沖合の津波・潮位等の観測データの津波防災への利用を目的とした提供について
経緯
近年の沖合の津波・潮位観測施設の整備により、これら観測施設から得られる観測データの自治体等での利用拡大が想定されます。
気象庁では、津波防災の観点から、これらの沖合の津波・潮位等の観測データが適切に利用されるよう、 関係機関(国土交通省港湾局、独立行政法人防災科学技術研究所及び独立行政法人海洋研究開発機構)と協議し、 観測施設を運用する機関がその観測データを自治体等に提供する際に利用者に伝えるべき留意事項を 「沖合の津波・潮位等の観測データの津波防災への利用を目的とした提供について」として平成26年2月に取りまとめました。 その内容について、本ページにて公表しています。
また取りまとめた内容についての解説資料を気象庁で作成し、関連資料として以下で公表しています。
概要
沖合の津波・潮位等の観測データの津波防災への利用を目的とした提供について(概要)
1.目的
沖合津波・潮位観測施設を運用している各機関が自治体等の利用者にデータを提供する際に利用者に伝えるべき留意事項をとりまとめ、 観測データが混乱なく利用され、津波防災の推進に寄与することを目的とする。
2.内容
沖合の津波・潮位等の観測データを、津波防災を目的として利用する際に、 利用者に伝えるべき留意事項として、津波防災の基本原則、津波の性質として留意すべき事項、 および観測データの見方で留意すべき事項等をとりまとめた。 また、観測データの提供をうけた利用者から、さらに第三者に提供され、二次的な利用が行われる場合にも、 同様の留意事項を伝えるべきである旨を記載した。
例)
・津波による人的被害の防止には迅速な避難が基本であること。(津波防災の基本原則)
・一般に、津波は沖合で観測された高さが小さくても沿岸では大きくなること。(津波の性質)
・津波の第一波やその後続波の高さについて、ある時点で提供された観測値や連続観測データの読み取り値が、 必ずしも繰り返し到来する津波の最大値を意味しているとは限らないこと。(観測データの見方)
詳細
沖合の津波・潮位等の観測データの津波防災への利用を目的とした提供について
1.経緯及び目的
沖合での津波や潮位の観測については、近年、ケーブル式海底津波計、GPS波浪計、 紀伊半島沖の地震・津波観測監視システム(DONET1)等の観測施設が整備され、 これに加えて、DONET2、日本海溝海底地震津波観測網の整備も進行しており、 今後も、観測点数や観測範囲の拡充など、沖合で津波を検知することが可能な観測施設はさらに充実する見込みである。 これらの観測施設はそれぞれの機関の目的に応じて整備されたものであるが、沿岸自治体からは、 防災活動の支援のため観測施設を運用する各機関が観測データを自治体等に提供することも期待されており、 今後、沖合津波・潮位観測データの利用の進展・拡大が予想される。 これらの沖合データについては、沿岸に到達する前の津波を観測できる可能性があるため、適切に利用すれば防災上の効果が高いと考えられる。
一方、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の際に、 当庁が津波情報で発表した津波の観測結果「第一波0.2m」等が避難の遅れや中断につながったと考えられる事例があり、 当庁が開催した「津波警報の発表基準等と情報文のあり方に関する検討会」での有識者の検討では、 観測事実を伝えることは重要である一方、観測値の発表は避難行動を妨げることがないようにすることに十分配慮して行う必要があるとされた。 このことは、津波観測データの利用には、津波や観測データに関する特性の十分な理解を踏まえることが極めて重要であることを示しており、 緊急時の混乱を回避するためには、データ利用者に対する正しい利用方法の周知が必須である。
このような状況を踏まえ、当庁では、沖合津波・潮位観測を現在行っている国土交通省港湾局、 独立行政法人防災科学技術研究所及び独立行政法人海洋研究開発機構と協議し、 沖合津波・潮位観測データの利用が総合的な津波防災の推進に寄与するよう、そのデータを提供する際に利用者に伝えるべき留意事項をとりまとめた。
2.沖合津波・潮位観測データの利用上の留意事項
沖合での津波の読み取り値や潮位の連続観測データをリアルタイムで提供する場合には、 利用者が以下の事項を理解しておくことができるよう、沖合津波・潮位観測データの提供が想定される機関(以下「各機関」という。)は、 利用者に対して十分な事前説明を行うものとする。但し、不特定多数の利用者が想定され、 提供者から利用者への事前説明ができない場合(例えばホームページやアプリケーションソフト等)は、 利用者が留意事項を理解した上で利用できるよう、あわせて留意事項の掲載等によって周知することとする。
① 津波防災の基本原則及び津波の性質
・ 津波による人的被害の防止には迅速な避難が基本であり、沿岸で強い揺れを感じたら即避難、 気象庁の津波警報等を見聞きしたら即避難を原則とし、沖合で津波を観測したことを確認してからの避難行動は、 避難の遅れを生じさせ非常に危険であること。
・ 一般に、津波は沖合で観測された高さが小さくても沿岸では大きくなること。 また、観測点が沿岸から離れた位置にあるほど、そこで観測された津波が影響を及ぼす範囲が不明確になること。
・ 津波は繰り返し襲ってくること、そして第一波が必ずしも最大となるとは限らず、 むしろ多数の事例において後続の津波の方がより大きくなる傾向がみられること。
② 観測データの見方
・ 津波の第一波やその後続波の高さについて、ある時点で提供された観測値や連続観測データの読み取り値が、 必ずしも繰り返し到来する津波の最大値を意味しているとは限らないこと。
・ 同じ観測点の資料を用いていても資料の処理方法(天文潮位の影響の取り除き方等)が異なる等により、 発表機関によって津波の高さの観測値が異なる数値となる可能性があること。
・ 海底水圧計による観測の場合、地震動そのものや震源域での地殻変動の影響が観測データに混入する可能性があること。
・ 沖合の津波・潮位観測データには、平常時から潮汐(潮の満ち引き)、波浪、海流その他の現象による海面の変動が含まれていること。
・ 沖合の津波・潮位観測データには、観測精度、読み取り方法に起因する誤差が含まれるほか、 計測機器やシステムの不具合などにより誤った観測データとなる可能性もあること。
・ 上記の留意事項を理解した上で、沖合の津波・潮位観測データの解釈やそれに伴う防災上の判断を行う必要があること。
③ 観測機器の欠測等
・ 沖合の津波・潮位観測データが提供されない場合は、沖合で津波が観測されていないケースのほか、 欠測等により情報が提供されないケースも考えられること。したがって、観測機器の欠測等の状況を考慮した上で利用することが重要であること。
3. 沖合の津波・潮位観測データの二次的利用について
各機関から沖合の津波・潮位観測データの提供を受けた利用者(自治体・企業・個人等)が、 さらにそのデータを住民・従業員・第三者等に提供し二次的利用がなされるような場合においても、 ここにとりまとめた留意事項に沿った利用がなされることが重要である。 各機関はその旨を利用者に対して十分な事前説明を行う等の必要な措置を講ずるものとする。
関連資料
- 沖合の津波・潮位等の観測データの津波防災への利用上の留意事項の解説資料 [PDF形式:1.88MB]
- 沖合の津波・潮位等の観測データの二次的利用にあたっての留意事項の解説資料 [PDF形式:1.71MB]