地震情報等に用いるマグニチュードについて

 地震の規模をあらわす指標として用いられているマグニチュードは、長さや重さのように直接物理量を測ることができないものであることから、算出することが難しく、古くから様々な算出方法が考案されてきました。このため、マグニチュードには、計算に使用するデータ(観測する地震計の種類や、地震波形のどの部分を用いるかなど)や計算手法などに応じて、非常にたくさんの種類が存在します。それぞれのマグニチュードには長所と短所があり、国際的に統一された規格はありません。

 様々あるマグニチュードのうち、気象庁では気象庁マグニチュード(Mj)とモーメントマグニチュード(Mw)の2種類を主に用いています。それぞれの特徴と利用する場面は次のとおりです(Mjの「j」は気象庁(Japan Meteorological Agencyの頭文字)、Mwの「w」は、金森(2013)によれば、物理学用語のwork(仕事:力×距離)に由来します)。

気象庁マグニチュード(Mj) モーメントマグニチュード(Mw)
計算に使用するデータ 短周期速度型地震計(※1)で観測された速度波形(※2)の最大振幅、または加速度型地震計(※1)で観測された加速度波形から得られた変位波形(※3)の最大振幅。

この手法での最大振幅は、全振幅の最大値を1/2にしたものである。
使用する地震波形
広帯域地震計(※4)で観測された地震波形全体
使用する地震波形
計算手法 速度波形または変位波形の最大振幅に、距離減衰(※5)の効果等の補正を加えて計算。 CMT解析(観測された地震波形を最もよく説明する地震の位置と時刻、規模(モーメントマグニチュード)、及び発震機構(メカニズム)を同時に決定する解析法)により算出。
長所
  • 地震波形から振幅を読み取ればすぐに求めることができる。
  • 多くの場合、地震の規模を精度よく反映しており、約100年間にわたって一貫した方法で決定されている。
  • 断層の面積と断層すべり量の積に比例する量であり、物理的な意味が明確。
  • 巨大な地震の規模を求めることが可能。
短所
  • 経験式で物理的な意味が曖昧。
  • 巨大な地震(M8を超えるものなど)の規模は正しく決められない。
  • 地震波形全体を詳細に分析する必要があるため、地震発生直後に迅速に計算することが困難。
  • 規模の小さい地震で精度よく計算することが困難。
使用する場面
  • 地震発生後数分で発表する津波警報等の第1報や、地震・津波に関する情報を発表する場合
  • 現在と過去の地震活動を比較し評価する場合
  • 津波警報等の第1報発表後に、津波警報等を更新する場合
  • 巨大な地震で、Mjでは地震の規模を表すことができない場合
  • 発生した地震が、南海トラフ沿いの巨大地震や日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の想定震源域に影響を及ぼすかどうかを判断する場合。

 気象庁では、気象庁マグニチュードとモーメントマグニチュードそれぞれの長所を活かして使用しています。
 地震は地下の岩盤がずれる現象(断層運動)で、断層のずれの開始から終了までの間、地震波が発生し続けます。断層のずれが進行するのに伴い、発生した地震波が地中を伝播して、震源により近い観測点から順次到達していくことから、時間が経過するにつれ、マグニチュードの算出に使用できる観測点数やデータの種類も増えていきます。このため、地震を覚知してから順次実施する解析により、当該地震のマグニチュードはより適切なものに更新されていきます(同じ種類のマグニチュードでも、精査(※6)により、より適切な値に更新されていきます。例えば平成23年東北地方太平洋沖地震では、速報値7.9(Mj)から、3/11 16:00に8.4(Mj)、17:30に8.8(Mw)、3/13 12:55に9.0(Mw)とマグニチュードを順次更新しました(※7))。
 地震発生後、地震情報・津波警報等が順次発表されている間は、最新の地震情報・津波警報等に記載されているマグニチュードを参照ください。


地震情報に記載されているマグニチュードの例

 また、複数あるマグニチュードのうち、発生した地震の規模を表す代表値としては、気象庁マグニチュードを使用することを基本としています。これは気象庁マグニチュードが小さな規模の地震も含めて過去100年以上一貫した手法で求めることで、過去に発生した地震と規模の比較が可能であるためです。顕著な地震についてはこの代表値を、気象庁マグニチュードの精査を行った後、「顕著な地震の震源要素更新のお知らせ」や報道発表でお知らせしています。ただし、東北地方太平洋沖地震のように、気象庁マグニチュードでは地震の規模を適切に表せない場合等にはモーメントマグニチュードの値を代表値とする場合があります。気象庁では、精査前のマグニチュードを速報値、「顕著な地震の震源要素更新のお知らせ」等でお知らせした精査後のマグニチュードを暫定値と呼んでいます。
 この他、南海トラフ地震臨時情報(令和元年運用開始)や、北海道・三陸沖後発地震注意情報(令和4年12月運用開始)の判断には、物理的な意味が明確で、大きな地震に対しても適切な値を求めることができることから、モーメントマグニチュードを基準に用いることとしています。これらの情報の発表判断を行った地震については、マグニチュードの代表値に加えて、発表判断の根拠としてモーメントマグニチュードも報道発表資料などに記載します。


※1:「地震計の話」(火山活動解説資料(平成14年6月))[PDF形式:43KB]
※2:地震波形のうち、地面の移動する速度で表現されたもの。
※3:地震波形のうち、地面の位置の変化で表現されたもの。
※4:通常の地震計よりも長周期の波形を観測することができる地震計。
※5:震源からの距離が遠くなればなるほど、観測される地震波形の最大振幅が小さくなるという性質のこと。
※6:より多くの地震観測点のデータを用いてマグニチュードを計算すること。使用するデータの数が増えるため、震源の位置やマグニチュードの精度は上がりますが、算出するまでの処理に時間がかかります。
※7:「東北地方太平洋沖地震のマグニチュード」(気象庁技術報告 「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震調査報告」(2012年)P22)[PDF形式:62MB]



参考文献


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