緊急地震速報を活用した津波警報・注意報の迅速化

 気象庁は津波警報・注意報を3分程度で発表することを目標としてきましたが、平成18年10月より、緊急地震速報の技術を活用することにより、津波警報・注意報をより早く発表することができるようになりました。ただし、緊急地震速報で十分な精度の震源とマグニチュードが得られた場合に、これらを活用することになります。
緊急地震速報の仕組み

緊急地震速報を活用した津波警報・注意報の流れ

 平成19年3月25日に発生した「平成19年(2007年)能登半島地震」 の際には、実際に緊急地震速報の技術を用い、地震発生から1分40秒程度で津波注意報を発表することができました。

能登半島地震の際に発表した津波注意報

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地震のメカニズムを活用した、津波警報・注意報の切替・解除

 気象庁は、数値シミュレーションによる津波予測結果を保存したデータベースを、津波警報・注意報の発表に活用しています(津波を予測するしくみ)。 このシミュレーションは、地震による断層を全て傾斜角45°の逆断層と仮定して計算を行っています。 地震が発生した際には、その計算結果をデータベースから検索し、迅速な津波警報・注意報の発表を実現しています。
 しかし、実際には、地震による断層は全て傾斜角45°の逆断層とは限りません。 地震の発生メカニズムが異なると、マグニチュードが同じであっても、発生する津波の大きさは変わります。 また、メカニズムが横ずれだった場合は、津波を起こしにくいとされています。
地震のメカニズムと津波の関係

 気象庁では、平成19年7月より、短時間でCMT解を計算することにより、地震のメカニズムと規模(モーメントマグニチュード)を地震発生後10~20分程度で推定しています。 モーメントマグニチュード(Mw)とは、地震による断層運動の大きさを的確に表すマグニチュードです。 最初の津波警報・注意報は、地震発生後2~3分で発表する必要があるので、気象庁マグニチュード計算式を使って推定した地震の規模に基づいています。 最初の警報・注意報の発表後、地震発生メカニズム及びMwによって、これまでよりも早いタイミングで、津波警報・注意報の切替や解除を行うことができるようになりました。
 以下では、地震のメカニズムやMwを用いた津波警報・注意報の切替や解除について解説します。

<地震発生メカニズムに応じた切替・解除>

 平成17年3月20日に発生した福岡県西方沖の地震はマグニチュード7.0と推定され、気象庁は、津波注意報を発表しました。 しかし実際には、津波は観測されませんでした。 後の調査により、この地震による断層は横ずれであったことが分かりました。
 現在では、地震発生後10~20分で地震発生メカニズムが分かるようになりました。 これにより、断層が横ずれであると判明した場合には、津波の予測をやり直すことが必要になります。 このため、横ずれ断層に対応したシミュレーションも実施し、その結果をデータベースに追加してあります。
 具体的には、地震が発生し津波警報又は注意報を発表したが、断層が横ずれと判明し、津波の到達予想時刻まで待っても津波が観測されない場合には、警報・注意報を速やかに解除します。 あるいは、横ずれ断層と判明した場合で、津波が観測されたが予想された高さに比べて小さい場合には、横ずれ断層に対応したデータベースによる津波予測を行い、その結果を利用して津波注意報への切替や解除を行います。
地震発生メカニズムに応じた切替・解除

 実際に横ずれ断層と判明した場合の津波注意報の解除の流れについて、平成17年3月20日の福岡県西方沖の地震を例に見てみましょう。 赤枠で囲まれたものが、地震発生メカニズムを考慮した場合に、従来の手順より変更される箇所です。 このケースでは、約20分早く注意報の解除が可能になると考えられます。
実際に地震発生メカニズムに応じた切替・解除を行った事例(平成17年3月20日の福岡県西方沖の地震)


<モーメントマグニチュード(Mw)を活用した切替・解除>

 地震は、断層面を境に両側の岩盤がずれ動く現象です。 地震の大きさは、断層の面積(S)とずれの量(D)の積に比例します。 この積に剛性率(岩盤の堅さを示すもの)をかけたものを地震モーメントといいます。 この地震モーメントを基にしたマグニチュードをモーメントマグニチュード(Mw)といいます。 Mwは断層運動の規模を表す指標といえます。 津波は断層運動によって発生するため、Mwを用いて予測を行った方が、通常のマグニチュードを使用するよりも、発生する津波の規模を正確に見積もることが可能と考えられるのです。 また、Mwは長い周期の地震波を用いて計算されますので、通常のマグニチュードの割に大きな津波を伴う「津波地震」のマグニチュードの推定にも有効と考えられます。
Mwと断層面の大きさの関係

 実際にMwを使った津波警報・注意報の切替や解除の手順について説明します。 Mwが、先に発表した警報・注意報で用いたマグニチュードの値よりも小さく、かつ、Mwが6.4以下になったときは、津波データベースを用いて津波予測の再評価を行い、その結果として注意報にならないと予想された場合には、津波注意報を解除します。 Mwが、先に求めたマグニチュードよりも大きく、長周期が卓越しているような場合(この場合は、津波地震であることが疑われます)にも、データベースによる再評価を行い、警報や注意報に切り上げられる予報区があれば、津波警報・注意報の切替を行います。
Mwを使った津波警報・注意報の切替や解除の手順


<津波地震とは>

 マグニチュードから予想された規模より大きな津波を発生させる地震は、しばしば、「津波地震」と呼ばれます。 明治29年に三陸沖で発生した地震では、人々はたいした揺れを感じなかったのですが、明治三陸津波と言われる甚大な津波被害をもたらしました。 この地震は、津波地震だったと考えられています。 津波地震は、断層がゆっくり滑ることによって起こるため周期の長い地震波が卓越すると考えられています。 Mwを推定するためには、通常のマグニチュードを推定する場合に比べ、周期の長い地震波を用いて解析を行うので、津波地震のような地震の規模を推定するのに有効と考えられます。

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津波予報データベースの改良

 気象庁は、数値シミュレーションによる津波予測結果を警報・注意報の発表に活用しています(津波を予測するしくみ)。 平成19年11月、このシミュレーションで用いる津波予測モデルを改善し、その計算結果を津波予報データベースに収録しました。

 具体的には、以下の改善を行いました。


海底摩擦によって津波が減衰する効果を組み込み、津波の伝播過程をより正確に計算

計算格子間隔2~4kmであったものを、緯経度1分(約1.5km)間隔に細分化し、より細かな海底地形に対応

予測地点を沿岸に近づけることで、沿岸における津波の高さの予測精度が向上

<過去の津波事例で改善効果を検証>

 沿岸での津波の高さの予測精度(観測値と予測値との差)について、過去に発生した津波で検証したところ、2006年11月15日の千島列島東方の地震では38%、「昭和58年(1983年)日本海中部地震」では15%改善されました。
 「昭和58年(1983年)日本海中部地震」では、旧データベースでは、北海道日本海沿岸南部、佐渡及び隠岐の予報区には3m程度以上の津波が予想されます。 しかし、これらの沿岸での実際の津波記録は、1m程度でした。 新データベースによる検索結果を用いれば、津波警報を発表した予報区では、1m又は2m程度の津波を予想することになり、実際の観測と合致します。

新データベースと旧データベースの比較

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津波情報に活用する観測地点の追加

 気象庁、国土交通省港湾局、国土交通省河川局、海上保安庁、国土地理院がそれぞれ管理している検潮所の潮位記録がリアルタイムで共有できるようになったことから、平成20年7月1日に津波の観測値を発表する検潮所の数を、これまでの107 ヶ所から163 ヶ所に増やしました(図1)。 津波は、沿岸の地形や水深の違いにより、距離がわずかに離れても高さが大きく異なることがあります。 観測地点が増えることにより、きめ細かな情報の提供ができるようになります。
 なお、最新の観測点分布は、津波観測点のページに掲載しています。

津波観測情報で津波の観測値を発表する検潮所の場所。赤印が平成20年7月1日以降に追加された地点を示す。青丸は従来の発表地点
図1 津波観測情報で津波の観測値を発表する場所(平成21年9月1日現在)。
赤の地点は、平成20年7月1日以降に津波情報に活用を開始した地点。


 また、国土交通省港湾局が設置した宮城県金華山沖と岩手県釜石沖のGPS 波浪計のデータの津波情報への活用も平成20年7月1日から開始しました。 さらに平成21年4月1日からは、青森八戸沖、岩手宮古沖、気仙沼広田湾沖、三重尾鷲沖、和歌山白浜沖および高知足摺岬沖の6ヶ所を加え、平成21年9月1日現在計8ヶ所のGPS波浪計を津波情報に活用しています。 GPS 波浪計(写真)とは、GPS 衛星を用いて沖に浮かべたブイ(GPS 波浪計)の上下変動を計測し、 波浪や潮位をリアルタイムで観測する機器です。国土交通省港湾局が、港湾整備に必要な沖合波浪情報を得る目的で設置と観測を行っています。 GPS 波浪計は波浪の他に津波の観測も可能な観測機器です。

 GPS 波浪計は沿岸から15km~20km の沖合に設置されていることから、沿岸に津波が到達する前に津波を検知できると期待されています。 気象庁では、GPS 波浪計で津波が観測された場合には、速やかに津波情報を発表することとしています。 ただし、津波が伝わって来る方向によっては、GPS 波浪計で津波が観測されるより前に津波が到達する場所がある場合もあります。
岩手県釜石沖のGPS 波浪計(写真提供:国土交通省東北地方整備局)
岩手県釜石沖のGPS波浪計(写真提供:国土交通省東北地方整備局)

 また、一般に津波は沖合では小さく、沿岸に近づくにつれて高さが高くなります。GPS 波浪計で観測された沖合の高さだけを見ると津波が小さいと誤解される恐れがありますので、津波情報では沖合での津波の高さとともに沿岸での高さの推定値も発表します。GPS波浪計の情報については、このような津波の特性に留意して発表するようにしています。

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海底津波計の津波警報への活用開始

 津波観測データの分析調査を進めた結果、津波発生の監視モニターに利用していた海底津波計を津波警報の発表へ活用する暫定的な技術の目途が立ったことから、平成24年3月9日より、これらの津波警報への活用を開始しました。
 気象庁の房総沖・東海沖・東南海沖、東京大学地震研究所の釜石沖、(独)海洋研究開発機構の釧路沖・室戸沖に、(独)海洋研究開発機構の地震津波観測監視システム(DONET)と(独)防災科学技術研究所の相模湾海底地震観測施設を加えた計35地点から始め、その後、東北地方太平洋沖の日本海溝東側の海域へブイ式海底津波計3機の整備を開始しました。 また、沖合の津波観測地点は順次拡充される予定であり、これらも津波警報に活用する予定です。
 これらの活用により、津波が沿岸に到達する前の、より早い段階で津波の規模を把握できることが期待されます。
 津波観測点の配置については、津波観測点のページをご覧ください。

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遠地津波予測の改善

 平成22年のチリ中部沿岸の地震による津波では、予測した津波の高さが実際に観測された高さより大きく、予測精度の向上が課題となりました。
そのため気象庁は、太平洋の遠い海域で発生してわが国へ来襲する遠地津波において、予測精度の向上を検討し、改善された遠地津波予測の運用を平成24年6月26日より開始しました。具体的には、以下の改善を行いました。

<遠地津波データベースの更新>

 遠地津波シミュレーションのデータベースに登録する想定地震は、過去発生した地震を参考に設定しています。
このデータベースを、津波の伝播シミュレーションに影響の大きい海底地形データの解像度を約3倍、予想値を評価する国内・海外の検潮所等の観測点を約13倍、想定地震数を約6倍に拡充しました。

改善前のデータベース 改善後のデータベース
海底地形データ解像度 約8km(日本付近約1.7km) 約2.5km(日本付近約0.8km)
予測結果と比較可能な観測点数 国内19点
海外12点
国内239点
海外152点
想定地震数 260 1488

<遠地津波予測シミュレーションの高速化・高精度化>

 日本に到達するまでに時間を要する遠方からの津波は、予め計算しておいた津波予測データベースの結果に加え、震源の位置や断層面の向き・傾き等を用いたシミュレーションをその場で実施し、その予測結果を用いることで、より精度の高い警報を発表することができます。
 このシミュレーションの高速化に伴い、例えば、チリ沖で発生して太平洋全域に伝播し日本に襲来する津波を、新しい海底地形データ解像度で36時間分計算した場合、従来の30時間程度から約2時間に短縮して実施できるようになりました。

<津波評価解析装置の導入>

 津波シミュレーションによるわが国沿岸での津波の予測は、必ずしも津波発生源を正確に表現できていないことから誤差を含みますが、遠地津波の場合、日本に津波が伝播してくるまでに海外で津波が観測され、この観測値とシミュレーション結果を比較することで、より精度の高い津波予測に修正することができます。 こうした比較・予測の修正を行うため、新たに津波評価解析装置を整備しました。

 

<改善した予測手法による予測例>

改善した予測手法による予測例


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ブイ式海底津波計の津波警報への活用開始

 気象庁は、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の震源域の周辺で発生する津波の早期検知のため、当該海域付近へのブイ式海底津波計3機の整備を進めてきました。 このうち2機について、データ内容、受信状況等が良好であることを確認できたため、これらのデータの津波警報への活用を平成24年12月25日より開始しました。 また、残り1機についても平成25年1月23日に活用を開始しました。
 これにより、東北地方沖合の日本海溝付近で発生した津波の場合、地震発生後10分程度での津波の検知が期待されます。
(※平成28年7月28日の沖合の観測地点の追加に伴い、平成28年8月31日にこれら3機のブイ式海底津波計の運用は終了しました。)
ブイ式海底津波計写真
ブイ式海底津波計

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東北地方太平洋沖地震を踏まえた津波警報の改善

 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震による津波被害の甚大さに鑑み、気象庁では、津波警報等の改善の検討を進め、平成25年3月7日より改善された津波警報の運用を開始しました。

<津波警報・注意報と、予想される津波の高さの区分>

 津波警報・注意報は、地震の規模をもとに、地震発生後3分程度で発表しますが、マグニチュード8を超えるような巨大地震では、すぐに正確な地震の規模を推定することができません。 そこで、より巨大な地震である可能性が疑われる場合には、その海域で想定される最大のマグニチュード等を用いて津波警報の第1報を発表します。 想定される最大のマグニチュード等を用いた場合は、的確な地震規模が求まるまでは、数値ではなく「巨大」等の定性的な表現を用います。 また、予想される津波の高さを従来の8区分から5区分に変更し、高さ予想の区分の高い方の値を発表します。

<津波観測に関する情報>

 津波観測に関する情報では、第1波の到達時刻と初動を発表するとともに、観測された最大波を「これまでの最大波」として発表しますが、観測値が予想される津波の高さより大幅に低い間は、高い津波が来ないと誤解されないよう「観測中」と発表します。
 また、沖合の観測データを監視し、新たに設けた「沖合の津波観測に関する情報」の中で、沿岸の観測よりも早く、沖合で観測した津波の時刻や高さを伝えるとともに、沖合の津波観測データから推定される沿岸の津波の高さや到達時刻を、津波予報区単位で発表します。 沖合で観測された津波の最大波についても、基準に達しない場合は、沖合の観測値を「観測中」、推定される沿岸での津波の高さを「推定中」と発表します。

 

 東北地方太平洋沖地震を踏まえた津波警報の改善に関する詳細は、「津波警報の改善に関する報告書」をご覧ください。


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津波情報に活用する沖合の観測地点の追加

 国立研究開発法人防災科学技術研究所の日本海溝海底地震津波観測網(S-net)及びDONETのケーブル式海底津波計156地点のデータについて、気象庁では平成28年7月28日から津波情報への活用を開始しました。 これにより、沖合での津波の検知が最大20分程度早くなることから、津波警報等の更新及び沖合の津波観測に関する情報の迅速化や精度向上が期待されます。
 なお、この沖合の観測地点の追加に伴い、気象庁が宮城沖及び岩手沖に設置した3機のブイ式海底津波計については、平成28年8月31日に運用を終了しました。
 津波観測点の配置については、津波観測点のページをご覧ください。

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本ページ内の図の作成にはGMT(Generic Mapping Tool[Wessel,P., and W.H.F.Smith, New, improved version of Generic Mapping Tools released, EOS Trans. Amer. Geophys. U., vol.79 (47), pp.579, 1998]) を使用しています。