インド洋に見られる海面水温の偏差パターンと日本の天候
このページのメカニズムに関する解説文や図は、季節予報技術資料第2巻(令和6年度)の第3,4章の内容をさらに検討したものです。
インド洋の海洋変動
インド洋の特に熱帯域には、全域で海面水温平年差が正あるいは負になる変動と、東部と西部で海面水温平年差の符号が逆になる変動の2つの変動が知られています。
全域の変動は、エルニーニョ・ラニーニャ現象に伴う中・東部太平洋赤道域の海面水温の変動に数か月遅れて変動するもので、(エルニーニョ・ラニーニャ現象のピークが北半球の冬になることが多いことから)北半球の夏を中心に明瞭になることが多く、インド洋海盆モード現象とも呼ばれています(Klein et al. 1999, Xie et al. 2009)。
東西で逆になる変動は、概ね夏から秋(6~11月)の間に発生し、インド洋ダイポールモード(IOD)現象と呼ばれています(Saji et al. 1999)。正のIOD現象はエルニーニョ現象と、負のIOD現象はラニーニャ現象と同時に発生することがしばしばありますが、インド洋ダイポールモード現象はエルニーニョ/ラニーニャ現象とは独立した海洋変動であると考えられています。
インド洋熱帯域全域の海洋変動(インド洋海盆モード現象)
平常時の状態インド洋赤道域では、インドモンスーンの影響で季節によって風向が変わりますが、平均すると弱い西風が吹いています。このため、海面下百数十メートルには、暖かい海水がインド洋の東部でやや厚めに分布しています。エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、インド洋熱帯域の大気の状態が変化して、海洋の状態も変化します。 エルニーニョ現象に伴うインド洋熱帯域の変動太平洋でエルニーニョ現象が発生すると、インド洋では東風に転じ、東部にやや厚く蓄積されていた暖かい海水は、西部及び熱帯域に広がります。また日射量も増え、海面を暖めるようになります。このため、インド洋熱帯域の海面水温は、エルニーニョ監視海域の海面水温の上昇に対して、3か月程度遅れて高くなります。またエルニーニョ現象終息後も、インド洋の海面水温の高い状態が、3か月程度継続します。 ラニーニャ現象に伴うインド洋熱帯域の変動太平洋でラニーニャ現象が発生すると、インド洋赤道域では西風が強まり、日射量が少なくなる傾向があります。このため、インド洋熱帯域の海面水温は、エルニーニョ監視海域の海面水温の低下に対して、3か月程度遅れて低くなります。またラニーニャ現象終息後も、インド洋の海面水温の低い状態が、3か月程度継続します。 |
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図1 エルニーニョ/ラニーニャ現象に伴うインド洋熱帯域の海洋変動 |
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気象庁では、インド洋熱帯域の海域をIOBWと名付け、同海域平均の海面水温を用いた指数(IOBW指数)を用いて、この変動を監視しています。
インド洋熱帯域が日本の夏の天候に影響を及ぼすメカニズム
インド洋熱帯域で平年と比べて海面水温が高いと、インド洋で積雲対流活動が活発となり、赤道に沿ってインドネシア周辺まで低気圧が伸張してくる傾向があります。この影響で、インドシナ半島~フィリピン周辺の大気下層を吹くアジアモンスーンに伴う西風(モンスーン偏西風)が弱まり、フィリピン周辺では積雲対流活動が不活発となります(Xie et al. 2009)。これに伴って、太平洋高気圧は南西方向に強く張り出す一方、本州への張り出しが弱まり、日本周辺には湿った気流が入りやすい傾向があります。
このような偏った大気の流れの影響で、気温は沖縄・奄美で平年並か高くなる一方、西日本で低くなり、夏の後半は東日本で低く、北・西日本で平年並か低くなる傾向があります。日照時間は東日本太平洋側で少なく、北・東日本日本海側で平年並か少ない傾向があります。⇒インド洋熱帯域が高温時の夏(6~8月)の天候の特徴
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| 図2 インド洋熱帯域が高温時に日本の夏の天候に影響を及ぼすメカニズム |
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また、ラニーニャ現象に伴う中・東部太平洋赤道域の海面水温の変動に遅れてインド洋熱帯域の海面水温が低くなる場合には、上記とは逆の傾向が現れますが、インド洋の海面水温が高い場合ほど明瞭ではありません。
インド洋熱帯域の東西で偏差が逆となる海洋変動(インド洋ダイポールモード現象)
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インド洋ではエルニーニョ/ラニーニャ現象と独立した海洋変動としてインド洋ダイポールモード現象が知られています(Saji et al. 1999)。インド洋ダイポールモード現象の特徴は、平常時と比較した海面水温や大気の対流活動が、インド洋熱帯域南東部で低温・不活発、西部で高温・活発というように、東と西で逆符号の偏差パターンとなることです。 インド洋熱帯域の海面水温が南東部で平常より低く、西部で平常より高くなる場合を正のインド洋ダイポールモード現象、逆の場合を負のインド洋ダイポールモード現象と呼んでいます。両現象ともに概ね夏から秋(6~11月)の間に発生します。インド洋ダイポールモード現象の発生頻度は年代によって大きく変わり、2010年代半ば頃以降はインド洋ダイポールモード現象の発生頻度が高まっています(インド洋ダイポールモード現象の発生期間(季節単位))。 図3はエルニーニョ現象が発生していない時期に正のインド洋ダイポールモード現象が発生した年の晩夏から初秋にかけての海面水温と大気下層の高低気圧性循環の平年からの偏りを示したもので、インド洋熱帯域における海面水温の東西コントラストが明瞭です。 |
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| 図3 正のインド洋ダイポールモード現象が発生した8~10月の海面水温と大気下層の循環パターン(平年からの差) | |
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| 図中の文字「H」は高気圧性の、「L」は低気圧性の循環をあらわす。 |
インド洋ダイポールモード現象が日本の天候に影響を及ぼすメカニズム
夏から秋(6~11月)頃に正のIOD現象が発生すると、平年と比べて、インド洋熱帯域の海面水温は西部で高くなる一方、南東部では低くなり、積雲対流活動は不活発となる傾向があります。これに伴って、北インド洋~フィリピン周辺の大気下層を吹くアジアモンスーンに伴う西風(モンスーン偏西風)が強まってインド北西部周辺で積雲対流活動が活発となるほか、モンスーン偏西風が貿易風とぶつかることで、フィリピン周辺で積雲対流活動が活発となる傾向があります。これらの活発な積雲対流活動の影響で、亜熱帯ジェット気流は日本周辺で北寄りを流れ、チベット高気圧が北東方向に強く張り出す傾向があるとともに(Guan and Yamagata 2003、Takemura and Shimpo 2019)、日本付近で太平洋高気圧が強まる傾向があります(太平洋・日本パターン: Nitta 1987)。
このような偏った大気の流れの影響で、盛夏期~秋の初め頃の気温は東・西日本で高く、北日本で平年並か高くなり、初秋にかけての季節進行が遅く残暑が厳しい傾向があります。降水量は東日本太平洋側で少なく、沖縄・奄美では多くなる傾向があります。日照時間は北・西日本日本海側で多くなる傾向があります。⇒インド洋ダイポールモード現象発生時の日本の天候の統計的な特徴
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| 図4 正のIOD現象が盛夏期から初秋にかけての日本の天候に影響を及ぼすメカニズム (エルニーニョ現象と同時に発生した場合を除いた特徴から作成) |
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なお、負のIOD現象発生時の日本の天候への影響は、正のIOD現象発生時と比べて明瞭ではありません。
参考文献
- Guan, Z., and T. Yamagata, 2003: The unusual summer of 1994 in East Asia: IOD teleconnections. Geophys. Res. Lett., 30, 1544, doi:10.1029/2002GL016831.
- Klein, S. A., B. J. Soden, and N. C. Lau, 1999: Remote Sea Surface Temperature Variations during ENSO:Evidence for a Tropical Atmospheric Bridge. J. Climate, 12, 917-932.
- Nitta, T., 1987: Convective activities in the tropical western Pacific and their impact on the Northern Hemisphere summer circulation. J. Meteor. Soc. Japan, 65, 373-90.
- Saji, N. H., B. N. Goswami, P. N. Vinayachandran, and T. Yamagata, 1999: A dipole mode in the tropical Indian Ocean. Nature, 401, 360–363.
- Takemura, K., and A. Shimpo, 2019: Influence of positive IOD events on the northeastward extension of the Tibetan High and East Asian climate condition in boreal summer to early autumn. SOLA, 15, 75−79, doi:10.2151/sola.2019-015.
- Xie, S. P., K. Hu, J. Hafner, H. Tokinaga, Y. Du, G. Huang, and T. Sampe, 2009: Indian Ocean capacitor effect on Indo-western Pacific climate during summer following El Nino. J. Climate, 22, 730-747.




