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【コラム】 気象庁の海洋気象観測定線 

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
平成25年12月20日

気象庁は、日本周辺を含む北西太平洋海域において、観測定線(以下、定線)を設定し、各定線を年数回の頻度で海洋気象観測を行っている(図1)。観測定線は、黒潮、黒潮続流、北赤道海流、及び親潮といった北太平洋表層の亜熱帯循環と亜寒帯循環を形成する主要な海流を横切る測線を中心に、それぞれの測線をつなぐ形で設定されている。観測項目は水温、塩分、流れ、溶存酸素、栄養塩、植物色素量の他、地球温暖化の原因物質とされる「温室効果ガス」の二酸化炭素等を含み非常に多岐にわたっている(コラム「海洋気象観測船による二酸化炭素等の高精度・高密度海洋観測」参照)。

>図1 気象庁の定線、及び北太平洋における表層循環(薄い赤、緑)と底層水の経路(薄い青)。

図1 気象庁の定線、及び北太平洋における表層循環(薄い赤、緑)と底層水の経路(薄い青)。

(赤線:観測定線、青点線:WOCE測線、赤文字と青文字:WOCE測線名、陰影:4000m以浅を示す)


最も代表的な定線は、1967年冬季に「凌風丸」で開始した東経137度に沿った定線(以下、137度線)で、継続期間が間もなく半世紀に及ぶ世界的にも稀な測線である(Masuzawa, 1967:図2)。137度線は、伊豆・小笠原海嶺の西側に位置し、北太平洋の主要な海流(黒潮、亜熱帯反流、北赤道海流)や表層水塊(北太平洋亜熱帯モード水、北太平洋回帰線水、北太平洋中層水)を横断している(図3)。従って、長期変動に関する解析の際の指標となる量を決めやすく、これまで137度線のデータは国内外の多くの研究者に利用され、北西太平洋の海洋構造、循環場の把握、及びこの海域における季節~経年~十年スケールの変動特性に関する多くの知見が得られてきた(Masuzawa and Nagasaka, 1975;Suga et al.,1989;Qiu and Joyce, 1992;Shuto, 1996;Nakano et al., 2005, 2007;Midorikawa et al., 2006, 2012;Takatani et al., 2012等)。また、地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの観測として、洋上大気と海水中の二酸化炭素の観測データが、25年以上蓄積されている(Inoue et al., 1995;Midorikawa et al., 2006,2012)。さらに、1994年夏季(7~9月)には世界海洋大循環実験計画(WOCE:World Ocean Circulation Experiment)の測線(Kaneko et al., 1998;WOCEではP9と呼ばれる)として海面から海底直上までの高精度観測を実施し、2010年には再観測も行ったことで、基準となるデータがあることも特徴である。

図2 137度の観測定線(a)とこれまでの観測実施時期・点(b)

図2 137度の観測定線(a)とこれまでの観測実施時期・点(b)


図3  2010年の137度線再観測時の1500mまでの水温(等値線)、塩分(カラー)断面図

図3  2010年の137度線再観測時の1500mまでの水温(等値線)、塩分(カラー)断面図

(①は亜熱帯モード水、②は北太平洋回帰線水、③は北太平洋中層水の領域を示す)


もうひとつの代表的な定線として東経165度に沿った定線(165度線)がある。この測線は、西部亜寒帯循環の中心から亜熱帯循環、さらに赤道域までを縦断しており、WOCEではP13と呼ばれ、1991年と1993年には東京大学海洋研究所(現大気海洋研究所)が、1992年に米国海洋大気庁太平洋海洋環境研究所(NOAA/PMEL:National Oceanic and Atmospheric Administration/Pacific Marine Environmental Laboratory)が高精度観測を実施した。気象庁では1995年から定線として観測を開始し、2011年には釧路沖から千島列島の測線を経由し、北緯50度からソロモン諸島沿岸の南緯8度までの再観測を行った。165度線の観測も15年以上経過していることから、137度線とともに北太平洋亜熱帯循環域における長期変動に関する解析が行われることが期待される。
気象庁の観測定線は、表層循環の変動だけでなく、深層循環の変動も捉えることを目的としている(1.1.2参照:南極周辺から北太平洋を北上してくる約3000m以深の深・底層水の経路が図1.1.2-1の薄い青で示す矢印である)。これは、海水が0.001℃上昇しただけでも全大気の気温が1℃上昇することと同じ熱的効果を持っていることを考えれば、深層の水温の変化は、全球的な大気と海洋の直接的な熱交換の変化を議論するうえで重要となるからである。すでに、1990年代のWOCE時の観測と最近の再観測の結果から、南太平洋から北太平洋における底層水の経路の水温が、0.005~0.01℃上昇していることが報告されている(Fukasawa et al., 2004;Kawano et al., 2007等)。同程度の水温上昇が、気象庁の137度線と165度線の再観測結果からも確認されており、今後も深・底層水の経路における海底直上までの観測を継続することで、より詳細な長期変化の様子が検出することが可能である。

参考文献

  • Fukasawa, M., H. Freeland, R. Perkin, T. Watanabe, H, Uchida, and A. Nishina, 2004:Bottom water warming in the North Pacific Ocean. Nature, 427, 825-827.
  • Inoue, H. Y., H. Matsueda, M. Ishii, K. Fushimi, M. Hirota, I. Asanuma, and Y. Takasugi, 1995:Long-term trend of the partial pressure of carbon dioxide (pCO2) in surface waters of the western North Pacific, 1984-1993, Tellus, Ser. B, 47, 391-413.
  • Kaneko, I., Y. Takatsuki, H. Kamiya, and S. Kawae, 1998:Water property and current distributions along the WHP-P9 section (137°-142°E) in the western North Pacific. J. Geophys. Res., 103, 12959-12984. Kawano, T., M. Fukasawa, S. Kouketsu, H. Uchida, T. Doi, I. Kaneko, M. Aoyama and W. Schneider, 2006: Bottom water warming along the pathway of lower circumpolar deep water in the Pacific Ocean. Geophys. Res. Lett., 33, L23613 doi:10.1029/2006GL027933.
  • Masuzawa, J., 1967:An oceanographic section from Japan to New Guinea at 137°E in January 1967.Oceangr. Mag., 19, 95-118.
  • Masuzawa, J., and K. Nagasaka, 1975:The 137°E Oceanographic section. J. Mar. Res. 33, suppl.,109-116.
  • Midorikawa, T., M. Ishii, K. Nemoto, H. Kamiya, A. Nakadate, S. Masuda, H. Matsueda, T. Nakano and H. Y. Inoue, 2006:Interannual variability of winter oceanic CO2 and air-sea CO2 flux in the western North Pacific for 2 decades. J. Geophys. Res., 111, C07S02, doi:10.1029/2005JC003095.
  • Midorikawa, T., M. Ishii, N. Kosugi, D. Sasano, T. Nakano, S. Saito, N. Sakamoto, H. Nakano, and H.Y. Inoue , 2012:Recent deceleration of oceanic pCO2 increase in the western North Pacific in winter. Geophys. Res. Lett., 39, L12601, doi:10.1029/2012GL051665.
  • Nakano, T., I. Kaneko, M. Endoh, and M. Kamachi, 2005:Interannual and decadal variabilities core observed along JMA’s hydrographic repeat sections, J. Oceanogr., 61, 681-697
  • Nakano, T., I. Kaneko, T. Soga, H. Tsujino, T. Yasuda, H. Ishizaki, and M. Kamachi, 2007:Mid-depth freshening in the North Pacific subtropical gyre observed along the JMA repeat and WOCE hydrographic sections, Geophys. Res. Lett., 34, L23608, doi:10.1029/2007GL031433.
  • Shuto, K., 1996:Interannual variations of water temperature and salinity along the 137°E meridian. J. Oceanogr., 52, 575-595.
  • Suga, T., K. Hanawa and Y. Toba, 1989:Subtropical Mode Water in the 137°E section. J. Phys. Oceangr., 19, 1605-1618.
  • Takatani, Y., D. Sasano, T. Nakano, T. Midorikawa and M. Ishii, 2012:Decrease of dissolved oxygen after the mid-1980s in the western North Pacific subtropical gyre along the 137°E repeat section. Global Biogeochem. Cycles, 26, GB2013, doi:10.1029/2011GB004227.


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