気象庁の地震カタログの解説


日本の代表的な地震カタログとして利用されるものとして、歴史地震については、古文書などの調査に基づいた宇佐美(1995)が、1885年から1925年までは、主として震度観測の資料に基づいた宇津(1982)のカタログ、1926年以降については気象庁の地震月報及びその別冊がある。
気象庁の地震カタログは、何度も改訂されており、震源決定方法、震源決定に用いる速度構造と走時表、マグニチュードの決定方法、震央地域名の付け方などが時代によって異なる。また、観測網の変遷により観測データの質、量も時代によって変化する。過去に公表された震源について、その後のデータ処理方法の改善や資料の補足により精度を改善する余地が残されており、誤りの訂正が必要な部分もある。しかし、これら過去の資料を統一した基準で短期間に全面的に見直すことはその作業量から困難である。このように地震カタログの全面的改訂には時間がかかることから、利用者の便を考慮すると、改訂作業の進捗に応じて既存のカタログの部分修正を行うことが適当と考えられる。月報に掲載する地震カタログは、上記のような状況を踏まえ、既存の地震カタログを部分修正した最新の地震カタログを収録した。
時代による地震カタログの違いの解説、改訂の状況などを以下に示す。

1. 1919年から1950年まで

改訂前の状況:

1919年1月から1925年12月までは、宇津(1982)のカタログによるマグニチュード6以上の地震及び被害を伴った地震の表による。1926年から1950年については、地震月報別冊No.6(1982)改訂日本付近の主要地震の表(1926年~1960年)による。
気象庁に保管されている地震調査原簿には、全国の測候所、気象台から報告された地震の検測結果が整理され記載されている。しかし、1923年の関東震災により、1923年8月以前の調査原簿は焼失し現存しないため、この期間は検測結果から震源を調査し決定することは困難である。また、地震月報別冊No.6には1926年(昭和元年)以降の調査結果が、記載され、1923年8月以降1925年までは未調査のまま残されている。
地震月報別冊No.6に掲載された震源は、走時表として市川・望月(1971)を、マグニチュードは坪井式(0-60km)及び勝又式を用いている。震源決定法は観測の時刻精度が不十分という理由でS-P時間による最小自乗法を用い、震源の深さは10km刻みで決定している。震源時及び震央地域名は与えていない。

震源の改訂:

走時表として83A[浜田、1984]を、またP、Sの発現時を用いた最小自乗法で深さを固定しない方法、もしくは1km刻みで固定し最適解を求める決定法を取り入れた震源の再決定を実施した部分を下記の表に青色で示す。ただし、1919年1月~1923年8月については走時表としてJMA2001[上野・他、2002]を用いている場合がある。
改訂された期間以外の時期の震源についても、個別に震源が改訂されたり、誤りが訂正されている地震がある。これらの地震については、震源要素の震源時は秒の単位まで与え、震央地名を記入しているので区別できる。地震月報別冊No.6では朝鮮半島、台湾などの地域で発生した地震は、震源が決定できる場合でもリストから除外されているが、震源の改訂では特に除外していない。
マグニチュードについては改訂により、地震月報別冊No.6に記載された値と変わる場合があるが、M6.0以上の被害地震については、原則訂正せず、旧カタログのままとしている。ただし、地震月報別冊No.6では再計算されておらず、地震月報別冊No.1(日本付近の主要地震の表)の値がそのまま掲載されている地震については、今回調査した結果を採用することにした。なお、震源の深さ60km以上の地震については、新勝間田の変位Mを導入後改めてMを新Mに入れ替える予定である。

カタログの改善:

各気象台、測候所に保存されていた地震観測原簿、気象庁本庁に保存されている地震調査原簿、気象要覧の観測データに基づき、1919年1月から1925年12月までの観測データについても震源決定作業を行い、1919年1月から現在までの期間について気象庁カタログを作成した。
1925年以前の地震の震源決定は、主としてS-P時間を用いた最小自乗法により、状況によってはP相、S相を独立に用いる最小自乗法を適用し、結果がより妥当と考えられる震源を選択した.1926年半ば以前は観測網の整備状態、時刻の精度などの点で、それ以降に比べ観測データの質はかなり低く、決められた震源の精度には相当差があることを考慮する必要がある。なお、宇津カタログに記載されている震源の中には最小自乗法では解が発散してしまい震源が決まらない地震がある。特に、琉球、千島の地震、深発地震にそのような地震が多いが、その場合には、宇津カタログの震源をそのまま残すことにした。地震のマグニチュードは震源が新たに決定された地震については宇津カタログから置き換えたが、精度その他の点で置き換ることが妥当と思われない一部の地震(1923年関東地震、勝浦沖最大余震など)については、宇津カタログの値をそのまま残すことにした。また、1923年9月から1924年2月の地震については、浜田他(2001)による震源を基に若干の修正を加えている。
1919年から1939年の期間については気象台、測候所の観測結果に加え、東京帝国大学地震研究所の観測点(本郷、駒場、三鷹、筑波、鎌倉、三崎、清澄、秩父、東金、佐倉、小山(駿河小山)、吉原)の観測結果、伊豆下田にあった三井地球物理研究所の観測点(須崎)の観測結果、1919年から1974年の期間については国立天文台緯度観測所等の観測結果を検測値に追加し、震源の再決定に利用した。また、1927年北丹後地震についても地震研究所の臨時観測資料を加えて震源の再決定を行った。北丹後地震については、そのため同時期の他の被害地震と比較して、余震に関する検知能力は高くなり多数の余震が決定されている。その他、山崎(2001)による京都大学阿武山地震観測所の読み取り値についても1929年以降、検測値を加え活用している。

震源の改訂作業に関する参考文献(年代順):

  • 保田柱二・小平孝雄(1938) 東京地震観測(明治5年9月-大正12年12月)、震災予防評議会、107pp
  • 東京帝国大学地震研究所(1934,1935) 地震観測報告(1924-1934)
  • 那須信治(1929) 丹後地震の余震観測調査報告(第一報)、震研彙報、6、245-331.
  • 那須信治(1929) 丹後地震の余震観測調査報告(第二報)、震研彙報、7、133-152.
  • 中央気象台(1952) 日本付近におけるおもな地震の規模表、地震観測指針12.
  • 坪井忠二(1954) 地震動の最大震幅から地震の規模Mを決めることについて、地震2、7、185-193.
  • 気象庁(1958) 日本付近の主要地震の表(1926年~1956年)、地震月報別冊、No.1
  • 勝又護(1964) 深い地震のMagnitudeを決める一方法について、地震2、17、158-165.
  • 気象庁(1966) 日本付近の主要地震の表(1957年~1962年)、地震月報別冊、No.2
  • 気象庁(1982) 改訂日本付近の主要地震の表(1926年~1960年)、地震月報別冊、No.6
  • 宇津徳治(1982) 日本付近のM6.0以上の地震および被害地震の表:1885年-1980年、震研彙報、57、401-463.
  • 浜田信生・吉田明夫・橋本春次(1983) 気象庁震源計算プログラムの改良(1980年伊豆半島東方沖の地震活動と松代群発地震の震源分布の再調査)、験震時報、48、35-55.
  • 岩田孝仁・浜田信生(1986) 1944年東南海地震前後の地震活動、地震2、39、621-634.
  • 浜田信生(1987) 1923年関東地震の震源の深さについて、験震時報、50、1-6.
  • 浜田信生(1987) 日本列島の内陸部に発生した被害地震に伴う地震活動の再調査とその地震学的意義、気象研究所研究報告、38、77-156.
  • 浜田信生(1990) 地震月報別冊6号震源カタログの部分修正について、地震2、43、307-310.
  • 宇佐美龍夫(1995) 新編日本被害地震総覧[増補改訂版416-1995]、東京大学出版会、493pp.
  • 武村雅之(1994) 1923年関東地震の本震直後の余震活動-岐阜測候所の今村式二倍強震計記録の解析、地震2、50、377-396.
  • 山崎純一(2001) 阿武山観測所のウィーヘルト地震計による観測とその成果、地震2、53、303-321.
  • 山崎純一・許斐直(2001) 丹波地方の地震活動と周辺地域の大地震との関連について、京都大学防災研究所年報、44、B-1、251-262.
  • 浜田信生・吉川一光・西脇誠・阿部正雄・草野富二雄(2001) 1923年関東地震の余震活動の総合的調査、地震2、54、251-265.

1ヶ月間の震源が改訂され、完全に置き換えられた月
表内の数値は、
2016年3月までは、新たな気象庁震源数(K登録)/参考震源(S登録)
2016年4月以降は、新たな気象庁震源数(K、k、A登録)/参考震源(S、s、a登録)

注)参考震源は、震源精度が十分でない、または震源が妥当であっても検測値数の不足など信頼性が低く、気象庁震源として公式に採用できなかった地震を示す。
なお、参考震源であっても、調査の目的によっては活用できる可能性があることから、カタログの中には区別の上含めることにした。

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 年間
1919 7/2 13/2 12/3 14/1 13/3 14/6 12/9 9/4 8/3 6/4 10/8 8/4 126/49
1920 15/3 13/7 5/4 12/2 12/0 9/5 18/2 6/2 7/5 8/1 5/3 22/3 132/37
1921 6/8 3/7 5/6 9/3 10/8 7/9 11/14 13/7 14/7 7/3 7/4 25/21 117/97
1922 13/6 15/7 15/8 17/10 20/10 12/6 7/9 8/5 13/4 12/6 9/10 18/14 159/95
1923 8/6 5/7 8/7 4/4 14/20 47/37 14/14 8/7 278/120 55/11 53/6 49/10 543/249
1924 34/9 33/17 18/14 14/13 20/10 28/17 26/6 71/22 31/17 45/23 22/13 22/7 364/168
1925 28/12 28/12 26/13 32/12 58/11 35/12 21/6 12/8 15/7 18/9 9/11 14/9 296/122
1926 20/11 22/18 22/7 24/9 36/12 29/9 31/8 22/12 31/6 28/15 35/11 37/9 337/127
1927 25/11 22/9 158/25 95/22 75/9 20/16 37/8 58/20 38/12 43/18 29/12 31/11 631/173
1928 25/18 34/15 30/8 33/10 60/17 61/19 28/6 44/18 43/9 38/11 28/11 44/22 468/164
1929 39/19 33/12 71/21 32/13 40/13 46/12 31/10 42/24 34/21 45/10 25/10 21/9 459/174
1930 37/10 62/23 177/55 40/20 162/37 33/13 36/12 38/22 45/20 38/19 109/39 94/18 871/288
1931 49/15 39/22 58/22 54/13 34/16 66/12 61/13 52/17 164/48 60/21 70/31 59/21 766/251
1932 51/15 45/14 50/17 44/12 33/17 42/18 44/16 53/15 51/16 64/10 58/17 56/14 591/181
1933 70/23 50/20 173/85 79/25 84/21 57/24 87/24 47/17 59/28 59/25 72/26 42/19 879/337
1934 44/16 54/10 63/24 61/21 55/12 56/18 44/20 61/24 79/21 49/16 72/17 48/17 686/216
1935 60/14 47/16 79/24 63/27 50/23 62/17 96/20 76/37 125/44 82/44 55/17 55/24 850/307
1936 45/21 50/27 40/15 55/26 53/13 58/28 49/29 47/29 60/11 60/17 76/19 64/18 657/253
1937 120/32 71/32 47/23 77/23 66/13 69/25 63/20 60/16 65/21 74/28 50/8 95/40 857/281
1938 75/22 79/13 47/17 54/25 93/33 79/22 70/34 83/20 85/43 89/28 450/172 138/55 1342/484
1939 95/41 80/30 104/37 74/33 128/70 89/48 61/28 56/31 54/32 72/35 47/18 46/33 906/436
1940 76/49 53/20 56/34 47/19 57/32 68/35 54/25 78/41 40/19 52/21 74/31 59/33 714/359
1941 62/27 58/29 62/33 48/24 68/32 50/25 65/32 59/16 37/24 68/20 75/37 68/44 720/343
1942 64/30 56/25 45/22 40/24 65/20 45/21 83/34 70/33 42/16 45/15 62/27 47/18 664/285
1943 49/28 44/20 121/42 82/23 40/18 59/25 40/18 62/19 298/100 70/16 56/17 81/34 1002/360
1944 45/29 46/29 56/18 44/13 43/12 44/14 47/19 35/14 37/26 31/20 20/6 246/104 694/304
1945 375/113 79/33 56/30 35/26 39/16 44/21 18/12 19/10 20/9 33/10 21/7 19/15 758/302
1946 19/16 23/10 22/8 27/20 57/27 37/20 40/18 39/14 23/20 43/12 37/13 193/91 560/269
1947 151/69 67/15 69/16 72/20 53/16 41/16 30/17 46/26 53/21 53/12 52/20 42/19 729/267
1948 40/10 36/4 61/14 34/22 73/29 164/84 88/43 53/13 43/12 53/11 55/14 48/15 748/271
1949 51/6 37/20 36/12 32/9 46/19 24/18 37/20 51/20 50/17 50/11 44/14 151/52 609/218
1950 88/17 58/13 56/16 62/15 64/9 56/13 60/11 73/14 46/17 53/14 54/10 52/5 722/154

2. 1951年から1960年まで

地震月報別冊No.6に掲載された震源による。走時表として市川・望月(1971)を、マグニチュードは坪井式(0-60km)及び勝又式を用いている。震源決定法はP、Sの発現時による最小自乗法を用い震源の深さは10km刻みで決定している。震源時及び震央地域名は与えていない。

震源の改訂:

改訂方法は前期間1.と同様、震源への改訂を実施した部分を下記の表に青色で示す。なお、1955年と1958年はJMA2001走時表(上野・他、2002、ただし、重み処理なし)を使用した。

地震月報別冊No.6(1982)による震源が与えられている月

1ヶ月間の震源が改訂され完全に置き換えられた月

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 年間
1951 55/29 60/20 57/37 46/22 50/18 52/28 75/24 70/21 61/18 63/30 41/24 51/24 681/295
1952 48/11 32/17 225/75 75/32 84/21 72/22 62/18 66/14 78/18 112/50 75/25 63/25 992/328
1953 59/19 56/21 49/27 51/26 60/22 70/24 74/19 49/16 47/30 52/30 165/59 136/68 868/361
1954 64/19 89/22 54/17 65/17 67/33 68/25 72/30 76/27 69/24 79/34 80/42 65/22 848/312
1955 71/21 64/33 69/18 64/28 83/35 66/33 75/34 70/33 58/26 71/46 56/24 58/37 805/368
1956 57/26 70/11 66/29 73/35 56/24 60/25 62/25 89/51 52/36 69/30 57/25 136/43 847/360
1957 86/29 59/15 71/19 50/12 62/18 61/22 52/14 83/18 48/18 59/12 104/17 81/28 816/222
1958 36/30 63/29 60/31 90/27 57/29 64/36 60/30 67/20 57/37 57/20 143/98 82/53 836/440
1959 87/55 71/19 66/26 66/29 70/37 61/39 61/26 54/21 72/29 74/33 77/40 64/28 823/382
1960 61/20 78/25 176/81 107/35 87/21 71/29 101/36 89/25 84/30 79/27 67/38 64/34 1064/401

3. 1961年から1966年まで

1961年から地震調査業務に電子計算機が導入され、震源計算は電子計算機を用いて行うようになった[気象庁地震課、1963]。この期間はWadati et al.(1933)と鷺坂・竹花(1935)の走時表を用い、震源の深さは20km刻み(0km-200km、200km以上の深い地震は40km刻み)で決定した。震央地名は、手作業により付加した。
震源決定された地震の震源要素は、地震月報に掲載された。地震のマグニチュードの決定は坪井式及び勝又式(あとから追加、付加)を用いた。

震源の改訂:

改訂方法は、1964年までは前期間2.と同じで,1965年以降は走時表にJMA2001[上野・他、2001]を用いて6.と同じ手法で震源再決定を行った。ただし、震央距離による重み処理は行っていない。震源の改訂を実施した部分を下記の表に青色で示す.震源再計算に際して、1965年以降については、気象庁の検測値のほか、新たに 国際地震センター(ISC)の地震報告、主に印刷物として公開されている大学等の検測値と気象庁の火山近傍の地震計記録から読み取った検測値を追加した。

1 北海道大学、東京大学地震研究所(和歌山地震観測所ネットや松代臨時観測点を含む)、名古屋大学、京都大学防災研究所(鳥取ネットなどを含む)、愛媛大学、高知大学、防災科学技術研究所

震源の改訂に関する参考文献:

  • 鷺坂清信・竹花峰夫(1935) 近地地震におけるS波の走時表及び初期微動表、験震時報、8、149-161.
  • Wadati,K.、K. Sagisaka and K.Masuda(1933) On the Travel time of earthquakes(Part 1). Geophys. Mag.、7、87-99.
  • 気象庁地震課(1963) 地震調査業務の機械化について、気象庁技術報告、22、13-19.
  • 草野富二雄、浜田信生(1991) 1964年新潟地震の余震分布再調査結果について、地震2、44、305-313.

地震月報(1961-1966)による震源

1ヶ月間の震源が改訂され完全に置き換えられた月

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 年間
1961 185/39 106/40 69/22 75/17 95/11 79/11 108/15 191/33 93/21 64/17 70/12 63/17 1198/255
1962 75/13 71/8 62/10 134/23 145/39 89/29 81/15 241/54 175/58 83/20 79/18 89/14 1324/301
1963 60/28 64/16 131/28 81/21 92/17 73/29 68/29 88/19 90/11 161/34 100/25 89/31 1097/288
1964 83/35 71/41 66/43 85/31 157/45 551/24 150/67 90/54 84/48 104/57 93/44 165/55 1699/544
1965 57/48 72/47 52/46 62/53 50/48 70/51 71/38 51/57 96/61 66/75 101/158 74/174 822/856
1966 96/312 92/194 97/289 157/600 195/745 143/806 108/686 141/554 107/374 97/316 97/298 64/240 1394/5414

4. 1967年から1982年まで

走時表の変更

1967年からは走時表を補間、従来の20km刻みの震源の深さから10km刻みの深さで震源が決定されるようにした(深さ200km以上は40km刻みから20kmに変更)。
なお、震源計算に用いる走時表は、1973年から市川・望月(1971)に切り替えた。
なお、北海道東方沖、三陸はるか沖など観測網から離れた地域では、速度構造の偏りにより気象庁の震源はISCやUSGSの決定した震源と系統的なずれを生じる。偏りを補正するために、これらの海域で発生する地震については、1978年から特別な走時表(LLと呼ばれる)を導入し、震源決定を行うことにした[市川、1978]。

速度マグニチュードの導入

高感度短周期地震観測が始まり、短周期上下動速度成分の最大振幅から地震のマグニチュードを求める計算式を、1977年から導入し[神林・市川、1977]、浅い小地震のM決定に使われるようにした。

震央地名の自動決定

地震の震央地域名を緯度経度から自動的に求めるプログラムを開発し、1980年から震央地域名の命名は、手作業から電子計算機に切り替えた。

震源の改訂:

改訂方法は前期間3.の1965年以降と同様、震源の改訂を実施した部分を下記の表に青色で示す。

地震月報に掲載されている震源

1ヶ月間の震源が改訂され完全に置き換えられた月

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 年間
1967 80/43 65/68 93/54 89/61 98/72 69/47 81/60 78/60 85/83 75/47 87/65 70/36 970/696
1968 107/71 137/53 110/68 104/90 542/256 250/67 176/58 207/136 126/43 115/65 92/61 93/46 2059/1014
1969 85/57 69/51 72/54 95/52 119/67 106/56 107/76 321/141 255/124 97/63 84/54 95/43 1505/838
1970 128/51 116/48 83/44 81/68 94/53 66/48 115/54 107/60 73/53 115/59 86/44 76/45 1140/627
1971 80/46 73/42 85/34 70/41 83/45 118/60 130/50 116/52 142/66 114/64 88/41 97/48 1196/589
1972 109/73 113/69 153/82 128/78 93/89 100/73 78/70 121/78 119/76 102/71 103/64 260/136 1479/959
1973 144/144 108/104 103/109 108/98 88/77 288/142 153/120 114/142 166/113 117/105 121/88 110/92 1620/1334
1974 106/101 80/69 100/97 114/91 212/207 121/109 122/101 119/89 124/87 133/80 111/67 88/58 1430/1156
1975 188/141 106/94 100/120 125/101 108/136 195/180 135/78 118/78 115/85 113/88 127/94 140/96 1570/1291
1976 722/529 648/660 603/399 670/369 692/382 766/419 82/ 82/ 83/ 93/ 107/ 108/ 4656/2758
1977 81/ 60/ 96/ 80/ 102/ 125/ 115/ 123/ 110/ 114/ 120/ 125/ 1251/
1978 243/ 131/ 175/ 167/ 137/ 298/ 174/ 131/ 131/ 187/ 215/ 305/ 2294/
1979 176/ 185/ 220/ 183/ 180/ 174/ 178/ 177/ 178/ 211/ 181/ 228/ 2271/
1980 191/ 229/ 243/ 188/ 200/ 525/ 431/ 176/ 221/ 206/ 172/ 160/ 2942/
1981 220/ 142/ 180/ 168/ 169/ 136/ 169/ 170/ 162/ 181/ 130/ 139/ 1966/
1982 189/ 191/ 406/ 227/ 237/ 227/ 379/ 311/ 301/ 252/ 238/ 767/ 3725/

5. 1983年から1997年9月まで

震源計算方法の変更

1983年より、従来からの10km刻みの震源の深さを決める方法を改善し、深さを未知数(深さフリー)として震源決定を行う方法が導入された。深さを未知数とした場合震源が決まらない地震や深さの精度が悪い地震については、1km刻みで深さを固定した震源決定により妥当な深さを求めることにした[浜田・吉田・橋本、1983]。

走時表の変更

1983年10月から震源計算に用いる走時表を市川・望月(1971)の改良版である83A走時表[浜田、1984]に切り替えた。

震央地域名の細分化

1985年から震央地域名の細分化を行い、手作業による地名の付け方と同等の細かさで震央地域名が付けられるようにした。

速度マグニチュードの改善

ボアホール設置型の地震計では最大振幅が系統的に小さく、Mが小さく決まることから、短周期地震計の上下動速度振幅を用いる場合については、地震計による設置によりM決定式の係数の調整が行い、1983年以降の地震に適用することとなった[竹内、1983]。

検知能力に関する主な変更

1994/09/20~ 仙台管内T-SYS開始
1994/09/28~ 福岡管内T-SYS開始
1994/10/04~ 沖縄管内T-SYS開始
1994/10/14~ 大阪管内T-SYS開始
1995/01/10~ 札幌管内T-SYS開始
1995/04/11~ 東京管内T-SYS開始

地震月報に掲載されている震源

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 年間
1983 659/165 211/61 257/90 232/95 650/411 545/379 351/208 370/136 241/87 372/122 301/68 308/72 4497/1894
1984 245/ 225/ 269/ 270/ 337/ 297/ 277/ 641/ 1403/ 492/ 352/ 384/ 5192/
1985 356/103 270/75 408/94 390/86 345/74 421/60 453/71 370/70 395/76 793/171 364/49 394/78 4959/1007
1986 392/67 410/62 399/90 368/77 431/74 410/82 414/84 431/79 435/96 829/147 1387/199 501/68 6407/1125
1987 618/76 506/82 638/107 515/94 1016/108 494/239 555/265 525/205 498/268 463/338 517/346 786/616 7131/2744
1988 791/304 629/591 636/258 681/323 629/302 614/322 1911/1160 2426/920 708/333 799/321 660/251 814/254 11298/5339
1989 1148/248 780/199 758/218 682/147 802/517 729/229 2570/879 840/379 699/257 881/207 1218/278 806/128 11913/3686
1990 831/148 986/288 778/196 994/170 956/147 878/155 988/179 967/183 1013/138 1105/141 845/134 1073/126 11414/2005
1991 837/91 726/81 875/125 896/150 1002/150 947/154 921/175 931/178 1162/157 896/142 904/122 1198/297 11295/1822
1992 928/169 875/180 1023/132 945/141 1115/178 1262/260 2260/272 1599/216 1218/168 1494/199 1193/186 1499/202 15411/2303
1993 2487/848 1347/150 1451/198 1425/280 2997/700 2083/268 4167/295 2416/301 1738/264 1494/256 1386/264 1331/238 24322/4062
1994 1316/224 1247/298 1577/424 1528/240 1789/229 1787/293 1560/252 1815/245 1447/329 6523/395 3629/404 3721/289 27939/3622
1995 6743/217 3607/145 3308/190 3314/115 3650/107 3431/84 3389/114 3465/163 3690/511 9479/432 4053/148 4423/366 52552/2592
1996 3544/184 2978/161 3263/148 3269/171 3621/151 3731/176 3842/334 5757/213 3472/202 5145/321 2601/134 2868/183 44091/2378
1997 2925/155 2444/121 6908/244 5639/181 4726/182 4217/162 4006/199 3462/170 3122/145  

その他地震カタログに関する参考文献

  • 石川有三(1987) 気象庁震源データの変遷とその問題点、験震時報、51、47-56.
  • 宇津徳治(1982) 各種マグニチュード間の関係、震研彙報、57、465-497.

6. 1997年10月から現在まで

震源計算方法の変更

2001年10月から計算に用いるデータの重みを変更した[上野・他、2002]。

走時表の変更

2001年10月から震源計算に用いる標準走時表83AJMA2001走時表[上野・他、2002]に切り替えた。また、三陸はるか沖で発生する地震については使用していたLL走時表JMA2001走時表に切り替えた(千島列島付近で発生する地震については従来通り、LL走時表JMA2001走時表を併用する)。
この変更にあたって、1997年10月の一元化処理開始以降の震源(~2001年9月)に対して震源再計算を行った。

検知能力に関する主な変更

1997/10/01~ 大学や関係機関の観測点を震源計算に使用開始
2000/10/01~ 大阪管内、福岡管内のHi-net観測点を震源計算に使用開始
2001/10/01~ 札幌管内、仙台管内のHi-net観測点を震源計算に使用開始
2002/10/01~ 東京管内のHi-net観測点を震源計算に使用開始
2003/03/03~ トリガーパラメータ変更により震源決定総数が減少(検知能力に変更なし)
2003/05/01~ 振幅値の分解能の向上
2016/04/01~ PF法(溜渕・他、2016)を用いた自動震源決定手法の導入により震源決定総数が増加
2018/03/22~ Matched Filter法を用いた自動震源決定手法(森脇、2017)の導入により南海トラフ沿いのプレート境界付近で発生する深部低周波地震の震源決定総数が増加

マグニチュード計算方法の変更

従来のマグニチュードの持つ、変位Mと速度Mの不整合性、速度Mの深さ限界、また、津波地震早期検知網の展開の前後で生じたMの系統的なずれを是正するために、2003年9月25日から気象庁マグニチュード計算方法の改訂を行った。また、これまで変位Mと速度Mの両方が計算されていた場合、両者を適宜取捨・平均していたが、両者を別々に扱い併記することとした。この変更にあたって、1923年8月以降の震源に対してMの再計算を行った。ただし、1923-64年の震源に関しては、上表青色(1ヶ月間の震源が改訂され完全に置き換えられた月)で示されている期間のみ再計算を行った[勝間田、2004:舟崎・地震予知情報課、2004]。今後改訂される震源についてもこの改訂に合わせる予定である。

走時表・速度構造・射出角表の追加

2014年の10月以降、地震・津波観測監視システム(DONET)を気象庁一元化処理に活用してきた。これに加え、2020年9月1日以降、DONET2および日本海溝海底地震津波観測網(S-net)についても気象庁一元化処理へ活用することとした。活用にあたり、東北太平洋沖用(JMA2020A)、東北アウターライズ用(JMA2020B)、南海トラフ用(JMA2020C)の3種類の海域走時表を追加し、千島列島付近の浅い地震用のLL走時表の使用を廃止した。これらの海域3種類・従来の陸域1種類の走時表および、走時表を用いた理論走時の計算には、観測点標高を考慮することとした。なお、S-netの他、三陸沖等の観測点では東北太平洋沖用、DONET等の観測点では南海トラフ用の走時表を用いている(詳細は観測点毎の使用走時表名ファイル参照)。また、射出角について、初動発震機構解でも海域射出角表を併用する(詳細は利用の手引き参照)。

海域観測点への観測点補正値の導入

2020年9月1日以降、S-net/DONETを含む既存の海域観測点全点に、未固結堆積層による走時遅れに対応した観測点補正値を適用した(詳細は利用の手引き参照)。

S-net用の速度マグニチュード計算方式および地震計設置条件補正項を導入

2020年9月1日以降、S-netの速度センサーの3成分毎の最大振幅を合成した値を従来の速度マグニチュードの式へ適用した。その際、埋設と非埋設で異なる地震計設置条件補正項を適用した(詳細は利用の手引き参照)。

震源・検測値フォーマットの変更

2020年9月1日以降、走時表・射出角表の種別、およびS-net埋設・非埋設の地震計種別を追加した(詳細は震源レコードフォーマット検測値レコードフォーマットMF法検測値レコードフォーマットメカニズム解(初動解)レコードフォーマット参照)。

再計算が終了した震源

地震月報(カタログ編)に掲載されている震源

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 年間
1997
4972/350 5129/263 5047/250 52597/2422
1998 4942/236 4271/187 5502/278 8432/319 8095/403 5551/275 6051/397 9191/527 7389/598 5708/251 4710/256 5170/258 75012/3985
1999 5221/254 5529/335 6188/330 5244/295 6149/347 6039/337 5817/313 5530/328 5736/470 5519/371 5515/280 5669/287 68156/3947
2000 5079/282 4679/354 6666/450 5690/410 5931/402 10196/1287 13910/640 9738/483 6288/309 14678/427 10583/379 9896/371 103334/5794
2001 10627/268 9291/344 8234/286 8198/433 9350/547 9658/678 9455/654 10433/722 8797/628 9701/714 8893/616 10843/603 113480/6493
2002 11067/747 8783/730 9646/664 9127/585 10819/726 10300/678 9269/593 9971/686 11674/607 10470/712 9064/524 9417/585 119607/7837
2003 9103/541 9214/623 8595/487 8665/854 14502/708 14354/641 13325/867 12023/945 11081/906 12382/738 10977/704 11410/695 135631/8709
2004 10267/683 8697/658 9436/606 10983/950 10390/548 10045/880 10223/659 9520/591 11004/499 11257/448 12391/459 14114/503 128327/7484
2005 10088/426 8145/417 12859/424 12886/319 10878/322 11661/332 10930/514 12295/497 9520/269 10786/356 9762/383 8612/282 128422/4541
2006 9274/668 8741/400 8901/282 11027/301 9622/396 9521/523 8623/373 10025/386 8143/405 8639/412 8710/596 8592/329 109818/5071
2007 8933/317 7431/357 10294/410 13130/317 10881/392 11980/449 12110/413 11738/526 9174/441 9310/640 8383/335 8798/293 122162/4890
2008 9004/385 7288/292 8851/667 8539/304 10557/451 13941/499 12879/435 11104/542 10829/794 10647/452 9738/602 10074/314 123451/5737
2009 9632/323 9419/467 9654/363 10010/642 10586/734 12391/552 10971/420 14519/405 12793/379 11245/627 9235/348 15348/281 135803/5541
2010 10563/283 9542/325 10121/581 9133/522 11157/575 10888/491 11395/620 12364/558 11614/594 12328/325 9463/1129 9425/425 127993/6428
2011 9702/351 10046/322 54878/379 56876/530 34837/690 21418/344 19814/494 21092/513 18267/218 20058/336 18699/195 18637/372 304324/4744
2012 17833/374 15610/302 17417/261 15834/215 15329/467 14756/451 15472/241 15315/551 14394/240 14326/278 10864/496 10635/321 177785/4197
2013 10731/115 11071/113 11642/421 12515/336 12827/368 12941/380 12647/317 12661/422 10860/299 10215/408 10637/365 10912/253 139659/3797
2014 11017/436 9403/278 10077/146 10817/296 12631/692 11759/236 13594/851 12942/269 12141/635 9395/504 11341/142 10225/201 135342/4686
2015 9963/514 8990/143 10061/245 8859/484 12186/599 10192/361 9386/271 10745/195 9168/539 10064/365 9880/481 9866/225 119360/4422
2016 10192/453 9165/291 9583/257 38382/3950 34031/5546 24874/3871 24501/2932 24144/1718 22574/1422 30535/2282 30300/1792 28769/1792 287050/26306
2017 27087/1377 19467/1264 22227/1891 19982/1649 23529/2146 24931/2138 29219/2959 27041/2653 20570/1869 19430/1488 17951/2094 18399/1450 269833/22978
2018 17698/1274 16824/1520 19198/3326 19001/3090 19340/2817 19548/3870 18995/4560 17820/2388 20530/2710 18191/3600 20163/3727 15013/1789 222321/34671
2019 16260/2656 15541/3411 15390/4311 15170/2192 16619/3392 17903/2987 17002/2935 16014/4594 14741/2180 13877/1448 13390/2278 15751/3260 187658/35644
2020 14638/2076 13852/4083 14605/3026 21699/3390 29412/6164 20544/3354 19321/5344 17414/4280 151485/31717

7. 震源データ等の準拠する測地基準系移行について

日本における位置情報(緯度、経度、高さ)のもとになる測地基準系は、平成14年4月1日に施行された改正測量法で、従来の日本測地系から世界測地系(測地成果2000)に変わった。
気象庁における地震観測データの一元化処理業務(*1)においても、新しい測地基準系に移行するための準備を進め、平成17年2月1日に、観測点や震源の位置を世界測地系に準拠したものへ移行した。
この移行にあたって、全ての震源(~2004年8月)に対して世界測地系への変換処理を行った。(*2)
世界測地系への移行によって、震源の位置を表す緯度、経度の数値は、従来の日本測地系に準拠した数値と比べて若干変わることになる。しかし、この数値の変化は地震の位置が変更になったことを表すわけではなく、緯度、経度の基準が変更になったことを反映している。
これにより、平成17年2月1日以降に気象庁から公表・刊行等される一元化処理の結果(地震・火山月報防災編、地震・火山月報カタログ編、地震年報、各種地震解説資料等)は、特に日本測地系にもとづくものである注記があるものを除いて、全て世界測地系に基づいたものになる。
なお、世界測地系の概要については国土地理院の以下のURLにある資料などが参考になる。
  • (*1) 地震防災対策特別措置法に基づき、地震に関する調査研究を政府として一元的に推進するために各機関で行われている地震観測のデータをひとつにまとめて処理して、その結果を地震研究者、防災関係者、一般国民が広く利用できるようにする仕組みが作られた。この仕組みの中で、気象庁は各機関から地震観測データを収集し、文部科学省と協力して解析処理する一元化処理業務を行っている。
  • (*2) 震源の緯度・経度の有効数字は震源決定手法の年代によって異なっており、世界測地系への変換を行っても有効数字以下の変化しかないものは従来の緯度・経度の値をそのまま用いている。例えば、分値までしか求めていない時期は変更されていない。

8. 注意事項

震源の改訂作業においては、常に最新の技術を用いている。しかし、その時代の観測網密度や観測点配置により、改訂された震源についても時に十分な精度が得られていない可能性がある。この傾向は観測網から離れた海域の地震の深さなどに顕著である。時代や地震発生場所による誤差を考慮し利用していただきたい。
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