  1. 表面海水中の全炭酸濃度は、海域や季節によって変化し、水温や塩分との間で特徴的な相関関係を示します。その相関関係を利用し、表面海水中の全炭酸濃度を時間・水温・塩分の経験式で表します。
  2. 1の経験式に海面水温と海面塩分のデータ(下表の解析値)を与えることで月ごとの表面海水中の全炭酸濃度を求めます。
  3. この海域では、塩分で規格化した表面海水中の全アルカリ度に長期的な変化傾向が見られないというTakatani et al.(2014)の報告を基に、診断の対象としている海域の解析期間における全アルカリ度を一定と仮定します。
  4. 2で得られた月ごとの全炭酸濃度と3の全アルカリ度から表面海水中の二酸化炭素分圧を算出し、表面海水中の二酸化炭素分圧の長期変化傾向を求めます。

2. 使用データ

表面海水中の二酸化炭素分圧の推定値算出と長期変化傾向の見積もりに使用したデータは下表のとおりです。

【表】使用データの項目・種類・期間
データ項目 データの種類 データの期間
観測値 表面海水中の二酸化炭素分圧 航走観測データ 1983年1月~2020年9月
全炭酸濃度・全アルカリ度 ポンプ採水および各層観測による25m以浅データ 1994年7月~2020年9月
海面水温・海面塩分 航走観測および各層観測による25m以浅データ 1983年1月~2020年9月
解析値 海面水温 気象庁全球日別海面水温解析(MGDSST)の月平均値 1985年1月~2020年12月
海面塩分 気象庁海洋データ同化システム(MOVE/MRI.COM)の月平均値 1985年1月~2020年12月

3. 二酸化炭素分圧推定値の不確かさ

上記の手法で得られた二酸化炭素分圧の推定値の不確かさは、観測で得られた二酸化炭素分圧との誤差を基に評価しています。下図は東経137度および東経165度における表面海水中の二酸化炭素分圧の推定値の、観測値に対する誤差から求めた平均二乗誤差(RMSE)と誤差のヒストグラムを表しています。ここでRMSEとは、個々の推定値の誤差を二乗し期間平均してから平方根を取ったもので、推定誤差の標準的な大きさを示す指数です。RMSEは次の式で表すことができます。

RMSEの数式
二酸化炭素分圧推定値と観測値によるRMSE(上段)および残差のヒストグラム(下段)

二酸化炭素分圧の推定値と観測値の誤差から求めた緯度ごとのRMSE(上段)および誤差のヒストグラム(下段)

図は左が東経137度線の北緯3度から北緯34度、右が東経165度線の南緯5度から北緯35度におけるRMSEおよび二酸化炭素分圧観測値の推定値に対する誤差のヒストグラムを表しています。ヒストグラム中のRMSEは、それぞれ東経137度線、東経165度線全体におけるRMSEの値を示しています。

参考文献

  • Ishii, M., N. Kosugi, D. Sasano, S. Saito, T. Midorikawa, and H. Y. Inoue (2011), Ocean acidification off the south coast of Japan: A result from time series observations of CO2 parameters from 1994 to 2008, J. Geophys. Res., 116, C06022, doi:10.1029/2010JC006831.
  • Takatani, Y., K. Enyo, Y. Iida, A. Kojima, T. Nakano, D. Sasano, N. Kosugi, T. Midorikawa, T. Suzuki, and M. Ishii (2014), Relationships between total alkalinity in surface water and sea surface dynamic height in the Pacific Ocean. J. Geophys. Res. Oceans, 119, doi:10.1002/2013JC009739.

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