海洋の循環

海洋表層の循環 | 黒潮続流の変動

海洋表層の循環

 海面から1000m深程度までの海洋の流れを、長期間にわたって平均すると、海洋にはいくつかの大規模な水平方向の流れがあります。全球規模でみると、南極大陸周囲に流量の大きい東向きの海流(南極環流)があり、各大洋(太平洋・大西洋・インド洋)の亜熱帯域などに大規模な循環が存在し、例えば、北半球亜熱帯域では時計回りの循環、南半球亜熱帯域では反時計回りの循環となっています。このような海洋表層の循環は、主に海上を吹く風が海面に及ぼす力(風応力)によって駆動されており、地球の自転による効果によって“西岸強化“と呼ばれる現象が見られます。北半球の亜熱帯循環を例にすると、西岸付近に幅の狭い強い北向きの流れ (西岸境界流と呼ばれ、北太平洋では黒潮、北大西洋では湾流にあたる)があり、その東側はゆっくりとした南向きの流れがある領域となっています。

 北太平洋海域をより詳細に見ると、熱帯域には反時計回りの熱帯循環、亜熱帯域には時計回りの亜熱帯循環、亜寒帯域には反時計回りの亜寒帯循環があることがわかります。このような循環は、いくつかの海流により構成され、亜熱帯循環では、北赤道海流、黒潮および黒潮続流、カリフォルニア海流などの海流により、亜寒帯循環であれば親潮や亜寒帯海流などの海流により構成されています。

海洋表層の循環の模式図

海洋表層の循環の模式図
(北半球冬季における循環を模式化)

黒潮続流の変動

 北太平洋における亜熱帯循環の西岸境界流である黒潮は、日本南岸に沿って流れ、房総半島沖から東向きに流れます。この房総半島以東の流れは黒潮続流と呼ばれています。黒潮及び黒潮続流は、低緯度域から中緯度域へ多くの熱を輸送し、冬季の寒冷な季節風により本州南方及び東方海域で大気へ大量の熱を放出しています。このような大気海洋間の熱のやりとりは、北太平洋の10年規模の気候変動にとって重要であると考えられています(Kwon et al.,2010)。また黒潮続流域は、亜熱帯循環(高温・高塩分な黒潮系の水)と亜寒帯循環(低温・低塩分な親潮系の水)の境界となっており、その南側と北側の海域には、多くの中規模渦が存在しています。そのため、中規模渦による海水混合や黒潮続流を横切る海水交換が起こっています(Itoh and Yasuda, 2010)。そして、この海域に集まった海水が黒潮続流の南北方向に、北太平洋の広範囲に広がっていくことから、海水の循環経路の理解にとっても重要な海域となっています。さらに大気中に排出され、地球温暖化の主要な原因物質とされる二酸化炭素を吸収し、海洋内部へ送り込んでいる海域であり、北太平洋の二酸化炭素を含む様々な物質の循環においても大きな役割を果たしていると考えられています(Nakano et al., 2011; Sukigara et al., 2011)。

 このように気候変動を理解するために重要な海域であることは分かっていましたが、特に冬季は厳しい海況になることから観測データが少なく、実態の把握は進んでいませんでした。しかし近年、アルゴフロートの展開に伴う観測データの増大、衛星に搭載された海面高度計データの蓄積、中規模渦を表現することのできる高解像度の海洋大循環モデルの発展などにより、時空間的により細かなスケールでの変動の把握が可能となり、多くの研究が積極的に行われています。特に海面高度計のデータを用いた解析により、黒潮続流の長期変動及びそのメカニズムについて明らかになってきました。黒潮続流は、流路が比較的安定していて直線的に流れる安定期と、流路が安定せずに蛇行を繰り返しながら流れる不安定期の間を数年周期で遷移していることが分かりました(Qiu and Chen, 2010)。安定期には、黒潮続流から切り離される中規模渦の数が少なく、黒潮続流は強い状態で北寄りを流れます。その反対に、不安定期には、黒潮続流が切り離される中規模渦の数が多く、黒潮続流は弱い状態で南寄りを流れます。このような黒潮続流の変動は、アリューシャン低気圧の変動に伴う北太平洋中央部から東部における海面高度の変動が西方伝播することにより引き起こされています。このような黒潮続流の流路変動に伴う、黒潮続流から切り離される中規模渦の数の違いが、黒潮続流の南側の海域における海洋構造を変化させていることもわかってきていました(Qiu and Chen, 2013)。そのほか、西から移動してくる低気圧の経路の傾向が、黒潮続流の変動により変化したり(Qiu et al., 2014)、日本南岸の水位変動への影響を及ぼしたりしていること(Sasaki et al., 2014)なども指摘されています。


黒潮続流変動の指標と黒潮続流安定期・不安定期の黒潮続流流路の例

黒潮続流変動の指標と黒潮続流安定期・不安定期の黒潮続流流路の例

左図は、東経141度~153度の間での黒潮続流を挟んだ海面高度の差(差が大きいほど、黒潮続流が強いこと表します)、その範囲での黒潮続流の緯度および流路長を示し、右図は黒潮続流不安定期と黒潮続流安定期の黒潮続流流路の例(1997年と2003年)を示します。また、左上図と左中図の太線は365日の移動平均を示し、左下図の赤太線と青太線は、黒潮続流の安定期・不安定期を示します。なお黒潮続流流路の決定には、Kuragano and Kamachi(2000)に基づき解析した海面高度のデータセットを用いました。

参考文献

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