太平洋の海面水温に見られる十年~数十年規模の変動

太平洋十年規模振動の算出方法に誤りがあったため、PDO指数およびNPGO指数の時系列図、およびそれらに対する海面水温や海面気圧の回帰係数の分布図を修正しました。詳細はこちらを参照ください。(令和6年1月22日)

海面水温には、エルニーニョ/ラニーニャ現象に代表される年々~数年規模の変動や地球温暖化に伴う百年規模の変動が存在していますが、両者の中間にあたる十年~数十年規模の変動も確認されており、その重要性が近年注目されています。このページでは、北太平洋に見られる主要な十年規模変動のパターンを紹介し、更に太平洋全体の十年~数十年規模の変動について示します。最新の状況については太平洋十年規模振動のページに掲載しています。

北太平洋に見られる主要な十年規模変動

太平洋十年規模振動

北太平洋に見られる主要な海面水温の変動として、中央部付近と北米沿岸で逆符号の偏差が現れるパターン(図1)が知られており、太平洋十年規模振動(Pacific Decadal Oscillation:PDO)と呼ばれています(Mantua et al., 1997)。図1の場合を正、逆の場合を負の状態としてPDOの位相を表した指数の時系列を見ると、1940年代から1970年代末までは負、その後1990年代までは正、2000年頃から2010年代前半にかけておおむね負の値で推移し、2010年代後半は正、その後2021年初め頃からは負の値が見られており、十年から数十年ごとに符号が反転していることが分かります(図2)。


PDO指数に対する海面水温の回帰係数

図1:PDO指数に対する海面水温の回帰係数(PDO指数が正の時に海面水温に見られる傾向)。統計期間は1901年1月~2000年12月。

年平均したPDO指数の時系列

図2:年平均したPDO指数の時系列。赤線が年平均値、青線はその5年移動平均を表す。また、月毎の指数を灰色の棒グラフで示している。

PDOは海面水温のパターンとして見出される変動ですが、PDO指数が正の時は、アリューシャン低気圧(図3)と上空の偏西風が強くなる傾向にあります。アリューシャン低気圧の強さの指標として用いられる北太平洋指数(North Pacific Index:NPI)はPDO指数と似た変動を示しており、海面水温だけではなく大気場も含めた十年規模の変動が存在していると考えられます。


PDO指数に対する海面気圧の回帰係数

図3:PDO指数に対する海面気圧の回帰係数(PDO指数が正の時に海面気圧に見られる傾向)。統計期間は1948年1月~2021年12月

太平洋十年規模振動に次ぐ第2の変動

北太平洋に見られるPDOの次に主要な海面水温の変動として、北東部と南西部で逆符号の偏差となるパターン(図4)があります。北太平洋における海面高度に対する解析(Di Lorenzo et al., 2008)によって"North Pacific Gyre Oscillation(NPGO)"が発見されており、図4はNPGOに伴って海面水温に表れる変動と考えられています。

図4の場合を正とした指数の時系列(図5)は、PDOとは異なる十年規模の変動を示しています。太平洋熱帯域ではPDOと比べると中央部寄りに回帰が見られ、エルニーニョもどき(Ashok et al., 2007)と何らかの形で関連している可能性も示唆されています(Di Lorenzo et al., 2010)。20世紀を通した解析の結果ではPDOに次ぐ2番目の変動として検出されますが、1980年代に入ってから振幅が増大しており、近年に限ればPDOと同程度の寄与を示す重要な変動になってきています(Yeh et al., 2011)。


NPGO指数に対する海面水温の回帰係数

図4:NPGO指数に対する海面水温の回帰係数。統計期間等は図1と同様。

年平均したNPGOの指数の推移

図5:年平均したNPGO指数の時系列。赤線が年平均値、青線はその5年移動平均を表す。また、月毎の指数を灰色の棒グラフで示している。

PDO/NPGO指数の定義

北太平洋の20°N以北における月毎の海面水温偏差(1901年から2000年までの平均値に対する差)に対して経験的直交関数(EOF)解析を行い、検出された第一モードの時係数をPDO指数としています。ただし、地球温暖化の影響を取り去るため、EOF解析を行う前にそれぞれの地点の月平均海面水温偏差から全球平均海面水温偏差を除いています。

NPGOは海面高度の解析で定義されていますが、海面水温をEOF解析した結果の第二モードと同じ変動が現れていると考えられています。ここでは、PDOと同様に海面水温をEOF解析した結果の第二モードをNPGO指数として採用しています。

太平洋全体の十年~数十年規模の変動

PDO指数に対する全球海面水温偏差の回帰係数の分布(図1)では、太平洋熱帯域の中部から東部にかけて正の値が見られ、エルニーニョ現象(海洋と大気の両方が関連しあった変動としてエルニーニョ・南方振動(ENSO)といいます)に似た分布となっています。ENSOは太平洋熱帯域の数年規模の変動で、場所も時間規模もPDOとは異なりますが、一方でENSO自身の特性が十年規模で変調しているという指摘もあり、熱帯域のENSOと北太平洋のPDOを組み合わせた太平洋全体での十年規模変動(呼称としては太平洋数十年規模振動(Inter Decadal Pacific Oscillation:IPO)などがよく用いられます)として理解する立場での研究も行われています。(Zhang et al., 1997; Power et al., 1999; Wang et al., 2013)。特徴的な海面水温の分布が似ているだけでなく、PDO指数と北米北西部における気温には正の相関関係があるなど、PDO指数の変動に伴って現れやすい天候の傾向は、ENSOが天候に与える影響と類似しています(Mantua and Hare, 2002; 海面水温に見られる十年~数十年規模の変動が大気の流れや天候に与える影響)。

太平洋に見られる十年~数十年規模の変動については、熱帯のENSOや中緯度のアリューシャン低気圧、黒潮や親潮に代表される大規模な海洋表層循環など様々な要素が関わっている可能性が示唆されています。これら様々な時空間規模を持つ変動が重なった結果としてPDOが現れているとの研究結果(Schneider and Cornuelle, 2005)もありますが、十年~数十年規模の変動を引き起こすメカニズムはまだ十分には解明されていません。

地球温暖化の指標としている全球平均気温・海面水温の上昇傾向が2000年頃からの約10年間弱まりましたが、これにも十年~数十年規模の変動が関連している可能性が示唆されています(IPCC, 2021)。詳細は 地球温暖化と十年規模変動 のページで紹介しています。

参考文献

  • Ashok, K., S. K. Behera, S. A. Rao, H. Weng and T. Yamagata (2007) : El Nino Modoki and its possible teleconnection; J. Geophys. Res., Vol.112, C11007.
  • Di Lorenzo, E., N. Schneider, K. M. Cobb, P. J. S. Franks, K. Chhak, A. J. Miller, J. C. McWilliams, S. J. Bograd, H. Arango, E. Curchitser, T. M. Powell and P. Riviére (2008) : North Pacific Gyre Oscillation links ocean climate and ecosystem change; Geophys. Res. Lett., Vol.35, L08607.
  • Di Lorenzo, E., K. M. Cobb, J. C. Furtado, N. Schneider, B. T. Anderson, A. Bracco, M. A. Alexander and D. J. Vimont (2010) : Central Pacific El Niño and decadal climate change in the North Pacific Ocean; Nat. geoscience., 3, pp.762-765.
  • Gershunov, A. and T. P. Barnett (1998) : Interdecadal Modulation of ENSO Teleconnections; Bull. Amer. Meteor. Soc., Vol.79, pp.2715-2725.
  • IPCC (2021): Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S.L. Connors, C. Pean, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M.I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J.B.R. Matthews, T.K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekci, R. Yu, and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, In press, doi:10.1017/9781009157896.
  • Mantua, N. J., S. R. Hare, Y. Zhang, J. M. Wallace, and R. C. Francis (1997) : A Pacific Interdecadal Climate Oscillation with Impacts on Salmon Production; Bull. Amer. Meteor. Soc., Vol.78, pp.1069-1079.
  • Mantua, N. J., and S. R. Hare (2002) : The Pacific Decadal Oscillation; J. Oceanography, Vol.58, pp.35-44.
  • Power S., T. Casey, C. Folland, A. Colman, and V. Mehta (1999) : Inter-decadal modulation of the impact of ENSO on Australia; Clim. Dyn., 15, pp.319-324.
  • Schneider, N. and B.D. Cornuelle (2005) : The Forcing of the Pacific Decadal Oscillation; J. Climate, Vol.18, pp.4355-4373.
  • Yeh, S.W., Y.J. Kang, Y. Noh and A.J. Miller (2011) : The North Pacific climate transitions of the winters of 1976/77 and 1988/89; J. Climate, Vol.24, pp.1170-1183.
  • Wang, B., J. Liu, H.J. Kim, P.J. Webster, S.Y. Yim and B. Xiang (2013) : Northern Hemisphere summer monsoon intensified by mega-El Niño/southern oscillation and Atlantic multidecadal oscillation; Proc Natl Acad Sci USA, Vol.110, No.14, pp.5347-5352.
  • Zhang, Y., J. M. Wallace, and D. S. Battisti (1997) : ENSO-like Interdecadal Variability: 1900–93; J. Climate, Vol.10, pp.1004-1020.

参考リンク

お知らせ

太平洋十年規模振動の算出方法に誤りがあったため、PDO指数およびNPGO指数の時系列図、およびそれらに対する海面水温や海面気圧の回帰係数の分布図を修正しました。詳細はこちらを参照ください。(令和6年1月22日)

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